『首替奇談異聞 -幼女抄-』3

風邪でダウン。本日はこれまで。


首替奇談異聞 -幼女抄-』3

 目覚めは最悪の気分だった。大学に入ってから、コンパで半ば無理に飲まされ、一度だけなったことのある二日酔いの時の気持ちの悪さを数倍ヒドくしたような不快なダルさだ。
 「──姉様! 聡美姉様っ!!」
 それでも、大事なあの子が呼んでいるのだ。
 意識がグラグラと安定しないが、それでも聡美は精神力を振り絞って、ゆっくりと目を開けた。

 「ねぇさま……よかった……」
 目の前には、同性でも見とれる程端整な顔立ちの少女の貌が──しかし、見る影もなく取り乱し、半ベソをかきながら彼女を間近から覗き込んでいる。
 後で聞いたところ、聡美が気を失っていたのは、ほんの1、2分のことだったらしい。
 それでも、彼女が意識を取り戻すまで、彼女の教え子にして妹分たる少女は、普段の落ち着きをかなぐり捨て、懸命に呼び掛け続けていたのだと言う。
 「……みさと、ちゃん?」
 脱力感を堪えつつ、今は頭部だけの姿となっている少女の髪を優しく撫でようとして……聡美は、その手の小ささに、自分が犯した禁忌と、それにまつわる"失敗"のことを思い出す。

 (はぁ……やっぱりコレって、わたしのミスよねぇ)
 密かに落ち込みつつも、現状ではあまり猶予もない。
 聡美は、ゆっくりとクイーンサイズの美里のベッドの上に体を起こした。
 改めて自らの"身体"を見下ろす。
 そこにあったのは、まるで王女様(プリンセス)が着るような豪奢な白絹のネグリジェに包まれた、発育途上の幼い肢体があった。言うまでもなく、美里の身体だ。

 「聡美さん、大丈夫なのですか?」
 美里の母である毬奈夫人も、心配そうに聡美の顔を覗き込んでくる。
 単に娘の「身体」に不都合がないか懸念しているのだ──と、うがった物の見方をする人もいるかもしれないが、聡美はここ数日で夫人の情深さを知っているので、純粋に自分のことを心配してくれているのだとわかった。
 「さすがに、一週間寝たきりだった"身体"ですから、無理はできませんけど、これくらいなら。それより……」
 少しだけ言い淀みかけるが、勇気を奮い起して言葉を続ける。
 「美里ちゃんとおふたりに、説明と……お詫びしないといけないことがあるんです」

  * * * 

 あれほどたやすく、「ろくろ首」としての技能(スキル)を身に着けた美里が、なぜ元の胴体に戻ることだけはできなかったのか──その答えは、聡美は自らが彼女の身体と「接続」した時にわかった。
 単純な話だ。ソレを為すだけの霊力が足りていなかったのだ。

 わかりやすくたとえるなら、普通のろくろ首の場合、首と胴体が「合体」するために、頭部側が10、胴体側も10のMP(れいりょく)が必要だったとしよう。
 通常、その程度のMPは、「分離」が可能なろくろ首にとっては、たいした負担でもないのだが、美里はまだ子供であり、かつ初めての分離で勝手もわからなかったため、分離したままいたずらに時間が過ぎてしまった。
 そのあいだに、胴体側の霊力は日に日に現象し、7日経った今では、生命維持にも支障がでるレベルにまで低下してしまっている。
 そのような状態で、スキルを身に着けたとは言え、いまだ経験も総霊力も不足している美里が、「合体」できるワケがない。
 しかも、半ば不可抗力とは言え、聡美は美里にろくろ首としてのスキルを教え込むために、浮遊や髪手、壁抜けなどを実行させ、せっかく頭部に溜まった霊力もだいぶ消費させてしまった。
 これでは、いつまで経っても戻れるワケがないのだ。

 ならば、聡美が、同族とは言え他人のものである美里の身体に接続できたかと言うと……これまた比喩的に言えば、「自分の霊力の高さにものを言わせて強引に押し込んだ」のだ。
 先程のたとえになぞらえると、頭側からMP30くらい注ぎ込んで、無理矢理合体を成功させたのだ。
 それだけで済めば良かったのだが……。

 「美里ちゃんのこの身体は、霊力が枯渇しかかってましたからね。接続したわたしの頭部から、強引に霊力を吸いとって身体全体に補充してます。先程わたしが意識を失ったのは、いわば霊的な貧血状態になったからなんです」
 「今は大丈夫なんですか、聡美姉様?」
 心配そうに聞く美里に向かって、微苦笑を向ける聡美。
 「最初に比べると落ち着いてるけど……正直、あと丸一日くらいは、吸い取られるでしょうね。さすがに明日の夕方頃になれば、だいぶ落ち着くでしょうけど」
 「そんなに!? 平気なのですか?」
 3人の驚きと危惧を六道氏が代表して代弁する。
 「ええ、2、3日は消耗は避けられませんけど、このペースなら問題なさそうです。1週間も経てば、ほぼ元の状態まで回復できると思いますよ──わたしの頭も、美里ちゃんの身体も」
 聡美の答えに、ホッとしかけた3人だが、聡美の表情は冴えない。
 「……でも、おかげで別の問題ができちゃったんです。その間、霊力不足のわたしは、この身体から頭部を分離できませんから、今度はわたしの身体が衰弱するんですよ」
 「「「!」」」
 それは確かにその通りだ。聡美の身体──首から下の胴体は、今も彼女の隣りでベッドに横たわったままなのだから。
 「そんな! それじゃあ、今度は聡美姉様が……!!」
 「うん、このままだと、胴無しになっちゃうね。だから……」
 聡美は真剣なまなざしで美里(の首)を見つめる。
 「あなたの助けが必要なの。美里ちゃん、協力してくれる?」
 「はい、私にできることなら、何でも」
 一瞬の躊躇いもなく言い切る美里に「これが若さか」と自分もまだ二十歳のクセに妙にババむさい感慨を覚える聡美。

 「じゃあ、しばらくの間、わたしの身体を美里ちゃんに預かってもらっていいかな?」
 「それってどういう……まさか!?」
 流石に利発な美里は、"姉"の言いたいことを理解したようだ。
 「うん、美里ちゃんにも"禁忌"を破らせちゃうことになるけど……わたしの身体に「接続」してみてくれる? 今なら、まだ身体の側には十分な霊力があるはずだから」
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