『MAICO』

ちょっと御無沙汰してました。こことは違う場所に投下予定の一般向けオリジナルラノベの製作で手間取っていました。
本日は、昔支援所に書いた小ネタの微修正版です。私にしては、わりと黒い筋立てかも。


MAICO

 修学旅行と言えば京都──というのは安直だろうが、千年の歴史を持つ都は現在でもそれなりに観光スポットとしての人気を保持しており、中高の修学旅行生たちも多数訪れる。
 関東の地方都市にある秋都学院も、修学旅行先に京都を選んだ学校のひとつで、今日はその旅行の二日目にあたるわけだが……。
 男女とも紺のブレザー姿(無論、その下に男子はスラックス、女子はミニプリーツスカートを履く)のその集団に、華やかな赤や黄色、薄緑色の着物姿の若い女性、いや少女が混じっているのは、いささか違和感のある光景だった。

 「な、なぁ、氷川、葦原?」
 「ん? なんだ?」
 「この罰ゲーム、本気なのか? 「借金返すまで、修学旅行中、ずっと舞妓さんの格好のまま」って」
 着物姿の少女のひとりが、顔を真っ赤にしながら、ためらいがちに訊いてきた。

 「うん、もちろんだよ。昨日の花札での借り分は、キッチリ返してもらうから」
 「安心しな、因果律をちょこっと弄ってあるから、俺達5班の班員のうち、3人が舞妓さんになってても、周囲の誰も気にしねーよ、清丸に敏奴、双菊」
 問われた方の男子生徒ふたりは、ニカッと無駄に爽やかに笑いつつ、右手をグッとサムズアップする。
 どうやら、これは罰ゲームで、3人の「舞妓」の性別は♂らしい。確かに同年代の女の子に比べてやや背が高く、声も可愛らしいソプラノボイスとは言えないが、体の線が出にくい衣装に加えて、顔などを白粉でベッタリ塗られて化粧されているせいか、男性的な印象はほぼ皆無だ。

 「そ、そんな源氏名で呼ぶなぁ!」
 「ちくしょう! 舞妓さんって、傍から見てる分にはいいけど、ボックリが歩きづらいし、着物も重いし……」
 泣きごとを言う3人の「舞妓」だが、対するふたりの少年──氷川と葦原の対応はシビアだった。
 「それが嫌なら、今晩の麻雀大会で勝って借金返すんだね」
 「もっとも、次も負け越すようなら、今度はお前さん達の「男としての存在」をカタにさせてもらうが」
 「え!? それってまさか……」
 「ああ、今度は服装だけじゃなく、体の方も変わるぜ。舞妓さんにふさわしく、15、6歳の美少女にな」
 「無論、勝つ自信がないなら、その状態で保留しておくというのも手だけど……どうする?」

 ……と、此処までくればおわかりだろう。
 悩みつつも、3人が麻雀でふたりに挑んだ末、その晩もボロ負けした挙げ句、さらに翌日のポーカー大会でも勝てずに「貞操」までもカタに取られることになるのは、もはや様式美とさえいえるくらいお約束通りだった。

 * * * 

 「やぁ、おはよう、沢木さん」
 通学途中、見覚えのある後ろ姿を見かけた僕は、背後から近寄って声をかけた。
 「あ、おはよ、氷川くん……」
 僕らの通う秋都学院の女子制服を着たこの少女の「今の」名前は沢木敏美。1年生のころからのクラスメイトで、かなり親しい友人──そして、先週の修学旅行で、僕の「恋人」となった女の子だ。
 背中の半ばくらいまでの長さの黒髪を無造作に左に流し、化粧気もほとんどないので、あまりクラスでは目立たないけど、然るべきオシャレをすると、実はすごく映える美少女だってことを僕はよく知ってる。
 プロポーションだって、巨乳とかグラマーとか言うほどじゃないけど、十分均整のとれた女らしいものだったしなぁ。
 つい先日、旅先で「そういう関係」になった時のコトを思い出して、知らず知らず頬が綻んでいたのかもしれない。
 「イテッ!」
 腕を組んで歩いていた沢木さんにギュッとつねられてしまった。
 「鼻の下伸びてた。何かエッチなこと考えてたでしょう?」
 「そんなことは……ないこともないけど」
 やっぱし、とふくれっ面になる沢木さんの耳元でこっそり囁く。
 「……この間、沢木さんと結ばれた時のこと、思い出してたんだ」
 「!」
 たちまち、彼女の頬が紅潮する。
 「もぅ、知らない! 氷川くんのバカぁ!!」
 顔を真っ赤にしながらも、僕の手を離そうとはしないのが可愛い。
 ──まったく、あの「敏明」が、まさか「純情・委員長気質・焼きもち焼き」といった萌え属性を兼ね備えた少女になるとはねぇ。

 あの修学旅行での一連の賭け勝負で、僕たちと同じ5班に所属していた沢木敏明、風谷双葉、美杉清彦の3人は、いっそ清々しいほどの負けっぷりを示してくれた。
 ──言っておくけど、僕も葦原もイカサマは一切してないからね? 単純に、敏明たちが賭け事に向いてなさすぎるんだ。
 頭はいいのに運と勘が最悪の敏明。
 欲深くて熱くなると周囲が見えなくなる清彦。
 意思が弱くて決断に自信が持てない双葉。
 まぁそんな3人プラス人数合わせの1名を賭け花札に誘った僕らもカモる気満々だったけどさ。
 別に、最近ゲーセンの格ゲーで負けが続いていたから、たまにはコイツらを凹ませてやろう、なんて考えてたワケではないぞ──シンジロ。

 それはともかく、3巡目でオケラになった時、敗北宣言とともにイチヌケした津上みたいに、負けを認めてさっさと辞めればいいのに、(主にムキになった清彦に引きずられて)3人は勝負を続行したんだ。
 結果、ひとり平均50万円という、高校生とは思えない借金を背負うハメになっちゃったんだな、これが。
 で、この借金を踏み倒されないよう、氷川神社の次期後継者である僕と、高名な錬金術師の弟子である葦原が協力して、3人に呪いをかけたってワケ。

 最初は、「罰ゲームとして、修学旅行中、ずっと舞妓さんの姿になる。無事に旅行が終われば、元に戻り、30万円分までの借金も棒引き」。
 次は、「罰ゲームとして、本物の女の子になる。旅行後、借金を返却すれば、元に戻れる」
 そして最後は、「罰ゲームとして、債権者のいずれかに貞操を差し出す。事が終われば、借金50万円分までは帳消し」。

 ちなみに、一番負けが込んだ清彦にいたっては、3つ目の呪いをかけられる直前には、100万円近い借金を背負っていたことを付け加えておこう。
 逆に、運は悪いが頭は悪くない敏明の場合、その時点での負債額は30数万円。その気になれば、最初のふたつの呪いだけでも何とかなりそうだったんだけど……。

 いやぁ、この3日間、女の子姿の彼女達と一緒に行動してるうちに、僕と敏明の関係がなんだか微妙に変化しちゃってねぇ。
 3番目の呪いの罰ゲームを口実に(なにせ、敏美は純情で真面目な娘だし)、僕と結ばれ、貸借関係もなくなり、晴れて対等な恋人同士になったってワケ。

 校門近くで、またも顔見知りを見かけたんで、声をかける。
 「おーーい、葦原ぁ、風谷さぁん!」
 「む、氷川か。おはやぅ」
 「おはようございます、氷川様、沢木さん」
 秋高の制服をラフに着崩した葦原と、その後ろに半歩下がって従者の如くつき従っている小柄な女子の風谷双葉さんは、立ち止まって僕らに挨拶してきた。
 いや、まぁ、「従者の如く」じゃなくて、今の「彼女」はまさに従者そのものなんだけど。

 聞くところによると、「双葉」の方は、僕&「敏美」と同じような経緯で葦原に抱かれたのち、彼の「錬金術師工房のお手伝いさん」になったらしいんだ。
 「彼女」の場合、まだ借金が10数万円残ってるんだけど、ふたりの様子を見てる限り、借金返却し終わっても今のままの関係を続けるんじゃないかなぁ。
 だって葦原の奴、修学旅行から帰ってきたその日のうちに、僕に現金渡して風谷さんの分の債権を僕から買い取ったくらいだし。
 葦原って、悪ぶってるけど、いったん身内と認めた者に対してはツンデレ気味に優しいんだよね。風谷さんの方も、男の頃からそんな彼に憧憬を抱いてたみたいだし。こちらはこちらでうまくいくんじゃないかな。

 ただ、悲惨なのは、清彦改め「清美」となった少女だ。まぁ、借金踏み倒そうと悪あがきした結果の自業自得なんだけど。
 そもそも、一番借金の額が多かったんだけど、すでにパートナーを得ていた僕と葦原は何となく清美を抱く気にはなれなかったので、ゲームから降りて静観していた津上に、彼女の身柄を委ねた。

 あ、そうそう。一応、3つ目の罰ゲームについては、本人の意思を確認したんだよ? 借金は残るけど、どうしても嫌と言うなら、無理にかけるつもりはなかったしね。
 でも、清美の奴、いったんは了承しておきながら、土壇場になって口八丁で津上から逃げようとしたんだ。もっともそんな事態はお見通しの僕らが、着物に拘束術式を書き込んでおいたから、アッサリ失敗したけどね。
 口汚く罵る清美の姿に、さすがにスケベさに定評がある津上も白けてヤる気を削がれたみたい。その場はお開きとなった。

 もちろん、僕らとしては、そのまま済ませるつもりはない。結果、清美は未だ僕らに借金している形になった。
 さらに、懲罰の意味も込めて、罰ゲームの1、2番目の解除もなし。つまり、女の子の体なのはもちろん、通学時の制服以外(さすがに学校だけは条件から外した)、私服はすべて舞妓さんの衣装。他の服装はできない。あとは……強いて言えば、肌襦袢姿か全裸?
 そんな格好のままアルバイトとかでお金を稼げると思う? ま、普通は無理だよね。唯一望みがあるとすれば、自分自身の「女」を売り物にするくらいかな。

 おっと、無理やり売春させたりはしてないよ。失敬な。
 「舞妓」ってのは主に関西方面での呼び方だけど、関東(こっち)にだって、「半玉」とか「おしゃく」なんて言い方で、実質同じ職業はあるんだ。
 神社関連のツテで、僕はそういった置屋のひとつを紹介してあげただけさ。もっとも、その置屋のおかみさんは、しつけが厳しいことで、その筋では有名なんだけど。
 ま、僕らへの借金を返し、年期があけるころには、清丸ちゃんも多少なりともお淑やかになってるでしょ。あ、でも、その頃だともう「舞妓」じゃなくて「芸者」って言った方が正確かもね。アハハ~。

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