『ファーストボーン -鎮守府戦線、風強く並高し外伝-』

 PIXIVの方に『鎮守府戦線』のHな外伝を掲載したのですが、あちらは前日談とでも言うべき内容だったので、こちら(プログ)では後日談的な外伝を掲載してみます。前にちょっと言及した「真っ黒な話」の一端ですので注意。
 ちなみに、KCAの作品的には、艦娘と深海棲艦は基本的には同根のもので、型月風に言うガイアの走狗となったのが後者、アラヤの守護者となったのが前者……というイメージを抱いております。


ファーストボーン -鎮守府戦線、風強く並高し外伝-

 佐世保鎮守府。
 人類と深海棲艦の戦いのための基地のひとつであるこの軍事施設の一角に設けられた執務室で、セーラー服を着たひとりの少女が、デスクの向こうに腰かけた青年に向かって、敬礼の姿勢をとった。
 「本日ヒトニマルマル付けで着任しました駆逐艦、島風です。スピードなら誰にも負けません。どうぞよろしくお願い致します!」
 「うむ、歓迎するよ、ファーストボーン艦・島風。今後とも、よろしく頼む」
 恒例の着任報告を行う艦娘──島風に対して、青年──山本提督は真面目くさった顔で頷き……そして、プフッと噴き出した。
 「あぁっ、提督ひっどーーい! せっかく最初くらいはビシッとキメようと思ったのにぃ」
 先程までの凛々しい態度が嘘のように、島風はぷくっと頬を膨らませる。
 「いや、すまない。とは言え、「最初」って言うのは無理があるだろう?」
 そう、この島風は、もともとこの佐世保鎮守府で試験運用されていた(ということになっている)艦娘であり、すでに何度も山本の指揮下で出撃していたのだから、彼の言うことももっともだった。
 「提督、わかってないなぁ。私が島風として正式に着任することになったんだから、少しはデリカシー見せてよ」
 試験配備期間(まえ)の時は、最初がグダグダだったんだから……と、文句を言う島風。
 「ん? そう言えば確か、トイレで……」
 「そんなことは思い出さなくていいの、バカァ!!」
 真っ赤になってポカポカと提督に殴りかかってくる島風に、提督は笑いながら謝罪する。
 「ああ、ごめんごめん。わかった。もう言わないから」

 双方とも落ち着きを取り戻したところで、提督は執務室内に備え付けられた応接セットに島風を座らせ、自分も対面のソファに腰を下ろす。
 「提督、お茶が入りました」
 タイミングを図っていたのだろう。秘書艦の翔鶴が、トレーに紅茶のカップとクッキーを載せて運んできた。
 「ああ、ありがとう、翔鶴。せっかくだから、君も同席してくれるかな」
 「はい、提督が望まれるならば……」
 1も2もなく頷き、提督のすぐ隣り……からおよそ人ひとりぶんの間隔を空けて、銀色の髪をなびかせながら淑やかに腰掛ける翔鶴の挙措に、島風見惚れる。
 (ふわ~、あれが正妻空母の魅力ってヤツかぁ)
 少し前の「彼女」なら、また違う目で見たかもしれないが、今は自らの目標として素直に感嘆と憧れの視線を向けることができた。
 「──それで、いつもなら、新任の艦娘には、最初のこういう歓談の場を設けて、それとなく佐世保(ここ)での諸設備やら先任艦娘の紹介やらを行うんだが……」
 「必要ありませんよね、それ」
 島風の言う通り、彼女はすでにこの鎮守府のことは十分知りつくしている。無論、幹部将校クラスでないと知らない秘密などはわからないが、秘書艦や事務艦など特別な役職に就かない限り一介の艦娘にそういう知識は不要だ。
 「ああ。だから、逆にこの1ヵ月間、艦娘として暮らしてきたなかで感じた、問題点や疑問点について聞かせてほしいんだ」
 提督にそう問われたものの、島風としては、これまでに不自由を感じた記憶はない。強いて言うなら外出制限があることだが、これはどこの鎮守府や泊地にも共通の決まりごとなので、この場で持ち出すべき事項でもないだろう。
 「うーん、酒保の品揃えでちょっと欲しいものがあるくらいかなぁ……あ、そうだ! 提督、ひとつ聞きたいことがあるんですけど」
 「ん? 何だ? 軍機に触れるようなことでなければ答えるのにやぶさかではないが」
 「えっと……“ファーストボーン”って何ですか?」
 先ほど自分に対して付けられた呼称について、島風は訊いてみた。
 「ああ、そうか。艦娘自身はあまり意識しないのかもしれないな。海軍関係者内でも、それほど頻繁に使う言葉でもないし」
 「それを知っている艦娘のあいだでは、差別意識が出ないようあえて口にしない風潮もありますからね」
 翔鶴が提督の言葉を補足する。
 「え!? もしかして、あまりよくない意味なの?」
 「いやいや、そんなことはないぞ。そうだな、ひと口に“ファーストボーン”と言っても、実は2通りの意味がある。
 島風、この深海動乱の初期、劣勢を強いられていた人類側のもとに初めて艦娘が現われたときの概要は知ってるか?」
 逆に聞き返されて、島風は、まだ艦娘ではなかった頃に受けた講義で教わった内容を思い出す。
 「えーっと、たしか……「1999年の夏、横須賀に旧日本海軍の軍艦の名前を名乗る6人の女性が現れた」んでしたっけ?」
 「そうだ。駆逐艦・雪風、軽巡洋艦・北上、重巡洋艦・妙高、潜水艦・伊401、戦艦・長門、空母・鳳翔──その6隻の魂を受け継ぐ最初の艦娘。彼女達は、“第一次深海大戦”が始まる3日前に横須賀の海岸から現れ、人類に深海棲艦の出現に関する警告を発している。
 ──もっとも、当時の政府中核にまでその話が伝わったのは大戦開始の20時間前だったから、あまり大した備えはできなかったらしいがな」
 「それでも、陸海空の自衛隊の出動準備が整っていたおかげで、開戦時の日本の被害は随分減らせたと言われているのよ」
 日本政府の愚かさを自嘲するような提督の言葉を、翔鶴がフォローする。
 「じゃあ、その6人の艦娘が“ファーストボーン”なんですか?」
 「狭い意味ではそうだ。もっとも、彼女たちの場合は“オリジナルシックス”、あるいは“ナチュラルボーン”と呼ばれることのほうが多いな。
 で、狭義があれば当然、広義のファーストボーンもいるわけで、その場合は「同一艦種で最初に有意識艦になったことが確認された者」を意味する。島風タイプの艦娘は今のところお前だけだから、当然“ファーストボーン”でもあるわけだ」
 提督の説明を聞いて納得顔になる島風。
 「ふーん、そうなんだ。一番なのはうれしいけど、早く同型艦が生まれて欲しい気もするし……ちょっとフクザツ」
 「こればかりは運の要素も絡むからな。そうそう、ファーストボーンは、同種の艦娘のなかでも、比較的早く戦闘技術に関して熟練する傾向にあるらしいから、期待してるぞ」
 「う……ぷれっしゃあが。でも、がんばる」

 その後、いくつかのとりとめもない会話を交わした後、島風は執務室を出ていった。
 にこやかな顔で、新米艦娘を見守っていた提督だが、彼女が退席した途端、表情が一変し、その目に苦悩と悲嘆の入り混じったような複雑な色合いが浮かんでいた。
 「ファーストボーン、か」
 島風にはあえて言わなかったが、以後の島風型駆逐艦娘は、彼女の構成霊素をサンプルとして「作られる」ことになる。
 科学的な意味でのクローンとは厳密には異なるが、ある種のデッドコピーであることには違いはなく、だからこそオリジナルであるファーストボーンと比して、それ以後に生まれた艦娘は性能が僅かに劣化するのだ。
 さらに……。
 「なぁ、翔鶴。いかに深海棲艦の侵攻が脅威だからといって、ここまでして俺達は戦わないといけないのか?」
 「提督……」
 背中を向け、絞り出すような声で疑問を投げかける山本大佐を、その秘書艦は痛ましげな視線で見つめる。
 「──いや、すまない。愚にもつかない世迷い言を言った。忘れてくれ」
 「はい。ですが、ひとつだけ。たとえ、どのような経緯でこの世に生まれたのだとしても、私は提督と会えて、共に戦えることを喜びに思います」
 「…………そうか。ありがとう」

  * * * 

 優秀な提督であり模範的軍人の鑑とも言える山本隼司大佐が、何故あのような愚痴とも嫌悪ともつかない言葉を漏らしたのか。
 それは、有意識艦──艦娘の誕生過程にある。

 読者諸氏は、あの島風が艦娘と「成った」経緯を覚えているだろうか。
 艦娘との同調適性の高い少年に、とある「処置」を施すことで徐々に艦娘へと変えていく──それは、少なくとも日本では初めての試みではあった。
 「処置」の内容を簡単に説明するなら、ある霊的なナノマシン(厳密には異なるが)を被験者に注入し、その身体に馴染ませた……と言えるだろうか。
 もっとも、普通はそんなことをしても本人の霊体との拒絶反応が出て、しばらく体調を崩すだけに終わる。生きた人間の霊体というのは、それなりに強固なのだ。
 かといって、その抵抗を押し崩すほどの量を注入すれば、本人の心身が持たず、死亡ないし廃人化するだろう。
 これを解決するには、艦娘との同調適性の高い素体(もの)を選ぶ必要があるのだが、そういう人材は希少で、かつ発見された場合も大抵は提督として徴用されていることが多いのが悩ましいところだ。

 しかし──ここまでの話で皆さんは疑問を抱かなかったろうか?
 「では、これまではどうやって艦娘を確保していたのか?」と。
 有意識艦は、軍艦の形状をした船体(からだ)と、若い女性の姿をした船魂(こころ)の2つがセットになってひとつの艦娘を構成している。
 このうち、船体の方は実際には各鎮守府や泊地の工廠で普通の船と同様に作られるのだが、それを動かす船魂のほうは霊的存在なので、いわゆる“召喚”することで現世に呼び出すことになる。
 しかし、そのままでは実体をもって現世に留まることができないため、それを定着させるための“器”が必要となるのだ。
 ──ここまで言えばおわかりだろう。
 船魂の“器”には、人の死体が利用されているのだ。
 それも、水難事故で亡くなった若い女性のものが、艦娘との同調率が高いとされていた。
 ただ、いったん同調さえしてしまえば、人間であった頃の個人的な特徴はかき消され、容姿その他はその艦娘固有の特徴が表に出るようになる。
 また、死体に雑霊が入りこんで動かしているゾンビと異なり、蘇生あるいは新生とでも言うべき過程を経ているため、いわゆる不死者(アンデッド)ではなく、艦娘はきちんと生きた存在でもある。
 その証拠に、人間の男性との間に子を為した例も数件確認されているのだ。

 しかしながら、戦線の拡大につれ、現在、船魂の“器”の不足が危惧される事態となったため、新たな“器”の確保方法として、島風のように生身の人間を利用する方策が考案されたというわけだ。
 
 死者の尊厳を冒し、あるいは生者の人生を奪うことで、初めて世にでることができる艦娘。
 そして、その艦娘の奮戦に支えられて、からくも生存圏を維持しているいまの人類。
 生きることは汚れることとは言うものの、これほどの非常(非情?)手段に頼らなければならないとは、世も末だ──などという思いを、山本のような倫理観あふれる青年は抱かずにはいられないのだった。
 
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