『うまい話には……』

かなーり昔、たぶん10年近く前に書きかけてホッぽり出したSSを無理やり完結。
支援所もので、たぶんど゜こかの東方絵をイメージして書いたはずです。


うまい話には……

 死神の手違いによって交通事故で死んでしまった僕と兄さん。
 いくら名前が同じ兄弟が死亡予定リストにあったからって、そんな簡単に間違えて勝手にヒトの人生終わらせないでよ!
 とは言え、元の身体は既にグシャグシャなので、生き返りたければ別の人間に生まれ変わる──っていうか成り代わる(?)しかないらしい。
 できるだけ希望はかなえるって言われたんで、「お金持ちの家で、メイドさんにかしづかれるような生活を」って望んだんだけど……。
 「トホホ……まさか女の子になるとは。しかも、高校3年だったのに、この娘、小学生だよ」
 まぁ、低学年じゃなくて12歳の六年生なのは救いだけど。今年一年我慢すれば、来年は中学に通えるワケだし。
 「お前なんかまだいいよ! ある意味、希望通りだろ? 俺なんか、お前ン家で働くメイドなんだぞ!?」
 ありゃ、お気の毒様。でもさ、兄さんはなんて希望したのさ?
 「ささやかな条件(モノ)だぞ。「給料がよくてあまり難しくない仕事に就職したい」ってのと、「心配だから、できるだけ弟のそばにいたい」ってだけだからな」
 あ~、ウン、なるほど。
 確かに、そのメイドは僕──今のあたし付きの専任だし、普段はあたしのお世話さえしてればいいから、ある意味楽な仕事だよね。当然、仕事の関係上、いつも一緒にいるワケだし。
 ま、まぁ、なっちゃったモノはしょうがないよ。幸いこの身体──緋楼院麗美(ひろういん・れみ)としての記憶は頭の片隅にある。特に意識しなければ、自然に「麗美」として振る舞っちゃうくらいだし。
 その点は、元兄さんの望月佐久耶(もちづき・さくや)も同じみたい。
 「これからもよろしく、兄さん──いえ、よろしく頼むわね、佐久耶」
 「ふぅ、仕方ないか──はい、畏まりましたわ、麗美お嬢様」

  * * *  

 人生、山あり谷ありで「楽ありゃ苦もあるさ~」、万事塞翁が馬で晴れたり曇ったり──なんて、ワケ知り顔で言う人がいるよね。
 そりゃ、俯瞰して見たら決して間違ってはいないと思うよ?
 でも、逆にトータルで見た場合に、明らかに「幸運」な恵まれた人と、逆に「不運」で恵まれない人がいるってのも、また真実だと思うんだよね。
 僕ら──僕と兄さんは、残念なことに、どちらかと言うと後者だった。
 僕が小六、兄さんが大学入った直後に、両親が揃って事故で亡くなった。
 不幸中の幸いで、家は小さいながらも持ち家だったし、保険金と事故の賠償金が入ったから、兄弟ふたり慎ましく暮らせば5、6年はもつ。
 とは言え、兄さんは大学を辞めて働くことも考えてたみたいだけど、僕が説得して何とか思いとどまらせた。

 そのころからかなぁ。兄さんのブラコン……と言うか過保護が徐々にエスカレートし始めたのは。
 だいたい、三者面談は仕方ないけど、六年生にもなって父兄参観なんて別に来てほしくなんてないよッ!
 僕が中学に入ってからも兄馬鹿ぶりは健在で、一時はグレそうになった時もあったっけ。
 まぁ、「いなくなった両親の代わりに、立派に俺を育てる」ことを兄さんが心の支えにしてることは知ってたから、かろうじて和解はできたけどさ。
 で、事故から4年後、僕が高校に入学した年に、兄さんは大学卒業&就職した。
 あまり大きな会社じゃないけど給料がいい(でも、そのぶん凄く忙しい)らしく、僕のことを以前程構わなくなったのは、高校生になった僕としては願ったり叶ったりだったんだけど……。
 実は兄さん、密かに「兄弟の触れあい&語らいの場」が減ったこと気にしてたみたいなんだ。
 ──いや、弟(ぼく)のことは別にいいから、恋人のひとりも作りなよ!
 そう思い、実際何度も口にしたんだけど、兄さんは穏やかに微笑いつつ、僕が彼女を見つけたらそうする、なんて言うんだ。
 何をやっても平凡な僕と比べて、兄さんは大概のことを水準を大幅に上回る技量でクリアーする「万能」とか「優等生」とか言われるタイプの人だった。
 今にして思えば、そのぶん、平均を何とかクリアーして満足してる僕が不甲斐なく見えたのかもね──正直、余計なお世話だけど。

 で、こんなご時世だけに、兄さんの会社も業績が落ち込み、兄さんはますます超過勤務を強いられることに。スーパー努力家&優等生な兄さんも、さすがに疲労でヘロヘロになってた。
 ああ、だから「給料がよくてあまり難しくない仕事」なのか。納得。
 まぁ、それを言えば、万年金欠で家の中の事を任されてた僕の「お金持ち&メイドさん」って願いもたいがいアレだけどね。
 まさか、ふたりとも「こんな形」でその願いが叶うとは、夢にも思ってなかったワケで……ここはやっぱり「不幸だーーッ!」と某ラノベの主人公っぽく叫ぶべきなのかなぁ。

  * * *  

 「お嬢様、掟……じゃなくて起きてください!」
 僕──もとい、「あたし」こと緋楼院麗美の一日は優雅な目覚めから始まる。
 元「僕」の兄にして、現・あたし付き侍女(いやぁ、現代日本にもアキバとかのパチモンじゃないメイドさんていたんだね)の望月佐久耶の優しい(?)声で起こされ、眠い目をこすりながら、ベッドの上に起き上がる。
 「ふに~、おあよ~、にーさん」
 「おはよう。それから、にーさんじゃなくて、佐久耶ですよ?」
 ニッコリ微笑むその笑顔は、まさしくヘブンリィスマイルと呼ぶべき神々しさで、未だ18歳の乙女(少なくとも体は)なのに早くも聖母の風格さえ漂わせている。
 マジで、中身が20代始めの男性会社員だった兄さんだとは思えないくらい。
 「あ~、うん。おはよう、さくや」
 対する「あたし」の方は……うん、まぎれもなく、12歳のちびっこ幼女です。
 かつては(家事する必要もあって)早寝早起きを身上としていた僕としては、子供の割に寝起きが悪いのが悩みの種なんだよね。
 もっとも、「佐久耶」のかつての記憶を辿った兄さんに言わせると、「これでも寝起きがよくなった方」とのこと。どうやら麗美にはこの年で低血圧の気があるみたい。
 とりあえず起きてはみたものの、まだボーッとした「あたし」を、テキパキと「佐久耶」な兄さんが着替えさせる。無論、「あたし」も抵抗はしないので、およそ5分程で寝間着からの着替えは完了する。
 「はい、お嬢様、お着替え終わりましたよ」
 「ん、ありがと、「佐久耶」」
 今の体に生まれ変わって一週間。女の子の身体にいまだ戸惑いがちな「あたし」に比べて、「佐久耶」の方は、言葉遣いも仕草も、もう慣れたものだ。
 昨日、「どうしてそんなに早く馴染んだのか?」質問してみたところ、唇に指を当てて首を傾げながら(いや、どうしてそんな萌え動作を自然に出来んの!?)、兄さんは仮説を披露してくれた。
 「うーん、ベースになった体の年齢の差じゃないでしょうか?」
 つまり、18歳の女性に24歳の男性の意識が入った「望月佐久耶」と、12歳の幼女に18歳の少年の意識が入った「緋楼院麗美」の違い。
 12歳と18歳で自我意識の強さや記憶&経験の質・量ともに、大幅に異なる。
 意識の主体は転生した僕ら兄弟側にあるとしても、僕らもこの体に残る記憶や経験などの影響を多少は受けざるを得ない。その場合、当然、18歳の佐久耶の影響の方が大きい……というわけだ。
 「それに、性差(ジェンダー)に関する意識の明確さも、お嬢様──お前の方が、希薄だろう?」
 ことさらに、言葉遣いをかつてものに戻して、僕を睥睨する兄さん。
 「む、それは幼児体型な「あたし」に対する挑戦!?」……なんて、対抗意識が心の中で頭をもたげてくるが今は無視。確かに、小学生と高校生では、男女性差の区別は後者のほうが明確だよな。
 ちなみに、望月佐久耶は、緋楼院家(ウチ)でメイドをしつつ、高校にも通っている勤労学生だったりする。いや、無理してるワケじゃなくて、「あたし」のママの「高校くらい卒業しときなさい」という差し金なんだけど。
 当初、兄さんは「20歳過ぎて、もっぺん高校生、しかも女子高かよ」とかブツブツ言ってたけど、今ではすっかり女子高生ライフを楽しんでる様子。
 ──前から順応性の高い人だったからな~。
 ドレッサーの前に座ってブラッシングしてもらいながら、鏡越しに鼻歌唄いながら「あたし」の髪を梳る「佐久耶」の顔を見つめる。
 「こんな感じでいかかでしょう…… ? どうかなさいましたか?」
 「あ、うん、いいんじゃない、かな」
 慌てて首を縦に振る。
 正直、この年代の女の子の髪型の良しあしなんて詳しくないけど、とりあえず可愛いのでよしとしよう。

 「おはようございます、パパ、ママ」
 身支度を整え(正確には整えてもらって)ダイニングへとやってた来た「あたし」は、すでに席についている両親に、朝の挨拶をする。
 「うん。おはよう麗美」
 「おはよう、麗美ちゃん、今朝も可愛いわよ」
 ニコニコしながら、娘である「あたし」に挨拶を返してくれるパパとママ。
 専属メイドを雇えるということから想像つく通りかなりのお金持ちだけど、成金じゃない旧家の余裕と言うか、ふたりともすごく「いい人」だ。
 パパは、眼鏡をかけた癖のある銀髪の男性で、パッと見は小学校の先生か、あるいは街の小さな古本屋さんでも営んでそうな、人畜無害を絵に描いたような印象。まぁ、某大手古本通販チェーンのオーナーだから、あながち間違ってはいないのかな。
 ママは、イギリス生まれの綺麗なブロンドの美人さん。一見クールっぽく見えるけど、実はすごく優しい女性で、手先も器用。本業は小説家さんなんだけど、趣味が高じて始めたドールメーカーとしても有名みたい。
 そして……ふたりとも、すごく若い! 「あたし」が今年12歳なんだから、20歳ぎで産まれたとしても、ふたりとも30歳は優に超えてるはずなのに……。
 ちょっと童顔気味なパパは20代半ば、ママに至っては女子大生でも普通に通るんじゃないかな、ってくらい若く見える。
 (そう言えば、「前世」で僕の両親が亡くなったのも、ちょうど小六の頃だっけ……)
 当時の記憶は、すでに若干曖昧だけど、それでも「僕」の両親はもっと老けていたように思う。
 や、両親が若く見えても別段悪いことはないんだけどね。むしろ、その血を引いてるぶん、「あたし」も老けにくいってことだから、女の子になった以上、歓迎するべきなのかも。
 何より、ふたりはすごく「あたし」──麗美のことを大事にしてくれる。仕事が忙しいはずなのに、朝ご飯は一緒に食べる習慣だし、晩ご飯も必ずどちらか、できれば両方揃って食べるならわしだ。
 それ以外にも、12歳と言う難しい年頃の女の子を持つ親御さんとしては、すごく良識的かつ情愛深く麗美に接し、見守ってくれていると思う。

 だけど、それだけに時々、ひどく罪悪感を覚えてしまうんだ。
 麗美として暮らした女の子の記憶は、確かに僕の中にある。だから、「あたし」が麗美として振る舞うことは決して難しくない。
 けれど、それは愛してくれる両親と、本来のこの体の持ち主である「麗美」への二重の裏切りではないかと思えてしまうのだ。

 確かに、「麗美」と「佐久耶」は本来の運命なら事故で命を落としていたはずの存在なのだ、と死神からは聞いている。
 それが、こうして僕らの新たな肉体として選ばれたことで、死んで周囲の人を悲しませることはなくなったし、また、将来子どもを産めば「自らの血を引く子孫を残す」という生物としての本分も果たされるだろう。
 さらに言えば、彼女達の記憶の一部を受け継ぎ、それに僕ら自身もいくらかは影響を受けたことで、彼女たちの遺志──というのは大げさにしても「個性」の一部は継承されたのだと思う。
 たとえば、僕──「あたし」は麗美の習っていたピアノを弾くことが最近楽しくてしょうがないし、兄さんも紅茶マニアだった「佐久耶」の趣味を受け継いで、熱心に紅茶関連の書籍を読んだり、茶葉のブレンドを工夫したりしている。
 それでも、やはり、どこか「ズルをしている」という気分が抜けないのだ。
 もっとも、「佐久耶」──兄さんに相談すると、「気にし過ぎだと思いますよ?」と一蹴されたけど。

 「いいですか、お嬢様? そもそも、そのようにくよくよ思い悩むこと自体が、元の持ち主に対する裏切りです」
 佐久耶いわく、自分達に過失や責任があるわけでなく、また時計の針を戻すこともできないのだから、今できる最善(ベスト)は、現状を受け止めたうえで「緋楼院麗美」と「望月佐久耶」の名をはずかしめないこと──なんだとか。
 「それはまぁ……分かるけどさ」
 そんな風に割り切れないのは、あたし/僕が二重の意味で子供だからなんだろうな。
 それでも、そこまで言ってくれる佐久耶/兄さんや、麗美の両親や友達、さらには「僕」と麗美(あたし)自身のためにも、少しずつ前を向いて歩いて行こうと思う。
 「その意気です、お嬢様! 不肖、この佐久耶もお嬢様のお傍でずっとお力になりますから」
 「うん、ありがとね、佐久耶」

  * * *  

 ──そんな会話をしてから5年あまりの時が過ぎ、あたしが17歳、佐久耶が22歳になった、とある六月吉日。
 「佐久耶、そのウェディングドレス、とっても似合ってるわ♪」
 「ありがとうございます、お嬢様」
 あたし付きのメイドである佐久耶は、良縁に恵まれて6歳年上の男性(じつは高校時代の担任らしい)に嫁ぐことになってたりする。
 ずっと傍にいるとはなんだったのか──いや、違うか。あの時、佐久耶は「お嬢様のお傍でずっとお力になります」って言ったんだったわ。
 結婚後も(新婚旅行とかの間はさておき)佐久耶は変わらず緋楼院家(ウチ)に務めてあたしのメイドをしてくれることにはなってるんだから、一応約束を反故にしたことにはならないのよね。
 もっとも、さすがにウチの住み込みじゃなくなって旦那さんの家に移るし、勤務時間とかも多少は短くなる予定。
 なんたって新婚さんなんだし、それくらいは譲歩してあげないとね。
 「佐久耶さん、ブーケ! ブーケトスでわたしの方に投げてくださいよ!!」
 このウルサイのは佐久耶の後輩にあたるメイドで、あたしの妹の蘭の付き人をやってる紅丸美鈴(べにまる・みすず)。
 「貴女は佐久耶よりふたつ年下なんだから、まだそんなに焦る必要もないでしょ」
 「お嬢様、そうはおっしゃいますけど、お屋敷のメイドなんてやってると外部の男の人と全然知り合う機会がないんですよぅ」
 ──まぁ、確かに普通にOLとかしてるのに比べると、男性との縁は得にくいのかもしれないわね。
 「はぁ……仕方ないわね。もし3年経ってもそういう縁がなかったら、パパに頼んでお見合いの手筈を整えてあげるわ」
 「ホントですか!? やったー!」
 喜んでる美鈴には悪いけど、あくまでお見合いのセッティングをするだけだから、それがうまくいくかは別問題。
 この子、同性の目から見ても顔はそれなりに美人だし、プロポーションは抜群だし、料理を始めとする家事関連のスキルも高いんだけど……。
 (なんていうか、肝心なところがスコーンと抜けているというか、諸々残念なのよねぇ」
 あら、どうしたの美鈴、そんな部屋のすみっこでorzな姿勢になって。
 「──お嬢様、後半部分、声に出てました」
 佐久耶がそう教えてくれる。
 あはは、あたしも他人のこと言えないわね。
 「あの子のことはさておき、お嬢様の方はどうなのですか? 今通われているのは共学でしょう」
 ええ、中学はママの母校の私立女子校に通ってみたのだけど、どうもいまひとつ肌に合わなかったから、高等部進学時に無理言って公立高校に行かせてもらったのよ。
 「その……恋人まではいかなくとも、気になる男性とかは……」
 うーん、この5年間ですっかり女の子としての暮らしには馴染んだし、恋愛的性的嗜好もノーマル(この場合、対象が男性という意味ね)なつもりだけど──学校の知り合いだと、せいぜい「いいお友達」どまりねぇ。
 やっぱり元が男だったせいか、無意識に殿方を見る目が厳しくなってるのかしら。
 「フクザツな気分です──専任侍女(つきびと)としても、元兄としても」
 あら、それはあたしも同じよ。
 元弟として元兄が結婚する(しかもお嫁さんになる!)という状況に、思うところがないワケではないけれど、でも……。
 「今度こそ幸せになってね、佐久耶(にいさん)♪」
 佐久耶をギュッと抱きしめると、あたしは彼女の耳元でそう囁いた。
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