『パッチワーク・ピュエラマギ』1

 完全に復調……とは言い難いですが、だいぶ落ち着いてきたのと、多少は「書きたい」欲が溜まってきたので、リハビリがてら支援所に冒頭部を投げたTS魔法少女物を微リライト&2話追加。とりあえず4話までの流れは固まってます。


『パッチワーク・ピュエラマギ』


-01-

 大半の学生にとって特に好きでもない教科の授業なんて、退屈なものだ。
 初夏にふさわしい30度近い気温のせいもあって、いささか集中力を欠いた状態で、クラスメイトが音読する英語の長文をBGMに、美樹は英語教師の書いた板書を惰性でノートに写していた。
 「はい、結構です。それでは、続きを……彩歌(さやか)さん、読んでください」
 それにしても、一応、それなりの格の私学なんだから、この旧態然とした授業風景は何とかならないのだろうか。
 「──彩歌さん? 彩歌ミキさん!」
 (ちょっと、ミキちゃん、先生に当てられてるよ!)
 隣席のクラスメイトが小声でささやきかけてくれたおかけで、ついボーッとしかけていた美樹は、我に返った。
 「はっ、はい!」
 慌てて教科書を手に立ち上がる。
 「──97ページの3行目から、音読してください」
 「はい……」
 こういう場合、教師によっては嫌味や叱責が飛んでくるのだが、さすが「滝野下学園の聖母(マリヤ)様」と称される温厚なフライヤー先生だけあって、何も言われずに済んだのは幸運だった。
 美樹はとりたてて英語が得意というわけではないが、さすがに「中学英語の教科書程度なら、十分に対応できる」。
 「She said“Don't forget.Someone is fighting for you.You're not alone”……」
 丸々一段落を音読したところで、教師から「はい、そこまで」とストップがかかり、美樹は座ることができた。
 「あんなにスラスラ読めるなんて、ミキちゃん、相変わらずスゴイね!」
 さっき声をかけてくれた隣席の子がこっそり話しかけてくるが、美樹としては「それほどでもないよ」と謙遜するしかない。
 (今更、中二の英語の教科書が読めたくらいじゃなぁ)
 内心苦笑する。
 確かに、県内でも大学合格率のよい高校に進学した“はず”の美樹が、中学2年生の英語の授業でつまづくということは考えにくいだろう。
 ──それでは、何故、すでに高校生になったはずの美樹が、この私立滝野下学園中等部に2年生として在籍しているかと言えば……。

 『美樹、南東の方角で魔瘴の気配が濃くなってる。早めに対処したほうがいいな』
 唐突に頭の中に聞こえてきた某特撮番組のナレーションか非公開国連組織の司令の如きシブい“声”に、美樹は心の中で溜息をついた。
 『ふぅ……あと10分でお昼休みだけど、それまでもちそう?』
 『ああ、このままなら“晶化”するまでに30分はかかると思う』
 それ自体は朗報だが、どうやら今日はゆっくり昼食を摂るのはあきらめた方がよさそうだ。
 (今日のお弁当のカツサンド、楽しみにしてたんだけどなぁ……)
 それでも、“声”からの警告を無視するという選択肢はない。
 授業が終わると同時に、美樹は素早く立ち上がって廊下に出る。
 昼食を求めて学食や購買部に向かう人の流れとは逆方向に歩き、辺りに人目がないことを確認してから、すばやく屋上への階段を上る。
 階段の途中の踊り場でコンコンと軽く壁をノックすると、コンクリートの壁に、まるで隠し扉のような四角い孔が開き……美樹は躊躇いなくその中へと入った。
 『予想よりも濃度が上がっているようだ。注意をしておくほうがいいぞ』
 “孔”の中は2メートル四方程度の小部屋になっており、そこで待っていたモノが、美樹に(念話で)話しかけてきた。
 「うげっ、マジで? 昼飯前なのに、バトルになったら面倒だなぁ」
 どこぞの冒険ネズミたちをまとめて一蹴する悪魔系イタチ……を、思い切りゆるキャラにデフォルメしたような、白いフェレットモドキのナマモノ。
 そんな地球上に存在しないはずのUMAを見ても動じていないのは、コイツが美樹の味方のような、相棒のような、情報提供者のような……それらを足して4で割ったような存在だからだ(3でないのはいずれも微妙に足りてないから)。
 「はぁ……仕方ない、変身して行くか」
 今日だけで何度目かの溜息を漏らしつつ、美樹は銀色の指輪が嵌められた右手の人差し指を天に向かって掲げて、叫ぶ。
 「変幻・蒼影形態(トランス=ブルーアバター)!」
 叫び声とともに、美樹の姿──正確には、滝野下学園中等部の女子制服(クリームイエローの上着と黒いギンガムチェックのミニスカート)が青白い光に包まれ、つぎの瞬間、そこには青い胸甲(キュイラス)と衣装を身に着けた美樹が立っていた。
 『戦闘を回避したいなら、急いだほうがいい。このままだと、あと200秒ほどで晶化が始まる』
 「わかった!」
 比喩ではなく、文字通りの意味で「一陣の旋風」と化した美樹は、隠し小部屋から直接“現場”へと“跳ぶ”。
 そこで目にしたのは……。
 「あちゃあ、こりゃ今回もアウトかも」
 児童公園の高さ2メートルくらいの滑り台。その側面に爬虫類の眼のような“何か”がとり憑き、血管のようなものがビクンビクンと脈打ち始めている光景だった。
 『限りなくアウトに近いセーフ、いわゆる“セウト”というヤツだな』
 白いナマモノが茶々を入れるのに構わず、いつの間にか手の中に出現させたカタナを振りかぶって、“ソレ”に向かって斬りつけるが……。

──ガキンッ!

 鉄の棒でコンクリートを殴りつけたような異音が響き、跳ね返される。
 「ぃったぁ~! やっぱダメかぁ。この晶化直前のアホみたいな頑丈さって、どうにかなんないの?」
 『たとえて言うなら、昆虫が成虫になる前のサナギのようなものだからな。防御力は折り紙付きだ』
 白いナマモノと軽口を交わしつつも、美樹は今度はカタナを正眼に構え、一拍呼吸を整えた後、「どっせぇえい!」という気合の入った掛け声とともに振り下ろした。
 
──ガギッ……

 今度は手ごたえがあったようで、カタナの刃が3ミリほど、“眼”に食い込んでいる。
 “眼”はギョロリと血走った視線を向けてくるが、そんな事には頓着せず、美樹はここぞとばかりにカタナを何度もガシガシと振り下ろし、“眼”に対して攻撃を続ける。
 2撃目でダメージが入ったことが良かったのか、“眼”の抵抗はみるみるうちに弱まり……やがて、十数回目の斬撃とともに恨めしそうな目を美樹に向けつつ、宙空へと霧散していった。
 “眼”が消えるとともに、公園の滑り台も、元の姿を取り戻しており、美樹が斬りつけた傷跡などは見当たらない。
 「やった、今日はバトルなしで済んだ!」
 『晶化獣になってから倒すほうが、大量の経験値と魔晶(ジェム)が得られる分、総合的にはプラスだと思うのだが……まぁ、魔戦乙女(ピュエラマギ)であるミキの判断を尊重しよう』
 白いナマモノが何か言っているが、構いはしない。
 「さぁって、さっさと帰ってお昼たべよーっと」
 例の隠し部屋へと“跳ぶ”ために、自分の胸の中の魔晶体(レンズ)を励起しながら、ナマモノの首ねっこを掴む。
 「それから、ミキって呼ぶな。オレは美樹(よしき)だ」
 『ふむ……まぁ、我一体くらいは、この地球上で汝のことをそう呼んでやるのも一興か。了解した』
 「えっらそうに……大体、こんなことになったのは、誰の責任だと思ってるんだよ!」
 友人や教師は言うに及ばず、近所の人や“自宅”の“両親”たちにまで、「彩歌美樹(さやか・みき)」として認識されている彼女だが、本来、その苗字は彼女のものではない。
 それどころか本来は“彼女”ですらない。
 県立静科那高校一年B組に所属する神条美樹(しんじょう・よしき)、それがほんの半月前までの“彼”の名前であり身分だったのだ。


-02-

 神条美樹が、近所に住む幼なじみではあるが、高校進学をきっかけに疎遠になっていた二歳下の少女・彩歌恭子(さやか・きょうこ)と再会したのは、ちょうど10日前の土曜日のことだ。
 再会といってもとりたてて劇的な出来事があったわけではなく、三連休に何かおもしろげな映画でも見ようかと、電車通学の経路の途中にある一番大きなレンタルビデオショップに立ち寄った先で、偶然ばったり出会っただけだが。
 「お! キョウコじゃん」「あ……ヨシくん」
 とは言え、元々親同士が学生時代からの友人であり、かつ美樹と恭子自体も、学校が分かれる前は、休日は時々カラオケや映画などに一緒に遊びに行くような親しい仲だったのだ。
 恋人かと聞かれれば「違うよ」と即答するが、では異性として全く意識していないかと言われると微妙に悩む、そんな関係だった。

 お互い特にそのあと用事はなく、連れの友達などもいなかったため、何となく流れでそのまま近くのハンバーガー屋に入ることになった。
 Lサイズのポテトを摘みつつ、各自の家族の近況や学校でのできごとといった事柄についての雑談を1時間ばかり続けて、せっかくだからこのあとカラオケかゲーセンあたりにでも行こうか──と、そんな風に話がまとまりかけたところで、恭子がいきなり真面目な顔つきになり立ち上がったのだ。
 「ごめん、ヨシくん。用事を思い出したから、あたし、行かなきゃ」
 そのただならぬ様子に、美樹はどんな用か聞きそびれてしまう。
 そのせいだろうか。
 繁華街を小走りに近い速度で足早に歩み去る恭子のあとをつけるような真似をしてしまったのは。
 この時の自分の行動を、美樹は後々まで悔やむことになる。
 恭子が急いでいたのは、“晶化獣”が出現したという連絡をあの白い生物(ナマモノ)──識別名称“ST-0128”から念話(テレパス)で受けていたからだった。
 現場──ナマモノの特殊能力で展開された“結界”によって“現実”隔離された小さなゲームセンターの中に発生した晶化獣と恭子の戦いは、それなりに激戦ではあったが、本来なら恭子は大したケガを負うこともなく晶化獣に勝つことができたはずなのだ……そう、あとをつけて来て、一緒に結界に巻き込まれた美樹さえいなければ。
 あと一撃でケリがつくというところで、晶化獣の攻撃の余波によって飛ばされた瓦礫が後方にいた美樹を襲ったのだ。
 死ぬ気で何とか回避したため、大したケガはしなかった(顔をかばった腕に数発とすり抜けた小さな一発が額に当たった程度だ)ものの、それに気を取られた恭子が晶化獣の“最後っ屁”的な自爆に巻き込まれてしまったのだ。

 爆発の煙が晴れたところで、ナマモノと美樹は恭子と晶化獣がいたはずの場所へと駆け寄った。
 幸いにして晶化獣はあの爆発で四散消滅し、恭子もショックで気絶しているもののそれほど大きなケガはしてなさそうに見えたのだが……。
 『これは……マズいな。頭部に呪傷(じゅしょう)を受けている』
 ナマモノ──“ST-0128”は、そのファンシーな見かけに似合わぬダンディーな声でつぶやく。
 「え!? そんな重傷ってふうには見えないけど、何がマズいんだよ?」
 結界内で本人(本獣?)から、「恭子は資質があったため、魔法少女的な者になって敵と戦っている。自分はその相棒的存在」と簡単な説明は受けていたものの、正直、美樹としてはいっぱいいっぱいだったが、さすがに幼馴染の女の子がヤバいとあっては黙っていられない。
 「まさか頭の打ち所が悪くて脳に損傷が!? パンチドランカーみたくなったり、あるいは植物状態のまま目を覚まさないとか、最悪……」
 “死亡”という不吉な文字が脳裏をよぎったが、ナマモノは首を横に振って否定した。
 『いや、あの爆発は一見派手に見えたが、その実、たいした攻撃力はなかったし、キョウコのような新米でも十分防げるレベルだ。
 ただ、爆発はめくらましで本命はキョウコに呪傷を残すことだったらしい。
 肉体的なダメージはほぼ0に近いが、頭部に直接打ち込まれた“魔瘴弾”によって、今のキョウコの精神は自身の心の中に築かれた迷宮奥深くに囚われたような状態だ。
 ずっとこのままってことはないだろうが……少なくとも数週間は目を覚まさないだろう』
 「そ、そうか。良かった──いや、あんまり良くはないけど、大事に至らないなら、まぁ……」
 死とか再起不能とかの最悪の状態ではないことにひとまず安堵する美樹だったが、ナマモノの声は堅い。
 『安心するのは早い。キョウコが目を覚ますまでの間、誰がこの街とキョウコ自身を護るんだ?』
 「! ああいうバケモノが、他にもやって来るって言うのか!?」
 『当然だ。それを防ぐべく、我らがこの地に派遣されているのだから』
 ナマモノいわく、彼ら自身は湧き出す魔力の違いとやらで、地球でたいした力は使えないため、資質のある人間(おもに十代前半から後半の魔力の高い少女たち)をスカウトして、防衛線を築いていたらしい。
 「この近くに、他の魔法少女とかはいないの?」
 『正しくは魔法少女ではなく“魔戦乙女(ピュエラマギ)”と呼ぶのだが──いないことはない』
 「じゃあ、その人たちに……」
 『最悪、それも想定しているがいくつか問題がある。
 まず、キョウコは魔戦乙女になってから日が浅く、近辺の同僚たちとまだ面識を持っていなかった。また、他の魔戦乙女たちだって、当然自分の“守備範囲(テリトリー)”を持っていて、そこを優先的に護る使命がある』
 「それは……でも、非常事態なワケだし」
 『では聞くが、もし君が一国の首相だとして、今まで国交のない国から「ウチの国がピンチなんです。助けてください」と言われたからといって、すぐにそれに応じて派兵するかね? 君の国自体も同様に侵略者に狙われ、その対応に追われている状況下で、だ』
 「うっ……」
 ここで迷わず「行きます」と言えるほど、美樹は善人でも夢見がちなお人好しでもなかった。
 『“晶化”が発生する間隔にはバラつきがあるが、この辺りの頻度はおおよそ週に4、5回程度。キョウコが目覚めるまでの数週間に、一度も発生しないなどという奇跡を期待するのはやめたほうがいい』
 あくまで冷静に現在の厳しい状況を指摘するナマモノの指摘に、ついに美樹は爆発する。
 「じゃあ、どうしろって言うんだよ!」
 『落ち着け──ひとつ方法がないワケではない。汝の協力が必要だがな』
 今にして思えば、このST-0128(ナマモノ)の言葉は、「絶望を与えた後に、ひと筋の希望をチラつかせる」という詐欺の常套手段であったが、その時の美樹は、恭子のコトもあって明らかに冷静さを欠いていた。
 「どうすればいい? 俺にできることなら、何でも言ってくれ!」
 『簡単なコト……ではないが、汝になら可能だ。キョウコのいない間、汝が魔戦乙女になるのだ』

<つづく>
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非公開コメント

TS要素実質的にまだ何も描写してない駄作じゃないですか

Re: タイトルなし

> TS要素実質的にまだ何も描写してない駄作じゃないですか
?? 一応、冒頭に登場した時点(授業受けてる時)で、元・神条美樹だった彩歌ミキは
すでにTSした状態なんですが、わかりにくかったですかね。
プロフィール

KCA(嵐山之鬼子)

Author:KCA(嵐山之鬼子)
Pixiv、なろう、カクヨムなど色々書いてます。感想などもらえると大変うれしいです。
mail:kcrcm@tkm.att.ne.jp

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