『三姉妹の絆』(その弐)

ちょっと短いですが、週末は更新できそうになんいので。


三姉妹の絆』(その弐)

 「よく考えたら、提督が男じゃなくて女だって可能性もあったんだよな……」
 実技指導の教官から命じられた本日のウォーミングアップである「鎮守府裏の訓練スペースを30周駆け足」を実行しつつ、今更ながらそのことに良介が思い至ったのは、この鎮守府に来て一週間が経過してからのことだった。
 確かに提督には男性が多い(全体の7~8割)が、山本のように女性の提督だってそれなりにいるのだ。
 (もしかして俺がしたコトって、単なる……いやいや、男だろうと女だろうと、大事な妹達をそうそう簡単に預けるわけにはいくもんか!)
 ちょっとしたアイデンティティクライシスに陥りかけたものの、なんとか自分を鼓舞する良介。
 「ふぅ、これで30周終了っと」
 ランニングを終わらせ、ゆっくり歩きながら息を整える。
 「お疲れ様です、長井さん。よろしければこちらをどうぞ」
 タイミングよく、スポーツドリンクとタオルが差し出される。
 「あっ……鹿島先生。す、すみません、ありがとうございます」
 そう、良介の実技関連の指導を担当しているのは、練習巡洋艦だった“前世”を持つ艦娘・鹿島だった。
 パッと見は、背の半ばまである銀髪をツインテールの髪型にまとめ、白い士官用礼服を着たハイティーンくらいの可憐な美少女にしか見えないが、その指導は丁寧だが的確かつツボを押さえたもので、非常にわかりやすい。
 元陸上部だった良介は、「こんなコーチがいてくれたらウチの部もあっさりインターハイ出場できるんじゃないか」と思ったくらいだ。

 息が落ち着いたところで、今日の課題は「アサルトライフルによる200メートル距離での射撃」、それも静止標的ばかりでなく動標的も含めて80%を上回ることだ。
 本来の有効射程は300メートルほどなので、かなり甘い訓練だともいえるが、それでもつい数日前まで実銃に触れたことすらなかった少年に対する課題としては、相当に厳しいと言ってよいだろう。
 もっとも、筋がいいのか良介はその課題をさしたる苦も無くこなしているのだが。
 「長井さんは、実技の面では本当に優秀ですね」
 伏射と膝射でそれぞれ100発を撃ち終え、汗を拭いている良介に向かって、アルカイックな微笑を浮かべつつ鹿島が話しかける。
 「そ、そうですか。まぁ、体動かすことはオレの数少ない取り柄なんで」
 ちょっと照れつつも、満更ではなさそうな長井少年だったが、鹿島の言葉には続きがあった。
 「その調子で座学の方も頑張っていただけるのが望ましいのですが……」
 「えっと、はい、善処します」
 そう。ありがちな話ではあるが、良介は身体能力の優秀さに比べると頭(オツム)の方はいささか残念なデキであった。
 まるっきりの馬鹿というわけではないし、通っていた高校でも頑張ればなんとか平均点程度はとれるのだが、そもそも教科書や参考書の類いを読むが苦痛で、宿題もよく忘れ、友人に見せてもらったことも一度や二度ではない。

 良介への訓練兼適正試験は、午前中は2コマ、昼休みを挟んで午後3コマの大学の講義のようなプログラムが組まれている。
 初日から3日目までは、午前が座学、午後が実技指導の時間だったが、4日目からは午前が実技、午後が座学になり、さらに7日目の今日からは、午前最初の1コマのみが実技で、残りすべてで座学を叩き込まれることになっている。
 単なる兵士ではなく、指揮官を促成栽培……するための振り分けなのだから、この時間配分はむしろ当然だろう。

 「長井くん、そろそろ戦術学の時間ですよ」
 訓練スペースまで彼を呼びに現れたのは、アッシュブロンドを首の後ろで束ね、鹿島同様に白い士官用礼服を着た女性──座学の教官であり、鹿島の姉に当たる艦娘・香取だ。
 銀縁眼鏡と落ち着いたたたずまいのせいか、鹿島よりいくぶん年かさな印象があるものの、礼儀正しく優しげな美人であり、教え子の良介に対しても決して声を荒げることはない……のだが、その一方で授業内容そのものはスパルタで、文武の“文”に関してはイマイチな良介は、大いに苦労していた。
 「うっ、香取先生……もう、そんな時間ですか」
 「ええ、2時限開始まであと5分と30秒ですから、そろそろ着替えたほうがよろしいでしょうね」
 「了解しました」
 市場にドナドナされる仔牛のような表情で立ち上がり、トボトボと更衣室に向かう良介。
 ありがちな鬼教官ならここで「何をやっとる、駆け足!」と怒鳴るのかもしれないが、香取も鹿島もまだ正式に軍属でない16歳の少年にそれを命じるほど狭量ではない。
 「姉さん、良介さんの成績はやっぱり……」
 「ええ、あまり……いえ、非常に芳しくありませんね」
 ふたりとも、長井少年が努力していることは認めていたし、本人の希望通りできれば提督になって欲しいと思うが、その一方で、適性のない者が多くの艦娘の命と周辺地域の平和を預かる提督になることが、誰にとっても喜ばしくない結果をもたらすことも、十二分に理解していた。
 「見極め期間は明後日まで。それまでに少しでも適性を示してほしいところですが……」
 香取が言葉を濁したのは、それが非常に困難だとわかっているからだろう。
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