『魔法のベース』

 だいぶ前に『案ずるより』を掲載したとき、「そのうちこちらも載せます」とか言っておいて、すっかり忘れていた作品。
 支援所投下時と、あまり大きな変更はありませんが、よろしければどうぞ。


魔法のベース

)金欠はツラいよ

 ことの発端は、休日に学校で練習しようと思ったことなんだ。
 ──ウン、それだけじゃ何のことかサッパリわかんないよね?
 えーと、それじゃあ1から説明しよう。
 僕の名前は千代田明彦。今年の春にこの吾妻学院高等部に進学したばかりの高校1年生……って言っても、ウチの学校は中高一貫教育だし、上には大学部もあって、中の上程度の成績をキープしてたらそちらに進めるから気楽なモンだ。
 高等部に上がって念願の軽音部に入り、部活に精を出してるあたりは、ま、ごく一般的な高校生と言ってもいいんじゃないかな。
 ただ、ウチの学院が普通と少し違うのは、文化祭が秋じゃなくて5月末にあることかな。なんでも、秋にやると3年生が受験とかで忙しくなるから……って理由らしい。
 ちなみに体育祭は9月の頭……というか9/1・2の二日間に渡って開催。初日が水泳大会を兼ねて3面もあるプールで行われ、2日目が普通の陸上運動会だ。
 ま、それはともかく。
 文化祭と言えば、模擬店、クラス展示、そして体育館のステージが3種の神器。ウチの部なんかにとっては晴れの舞台だ。
 当然、バンドを組んで出演するんだけど……さすがに練習始めて1ヵ月の僕は、少々心もとない。
 バンドのメンバーは、ボーカル(3年女子)、ギター(3年男子)、ベース(僕)、キーボード(2年生女子)、ドラム(2年生女子)という構成で、これがそのままウチの部の全部員だったりもする弱小部活だ。
 僕が入部したときは、「これで専任のベースが!」と感謝されたりしたくらいだ。なんでも、以前はボーカルの部長さんが兼任してたらしい。
 本人いわく、あまり器用な方ではないので、兼任すると演奏と歌、どちらも中途半端になるので、専属のべーシストは願ってもない人材なんだとか。
 とは言っても、その僕は、まだほとんど素人同然なワケで。
 いやぁ、入部1ヵ月でなんとか譜面を追えるトコまで来れたのさえ正直奇跡的だと思うんだ、実際。
 それでも、僕がまだまだ皆の足を引っ張ってるのも事実。そこで、文化祭を来週に控えた日曜日に、学校で自主練習をしようと思い立ったんだよね。
 (部活の方は、僕以外の面々に用事があるらしく、今日はお休みだった)

 ──で。
 「こうなっちゃったんだよね~」
 道端で車に轢かれそうになってた子猫を見かけてとっさに庇ったのはいいけど……幸い、僕も猫も傷ひとつなかったけど……なけなしの貯金はたいて買った僕のベースが、見事なまでにボロボロです。
 ボディが傷だらけなくらいはともかく(いや、それも本当はよくないんだけど)、ネックがポッキリ折れちゃってるからなぁ。うぅ、これ、修理費いくらくらいかかるんだろ?
 それに、修理に出してもすぐに戻ってくるかなぁ……文化祭は来週の金曜なのに……。

 ──こういう困った時の僕には、昔から心強い味方がひとりいる。
 ドラえもんと言うか、ああ女神さまと言うか……もっとも、時々トンデモない騒ぎも起こるので(確率は3割くらい?)、あまり頻繁に頼るのもどうかと思うけど、この際、背に腹は代えられない。
 僕は、ある女性のもとを訪ねたんだ。


)その発想はなかった!

 「うわぁ、このベース、“まるでボク自身の体の一部のように”自由に扱える! これなら来週の学園祭にもバッチリ間に合うヨ。ありがとう、ふた葉姉!」
 「あらあら、エエんよ、明彦くん」
 この、はんなりした関西弁の女生徒は逢坂ふた葉。僕が小学生のころからお世話になってる姉貴分みたいな幼馴染だ。
 栗色の長い髪と日本人形みたいに整った顔だち、そしておっとり天然系の性格と京言葉という、ある意味歩く萌え要素の塊りのような人(しかも実家はかなりの資産家!)だけど、ふた葉姉(ねぇ)が凡百の大和撫子と違うのは正真正銘の魔法使いだということだ。
 元々、逢坂家は陰陽道の大家で、現在でも裏では密かに退魔の仕事とかをしてるんだとか。その直系で魔力が高く、かつ頭もよくて(ちょっとドジだけど)好奇心旺盛なふた葉姉が、西洋魔術に興味を持ったのが中学生のころ。
 あれよあれよと言う間にめきめき上達し、高校3年となった現在では魔術と陰陽道や仙術の融合した新たな魔法体系を作り出すべく、日々研究を重ねている……らしい。
 いや、一般人の僕には、正直詳しいことはわかんないけどさ。
 「ん? 女の子で“彦”は変やなぁ。その姿の時は明美ちゃんって呼ぶな?」
 「あ、確かにそうだネ。うん、ボクもそれでいいヨ、ふた葉姉」
 はい、御覧のとおり、僕は今、女の子になってます。それも女装をした「男の娘」じゃなく正真正銘本物の♀、Femaleな女子高生に。
 いやぁ、「なんとかして~」と泣きついたのは僕だけど、さすがはふた葉姉、オリジナルの術で僕のナニをベースに変えるとは……「狂的魔法学者(マッドウィッチクラフター)」と呼ばれるだけのことはあるネ☆
 ご丁寧に制服その他一式までウチの学院の女子用のモノに変ってるのは、僕=明彦の存在自体を一時的に“ボク=明美”に書き換えているかららしい。つまり、ボクは“千代田明美”って女の子として生きてきたことになってるみたい。
 「ホント、いろいろ手間かけてごめんネ、ふた葉姉」
 「うふふ、かまへんえ。ウチも妹ができたみたいで嬉しいさかい。じゃあ、ハイ、これがこの魔法の術式を込めたお札や。使い方はわかる?」
 「うん、伊達にふた葉姉の幼馴染はしてないヨ」
 これまでにも何度かふた葉姉の魔法の実験とかを手伝って、このテのアイテムの使い方にもそこそこ慣れてる(あまり慣れるのもどうかと思うけど)。
 「それと……さっきも説明したけど注意せなアカンえ?」
 「ほえ?」
 「もうっ、明美ちゃん、ちゃんと聞いてなかったん?」
 ちょっと太めの眉毛をハの字型にしかめるふた葉姉を見て、あわてて僕は首を振った。
 「ああ、うん、わかってるって。このベースを壊すと、術が破綻して元に戻れなくなるんだよネ? だいじょーぶ、ボクらは普通のポップス系のバンドだから、某ヘビメタ漫画みたく楽器を叩きつけて壊したりしないヨ!」
 「それは知っとるけど、持ち運びにも気ィつけるんやで?」
 「あ、そーか」
 そもそも今回のことも、僕が学校に来る路上で起こった事故だしなぁ。
 「でも、普段はナニに戻してボクの股間に付けとくんだから問題ないって」
 この姿になるのは部活で練習する時と、本番のステージだけで十分だ。第一、ボクにだって普段の学校は、慣れない女の子生活より“明彦”として過ごす方が絶対気が楽だし。
 ちなみに戻す時は、同じ札をベースに貼って気を込めればいいらしい。
 「ほかほか。その方が賢明やろな~。学園祭の舞台、楽しみにしとるさかい、頑張ってな?」
 「うん、ま~かせて!」
 ──なんて、その時は笑い合ってたんだ。


)条件付き可逆性による危機

 「うぅ……まさかこんなことになろうとは思ってもみなかったなぁ」
 「あ、あははは……元気だしィな、明美ちゃん」
 ふた葉姉が懸命に慰めてくれるけど、今回ばかりはボクもさすがにすぐに復活できそうにない。

 学園祭まで、僕はバンドのみんなと練習に励んだ。無論、例の「ナニが変化したベース」は、そりゃあ大事に、丁寧に扱ったさ。
 手入れしようと磨き剤つけた布でフレットを磨いた時、背筋に快感が走ったのにはビックリしたけど。
 さすが、形は変わっても、コレは間違いなく僕のナニ、ってことなんだなぁ。
 「えっと……」
 自分の部屋で、誰も見てない(そもそもウチの家は、現在両親が海外赴任中)と言うのに、何となく辺りの様子をうかがってしまう僕。
 ゴクリと生唾を飲み込んで、再びベースに手を伸ばし、今度は意図的にやさしくしごくように布を上下させてみる。
 「う、わぁ……」
 ──気持ちいい。
 普段自慰するときの何倍も気持ちよく思えるのは、ナニの材質・形が変わって感覚が違うのと、感じるポイントを的確に刺激できるからだろうか。
 夢中になって「手入れ」しているうちに、なんだかナニのないボクのアソコが湿ってきているのを感じる。
 (ああ、コレが女の子の「濡れる」って感覚なのか)
 自覚した途端、下腹部が熱く疼くのがわかった。
 「ベース」を慎重にベッドに立てかけると、そのままベッドにボフッと仰向けに横たわる。
 風呂上がりで、Tシャツとトランクスという格好だったせいか、ナニを外した今のボクはピンク色の大きめのTシャツ(ナイティかも)の下にショーツを履いただけの姿に変化してる。
 だから……スルリとショーツを脱ぎ下ろすだけで、簡単にアソコに触れることができたんだ。

 ──その日の翌日、僕が寝不足で生アクビを連発したことは言うまでもない。

 とは言え、結局、妙な罪悪感があって、女の子のままでオナニーするのは、それっきりで止めておいた。あの快感にハマっちゃうと抜け出せなくなりそーだし、それだと翌日の練習にも差し支えるしね。

 そして、いよいよ迎えた文化祭本番の日。
 最初、ボクは制服のままで出るつもりだったんだけど、「せっかくの晴れ舞台なんやから」とふた葉姉がいかにも「バンドやってる女の子」らしい衣装を楽屋に持って来てくれたので、ありがたく使わせてもらうことにした。
 まぁ、さすがにちょっと恥ずかしかったけど、舞台衣装だと割り切れば、さほど気にはならないし。
 もともとウチの部は演奏の実力は高いし、ボクが足を引っ張らなくなったんだから、それが遺憾なく発揮されている。
 しかも、いまや黒一点の副部長までもビジュアル系っぽい衣装に着替えて化粧してるから、これでパッと見は完全に「美少女5人のバンド」だ(中身は偽女と臨時女が各1名混ざっているけどね)。
 これで人気が出ないわけがなく、この日のステージは大成功。実行委員会のお墨付きで、持ち時間を延長してアンコールに予定外の演奏までするほどの大好評だったんだ。
 で、ここからが問題。そのアンコール曲を演奏してるときに、ベースの弦がビンッと切れちゃったんだよね~。
 あ……今にして思えば、あの時、ベースを使ってオナニーしちゃったのも遠因なのかも。結局、キチンと手入れ出来ずに、しかも湿り気をタップリつけたままにしちゃったし。
 幸い指はケガしなかったし、曲も終盤だったから何とか誤魔化してステージを終えたんだけど……楽屋に戻って、いざベースを股間に戻そうとしても、何の変化もなし。
 ステージの成功を祝いに来てくれたふた葉姉に事情を話すと、あわててふた葉姉の自宅の研究室みたいなものに連れて来られて、いろいろ調べられたってワケ。
 結論は……「現状では元に戻ることは不可能」。
 もちろん、ふた葉姉は、何とかできないか、いろいろ考えてくれてるんだけど、流石に一朝一夕では無理みたい。
 また、弦が切れたことによる不具合なのか、ボク(明美)じゃなく僕(明彦)の方が、この世界では実在する存在と認められてるみたいで、制服とかも男のものに戻ってたし、クラスメイトや部活仲間もしっかりと千代田明彦のことを覚えている。
 だから、今のボクは公式には“この世にいないはずの人間”なんだよねぇ。困ったなぁ。
 「心配あらへん! ウチがなんとかするさかえ」


)スクールガールラプソディ

 そんなワケで、ボクは今、やむなく「逢坂ふた葉の従妹の逢坂明美」として学園に通っている。
 両親が海外出張で半年ほど家にいないのが不幸中の幸いだ……あの人達、とくに母なら「娘も欲しかった」とか嬉々として言い出しかねないし。
 学校には逢坂家のコネで何とか話をつけてもらった。詳しい事情を知ってるのは、逢坂家の人間と校長&教頭、そして軽音部のメンバーのみ。
 対外的には「転入生の逢坂明美」で通している。文化祭の舞台に上がったのも、「急きょ外国の両親の元に旅立った千代田明彦」の代役を明美が務めたことにした。
 性別から身長、顔つきに至るまで、元の明彦とは全然違うから、今のところバレてはいないみたい。

 無論、書類手続きや周囲の環境が何とかなったからと言っても、本人の感情はまた別問題だ。
 正直、女子高生ライフってのがこれほど大変だとは、思ってもみなかったヨ。
 ふた葉姉の指導やフォローもあって、致命的なボロ出してないと思うけど、そのぶんストレスも貯まるし、多少はグチも言いたくなる。

 「ふた葉ねぇ~、ギターやベースにとって弦って消耗品なんだヨ?」
 半分愚痴だとわかっていても、ついつい口にしちゃったりもするんだ。
 「言われてみたら、そやなァ……そこまで頭が回らんかったわ。堪忍な」
 この「やさしいおねーちゃん」にショボンとされるとボクも弱い。
 なんだかんだ言って、ボクが横着してベースの修理代を浮かせようとしたのがそもそもの原因だという自覚もあるしネ。

 「う……別にいいヨ、もう。帰りにケーキバイキング奢ってくれたら許してあげる」
 だからと言って無条件に許すんじゃなくて、こういう時のふた葉姉はヘンに抱え込もうとする癖があるから、適切な落とし所を見つくろうのが正解だ。
 「あぁ、駅前のザ・キャロッツでフェアやっとるんやったか。エエよ、ウチもあそこの抹茶パフェ、好きやさかい」
 案の定、こちらの出した妥協案に、ノってくれた。
 「あ、でも、今日の晩ご飯は、明美ちゃんの好きなエビドリアやて、お母さん言うてたえ?」
 今、ボクはその肩書き通り、逢坂家に居候させてもらってる。
 「慣れない女の子の状態でひとり暮らしは大変だろうし、物騒だろう」と言うことで、ふた葉姉がご両親に掛け合い、おじさん、おばさん達も快く賛成してくれたのだ。
 娘の弟分として、おふたりには昔から本当の子供みたく可愛がってもらってる(下手したら共働きのウチの両親より親しいかも)し、小さいころから頻繁にお邪魔してる家だから違和感はあまりない。
 一緒に暮らすようになった今では、ほとんど家族も同然の仲を築いている。
 「あぅ、それは悩むなぁ。最近ちょっと体重が気になるし……」
 ブラがキツくなったのは嬉しいんだけど、脂肪って胸だけじゃなくてお腹にもつくんだよネ~。
 「じゃあ、駅前のモールで服でも見る? 明美ちゃん、私服はほとんど持ってへんやろ」
 「でも、ふた葉姉のお古をいっぱいもらったヨ?」
 幸いと言うべきか、ボクの身長はふた葉姉より2センチ低く、体型も似たようなものだったから、ふた葉姉の1、2年前の服を借りられたのはラッキーだった。
 当初は抵抗感がなくもなかったけど、男のころの服は体格が違いすぎて無理だったし、いつ元に戻れるかもわからないから、あきらめて有り難く使わせてもらってる。
 「せやけど、ホラ、下着とか……」
 「ああ、そっか」
 確かに、新しいブラがそろそろ必要かもしれないナ。
 さすがに姉弟(今は姉妹)同然の仲とはいえ、下着の貸し借りをするのははばかられる。
 やむなくコンビニとかスーパーで適当に買ってきてたんだけど、花も恥じらう女子高生が、いつまでも100均下着をつけてるのは体裁が悪い──主に女子更衣室での着替えの時とかに。
 でも、専門店の下着もそれなりにしそうだなぁ。
 「なんやったら、今回のお詫びとしてウチが好きなん買うてあげるえ」
 「本当!? 行く!」
 我ながら現金だとは思うけど、女の子になった影響か、スイーツとかおしゃれの話になると、妙に興味をそそられちゃうんだ。
 まぁ、滅多にない経験だと思って割り切って楽しんでるけど。
 「……うふふ」
 「? どーしたのサ、ふた葉姉?」
 ランジェリーショップで買ってもらった新しい下着の入った袋を抱えてホクホクしてるボクの顔を見て、ふた葉姉がクスクス笑ってる。
 「うーうん、何でもあらへんよ~」
 (なんだかんだ言うて、明彦…ううん、明美ちゃん、女の子の生活に馴染んでるみたいやなぁ。
 これやったら元に戻す方法とか無理して捜さんでもエエんとちゃうやろか。ウチも、かわええ妹ができてうれしーし)
 なぜかニコニコ顔の「おねーちゃん」に首を傾げながらも、ボクらは仲良く手をつないで逢坂家へと帰るのだった。
 メデタシメデタシ?

-ひとまずfin-
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