『ポニーテールは伊達じゃない!』(上)

 以前、立場交換スレで挫折した代物ですが、とりあえず書きたい欲が復活したので、『厄違え』同様に3回に分けて第一部完までまとめます(第二部以降は気が向いたらということで)。
 主人公を含めた主要登場人物4人のイメージは、涼●ハルヒ、長●有希(ただし巨乳)、朝比奈み●る(ただし貧乳)、キ●ン……ではなくキョン子を想像していただければ、と。また、こちらにも掲載している『籠球少女(偽)』とほんのりサブキャラレベルでつながりがあったり。


ポニーテールは伊達じゃない!

-01-

 突然何を言い出すんだと呆れられるかもしれないが……ウチの家系、鶴橋家は、なんでも“魔女”の末裔らしい。
 ──いや、そんな「中学生にもなって、何言ってんの?」的な目で見ないでほしい。
 もっとも、2年前まだ小学5年生だった頃に、晴海(はるみ)姉ちゃんから初めて聞いた時は、たぶん僕も同じような目を姉ちゃんに向けてたんだろうけどさ。

 「あ! 香吾(きょうご)、アンタ、信じてないわね?」
 僕の視線に含まれる憐憫と軽蔑の意を敏感に感じ取ったのか、姉ちゃんはすかさずヘッドロックをかけてきた。
 「イタタタ……ギブ、ぎぶっ!」
 当時中学2年生ながら、ソフトボール部のエースとして鍛えていた姉ちゃんの馬鹿力はあなどれず、その頃はまだ体格でも10センチ近く劣っていた(近頃ようやく3センチ差まで追いついた)僕は、早々に白旗をあげるしかなかった。
 「ふぅ~、ヒドいメにあった」
 「才色兼備な優しいお姉様の話を、信じないアンタが悪いんでしょうが」
 いや、そう言われても、ねぇ?
 もっとも、少々気まぐれでゴーマイウェイな点があるとは言え、確かに晴海姉ちゃんは文武両道を体現してるような女の子だ。
 身内の欲目を差し引いても、外見も十分美人の範疇に入るし、学校の男友達にも「いいなぁ、鶴橋んちの姉ちゃん」なんて羨ましがられる。
 時折その思いつきで振り回される事があるとは言え、僕も姉ちゃんのことは嫌いじゃないし、姉弟仲も悪くないと思う。
 とは言え、こんな風に時々無茶ぶりしてくるから、うっかり気は抜けないんだけど。
 まぁ、これも横暴な姉の下に生まれた弟の定めかとあきらめて、仕方なく姉ちゃんの話を詳しく聞いてみたところ、多少は僕にも納得がいった。
 “魔女”とは言っても、別段、杖から撃った魔法弾で地面にクレーター作ったり、希望と絶望の相転移で化物化したりするような、物騒なものじゃないらしい。
 「そうね、現代日本風にいえば、生薬配合による薬物生成と、催眠暗示に長けた一族……ってところかしら」
 色んな薬効を持つ薬を作り出し、また他人と対峙する際は暗示で行動を束縛したり催眠術で幻を見せたりする──つまりは、そんな技術を代々継承してるらしい。
 「──それ、魔女って言うより、むしろ忍者っぽくない?」
 「あはは、言われてみれば、そうかも。まぁ、体術関連は護身(たしなみ)程度だけどね」
 たしなみ程度でも一応やってるんだ!?
 「ええ、さっきアンタにかけたのが、ウィッチ・ヘッドロックよ」
 ほかにも、ソーサレス脇固めとかヘキセン三角締めなんかがあるらしい……一体どこまで本当なのやら。

 で、その後、秘密の地下室で色々怪しげな薬──毛生え薬だの惚れ薬だのを見せられ、その効果も強制的に実体験させられたんで、半信半疑から七信三疑くらいにはなったんだ。
 実は姉ちゃんの女の子離れした身体能力も、自己暗示で潜在能力の一部を解放しているおかげらしい。
 六年生の運動会の時、僕も一度、その暗示とやらをかけてもらって、効果は十分に分かっている──もっとも、翌日はその反動で全身筋肉痛になって一歩も歩けなかったけど。
 ちなみに、この“技術”って代々鶴橋家の女性にのみ継承される習わしらしく、姉ちゃんは田舎のおばあちゃんから習ったんだとか。父さんも、僕同様存在は知ってるものの、自分ではほとんど使えないんだってさ。

 まぁ、限りなくうさん臭い技術(しろもの)だけど、その効果は身をもって知ったし、僕も運動会の時みたく時々お世話になったりもしてた。
 中学に入ってからは、主に定期試験前の勉強時に“精神集中できる暗示”を姉ちゃんにかけてもらうことで、かなり効率的に試験勉強できたし。

 そんなこんなで晴海姉ちゃんには色々「借り」があったのは確かだよ。
 でも、だからって……いきなり「アンタ、夏休みにバイトする気ない?」って言われてもねぇ。
 「第一、姉ちゃん、僕、まだ中学生だよ」
 ちなみに誕生日は9月23日、秋分の日の頃だから、七月現在の時点では12歳だ。
 そりゃあ、自宅とか親戚の家業の手伝いくらいなら、やってる中学生もいるだろうけど、基本的に法律で中学生のバイトって禁止されてなかった?
 「その点は心配ないわ」
 ニヤリ……といかにも「悪そう」な笑みを浮かべた姉ちゃんの手には、一枚の学生証が握られていた。
 よく見ると、姉ちゃんの友人でウチにもたまに遊びに来る、朝日奈恭子さんの名前が記されてている。
 もしかして、経歴詐称!? それって犯罪だよ!
 「ふっ、イカサマはバレなきゃ、イカサマじゃないのよ」

 晴海姉ちゃんいわく、せっかく高校生になったんだし、この夏休みにアルバイトでもしようとツテをたどって、電車で7駅ほど離れた場所にある観光地の旅館で、友達と一緒に仲居さんのバイトする段取りをつけたんだとか。
 「バイトって言っても、三食+寝る場所付きなうえに、夜7時以降はフリーで週に1回お休みももらえるという好条件よ! これを逃す手はないでしょ」
 問題は、3人で行くはずだったのに、ひとりがどうしても無理ということになったらしい。

 「そこで、アンタの出番ってワケ」
 “ニタリ”という形容が似合いそうな、いや~な笑顔を浮かべる姉ちゃん。
 ま、マズい。この表情をしてる時の姉ちゃんは、紛れもなくホンキだ!
 「へー、そーなんだー、でも、ぼくは、あさってから、じゅくのかきこうしゅうに、とまりこみでいくことになってるんだよねー」
 内心冷や汗をダラダラ流しつつ、とりあえず、正論で抵抗を試みてみる。ちょっと棒読みっぽくなっちゃったのは勘弁してほしい。
 「ふぅん……そうなの」
 「う、うん、そうなんだ。受講料ももう支払っちゃったし、サボるわけにはいかないよねー、そんなことしたら、父さん達に叱られちゃうし」
 「──確かに、それはそうね」
 お、諦めてくれたかな?
 「いやぁ、残念だなー、僕も行きたかったんだけど、別の用事があるんだから、仕方ないよね。講習代わってもらうワケにもいかないし」……と、ここぞとばかりにまくしたてる僕に、姉ちゃんはニッコリと微笑みかける。
 「そう。なら、安心しなさい。アンタの代わりに夏期講習を受けて来る人材は確保してあるから」
 ……ヘッ!?
 「代わってくれる人がいるなら、アルバイトする障害はないわよね。アンタも、本当はやりたかったみたいだし──ねぇ?」
 一見笑ってるけど瞳だけが笑っていない物騒な表情を向けられた僕には、両手を挙げて無条件降伏するほかに、選択肢は残されていなかったのでした、まる。


-02-

 半ば(というか99%)無理矢理、僕から「アルバイトを手伝う」という言質をとった姉ちゃんは、今回の件に関する詳しい経緯を説明してくれた。
 元々は、中学時代からの親友の長津田雪(ながつだ・ゆき)さんと、高校に入って仲良くなった朝日奈恭子(あさひな・きょうこ)さんの3人で、一緒にバイトをするつもりだったらしい。
 ところが、土壇場になって恭子さんが「やっぱり、わたしに接客業なんて無理ですぅ~」とヘタレた。どうやら、恭子さんって、軽い男性恐怖症の気味があるらしい。

 「そうなの? 家に来たとき、僕とか父さんとは割と普通に話してたみたいだけど」
 「父さん達くらい年配か、年下のあまりゴツくない男の子なら、比較的マシらしいんだけどね」
 姉ちゃんたちとしては、むしろそれを改善する目的もあって、このバイトを選んだらしいんだけど、本人がものすごく嫌がってるのに強要しても逆効果だろうし、バイト先に迷惑かけるのは本末転倒だ。
 しかし、雪さんの妹さんの友人のお父さんがオーナーをしているというその旅館には、女子高生3人がバイトすると伝えてあるし、先方もそのつもりでいるだろう。
 「だ・か・ら、アンタに恭子の代役を頼みたいのよ、香吾」
 いや、さっきのって、絶対人に頼みごとする態度じゃないよね!?
 ──そう思っても、口に出せないのが弟という身分のツラいところだ。

 「けど……僕に、恭子さんの身代わりなんて」
 「大丈夫よ、アンタ、背丈も体型もおおよそ恭子と似たようなモンだし、顔だってちょっとボーイッシュな女の子で通るわ」
 ぅぐっ! 人が気にしてることを……。
 確かに、僕は、身長155センチで、顔も母さんによく似た女顔だってよく言われるけどさ(ちなみに、姉ちゃんは父さん似。なのに、割かし美人に見えるのは不思議だよね)。

 「それに、念の為、“魔女”の技術(ちから)も使ってあげるから、周囲からも女子高生にしか見えなくなるし、心配ないって」
 うーん、姉ちゃんの魔女としての腕前の確かさは知ってるし、それなら周りも誤魔化せるのかなぁ。
 「でも、恭子さんの方は、それでいいの?」
 よりによって男子中学生の代役なんて……。
 「ああ、平気よ。むしろ、どちらかって言うと、ソッチが狙いね」
 姉ちゃんいわく、半月間、男子中学生として生活してれば、ちょっとは男に対する理解も進んで、男性恐怖症もマシになるだろう──という目論見らしい。
 「あらかじめ、周囲の男子を異性と意識しないような、弱い暗示もかけておくつもりだしね。つまり、これは人助けでもあるのよ。ドゥー・ユー・アンダスタン?」
 そう、畳みかけられては、僕も頷かないわけにはいかない。
 それに……本音を言えば、この歳で「住み込みのアルバイト」を体験できるという状況に、ちょっと好奇心をくすぐられているのも事実だ。

 結局、僕は、改めて姉ちゃんの企みに協力することを約束することになった。
 ──それが、僕のひと夏の不思議な体験の始まりだと気付かずに。


-03-

 夏期講習が始まる日の朝、僕は晴海姉ちゃんと、姉ちゃんの親友でウチにもよく遊びに来る長津田雪さんに連れられ、合宿用の荷物が入ったスポーツバッグを抱えて、朝日奈恭子さんのお家を訪ねていた。

 「まぁまぁ、晴海ちゃんに雪ちゃん、わざわざ恭子を迎えに来てくれたのね……あら、そちらの男の子は?」
 「あ、ウチの弟の香吾です。香吾、ホラ、挨拶」
 姉ちゃんに促された僕は、とりあえずおばさん──朝日奈さんのお母さんらしき女の人に「こんにちは」と頭を下げておく。
 「コイツも今日から猪狩沢で夏期講習合宿があるらしいんで、駅まで一緒に行こうと思いまして」
 「まぁ、そうなの。感心ねぇ……あ、ごめんなさい、ささ、上がって上がって」
 朝日奈さんが10数年歳をとったらソックリになりそうな、おっとりした雰囲気のおばさんは、僕らを快く招き入れてくれた。

 勝手知ったる他人の家と言うか、姉ちゃん達はそのまま2階に上がり、「恭子ちゃんの部屋(はぁと)」と言うプレートがかかったドアをノックする。
 「恭子ぉ、入るわよー」
 「ひゃ、ひゃいッ!」
 中に居る朝日奈さんのカミカミの返事(まぁ、いつものコトだけど)を聞く前に、姉ちゃんはドアを開ける──姉ちゃん、それノックの意味ないから。
 そうして、晴海姉ちゃんの部屋とは(いい意味で)だいぶ違う、いかにも“女の子”らしい柔らかな雰囲気の部屋に僕らは足を踏み入れた。

 もちろん、中には部屋の主である朝日奈さんがいて、僕たち三人を迎えてくれる。
 「い、いらっしゃいましぇ」
 あ、また噛んだ。
 「グーテンモーゲン、恭子! もう準備は出来てる?」
 「えっと、その、はい、たぶん……」
 自信なさげな朝日奈さんの答えとともに、姉ちゃんは懐から取り出した親指大の小瓶の蓋を取り、中味をパパッと周囲に振り撒く。
 「うん、念の為の人払いはコレでよし、と。じゃあ、恭子、時間がないから早速だけど始めるわよ。心の準備はいい?」
 「は、はい……やってください」
 いつも気弱な朝日奈さんにしては、珍しく決意したような表情だ。
 その返事を聞いた姉ちゃんは、床にレジャーシートを引くと、その上に椅子を置き、朝日奈さんを座らせる。髪を束ねていたリボンを解くと、背中の半ばくらいまである朝日奈さんの綺麗な栗色の髪がふわっと肩に広がった。

 「雪、例のものは?」
 「──ちゃんと借りて来た」
 長津田さんがバッグから取り出したのは……先の丸くなったハサミと、水色のビニールシート?
 姉ちゃんが、ソレを朝日奈さんの首元に巻き付け、ハサミを手にした長津田さんが、朝日奈さんの背後に回る。
 まさか、と僕が思うまでもなく、長津田さんがサクッと朝日奈さんの髪にハサミを入れ、柔らかそうなその長い髪が切り落とされる。
 「!」
 一瞬息を飲んだのは、僕か、それとも朝日奈さん本人か。
 長津田さんは、そのまま手際よく朝日奈さんの髪を切り揃えている。
 (そう言えば、長津田さん家って、商店街の美容院なんだっけ)
 こんな風に手際がいいのも、門前のなんたらなのかなぁ。
 ──などと僕がくだらないコトを考えているうちに、朝日奈さんの髪はロングから心持ち長めのショートカットに整えられていた。

 「どう……ですか?」
 「うんうん、なかなか似合ってるわよ、恭子」
 「──ボーイッシュでキュート」
 姉ちゃん達の言う通り、短くなったその髪型は意外と朝日奈さんにマッチしていた。いつもより、ちょっとスポーティで活発そうにも見える。
 「そ、そうですか? ちょっと照れくさいですね」
 はにかみながら、朝日奈さん自身も満更じゃないようだ。
 「切った髪は、これに入れてっと……」
 姉ちゃんがカバンから取り出した広口瓶に朝日奈さんの髪を入れると、中の液体にたちまち髪の毛が溶けて、透明な液がウィスキーみたいな濃い琥珀色に染まった。

 「うん、これでよしっ、と。じゃあ、恭子、それに香吾も。今着てる服を脱ぎなさい」
 ──へっ!?
 「姉ちゃん、冗談……だよね」
 「ん? いやいや、本気と書いてマジよ、マジ」
 姉ちゃんいわく、これから僕は「朝日奈恭子」に、朝日奈さんは「鶴橋香吾」に、と立場を入れ換えるのだから、当然服装も交換するべきだと言うのだ。
 そのためにこそ、朝日奈さんも到底男子には見えない長髪を切ったのだから。
 「そりゃあ、理屈は分かるけど……」
 姉ちゃんだけならともかく、此処には朝日奈さんや長津田さんもいるのだ。さすが裸になるのは恥ずかしい。
 見れば、朝日奈さんも、年下とは言え一応男である僕がいるせいか、真っ赤になって俯いている。

 「ふぅー、このままじゃラチがあかないわね。いいわ
 ──パチン!
 姉ちゃんが指を鳴らすと、たちまち意識がもうろうとしてくる。
 (しまった! 姉ちゃん、“暗示”を……)
 頭の隅で微かにそう考えるものの、すでに僕の意識の大半は半ば居眠りしたようなボーッとした状態になっている。
 「じゃあ、雪は恭子を手伝ってあげて。あたしはコイツを脱がせるから。
 はーい、香吾く~ん、脱ぎぬぎしましょうねぇ♪」
 そんなことを言いながら近づいてきた姉ちゃんに命じられるまま、僕の身体は勝手に動いて、次々に服を脱いでいく。
 程なく、僕はパンツ一丁履いてない素っ裸になってしまった。
 姉ちゃんの暗示で心が麻痺しているせいか、恥ずかしさもあまり感じないのだけが不幸中の幸いだ。

 けれど……。
 「うーん、意識のないまま着替えさせちゃうのは、ちょっと面白くないわね」
 また、姉ちゃんがトンデモないことを思いついたらしい。
 「雪、そっちはどう?」
 「──問題ない。服はすべて脱がせた」
 「じゃあ、コイツの服を渡すから、恭子の服をこっちにちょうだい」
 「了解」
 僕と朝日奈さんが着ていた服をそれぞれ持ち主と逆の方に持ってくると、姉ちゃんは再び「パチン」と指を鳴らす。
 それで“暗示”が解けたのか、僕らは動けるようになっていた。
 「──! な、何すんだよ、姉ちゃん」
 大いに抗議したいところだが、フルチン状態ではそれもままならない。
 「いつまでもためらってるアンタたちが悪いのよ。あんまり時間もないコトだし、ほらほらチャッチャと着替える!」
 ぐぬぬ……この状態では、何を言っても無駄だろう。仕方なく僕らは、渡された服に着替えることにした。
 僕はベッド、朝日奈さんは勉強机の方を向いて、互いに背中合わせの状態なので、振り返らなければ互いの裸は目に入らないのは、不幸中の幸いだった。

 ベッドの上に積まれた衣類の小さな山から、白いレース飾りのついた女の子用パンツ(“ショーツ”って言うんだっけ?)を手に取り、一瞬思考がフリーズしかける。
 「こら、香吾、グズグスしてないで早く着替えなさい!」
 姉ちゃんに急かされることでフリーズの解けた僕は、覚悟を決めて、ドキドキしながら、そっとショーツに足を通す。
 腰まで引き上げると、形はいつも履いてるブリーフと大差ないはずなのに、着心地は全然違うのがよくわかった。
 ふわふわと柔らかくて薄い生地のせいか少々頼りないけど、同時にぴったりと股間に優しくフィットする着用感が、なんだか気持いいかも。さっきまで朝日奈さん本人が着てたほのかな温もりが残っているのも、心地よさをプラスしてる感じ。
 (うぅ……なんかクセになりそうで、ヤバいかも)
 フルフルと頭を振って、ヘン気持ちになりそうなのを振り払い、伸ばした手が摘みあげた白いモノは……。
 「──ぶ、ぶらじゃあ」
 絶句している僕を見かねたのか、「貸しなさい!」とひったくった姉ちゃんに指示されるまま、ストラップに手を通すと、ブラのカップが胸にピッタリ密着する。
 あとで聞いたところ、朝日奈さんの胸ってAAカップらしい。詳しくは知らないけど、高一でAAって、相当なペチャパイらしい。もっとも、そのおかげで、パッド一枚入れただけでブラに違和感がなくなったのだから、朝日奈恭子になりすまさないといけない僕としては、良しとすべきなのだろう。

 いつまでも下着姿(それもブラとショーツ!)でいるのは恥ずかしいので、そのまま服を着ようとしたところで、姉ちゃんに止められた。
 「ちょっと待った。服着る前に、アンタの頭にコレを使うわ」
 と、さっきの広口瓶に入った琥珀色の液体を、姉ちゃんは僕の頭にブッかける。
 「わわっ、何すんだ……よ?」
 ムズムズするかゆみが僕の頭を襲い、同時にゾワリとした感覚とともに髪の毛が猛烈な勢いで伸びているのがわかった。
 「これは……毛生え薬?」
 以前、姉ちゃんに実演されたことがあるから、すぐにその液体の正体に思い至る。
 「そ。ただし、恭子の髪の毛をブレンドした特製品よ。その証拠に、ほら」
 姉ちゃんがひと房すくいあげた僕の髪は、本来の僕の黒くて堅めの髪とは似ても似つかない栗色で、軽くウェーブのかかったやわらかそうな髪質になっていた。

 「これで、学生証の写真の恭子とよく似た髪型になったでしょ。さ、着替えを続けて続けて」
 「はぁ……わかったよ」
 ここまできたらヤケだ。僕はおとなしく「朝日奈恭子」になりきるべく、残りの彼女の服に手を伸ばした。
 若草色をした半袖のワンピースは、胸元のボタンを外して足を突っ込むだけで着れたんだけど、普段の服とは逆についてるボタンをとめるのに少し手間取った。
 それに襟ぐりがやや深めで、セーラーカラーになってるのは涼しくていいんだけど、襟の部分がそのまま伸びて、胸元で結ぶリボンになってる構造なのが巧く結べない。
 「もぅ、これくらい、ちゃんと覚えなさいよね」
 仕方なく姉ちゃんが手伝って結んでくれる。
 そのあとは、白いレース編みの靴下を履いてくるぶしで三つ折りにすれば……よし、着替え完了だ。
 「──まだ終わりじゃない。ココに座って」
 長津田さんに言われて、先程の断髪の時に朝日奈さんが座っていた椅子に腰かける。

 その朝日奈さん本人のほうを見ると、こちらも僕の服に着替え終わっていた。
 ライトグレーの無地のTシャツの上にダンガリーシャツをボタンを上から3つ開けて着て、ボトムは膝丈のカーゴショーツ。頭にはブルーのアポロキャップ。
 ティーンの少年の夏場の定番とも言える服装だけど、朝日奈さんは「ちょっとキュロットみたいですね」と、あんまり違和感は感じてないらしい。
 スカートで足元が落ち着かない僕とは大違いだ。

 「──頭はあまり動かさないで」
 長津田さんの指示に従って、真っ直ぐ前を向く。
 長津田さんは、先程のハサミで、僕の伸びた髪の長さを揃えてくれてるみたいだ。そのあと、軽くブラッシングしたのち、朝日奈さんがさっきまでしていたリボンで、僕の長い髪はポニーテールに結わえられた。

 「よしよし、これでふたりの立場交換の準備は整ったわね。それじゃ、“暗示”をかけるわよ」
 僕と朝日奈さんは向かい合わせに立たされ、両手を胸の高さに上げて掌を合わせるよう指示される。ちゃんと手を合わせたのを確認してから、姉ちゃんが、僕と朝日奈さんの肩に左右の手を置く。
 「そのまま動かないでね……エイッ!」
 姉ちゃんの気合いとともに、その手から何か不可視の“気配”みたいなものが伝わって来た──ような気がした。
 「これでよし、っと。これで、アンタは「朝日奈恭子」、恭子は「鶴橋香吾」として、周囲の人には認識されるはずよ」
 え? 暗示って……僕らに対してかけたんじゃないの?
 「本人にも影響があるけど、どちらかと言うとこれは、アンタ達を見た人に対してかかる暗示ね」
 そんな非常識(バカ)な……。
 「疑うなら、恭子のお母さんに会ってみれば? アンタのことを娘だと勘違いするはずよ」

-つづく-
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KCA(嵐山之鬼子)

Author:KCA(嵐山之鬼子)
Pixiv、なろう、カクヨムなど色々書いてます。感想などもらえると大変うれしいです。
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