『召喚契約にご用心』3

 全3回とかほざいてましたが、次の4章に大量の書き足しをする予定なので、たぶん全5回になる見込み。
 ちなみに「彼女」の外見は、「プリンセス・ヴァルキリーに大剣と盾ではなく長槍を持たせた」イメージです。

召喚契約にご用心~名札はキチンと付けましょう3~



 結局のところ、それは単純なケアレスミスが原因だった。
 エイルが事前に作成していた「バルキリーとの間にパートナー契約を結ぶための巻物(スクロール)」、それ自体に不備はない。同時に購入しておいたふたつのネームタグも同様だ。
 ただ、その“使い方”を間違えていた。正確には、ふたりが名前を記入するべき“場所”が逆だったのだ──それも、ネームタグとスクロールの両方で。
 そもそもネームタグは一見よく似てはいるが、どちらが召喚主用でどちらが被召喚者用かキチンと決まっている。スクロールへの署名も(これはエイルも気付いてはいたが)、上から召喚主→被召喚者の順に記入するべきものだ。
 この種の取り違えが発生した場合、普通、儀式魔法は失敗するものなのだが、両方のアイテムで間違っており、かつ、なまじそのつじつまが合っていたため、イレギュラーな形ではあるが、パートナー契約の魔法が強制発動することになった、というわけだ。

 「で、その結果が、コレかい?」
 赤茶色の髪を短かめに刈り込み、麻の開襟シャツと黒いズボンを着て、その上に見習魔術師用のマントを羽織った「青年」が、呆れたような口調で机をはさんだ向かいの椅子に座っている人物に問い掛ける。
 「はい、私の推測になりますが、たぶん……」
 自信のなさそうな口調で答えるのは──驚いたことに、如何にも「戦乙女」という格好をした「少女」だった。
 腰までありそうな青味がかった銀色の髪を後ろでざっくりした三つ編みにして、先端近くには赤いリボンが結ばれている。前髪の方は額当(ディアデム)にも小冠(ティアラ)にも見える銀製の防具で押さえていた。
 華奢な体にはノースリーブの白いボディスーツをまとい、肩から背面にかけては純白の羽飾りのついたショルダーガードで守っている。剥き出しの腕は肘までのグローブと銀色の篭手で保護されていた。
 フロントにスリットの入ったロングスカートを履き、さらに腰の左右と前にそれぞれ白銀の装甲を装着している。足元は他の鎧と同じ白銀色の脚甲(グリーブ)だ。
 まさに、エイルが召喚したいと思い描いていた(一般的に連想される)“バルキリー”そのものと言える。
 ──問題は、一見したところ戦乙女にしか見えないその人物が、他ならぬエイル自身だということだろう。
 「つまり、今のオレは「魔法学校に在籍している見習魔術師」という立場になってるわけか。それにしては、さっきまでのアンタの格好と微妙に違うみたいだけど?」
 当然、それに相対している「青年」がガンドーラだ。
 「おそらくですが、それがガンドーラさんがイメージする「魔術師の少年」の姿なんだと思います」
 「へぇ、じゃあ、逆に言うと、今のアンタの格好がアンタの理想とする「戦乙女」の姿なんだねー」
 からかうように言われて、頬を染めるエイル。
 「そ、それは……えっと…………はい」
 まぁ、こんな絵に描いたようなバルキリーの姿を想像してたのなら、確かに自分が召喚されたら落胆もするか、とガンドーラは妙な方向で納得する。
 加えて、本人達が気が付いているのかいないのかは謎だが、ふたりとも外見だけでなく口調まで微妙に変わっているのだが、現在のルックスにはピッタリはまっていた。

 「にしても、服装や髪形はともかく、根本的な性別や体そのものは変わってないんだな」
 シャツの襟元から自分の胸を覗き込むガンドーラ。ダボっとしたシャツなのであまり目立たないが、膨らみ自体はちゃんと残っているらしい。
 ふと思い立って、椅子から立ち上がると、エイルにも立つよう促す。
 「? なんでしょう?」
 きょとんとした表情で立ち上がったエイルのすぐ横に並んでみる。
 「うん、身長差も変わってない──いや、ちょっとだけアンタ、高くなってる?」
 「えっと、それは、このブーツのヒールのせいではないでしょうか」
 金属製のグリーブと一体構造になったブーツのかかとは、拳ひとつ分に近い高さがある。
 「ああ、そうか。にしても、そんなかかとの高い靴履いて、アンタ大丈夫なのかい?」
 参考までに言うと、元のガンドーラが履いていたのは革製ブーツではあるが、かかと部分がほとんどペタンコの、俗に「バスキン」と呼ばれる代物だ。彼女いわく「戦場にヒールのある靴なんて不要だろ」とのこと。
 「言われてみれば……」
 不安げな表情になったエイルは、慌ててその場で足踏みしたり、軽く2、3度その場でジャンプしてみたりする。
 「えっと、特に問題ないみたいです。これも最適化のおかげ、なんでしょう、たぶん」
 「ふーん、便利なモンだねぇ。あ、そうだ!」
 何かを思いついたらしいガンドーラは、エイルの前に立つと、いきなり両掌をエイルの胸元に伸ばして、ボディスーツに包まれた胸板をペタペタ触り始める。
 「……キャッ! な、何するんですか!?」
 一瞬自分がされている行為が理解できず、呆気にとられていたエイルだが、一拍遅れて顔を真っ赤にすると、胸を押さえて飛び下がった。
 「うん、やっぱ貧乳──ってか、全然オッパイはないな」
 悪びれずにうそぶくガンドーラの言葉に、何となくカチンとくるものを感じたものの、すぐにそれを振り払うかのように抗議するエイル。
 「あ、当り前です! 私は男なんですから!!」
 「いや、でも、今のアンタの姿見たら、100人中99人が「可愛らしい女の子」だって判断すると思うぞ? だから、一応確認しとこうかな、って」
 「か、可愛いって……そ、そんなことより、これからどうするかです!」
 一瞬なぜか込みあげた喜びの感情を顔に出ないよう噛み殺しつつ、エイルは強引に話題を転換する。
 「さっきの話だと、この契約って、どちらかが死なないと解けないんだよな?」
 「普通の手段ならそうですね。でも、ここはこの国一番の魔法研究機関ですから……」
 エイルの言いたいことをガンドールも察する。
 「ああ、なるほど。ここの先生なら「普通じゃない」規格外な契約解除方法を知ってるかもしれないのか。じゃあ、早速聞きに行こうぜ」
 ホッとした顔でそう提案するガンドールだが、エイルは「待ってください」と引き止めた。
 「確かに先生方なら、契約を破棄する方法を知っておられるとは思うのですが、その…それを聞きに行くのは、もう少しだけ待ってもらえませんか?」
 エイルいわく、無事パートナー契約を結ぶことが進級の条件ではあるが、結んだだけではあくまで「仮進級」で、そのあと召喚主と相棒がペアになって、ある試練を受けなければならないのだと言う。
 「その試練とやらが、明日ぁ!? 随分せっかちな話だなぁ」
 ちなみに、現在はそろそろ陽が西に傾きかけた夕刻に近い時間帯である。
 「その、本来、召喚の儀式は10日前から始められますので、普通はもっと早くパートナーを得て、数日かけて親交を深めているはずなのですが……」
 「アンタは期限ぎりぎりまで粘ってたから時間がなくなった、と。確かに、それで今からこの契約の解除だなんだやってたら、明日の試練には間に合わないわな」
 「すみません、私が不手際なばかりに……」
 「あ~、いいよいいよ。オレもバルキリー仲間のあいだでは落ちこぼれっつーか、ハズレ者だったし。こうして地上に召喚してもらえただけでも、有難いし」
 天界って平和な分、刺激がなくってねぇ、愚痴るガンドーラ。
 「それに人間の、しかも男の立場で生活できるなんて、滅多にない経験だしな」
 「じゃあ、しばらくはこのままでよろしく頼むぜ!」と気さくに笑う「見習魔術師」の表情に、思わず見惚れる「戦乙女」。
 (ふわぁ~、ガンドーラさん、カッコいい)
 赤毛の「青年」を見上げる瞳が熱っぽく潤んでいる。
 傍から見れば、それはまさに「恋する乙女の視線」そのものだが、幸か不幸か当事者達ふたりは、そのことに気付いていないのだった。

-つづく-
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