TS掌編2本

 久しぶりに支援所にSSを投下してみました。
 そのまま掌編として〆ることも、続きを書いてつなげることもできる作りにしてるあたりが、私の優柔不断な性格を表していますな。
 とは言え、よほど反響がなければ続けないと思うので、微修正したものをコチラにも収録しておきます。


双剣無頼乙女

 肌色に近い薄いピンクのルージュを引き、それがはみ出ていないことを鏡で確認してから、立ち上がって体を左右に軽くひねってみる。
 「おっし、こんなもんか」
 “こう”なった当初は鏡の中に映る自分の姿にどうにも違和感を感じたものだが、人間の適応力というのは恐ろしいもので、“こんな”暮らしを半年ばかり続けていたら、いつの間にか“これ”が当たり前のようになってしまった。
 「アタシ」は改めて鏡の中に映る自分の姿を見つめる。
 身長は、東洋人の女にしては高いが男としてはやや低めの168センチ。
 体型は、プロポーション抜群とまでは言えないだろうけど、それでもそれなりに出るべきところは出て、引っ込むべきところはキチンと引っ込んでいる──と思う。
 長いピンクブロンドの髪をツインテールの形に結わえ、ノースリーブかつ両肩がむき出しになる黒いレオタードと黒に近い焦げ茶色の網タイツを着て、両手首にカフス、首元には蝶ネクタイ付きのカラーも着けている。
 これでウサ耳カチューシャを着けてハイヒールでも履いていたなら、完璧にバニーガールの一丁あがりなのだろうが、生憎、ココでの「アタシ」の“役目”は、酔客にしなだれかかりつつお酒を注ぐことではない。
 頭の上に載せたカチューシャには犬科の動物を思わせる灰色の耳が付いており、足元は動きやすさと丈夫さを重視した革製の編み上げショートブーツだ。
 さらに──2本の剣帯を腰に巻き、それぞれに1本ずつカタナを吊るす。
 カタナと言っても、実戦重視を重視した古刀に比べると幾分刀身が華奢で、鍔は金メッキ、鞘のこしらえなども朱塗りの華美なものだが、それでも“キチンと人が斬れる”代物であることは“実証済み”だ。
 とは言え、「アタシ」がこれを店で抜くことは滅多にない。これまでの半年あまりの勤務の間で7回、その内、刃傷沙汰にまで発展したのはわずかに3回だから、ほとんどは示威行為(いかく)のために立っていると言ってもよいだろう。
 女店主(ママ)に言わせると「だからこそ、必要かつ有用」らしいが……。
 そう、「アタシ」は、それなりの格と大きさを持つ水商売の店で、用心棒(バウンサー)をしているのだ。
 強面重視のはずの用心棒が、なんでこんなバニーガールならぬウルフガールもどきな格好をしているかと言えば──ひとえにコレはママの趣味だ。
 いや、本人は「お店に溶け込むため&お客さんを不必要に怖がらせないため」とか言ってたけど、喜々としてこの衣装(コスチューム)を選んでいた時の様子から見て、絶対アレは個人的嗜好を優先している。
 もっとも、借金込みで雇われている身の哀しさで、「アタシ」に拒否する権限はなかったのだが……。
 ついでに言うと、「アタシ」本来の性別は、180センチの身長とそれなりに鍛えられた体躯を持つ男だ──いや、「男だった」と過去形で言うべきかもしれない。

 半年前、日本で大学生をやってたオレは、観光のために訪れたこのネオクーロンシティの裏通りで、偶然アジアンマフィア同士の抗争に巻き込まれて命を落とした──はずだった。
 しかし、中立勢力に属するこの店のママが、懇意にしていた闇医者に頼んで、同じく抗争に巻き込まれ不運にも頭を撃たれて死んだ英国人女子高生の身体にオレの脳を移植したことで、オレは「アタシ」として甦ったのだ。
 大脳を始め脳の8割近くがオレ──「椿三四郎」としてのモノなので、基本的な自己認識は男なのだが、小脳の一部と脳下垂体、さらに身体自体は「カメリア・ウルフハート」という少女のモノなのが、また厄介だ。
 結果的に、オレは「アタシ」としての自己の再認識・再確定を余儀なくされ、同時に六千万円の借金(もちろん手術代だ)を背負うことになってしまった。
 もっとも、闇医者の治療費としては6000万は破格の安さだし、手術代自体はママが立て替えてくれたんだが……。
 その借金を返すべく、「アタシ」は、この店で特技の剣術(実は家が古流剣術の道場をやってた)の腕を活かして用心棒をやってる……ってワケ。

 「ツバキ、そろそろ開店の時間だよ」
 「わかりました。すぐ行きます」
 ドアから顔を出したママの言葉に応えて、アタシは更衣室を出る。
 「それにしても……つくづくもったいないねぇ。アンタならフロアスタッフとして出ればもっと稼げるのに」
 「アタシに接客業はムリですよ。今の立場で十分です」
 ママと並んで歩きながら、いつも通りのやりとりを交わしていると、すぐにムーディな音楽とカラフルなネオンライトに彩られた“職場(おみせ)”に着く。
 (さぁ、今日も一日お仕事頑張ろう!)
 職場の同僚たち(と言ってもアチラはれっきとしたバニーガールだが)に軽く挨拶しながら、アタシは気を引き締めるのだった。



でゅらはん・ぶらいど

 「デュラハン」と呼ばれる魔物をご存じだろうか?
 漢字四文字で「首無騎士」などと表現されることもあり、その呼び名の通り、西洋甲冑を着た頭(くび)の無い騎士の姿をして、同じく頭部のない馬にまたがって宙を駆け、死すべき定めの者の家の前に降り立つ──と言われている。また、片手に自分の頭部を抱えていることも多い。
 種族的にはどう見ても不死系(アンデッド)っぽいのだが、告死女(バンシー)同様、妖精族に分類されることもある。首が外れるという点では、中国の飛頭蛮や日本のろくろ首も連想させるし、なかなか意外性に富んだ存在だ。
 そうそう、騎士の姿をしているが、中身は女性だという説もあるみたいだね。

 まぁ、そういう欧州の伝承におけるデュラハンについてはさておき。

 今年からクラスメイトになり、偶然隣りの席になって以来、「ちょっと可愛いな、ラッキー♪」と思ってた女の子が、そのデュラハンの末裔だったと知ってしまった時の、適切な答えを挙げなさい。(配点:自分の人生)

 こんな人生における一大ピンチに直面した時、いったいどのような解答を選ぶのが最適なんだろうか?

 1.よ、寄るな、化物!
 2.この事は誰にも言わないよ
 3.秘密にするから、Hさせて
 4.人間でなくてもいい、君が好きなんだ!

 ──まぁ、どう見ても1はアウトだよね。バッドエンド直行だ。
 常識的に考えれば3もアウトだろう。エロゲーじゃあるまいし。
 2か4が妥当だろうけど、彼女いない歴=年齢の僕には、4はさすがに恥ずかし過ぎる。これで、彼女の方に「ん? あたしは別に好きじゃないわ」とか返事されたら悲し過ぎるし。
 素早く脳内選択肢(別に某ラノベみたく本当に表示されるわけじゃないけど)を選んだ僕は、僕に正体知られてあわあわしてる彼女に対して、極力穏やかに声をかけた。
 「そんな慌てなくていいよ。たとえ人間じゃなくても、僕は倉山さんが好きだから」
 …………あれ?
 どうやら僕も結構てんぱっていたらしい。
 この非日常な空気にのまれて、気づいたら思わず前々から抱いていた彼女──倉山詩織さんへの想いを、勢いに任せて告白しちゃっていたんだ。
 「えっ!? 大日向くん、それ、本気?」
 パニックになってたはずのところが、一瞬で立ち直ってこちらに詰め寄ってくる倉山さん。
 ちょ、近い近い! いや、個人的には好きな娘と息がかかるほど接近できて嬉しいけどさぁ」
 「やっぱり、本気なんだ(真っ赤)」
 あ、やべ、最後の方、口に出しちゃってた。
 でも、真っ赤になってこっちをチラチラ見てる倉山さん、超かわええ~! それに、満更イヤってわけでもなさそうだし……もしかして、僕たち両想い?
 倉山さんの方に視線を向けると、あっちも僕の方をちら見しながら、何か言いたげにしている。
 「「あ、あの……」」
 何か言おうと声をかけたその言葉がハモる。
 「あ、大日向くんから……」
 「いや、ここはレディファーストで倉山さんから」
 反射的に譲り合う僕ら。
 「ウフフ、若いっていいわねぇ~」
 コロコロと楽しそうに笑う女性の声で、僕らは我に返って振り返る。
 そこには、先ほど倉山さんの“正体”を僕に告げた謎の女性が立っていた。
 「お姉ちゃん!?」
 「倉山さんのお姉さん?」
 え、何でそのお姉さんが、倉山さんの秘密(しょうたい)を僕にバラしたんだろ?
 そんな僕の疑問は、“お姉さん”の説明によって氷解した。
 なんでも、倉山さんたちの一族は、その特異な血筋ゆえに、自分達の秘密が他人にバレないよう非常に気を使っていたらしい。
 とは言え、せいぜい20数人の一族内だけで血を繋ぐのは無理があるので、時々は外部の人間を伴侶として迎えないわけにはいかない。
 そのため、見込みがありそうな(つまり倉山一族の秘密を知っても友好的な態度を崩さないような)人間を見つけたら、監視して見定めることになっていたらしい。
 「その意味では、そっちの少年は合格かな。ねぇ、少年。この子の──詩織の許婚(いいなずけ)になる気はない?」
 「お、お姉ちゃん、いきなり過ぎるよぉ」
 確かに倉山さんの言う通り唐突だけど、僕の心は(さっき暴走気味に告白したことで)開き直っていた。
 「──僕は、倉山さん……詩織さんが好きです。詩織さんが嫌でないなら、そのお話、ぜひ受けようと思います」

 * * * 

 まぁ、そんなこんなで僕たち──僕こと大日向淳(おびなた・じゅん)と倉山詩織(くらやま・しおり)さんは、16歳にしてお付き合い……をすっ飛ばして、婚約者(フィアンセ)になることになった。
 幸いにして、詩織さんのご両親も(デュラハンの末裔だとは思えないほど)陽気で気さくな人たちで、僕のことを「愛娘の将来の婿」として喜んで受け入れてくれた。
 あのお姉さんの飛鳥さん(国立大に通う才媛さんだ!)も、パッと見はちょっとミステリアスなクールビューティって感じだけど、話してみると案外おちゃめで優しく、将来の義弟としてはひと安心だ。
 高校に通うために僕はアパートに下宿してるんだけど、詩織さんを連れて、電車で7駅ほど離れた実家の方に「旧家の娘さん(実際、倉山家は由緒正しい資産家だ)と恋仲になり、婚約が決まった」って報告にも行った。
 恋愛経験0のはずの僕に恋人どころか婚約者ができたことに、さすがに両親は驚いてたけど、詩織さんの人柄を見て「この娘さんなら」と納得したのか、最終的には快く祝福してくれた。
 そして無事にお互いの家族との顔合わせも済んだところで、詩織さんのご両親から「部屋は余っているし、よかったらウチに下宿しないか?」と誘われたんだ。
 将来、義理の両親になる人達と今から親交を温めておくのもいいかも……と思って、アパートから引っ越したんだけど、引っ越し荷物とともに倉山家に到着すると、ちょっとしたトラブルが待っていた。
 まだ存命中の先代当主──つまり詩織さんの祖父にあたる人が来ていて、僕が彼女の許婚になったことに難癖(イチャモン)つけてきたんだ。
 「こんな軟弱そうな坊主に我が家の秘密を護れるものか」ってね。
 僕も最初は我慢してたんだけど、詩織さんや飛鳥さんに至るまでボロクソにけなされて、ついカッとなって反論しちゃったんだ。
 そこで、僕と詩織さんは、倉山家伝統の“外部の人間を嫁/婿に向かえる際の試練”とやらを受けることになったんだけど……。

 * * * 

 「──まさか、こんなコトができるなんてなぁ」
 溜息をつきながら、ボクは「短めの制服のスカートの裾を気にしながら」溜息をつく。
 「あ、あはは……ゴメンね、淳くん。おじいちゃんがガンコで」
 「いや、まぁ、ボクも売り言葉に買い言葉的に挑発にのっちゃったから。それと……少しだけ歩調を緩めてくれないかな。この足で歩くのにまだ慣れなくて」
 「あ! ごめんなさい」
 「今のボクより頭半分背の高い」詩織さんが、あわてて歩くスピードを緩める。
 ──どういうコトかと言えば、“今のボクたち”は、(首が外れても死なない)デュラハンの特殊能力の応用とやらで、ご覧の通り、首から下が入れ替わっている状態なんだ。
 ちなみに、認識阻害の呪術が掛けてあるとかで、周囲の人々には、ボクは詩織さん、詩織さんはボクの姿に見えてるらしい。
 で、この状態のまま一年間暮らし、周囲の一般人に異常と気取られなければ、倉山家の嫁(僕の場合は婿)として合格……という試練なんだって。
 「どーゆー意味があるんだろ、コレ?」
 「えっとね、困難をふたりでともに乗り越えることと、秘密を守り続けること、そのふたつに関する意思の強さや機転を試されてるんだって」
 (それと……結婚する前にお互いの“体”に関する理解を深めておけるように、って)
 詩織ちゃんがゴニョゴニョ言ってた後半部分は聞き取れなかったけど、意外にもキチンとした理由があることは理解できた。
 「ふぅ、ま、今更ごちゃごちゃ言っても仕方ないか。
 よーし、気持ちは切り替えた! この一年間、見事詩織ちゃんになりきって、あの爺さんをギャフンって言わせてやろう!」
 「そうだね、私もがんばるよ!」
 ──そういうわけで、これから一年間、ボクは“倉山詩織”、彼女は“大日向淳”として高校生活を送ることになったんだ。
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