『鎮守府戦線、風強く波高し』第五話

 お待たせ……って待っていた人がいるかどうか微妙ですが、『鎮守府戦線、風強く波高し』の続き。ちょっと巻きが入ったので、たぶん次回が最終話、その次が後日談を兼ねたエピローグという展開になるはずです。


鎮守府戦線、風強く波高し』第五話

--

 「アハハハ……すごいすごーい!」
 大海原──と言っても、佐世保鎮守府のすぐ外側だが──を、全力で「航行」しながら、「彼女」は自然と歓声をあげていた。
 「速いはやーい! でも、もっとイケるかも……」
 自分でもハイになっているという自覚は一応あるのだが、なぜだかソレを自制しようという気が起こらないのだ。
 「そーれー! 私には、誰も、追いつけないよー!」

 そんな、まるでアルコールでも入ったかのような浮かれっぷりを示す「島風」の様子を、随伴兼監督艦として同行している長良は、苦笑しつつも優しい目で見守っていた。
 同じ山本提督配下とは言え、所属艦隊が違うので、これまでさほど接点があったわけではないが、試作艦として仮配属中のこの子は、普段は同じ年頃の駆逐艦娘の中では比較的落ち着いた印象があったため、今日の様子は少し意外ではあった。
 もっとも、ようやく自分の「船体(からだ)」が完成して、初めての自分の意識(て)で動かしている最中だというのだから、多少は大目にみてやるべきだろう。
 そのあたりの感覚は、船魂(こころ)と船体(からだ)がセットになって生まれてきた、ごく普通の艦娘である長良には、想像するしかない領域の話ではあったが。
 ともあれ、体育会系女子な艦娘の長良個人としても、どこぞの引きこもり駆逐艦のような子よりは、こういう元気に跳ね回ってくれるタイプの方が好ましい。
 「「島風」ちゃーん、せっかくだから、ちょっと航行演習(おいかけっこ)してみよっか?」
 「駆けっこしたいんですか? 負けませんよー!」

  *  *  *  

 愛宕さんから知らせを受けて、急いで山本提督のもとに出頭した私は、そのまま工廠へと案内されて、ついに私の「船体(からだ)」と対面することになりました。
 注水されたドックには、大日本帝国海軍伝統のコバルトグレーに塗られた細身の軍艦が浮かんでいます。
 全長120メートルあまりと、時雨や夕立のような白露型駆逐艦よりはひと回り大きいですが、それでも巡洋艦や空母、戦艦などが持つ迫力とは比べ物になりません。
 けれど……。
 (なんでだろ……この“子”のそばにいるだけで安心できるみたい)
 “それ”を見た瞬間、私は深い安堵感を感じたのです。
 あるいは、それこそが“実験”の影響で、本来人(しかも男)であるはずの私が艦娘と限りなく近い存在となっている証左なのかもしれません。

 “船体(からだ)”との対面後、私はいつぞやの地下研究室へと連れて来られ、山本提督の見守る中、手術台上にうつぶせに手足を固定されました。額や二の腕、太腿、などに何かの機械から伸びたセンサーのようなものがペタペタと貼り付けられます。
 「なんだか、悪の組織の人体改造シーンみたいですね」
 冗談混じりにそう言うと、提督は苦笑しました。
 「はは、完全に否定できないのが辛いところだ。改造というほどじゃないけど、これから、とある“部品(パーツ)”を君に移植することで、船体との霊的回路を開きくんだからね」
 「成功すれば、貴方も他の艦娘同様、自在に船体(からだ)を動かせるようになるはずです。ただし、ちょっとくすぐったいと思うので、念のため暴れないよう固定させていただきました」
 改造(?)を担当する技術将校らしき女性が、説明を補足してくれましたが……。
 「何、痛みは一瞬です。ご安心なさい」
 ちょ、それ全然安心できないんですけど!? せめて麻酔とか……。
 「えいっ」
 抗議する間もなく、首の後ろ──ちょうど髪の生え際あたりに、100円玉くらいの、何かヒンヤリしたものが押しつけられ、チクリと肌に針のようなものが突き刺さるのがわかりました。
 「あ痛ッ!」
 確かに“痛み”を感じたのは、ほんの一瞬でした。気が狂うような激痛というワケでもなく、せいぜい予防注射程度の十分我慢できる苦痛です。
 ですが、その感覚に続いて、延髄を起点になんとも言い難い痒みのようなものが、全身、そして脳に広がっていきます。
 冷たい熱。
 不快感を伴う快美感。
 強いて言うならそんな矛盾した表現が当てはまるのかもしれません。
 「くふぅぅ……」
 本当なら、体の内側を侵すその“感覚”に、体を丸めてのたうち回りたいところなのですが、手足を手術台に固定されているため、それもかないません。
 「愚問かもしれないが、大丈夫か?」
 心配げな提督の言葉に答えようとした私は、さっきまでの“違和感”を感じなくなっていることに気付きました。
 「だい、じょうぶです」
 少し乱れた呼吸を整えつつそう告げると、提督は、計測器の操作をしている技術将校さんの方に目を向けました。
 「──計測値、いずれも予測の範囲内です。拘束解除しても問題ありません」
 その答えを聞くと、提督は自ら私の手足を戒めているベルトを外してくださいました。
 肌が剥き出しの手首や、ニーソックス越しとは言え足首に、若い男性──それも直属の上司である山本提督の手が触れるのは少し面映ゆい気もしますが、変に意識するのは提督に失礼でしょう……あ!
 「ひゃんっ!? て、提督……お尻さわっちゃヤですぅ」
 無意識に甘えるような口調で懇願してしまいました。
 「す、すまない。スカートがまくれ上がっていたので、直しただけなんだが……」
 真面目な山本提督のことですから他意はなかったのでしょうが、先程から肌が敏感になっている気がするところに不意打ちをもらったため、掠めるように触れられた部位が熱く火照っているのがわかります。
 ようやく自由になった体を手術台の上に身を起こし、ばつが悪そうに視線を逸らす提督を、上目遣いに見つめます。
 そのままなら、上司と部下にあるまじき「微妙な雰囲気」になりかねないところでしたが……。
 「はいはい、いちゃつくのは後にしてくださいね。まだ実験中なんですから」
 ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべた技術士官さんの存在に、救われました。
 ──いえ、お邪魔虫だなんて、思ってませんからね!

  *  *  *  

 その後、いくつかの簡単な検査で「特に問題なし」とのお墨付きをもらった「島風」は、新たな船体(からだ)の運用試験に励むこととなった。
 初日の航行演習で、半数近くの駆逐艦娘より足の速い長良を、余裕をもって引き離すほどのスピードを見せたのは伊達ではなく、運動性能は極めて良好。
 その後も鎮守府海域の警備任務や海上護衛任務、あるいは他の提督との演習などに、仮配属された第四艦隊の僚艦とともに挑み、攻撃、回避ともにベテラン艦に劣らぬ能力を示す結果となった。

 また、それに伴い、第四艦隊を始めとする仲間の艦娘たちとの距離も急速に縮まっていく。
 少し前までは、いくらか馴染んだとは言え、どこかお互いに距離があったのだが、戦友としていくつもの任務を共にした結果、双方にお客様気分が消え、本来の意味での“友達”と呼ぶにふさわしい関係が構築されつつあった。

 「やっほー、「島風」~、お泊りに来たっぽい」
 「いつも済まないね。今日もお世話になるよ」
 「いいのかい、私までお邪魔して?」
 「うん、もちろん。ささ、入って入って!」
 とくに第四艦隊の駆逐艦娘3人とは親しくなり、ついには「島風」がひとり部屋なのをよいことに、多少手狭だが皆で集まりパジャマパーティを企てるまでになっていた。
 元々は仲が良かった時雨&夕立が「島風」の部屋に遊びに来るくらいだったのだが、たまたま響の話題となり、現在姉妹艦である他の暁型艦娘が第四艦隊にいないこともあって、やや浮いている……という話が出たのだ。
 陽性のワンコ気質な夕立が「仲間外れはダメっぽい」と、彼女も引っ張り込むことを主張し、優しい気性で気遣いのできる時雨や、他の姉妹艦が存在しないことに一抹の寂しさを覚えていた「島風」も賛成して、「響とお友達作戦」(命名・夕立)が実行されることとなった。
 最初は戸惑っていた響も、(まぁ、いささかお節介な面はあったが)3人に悪意がないことは理解していたので、少しずつ彼女達の輪に加わる機会が増えていったのだ。

 「アレーシュキ──ロシアのお菓子を、鳳翔さんの助けを借りて焼いてみたんだが」
 「くんくん……いい匂い、美味しそう!」
 「手作りとは、やるね響。僕は間宮さんにお願いして仕入れてもらった三色豆あられを持ってきたよ」
 「それじゃあ、せっかくだから金剛さんから分けてもらった茶葉でミルクティー入れるね」
 3人寄ればかしましいと言われる年頃の女の子が4人いるのだから、そのにぎやかさは推して知るべし(もっとも、ひとりは偽娘なわけだが)。
 なにぶん狭い部屋なので4人とも艤装をすべて外しているため、ちょっと遅めのお茶会を楽しんでいるその様は、制服のセーラー服とあいまって、まるっきり女子中学生そのものだった。
 ひとしきりお茶とお菓子をお喋りを堪能したのち、いったんちゃぶ台周りを片付けて、4人分の布団を敷く。時雨と夕立は隣りの自分の部屋から運び込み、響の分は、この部屋の備え付けの予備でまかなった。

 その後、4者4様の寝間着に着替える。響は水色のシンプルなコットンのネグリジェ、時雨は黒を基調に白い水玉模様が入ったワイシャツ型パジャマ、夕立はダブっとした薄桃色のロングTシャツ、そして「島風」は部屋に用意されていた白の浴衣だ。
 無論、このまま素直に眠りにつくワケもなく、布団に入ってからがパジャマパーティーの本領だ。幸い明日の任務は夕方からなので、多少夜更かしをしても問題はないだろう。
 そして、修学旅行とパジャマパーティーの定番の話題と言えば、恋バナである。行動範囲と接触人数が極端に限られる艦娘の場合、自然とその矛先がひとりの男性に向くわけで……。
 「僕は、山本提督のことが好きだよ。上官としてもひとりの男性としてもね」
 その中で口火を切ったのは意外なことに控えめに見られがちな時雨だった。
 「わたしだって、提督さんのことは大好きよ! でも、恋人として好きなのかって言われると、ちょっと悩むっぽい」
 一番大人びた容姿のわりに、夕立は異性への感情がまだ未分化なのかもしれない。
 「私は……そうだな。山本大佐が頼りがいのある立派な男性であることに異論はないが、やはり上司として尊敬している部分が大きいと思う」
 ふたりの言葉を受けて、あまりそういう事を口にしなそさそうな響も場の雰囲気に流されたのか、真情を吐露している。
 さて、そうなると、残るひとりにだんまりが許されるわけもなく……。
 「え、私? うーん、考えたこともなかったなぁ」
 布団にうつ伏せになった姿勢のまま、器用に首を傾げる「島風」。
 本来の立場はひとまずおくとして、現在の「島風(じぶん)」が、山本提督のことをどう想っているか──それは意外に難問だった。
 「たぶん“優しくて頼りになるお兄さん”ってのが一番近いと思うけど、だからって、まったく異性として意識してないわけでもないんですよね~」
 真剣に考えてはみたものの、いまひとつ煮え切らない答えしか出て来ない。
 「それに、提督って、その……翔鶴さんとか金剛さんと……」
 彼と恋仲にあると噂の艦娘の名を挙げてみる。
 「うん、そうだね。少なくとも翔鶴と個人的につきあってるのは間違いないと思う。彼女が秘書艦になって以来、提督の側から熱心にアプローチしていたのは僕も知ってるし」
 「え、わたしは、金剛に押し切られたって聞いたっぽい?」
 「どちらも正解だな。山本大佐は、第一艦隊の翔鶴と第二艦隊の金剛の両方と“そういう関係”を持っているらしいと、荒潮から聞いたことがある」
 無論、他の3人もそのことは承知しているようだ。
 「他の艦娘(ひと)はどうあれ、僕は提督が好きだという自分の気持ちに嘘はつきたくないな」
 「逆に私は、すでに相手がいると分かっているからこそ、一歩引いた目で見てしまうのかもしれないが……まぁ、この場合、どちらが正しく、どちらが間違いというわけでもないだろうね」
 時雨と響から対照的な意見が出たが、確かにどちらも一理がある。
 「ぅぅ~、夕立、頭がこんがらがってきたっぽい」
 ちょっとヘタレた表情を見せる夕立の頭をよしよしと撫でつつ、改めて自分もそういった感情に向き合ってみるべきか、と考える「島風」。
 幸か不幸か、ガールズトークの話題は、そこから微妙に脱線して「戦闘で負傷したあとのお肌の手入れ」だの「好きな男性を誘惑する方法」だのへと流れていったのだが……。
 いずれにせよ、この夜の3人との会話が、後の「島風」の決断を後押しする一因となったことは間違いないだろう。

~つづく~
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

まってますよ~
お忙しいでしょうが続き楽しみにしております^^

Re: No title

>KHR さん
ありがとうございます。
当初よりグダった感はありますが、何とか最後までいけそうです。

> まってますよ~
> お忙しいでしょうが続き楽しみにしております^^
プロフィール

KCA(嵐山之鬼子)

Author:KCA(嵐山之鬼子)
Pixiv、なろう、カクヨムなど色々書いてます。感想などもらえると大変うれしいです。
mail:kcrcm@tkm.att.ne.jp

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード