『三姉妹の絆』(その壱)

 「時ナラヌ雨ニフラレテ」、「任務娘・大淀の奇妙な愛情」に続く艦娘3部作の3つめ。一応、艦娘化物(TSネタ)なのですが、あまりソチラ方面には比率を割かない予定なので、支援所や2ちゃんではなく、このブログで連載することにしました。
 たぶん、3~5回で終了予定。時系列的には、『時ナラヌ雨』で主人公がケッコンカッコカリした1、2年後を想定しています。
 

三姉妹の絆』(その壱)

 (本当に俺にできるのか……いや、ここまで来たらやるしかない!)
 一瞬の躊躇いを振り切って、彼はマホガニー製の丈夫なドアをノックしながら、名前を名乗る。

──コンコンッ
 「特務士官候補生の長井良介です!」
 「入りなさい」
 中から聞こえてきたのは、意外なことに若い女性の声だった。

 「失礼します!」
 ドアを開けて部屋の中に入ると、真正面の執務机の向こうに海軍士官用の白い二種軍装を着た灰金髪(アッシュブロンド)の女性が座っていた。
 声の通り若い女性……いや、むしろ少女と言っても違和感のない外見だ。
 さすがに16歳の彼よりは年上のようだが、パッと見は17、8歳ぐらいなので、普通なら高校に在学していてもおかしくない年頃だろう。
 とは言え、ここが“鎮守府”であり、この部屋が“提督執務室”である以上、どこかの女子高生がふらりと迷い込んだなどということはありえない。
 (中卒でそのまま提督になる人も稀にいるって本当だったんだ)
 おそらく目の前の人物もそのひとりに違いない。
 年若く見えても、それなりの軍歴はあるのだろうから、侮ってよい相手ではないはずだ。
 どちらかというと体育会系(のうきん)の彼だが、“人生の一大事”においてヘマをしないように慎重にふるまうくらいの世知は一応身に着けている。
 この場合、その慎重さが、彼を救った。
 「……ふぅん。私の姿を見ても、気を抜いたり見下したりしないあたり、最低限の常識はわきまえているようね」
 ドアから一歩入った場所で、ピシッと気を付けの姿勢で待機している彼を見て、美少女提督は目を細めた。
 「楽にしていいわ。それから、話しにくいから机の前まで来なさい」
 「はいっ!」
 楽にせよと言われて、この場で本当にリラックスできるものでもないが、まぁ、そこは言い回しというヤツだろう。

 「まずは、自己紹介から。この鎮守府で提督をしている山本和希大佐よ。これから2週間、貴方を指導しつつ適性を見極める試験官の役目を命じられたわ」
 「? “山本”、ですか? 俺…いえ、自分の試験官は風嶋提督だと聞いていたんですが」
 「ああ、それ、私の旧姓。そっちの方が通りがいいから、未だ大本営(ほんぶ)でもちょくちょく間違えるのよね」
 「! そのお歳で結婚されてるんですか!?」
 思わず驚きの声をあげてしまう。
 確かに日本の民法上は女性は16歳から結婚できるが、実際に18歳以下で結婚している人は決して多くないはずだ。
 「お生憎さま。結婚じゃなくて養子縁組で苗字が変わっただけよ。ところで……“そのお歳”って、私のことをいったい何歳だと思ってるの?」
 ニヤリとチェシャ猫のような笑みを浮かべる山本大佐の視線に、彼は硬直する。
(ヤベェ、地雷踏んだ……)
 基本朴念仁気味な良介だが、母、母の妹(つまり叔母)、妹ふたりという女系家族の中で暮らしている(父は単身赴任中)ため、このテの話題が厄介なことは重々承知していた。
 「え、えーと……すみません、自分よりひとつふたつ上くらいかと」
 しばし悩んだ末、正直な感想を吐露することにする。
 「…………」
 山本大佐の沈黙が怖い。
 「──ま、いいでしょう。戸籍上の年齢は27歳よ。3年前まで艦娘をやっていたぶん、成長が遅れているのは確かだし」
 ふっ、と山本大佐の眼光が和らいだので、どうやら事なきを得たようだ。
 (セェ~~~フ!)
 良介は、こっそり胸を撫で下ろす。

 その後の山本大佐とのやりとりは極めて常識的なもので、彼も「これなら俺もやっていけるんじゃないか」と希望を抱き始めたのだが……。
 「こんなところね。それと──あらかじめ言っておきますが、私はあなたのような若年で提督になることは原則的に反対です。これは艦娘と提督、両方やってきた経験に基づく判断よ。
 なので、試験官としての基準は容赦なく厳しくいくつもりなので、覚悟しておきなさい……以上です。下がっていいわ」
 最後にドカンと爆弾を落とされた気分だが、彼の方もここまできて諦めるわけにはいかない。
 「──わかりしました。お手柔らかにお願いします」

 * * * 

 長井良介が、せっかく入った高校を中退してまで提督を目指したのは、決して「艦娘とキャッキャウフフしたい」などの不純な動機からではなく、確固たる理由がある。
 そもそも、彼自身はどちらかというと“提督”という職業を否定的な目で見ているほうだ。これは、彼の両親が両方海軍関係者であったことに由来するのかもしれない。
 彼の父も歴戦の提督であり、ある意味サラブレッドの家系なのだが、彼自身は、普段は家におらず、たまに帰って来ても母以外の若い娘をとっかえひっかえ連れて来て侍らせている(ように見える)父を軽蔑していたのだ。
 成長するにつれて、その“若い娘”たちが父の配下の艦娘であり、日夜きびしい戦いをくり広げている彼女たちを少しでも労うために自宅に招待していること、そして母もそれに納得済みだということも、頭では理解はした。
 ──だからと言って、父に対する「冴えない風采の口だけ達者な優男」という印象自体が覆るわけではなかったし、月に2、3回帰ってくる時以外は、ほぼ鎮守府に詰めっぱなしの父に親しみを抱けるはずもない。
 前述の通り自分以外の家族4人が女性ということもあって、彼は自然と「俺がこの家を守らなくちゃ」という使命感を抱くようになっていたのだ。
 そのままであれば、彼も海軍関連に関わることもなく、普通に高校、大学と進学し、会社員なり公務員なりに就職していただろう。
 実際、近隣でも比較的レベルの高い高校に(スポーツ推薦ではあったが)進学することができたのだから。
 そんな彼の人生設計が軌道修正を迫られる事態が発生したのは、年の瀬も迫った高校一年生の十月のことだった。

 「はぁ!? 艦娘になる? 正気か、美鈴?」
 「ええ、そのつもりよ、兄さん。それにあたしだけじゃないわ」
 「! まさか……千鳥?」
 「え、えへへ……わたしも、お姉ちゃんと一緒に艦娘になろうかなぁって」
 中学3年の彼の妹ふたり(双子なので同学年なのだ)が、よりにもよって卒業後に艦娘になるなどと言いだしたのだ。
 「おいおい、確かに艦娘は一部のマスコミとかドラマとかで持ち上げられてるから華やかなイメージがあるけど、実態はそんな楽なものじゃないんだぞ。
 そもそも、軍に所属して最前線で戦うれっきとした軍人なんだからな。その辺のことはお袋や御穂さんにも聞いてるだろう?」
 そう、良介たち3人の母、そしてその妹である叔母は、かつて父の指揮下で戦った艦娘だったのだ。その現役時代の話は断片的に聞かされている。
 今よりもっと艦娘も提督も少なく、絶望的な戦いを強いられた時代。その当時の逸話だけに、なかなかヘビィなものが多く、それもまた良介が海軍関連を忌避する遠因になっていたのだろう。
 「もちろん、知ってるわよ。これでも、父さんが連れて来る艦娘の人たちに、色々話は聞いてるんだから」
 兄さんはあの人達を避けてたから知らないだろうけど──と、美鈴に指摘されて、うぐっと言葉に詰まる。
 前述のような理由で、幼少時は“母の敵(?)”と目の仇にしていたし、ある程度道理をわきまえる年齢になってからは、“きれいなお姉さん”たちに親しく話しかけるには、彼は自称硬派(ヘタレ)過ぎたのだ。
 「18歳未満の姉妹で同時に艦娘に志願するとね、一緒に配属してもらえる特典があるんだって」
 当然、千鳥の言うシステムも初耳だ。
 その後も、いろいろ難癖(まさにそうとしか言いようがなかった)をつけようとはしたものの、理路整然とした美鈴の反撃と、天然気味な千鳥の受け流しにことごとくすかされてしまい、妹たちを翻意させることはできなかったのだ。
 (ぐぬぬ、こうなったら、あんま気は進まないけど……)
 さすがに元艦娘だった母に「妹たちを艦娘になんてさせたくない」と主張する勇気はなかったので、数日後に帰宅した父に対して直談判する。
 「親父ぃ、美鈴と千鳥が艦娘を志望してる話って聞いたか?」
 女性陣4人が父のために協力して夕飯を作っている時を見計らって、居間でくつろいでいる父に話しかける。
 「ん? ああ、知ってるよ。良介は反対なのかい?」
 今日は珍しく艦娘を同伴していないので、父である健太郎も完全に家でのリラックスモードに入っているようだ。
 ポロシャツにチノパンというラフな格好の上にどてらを羽織って、こたつでテレビを見ており、とても海軍のえらいさんだとは思えない。
 「正直に言うと、そうだ。だって、危険じゃないか。言うなら、戦争の最前線で戦う兵士みたいなモンだろ!」
 「そうだね。そのたとえを否定することは僕にはできないかな。ただし、僕が提督である以上、それを理由に「娘に艦娘になんてなるな」とも言えないね」
 それもまた当然の話ではある。父は艦娘を指揮して、深海棲艦と戦い、この国の平和を護る立場にあるのだから。他人様の子ならよくて自分の子はダメなどという理屈は通らないだろう。
 感情論を別にすれば、その程度の道理がわからないほど、良介も子供ではなかった。
 「──わかってる。なら、せめて、美鈴たちを親父の鎮守府に配属するとか手を回すことはできないのか?」
 「可能不可能を言うなら、そのくらいの権限は僕にもあるよ。でも……それを使用する気はないな」
 「どうしてさ!?」
 声を荒げる良介に、健太郎は寂しげに笑った。
 「だって、手元に実の娘がいたら、大なり小なりひいきしない自信が僕にはないからね」
 「……っ!」
 まさに、その“ひいき”による保護を望んでいた良介は、言葉を失う。
 数十人の艦娘の文字通り“命”を預かる立場にある提督が、プライベートならともかく、任務にあたって私情を優先していいはずがない。
 社会的には正しい理論だろうし、万が一マスコミなどに「エコひいき提督」などとスッパ抜かれたら、それこそ大問題になるのは確かだろう。
 それでも、良介としては、見も知らぬどこかの提督(おとこ)に大事な妹たちの命運を委ねるというのは我慢ならなかった。
 「──なぁ、親父、俺に提督としての適性ってあると思うか?」
 そうきたか、という目で、健太郎は良介の目を見返した。
 「僕と弓泉の息子だから“なれる素質”はあると思う。でも、率直にいえば、今の君が“なる”ことはススメられないかな。他人の命を預かるというのは、想像以上に重い仕事だよ、いろいろな意味で」
 「かもしれない。でも、決めたんだ」
 「……そうか」
 それ以上はあえて反論せず、健太郎は、志願する者が提督になるための方法(てつづき)を教えてくれた。
 良介は、それに従い、最寄りの海軍支部に赴いて“適性試験”を受けた結果、父の言う通り“提督になり得る資質”を認められることになる。
 早速高校に退学届けを出し、士官学校の促成コースを選んで3ヵ月間、座学の類いを叩きこまれた後、最後の“試験”(あるいは試練?)として山本大佐のいる鎮守府に仮配属されることになった──というワケだ。
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