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『美少女JCの家庭教師になったけど何か質問ある?』(中)

 昨年7月に掲載した表題の立場交換SSの続きを投下。いやぁ、かなり難産です。というか、(中)と付けてはいますが、これたぶん(下)では終わらず、そのあとに(完結編)ないし(終章)が必要なパターンですわ!
 ちょっとマジメな話、この分野でのアイデアの枯渇(個人的な意味で)が深刻なので、これを仕上げたら当分この分野(立場交換物)は書かなくなると思います。もっとも、書きかけでエタりかけてるもの(ホームメイドロボの話とかヒーローと女幹部の話とか)が幾つかあるので、気が向けばそちらを仕上げにかかる可能性はありますが……。

 それはともかく、本編です。


美少女JCの家庭教師になったけど何か質問ある?

-03-

 「じゃあ、センセ、これに自分の名前を書いてくれる?」
 渡された小学生が胸に付けるような名札にサインペンで「六原豪」と記入すると、花梨はそれを受け取り、代りに彼女の手で「佐倉花梨」と書かれた名札を渡してきた。
 「で、お互いが書いた名札を胸に着けたら、おまじない完了ね」
 「結構簡単だね。で、何が起こるの?」
 「ふふっ、それはぁ……ヒ・ミ・ツ♪」
 はぐらかされたが、まぁ、たかがおまじない、たいしたことは起こらないだろう──と、豪はさほど気にもとめず、安全ピンで胸に「佐倉花梨」名義の名札を留める。
 (もしかして、これ、お互いが両想いになるとかかな?)
 アイドルのファンがアイドルの名前+命と書かれたTシャツやハッピを着る、みたいなものなのだろうか?
 (うーん、花梨くんのことは確かに嫌いじゃないけど、恋人と言うより妹なんだよね。さすがに中1じゃなぁ)
 などと、豪は見当違いな想像を巡らせていたが、花梨が豪の書いた名札を感慨深げに自分の胸に留めた瞬間、突然、強烈な睡魔が襲ってくる。
 (え……これ、まさか、ほんも……)
 そんな思いが浮かびかけたものの、そのまま豪、そして花梨は意識を失ったのだった。

……
…………
………………

 「すごーい、この「魔法の名札」、本物だったんだ!」
 聞き慣れた──しかしどこか響きの異なる、そんな声を耳にして、急速に意識が覚醒する。
 「ぅ……あれ?」
 目を開けると“見覚えのある”部屋の天井が視界に入る。
 どうやら“自室”のベッドの上に寝かされていたようだ。
 (何があったんだっけ……?)
 幸いにして、特に体の不調等は感じられず、眠気(?)も収まっていたので、ゆっくりと起き上がる。
 「あ、気が付いたんだね、“花梨ちゃん”」
 ホッとしたような声をかけられてそちらを向けば、最近見慣れた相手──家庭教師の大学生がベッド脇に膝をついて寄り添ってくれていた。
 「──“豪”、先生」
 まだはっきりしない頭のまま、“覗き込む相手の名前”を呼ぶ……と同時に、微妙な違和感に襲われる。
 (あれ?)
 目の前にいるのは、「やや小柄だが、ダークブラウンの髪を短めのアップバングマッシュにして、うっすら陽に灼けた肌をした健康的な18歳の男性」という“よく知っている相手”だ。
 夏らしく白ベースで胸元に英字ロゴの入ったTシャツの上に、ライトグレーの半袖開襟シャツを羽織り、ライトカーキのチノパンを履いているのも、さっき意識を失う前までと“まったく変わりはない”。
 (──うん、“いつも通りの豪先生”ですね)
 ベッドから降りると、すぐ横に置かれた化粧台(ドレッサー)の鏡に“自分”の姿が映っているのが見える。
 鏡の中には「ストレートで艶やかな漆黒の髪を腰近くまで伸ばし、セーラーカラーの白いパフスリーブワンピを着た色白な少女」の姿があった。
 “先日13歳になったばかりの女子中学生”としては、かなり背が高い反面、スレンダーで女らしい曲線美がまだほとんど見られないのが密かに悩みの種だったりする“見慣れた自分の姿”──のはずだった。

 しかし、何かおかしい。どこか不自然な気がする。

 再度、鏡の中を見返し、“自分”と“家庭教師”の姿を同時に視界に入れた瞬間、起き抜けにも感じたその違和感の正体が判明した。

 「えぇっ、なんだ、コレ!?」
 素っ頓狂な声をあげる少女……の格好をした六原豪。
 「あはは、やっと気づいた?」
 そしてお気楽に笑っているのが、言うまでもなく佐倉花梨だった。

……
…………
………………

 「──つまり、この「魔法の名札」とやらはホンモノで、使用したふたりの“立場”を入れ替える効果がある、と?」
 花梨の説明を聞いて、豪は頭が痛くなってきた。
 「そんなバカな!」と否定したいのは山々だが、自分達の格好……のみならず、髪型や肌の日焼け具合などまでが入れ替わっているのは紛れもない事実だし、先ほど意識を取り戻した際は、自分が「佐倉花梨」で、目の前の短髪の少女を「六原豪」だと思い込んでいた。
 さらには、大学から直行したため鞄に入っていた英文読解の教科書の内容が半分も理解できず、逆に“豪”の立場になっている花梨がスラスラと訳してみせたのも、その立場交換とやらの傍証となるだろう。
 「この際、その魔法の名札の効果はひとまず認めるとしよう。で、花梨くんはこれからどうしたいんだい?」
 この上なく上機嫌な花梨の表情を見ていると非常に悪い予感がするものの、豪としてはそう聞かざるを得ない。
 「もちろん、このまましばらく豪センセの立場を貸してほしいな♪」
 (やっぱりそうきたかー)
 予想通りの花梨の言葉に再び頭を抱える豪。
 確かに、100点のご褒美に自分にできるコトは何でもするとは言った。言ったが、流石にこれは想定外の事態だ。
 (花梨くん、「男子大学生のひとり暮らしの気ままな毎日」に憧れてたみたいだからなぁ)
 当事者としては、親元で暮らす中高生と比べれば確かに自由度は高いものの、同時に大変だったり面倒だったりすることも多々あるのだが、“良家のお嬢様”として、やや過保護かつ厳しめに育てられた女の子が憧憬を抱くのもわからないではない。
 「──しばらく、ってどれくらい?」
 「うーん、そうねぇ。センセのトコロはもう夏休みに入ってるんでしょ? さすがに学校が始まると大変そうだから、夏休みが終わる直前の、ちょうど1ヵ月後というのはどう?」
 今日が7月20日だから、つまりは8月20日までか。
 確かに、夏季休暇中だから、学校の授業を受けたり、学校の友人と会ったりすることで発生するだろうトラブルは未然に防げるだろうが……。
 「ひとり暮らしになる花梨くんの方はいいとしても、この家に残る僕の方がボロを出さないか心配なんだけど……」
 「それなら大丈夫みたいだよ。ほら、コレ!」
 花梨が差し出す紙片は、どうやら先ほど使用した「魔法の名札」とやらの説明書らしい。
 ザッと読んでみたところ、先程聞いた「立場を入れ換える」という効果のほかに──

・立場交換時に、日常生活に最低限必要な知識は即座にインストールされる
・立場交換中は、徐々に現在の立場にふさわしく言動などが矯正されていく
・言動の矯正に要する期間は半日~2、3日。立場交換に積極的であるほど、馴染むのが早い
・元に戻るには最初に使った名札を逆に(本来の名前の通りに)付ければよい

 ──といった説明が記されていた。

 「なるほど、この説明書を信じるなら、丸一日くらい乗り切れば、後はまぁ、なんとかなるんだね。それに戻るための方法もちゃんと明示されてる」
 「そーそー。だからさー、あんまり深刻にならないで、気軽にいこーよ。名門女学園に通う美少女JCになれる機会なんて、滅多にないんだからさ♪」
 「自分で“美少女”って言っちゃう!? いや、否定はしないけどね」
 あまりの花梨のお気楽ぶりに辟易しつつ、豪も男だ。“名門女子校”に大手を振って入れるというのは確かに魅力的……。
 「ちょっと待った! 夏休みだから学校に行く必要はないんじゃないの?」
 「あ、気づいたか。実は、ウチの学校の終業式は明後日の土曜日だから、明日の授業はよろしく~。だーいじょーぶ、“日常生活に最低限必要な知識”はすでに備わっているはずだからさ」
 そんな風にいなされた結果、結局、豪はこのまま「花梨」としての暮らしを1ヵ月送ること了承させられたのだった。


-04-

──パタン!

 “自室”のドアを開け、空になったグラスやケーキ皿の載ったトレイを手に、おっかなビックリ部屋の外に出て、台所へ向かう花梨──の格好をした豪。
 サテンの薄くつやつやした布地でできた白いワンピース、特に膝のすぐ下で揺れるスカート裾の感触が、慣れないためにどうにも落ち着かない。
 (ていうか、そもそもスカート履いたこと自体、生まれて初めてなんですけど!)
 心の中でボヤきながらも、極力それを顔に出さないよう心掛けつつ、台所へと向かう。

 「あら、花梨、まだお勉強時間じゃないの? 先生は?」
 厨房では、着物の上に割烹着を着た、いかにも「古き良き日本の母」といった趣きの華蓮夫人が、野菜を切って下拵えをしている最中だった。
 この家には清掃や洗濯などの雑事をする使用人も数人いるのだが、華蓮は普段家族が食べる分の朝夕の食事は自分が手作りする主義で、今日もその腕を振るっているのだ。
 「いえ……その、飲み物のお代わりが欲しくて。先生は、小テストの採点をされてます」
 無難にそう答える、花梨の立場になっている豪(以下、面倒なので“カリン”と表記しよう)。
 なお、たいした用でないのにわざわざこんなことをしたのは、ふたりの立場交換が、ちゃんと他の人の認識にも影響を及ぼしているか確認するためだ。
 (万が一、このヘンテコ現象の影響が及ぶ範囲が僕らふたりだけだったりすると、悲惨だからなぁ)

 「そう。それじゃあ、アイスティを作って持っていってあげるから、先にお部屋に戻ってなさいな。お菓子は……もうすぐお夕飯だからいらないわよね?」
 しかし、華蓮夫人の対応を見る限りそれは杞憂で、どうやら無事(?)に交換した立場(即ち花梨)に見られているらしい。
 ちなみに、万が一「花梨の服を着た豪」と見なされた場合は、「テストで満点取る賭けで負けたので、コレを着ろと花梨に言われた」と言い訳する予定だった。
 その醜態をさらさずに済んで安心したような、それを理由にこの茶番を止められなくて残念なような……カリンは複雑な気分だった。

 何事もなく華蓮夫人との雑談を終えて“自室”に戻ると、豪の服を着た花梨(以下、ゴウと記そう)がニヤニヤしながら待っていた。
 「な、何? 何かおかしなトコロでもありましたか?」
 「いえ別にぃ~(むしろ、さっき部屋を出る前より、女の子らしい仕草になってるけど……これは言わない方がおもしろそうだよね♪)」
 ゴウの内心の言葉が聞こえたわけでもないだろうが、抑えきれない“彼”のニヤケ顔を見て、頭上に「?」マークが飛び出たような表情になるカリン。
 ちなみにゴウの見立ては気のせいではなく、カリン自身の「怪しまれたくない」という心理に基づく努力に加えて、ふたりを現在の立場に馴染ませるべく“お呪い”が本格的に効力を発揮し始めたから、という理由もある。

 その後、しばらく入れ替わった現在の立場に必要そうな知識などを互いに口にして、メモなどをとって確認してみたりもしたが、例の説明書にあった通り、カリンが「佐倉花梨」、ゴウが「六原豪」として振る舞うために最低限必要な知識は、すでに備わっているようだった。
 「さてと。じゃあ、そろそろお暇しようかな♪」
 それがわかったところで、ゴウがテーブルから立ち上がって、上着と鞄(もちろん豪のものだ)を手に取る。
 「ええっ、もう?」
 一気に不安げな表情になるカリン。
 元々、“豪”という厳つい印象の名前に反して、彼の見かけは線の細い文学少女ならぬ文学少年風のルックスだ。普段から女に間違われるほどではないが、それは年齢相応の“男”の格好をしていればこそ。
 そもそもが中性的と言ってよい容貌なので、今はローティーンの娘らしい髪型や装いもあいまって、傍目にはなんとも保護欲をそそられる“可憐な少女”といった風情に仕上がっている。
 「と言っても、それこそもう7時前だよ?」
 内心「先生、グッジョブ!」と心の中で親指をピンと立てたゴウだが、そんな気配はおくびにも出さず、事実を淡々と告げるにとどめる。
 「あ……確かに、そう、ですね」
 これ以上留まれば、華蓮(はは)が「豪先生もおゆはん食べて行かれてはどうですか」と言い出すだろうことは目に見えている。
 本来の豪としては、華蓮夫人の手料理は美味しいので頂くことも大歓迎なのだが、さすがに毎回のように夕飯をタカるのは申し訳ない気がして、週1回に自制しているのだ。
 逆に(元花梨の)今のゴウにとっては、「今更、食べ慣れたウチのご飯なんかに興味ないし……」というコトなのだろう。むしろ、それより話でしか聞いたことのない(そして本物の豪なら食べ飽きている)「吉●家の牛丼」の方に興味津々だった。
 結局、カリン側としてもそれ以上引き留める理由は思いつかず、ゴウは彼女と彼女の母・華蓮に見送られて、佐倉家から“帰って”いったのだった。


-05-

 ゴウが“帰る”のを見送ったあとの佐倉家では、本来の豪であるカリンは、多少戸惑いながらも、“自室”である花梨の部屋へと“戻って”来た。

 初めて訪れたときから数えてすでに30回以上も出入りしているので、それなりに見慣れた場所ではあるが、それでも他人、それも年頃の女の子の部屋にひとりでいるなんて落ち着かないだろう──と思っていたのだが。
 事前の懸念に反して、意外にくつろげている。
 薄いピンクのベッドカバーがかけられた、白いデコルテ風のベッド。
 同じ系統のデザインでまとめられた衣装箪笥や化粧台。
 中学の教科書や参考書、漫画などと並んで、数は多くないが、いくつかのぬいぐるみも一緒に飾られた本棚。
 壁際に置かれた小洒落た衣装掛けに掛けられた逢坂聖神女学院中等部の制服。
 どれもこれも、そこにあるのが当たり前のように感じる。
 いや、ここは花梨の部屋だから、それはそれで正しいことなのだろうが、それとは別に、「今の自分」にとっても此処が「いちばんくつろげる場所」のように感じられるのだ。
 おそらく魔法の名札の説明書に書かれていた「現在の立場にふさわしくなるような矯正」というヤツの影響なのだろう。

 「うぅん、改めて考えると、大変なことになってしまいましたね」
 そんなことを呟きつつも、カリンが無意識に勉強机の前の椅子……ではなく(何のためらいもなく)ベッドにちょこんと腰掛け、小首をかしげているのも、その証左だろう。元の豪のままであれば、いくら妹分のように思っているとは言え、花梨(おしえご)のベッドに無遠慮に座ったりはしなかったはずだ。
 とは言え、今更うろたえてもどうにもならない。
 こうなったら、元に戻るまでの1ヵ月の間、できる限り周囲の人々──宗治郎(ちち)や華蓮(はは)などに不審感を抱かせないよう、巧く立ち回るしかないだろう。
 何とか自分の中でそう折り合いをつけると、とりあえず明日の学校を乗り切るために、時間割でも確認しようか……と思っていたところで、花梨の部屋のドアが「コン、コンッ」とノックされる。

 「お嬢様、お夕飯の時間ですよ」
 使用人のひとりで、家政婦的なポジションの女性、葉菜(はな)が夕食に呼びに来たようだ。
 「(!) は、はい、今行きます」
 一瞬声が上ずりそうになるのを懸命に抑え、至極無難な返事をしてから、カレンは部屋を出ると、食堂へ向かった。

 食堂には、すでに宗治郎と華蓮がテーブルに着いて“娘”の到着を待っていた。
 「すみません、お待たせしてしまいましたか?」
 恐縮しながら、“母”の隣り、“父”の斜め向かいの椅子に、そそくさと座るカリン。気が付けば自然にその席を選んでいたが、どうやら花梨のいつもの席はそこで合っていたようだ。
 「いや、待ったというほどではない」
 「ええ。それではいただきましょうか──いただきます」
 華蓮の言葉に追従するように宗治郎、そしてカリンも(そして家長である宗治郎さえも)キチンと両手を合わせて「いただきます」の挨拶をしてから夕餉を食べ始めた。
 幸い……と言ってよいのか迷うところだが、この佐倉家では食事中に騒がしく会話するようなことは好まれない。別に一言も発してはならないというわけではないのだが、端然と目の前の食事を味わうことに意識を注ぐのが、料理を作った者(この場合は華蓮)に対する礼儀だという気風は確かにあった。
 おかげで「佐倉家のひとり娘」の立場になったばかりの彼(カリン)も、さほど気負うことなく“両親”と同席しての食事を楽しむことができたのだ。

 ──もっとも、食後のお茶の際に華蓮から「今日のあなたは随分お行儀いいわね」と不意打ち気味に指摘されて驚くことになる。
 「(ごく普通にしてただけなのに、これでお行儀いいって……)そうですか? いつもこんな感じだと思いますけど」
 内心では花梨(真)の奔放さに呆れつつも、あえてさらりとかわすカリン。

 「うむ、そうだな。花梨が礼儀正しくて慎ましいのはいつも通りじゃないか。どうしたんだ、母さん?」
 ところが意外なことに、“父”である宗治郎の方からも、それを肯定するような言葉が飛んできた。
 それを聞いた時は、単なる親馬鹿かとも思ったのだが……。
 「そう、だったかしら」
 その言葉に眉を寄せた華蓮だったが、その直後、その目つきが茫洋としたものに変わる。
 と、同時に!

──キィーーーーン

 高周波めいた音のようなものが、ほんの一瞬だけ脳内に響き、それと共に奇妙な感覚がカリンを襲った。
 “それ”が何なのかは具体的に言葉にしづらいが「何かが変わった」あるいは「書き換えられた」ような気がする。

 「そうよね。花梨はわたしたち自慢の可愛い娘ですものね」
 先ほどの胡乱げな目つきが嘘のように慈愛に満ちた優しい視線を、華蓮はカリンに向けてきたのだ。
 (??? どういうことなんでしょうか)
 さすがに“何やら奇妙なこと”が起こったらしいとはカリンも気づいたが、それを追及するわけにもいかない。むしろ、不信感を抱かれなくなったのだから(少なくともこの場では)良かったのだろう。

 食休みが終わり、“自室”に戻ったカリンは、何となく化粧台備え付けの鏡の前に立ってみた。
 鏡に映るのは、この「立場交換」が成立した直後に見た時と同様、花梨の格好をした自分。

 「幼い頃から密かに自慢の」真っすぐで艶やかな長い黒髪。
 「先日買ってもらったばかりでお気に入りの」ふくらはぎ丈の白いワンピース。
 化粧などはしていないが「きちんと整えられた眉」。

 (うん、別に何も変わってませんよね──「いつも通り」です)

 心の中でそう呟きかけて、はたと気づく。
 そう、「いつも通り」であるはずがないのだ。少なくともほんの2時間ほど前までは、自分は六原豪という今年大学に入ったばかりの男性で、男子大学生相応のカジュアルな服装をしていたのだから。
 「立場交換」直後に鏡を覗いた時もこの格好を普通にスルーしかけたが、あの時は自分が一時的に「佐倉花梨である」と思い込んでいたからこそで、自分を取り戻してからは、さすがにその不自然さ(非日常さと言い換えてもよい)を自覚していたはずなのだが……。

 「──何かが、違うような」
 もう一度、鏡に映る自分の姿を再検分してみる。
 正面から右に左に体を傾け、あるいは鏡に背中を向けてから首を捻って後ろを振り返ってみたり、さらには化粧台の前のストゥールに腰かけて笑ったり膨れたり百面相してみたり……。
 その結果、はっきりと確信は持てなかったものの、何となくわかったことはあった。

 「もしかして、仕草や表情が女の子らしくなってる?」
 自分の動作や表情を鏡で念入りに観察するようなナルシーなシュミはなかったので断言はできないが、それらが立場交換した直後よりも心なしか“13歳の女子中学生”である花梨にふさわしい淑やかなものに変わってきているような気がした。
 豪は元々それほどガサツでもワイルドなタイプでもないが、それでももうじき19歳になる青年としてのごく普通の立ち居振る舞いをしていたはずだ。
 実際、トレイを届けに台所に行った時など、初めて履いたスカートの感触に戸惑っていたりもした。

 それなのに現在の彼女(かれ)は、スカートの裾さばきも自然で、ストゥールに座る際も皺にならないようお尻のあたりから軽く撫でつけて腰を下ろし、さらに今も両膝をキチンと揃え、つま先を軽く左に於いた女の子らしい座り方をしている。
 もちろんこれは例のお札の“効果(おまじない)”によって「現在の立場にふさわしく言動などが矯正」された結果だ。
 その影響で、顔の造作自体は(豪の頃と)変わっていないはずなのに、全体的な雰囲気がとても女の子らしく見える。これなら、仮にお札の魔法的な誤魔化し効果がなくても、カリンの姿を目にした人の殆どが普通に「あ、女の子がいるな」とスルーするのではないだろうか。

 「あ、アハハ……私、もしかして早まったかも」
 想像以上に大きな影響があることを実感して、今更ながらに花梨(真)に安請け合いしたことを後悔するカリンだったが……。
 実はカリンが気付いた(そして花梨が想定していた)以上に大きな影響が、この“世界”にもたらされているのだ。

 というのも、先ほどの食卓でのやりとりを見てわかる通り、本物の花梨は(その気になればちゃんとソレらしく振る舞えるとは言え)普段はあまりお淑やかおとなしやかとはいえない言動&気質の主だ(本人的には両親の前では猫かぶっているつもりだったがバレバレだった)。
 それに比べて“今のこの”カリンは(本人が“お嬢様”というものに幻想を抱いていたこともあって)、御嬢(それ)らしい振る舞いが普通にできている。
 そして、本人がソレを「いつもそう」だと言い切り、さらにそれを第三者(ちち)が認めたために、お札の“お呪い”効果が発揮され、客観(せかい)的にも“ソレ”が“事実”だと確定されてしまったのだ。
 だからこそ、最初に「いつもとの違い」を指摘した母・華蓮も、すぐに「自分の思い違い」だと認識を改めた。これは華蓮ばかりでなく宗治郎や他の人間にとっても同様だ。
 つまりいま現在に於いては、“佐倉花梨(カリン)”という少女は「淑やかで控えめで礼儀正しい娘」であることが、この世界における“共通認識(しんじつ)”となっているワケだ。
 あるいは、この事に気が付いていれば、その後のカリン(豪)に行動も色々と異なったのかもしれないが、こんな途方もない話に気付けというほうが無茶だろう。

<つづく>
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No title

書きたいものを書いたらいいですよー(しっかり完結してもらった方がいいですけどね(笑)^^;

アズレンは紅桜が次のメンテ明けから復刻ですね。
翔鶴が出るのをお祈りしときますね。(自分はグラーフ待ちながら神通掘りと対空砲設計図掘り兼ねたレベリング

Re: No title

そう言ってもらえるとだいぶ気が楽。でも小心者なので、ついエタリかけのSSのこと考えちゃう!(ビクンビクン

> 書きたいものを書いたらいいですよー(しっかり完結してもらった方がいいですけどね(笑)^^;

今の所でる気配なしです~
> 翔鶴が出るのをお祈りしときますね。(自分はグラーフ待ちながら神通掘りと対空砲設計図掘り兼ねたレベリング
プロフィール

KCA(嵐山之鬼子)

Author:KCA(嵐山之鬼子)
Pixiv、なろう、カクヨムなど色々書いてます。感想などもらえると大変うれしいです。
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