『憧れのセンターマイク』

4/1のエイプリールフール関連の掌編として妄想して、2ちゃんに投下した小話。一週間遅れですが、こちらにも掲載します。

『憧れのセンターマイク』

 「ただいま~」
 あたし、宇佐見奈々は中学2年生。
 別に優等生ってわけじゃないけど、かといってギャルってほど派手に遊んでるほどでもない。勉強はほどほどに、部活のテニス部はそこそこ頑張ってる、ごく普通の14歳の女の子、かな。
 ルックスは、それなりにはイケてる……と思う。スカウトとかナンパもされたことあるし。まぁ、どっちも、ピンと来なかったから断わったけどね。
 「お~、おかえり~」
 帰り道に買って来たアイスを冷蔵庫に入れようと居間に入ると、そこでは"お兄ちゃん"がソファに寝転んでテレビを見てた。
 「あ、ただいま、お兄ちゃん……って、レディの目の前でボリボリお尻かかないでよ!」
 「え~、いいじゃん、兄妹なんだし」
 「いくない!」
 ジト目で睨んでもどこ吹く風。
 まったくぅ……。見た目だけはいいし、一応それなりの進学高に通ってるから、あたしの友達で家に遊びに来た子の中には、お兄ちゃんに憧れてる子が少なからずいる。でも、その子たちが、いまのお兄ちゃんを見たら幻滅すること間違いなしよね。
 見ての通り実態は、デリカシーないし、無精者だし、音痴だし、ちょいヲタ入ってるし、結構スケベだし。

 ──♪

 と、その時、テレビから聞き覚えのある歌が流れてきた。
 「お、TKBの『ハッピーローテーション』か。懐かしいね~」
 そんなことを言う"お兄ちゃん"の顔を、あたしはこっそり窺う。
 うん、いつも通り、のんきなマヌケ面してる。そのことに少しだけ安堵しながら、あたしは自分の部屋に戻った。

 それにしても……当の本人にあれだけお気楽に構えられてると、「事情」を知ってる身としては、いささか拍子抜けするなぁ。
 ──いや、「事情」そのものは、かなりたくさんの人が知ってる「はず」なんだけど。ただ、今となっては、(本人も含めて)誰も気にしてないんだよね。

 え? 「もったいぶらずに、その事情を話せ」?
 うん、いいよ。別段、秘密にしてるわけじゃないし、そもそも、それなりに知ってる人はいるしね。
 ひと言で言うと、あの"お兄ちゃん"は、本当はお兄ちゃんじゃないの。
 「今時、血のつながらない兄妹だからって、気にすることはない」?
 うーん、確かに"血"は繋がってないけど……そうじゃなくて、あの人は本来あたしの「兄」という立場じゃなかったの。
 何せ、"お兄ちゃん"──現在、この宇佐見家の長男「宇佐見晶(うさみ・あきら)」として、この春入った恒聖高校に通ってる、あの人こそが、さっきテレビに出てたアイドルユニット・TKB48のセンターマイクを務めてた「舞田晶子(まいだ・あきこ)」だったんだから。

 ***

 順を追って話すね。
 あれは、今から2年前の4月頭の話。
 エイプリルフールの4月1日に、あたしの本物のお兄ちゃん──宇佐見敦(うさみ・あつし)がついた、荒唐無稽な嘘がキッカケだったの。

 当時のあたしは、どこにでもいる普通の小学6年生の女の子で、2歳年上のお兄ちゃんともそれなりに仲が良かったと思う。
 今にして思えば、お兄ちゃんは歳のわりにはよくできた人で、あたしの我がままも笑って許してくれてた……まぁ、そのお返しというか、素直(というかおバカ?)なあたしも、よくからかわれてたけど。

 で、四月馬鹿の日とくれば、当然、お兄ちゃんがあたしを騙さないわけもなく……。
 その日にお兄ちゃんはこんな嘘をついたの。
 「奈々、実は僕、こないだ街で、秋元泰にスカウトされて、今度、TKB48のアッちゃんの代わりに、センターマイク、やることになったんだ」
 当時のあたしは、周囲の大多数の友達同様、国民的アイドルユニットのTKBに憧れてたから、羨ましがると思ったんでしょうね。
 「はぁ? お兄ちゃん、何バカなこと言ってるのよ」
 とは言え、幼稚園児とか小一くらいならともかく、小学六年生になって、さすがにそんな突拍子もない嘘に騙されるはずもなく、あたしは、そう切って捨てたんだけど……。
 「う、嘘じゃないよ。嘘だと思うんなら、今晩のテレビ見てみなよ。記者会見するから」
 あたしが騙されなかったのが悔しかったのか、そんな負け惜しみを言って、お兄ちゃんは学校(当時は今のあたしと同じ中学二年生だった)に出かけていった。

 その時は、それだけの話だったんだけど……。
 小学校に行く途中で、あたしもふと不安になったんだよね。
 いきなりTKBのセンターってのは無茶でも、アイドルにスカウトされるくらいなら、あのお兄ちゃんならありうるかも、って。敦お兄ちゃんは、2歳下の妹の目から見ても、なんていうか「可愛い」感じの人だったから。
 中学二年の男子だけど、身長は160センチなくて小柄な方だし、顔はお母さん似で女顔だし、某囲碁マンガのライバルキャラみたいなパッツン髪にしてたから、学生服着てないとよく女の子に間違えられてたし……。
 声変わりも、本人は「した」って言うけど、周囲からしたら「え、マジで?」って言うくらい、子供の頃とたいして変わってないボーイソプラノだったしね。
 だから、幸運とか偶然とかが重なったら、女性アイドルとしてスカウトされるくらいは、あり得ない話でもないんだよねー。
 しかも、お兄ちゃん、人に真剣に頼まれると嫌と言えないタチだし、「明日のスターは君だ!」とか言われたら、その気になっちゃいそうだし。

 (いや、でも、まさか……ねえ?)
 そんな風に悩んでたせいか、2時間目の授業中に、ついうつらうつら居眠りしちゃって、不思議な夢を見たんだ。

 その夢では、たくさんのテレビモニターが並んだどこかの部屋で、白い髭のおじいさん(?)が、モニターのひとつを覗き込んでた。
 で、なんでか知らないけど、そのモニターには今朝のお兄ちゃんとあたしのやりとりが映ってたんだよね。
 『ふむふむ。男子の身で、女性あいどるのりーだーになりたいとは……おもしろい。その意気やよし! その願い、叶えてしんぜよう』

 「え、マジで!?」
 その瞬間、あたしは目が覚めてた。いや、あとから聞いた話だと、現実でも実際にそう叫んでいたらしい。
 もちろん、先生には居眠りしてたことを叱られたし、周囲のクラスメイトには笑われて、とっても恥ずかしい思いをすることになっちゃったよ。
 (もうっ! それもこれもみんな、お兄ちゃんがあんな嘘つくから悪い!!)
 ちょっとやつ当たり気味にそう考えて、あたしは今朝の会話のことは忘れることにしたんだ。

 けれど……。
 その日の夕方。お兄ちゃんは、いつもより帰りが遅かった。
 と言っても、まだ7時だし、下校途中に友達とゲーセンとかに遊びに行ったら8時過ぎに帰ってくるのなんてザラだったから、それほど心配もしてなかったんだけどね。
 あたしたち──あたしと両親は、先に晩御飯を食べちゃうことにして、いつものように居間のテレビを点けたんだけど……そこでは、緊急ニュースとして、TKB48の記者会見が流れてた。どうやら重大な発表があるらしい。
 「まさか、ねぇ」
 微妙に嫌な予感がしたけど、そのままテレビを見てたら、なんとTKBの「不動のセンター」と呼ばれてる「アッ」ちゃんこと舞田晶子が、電撃引退を表明してた。

 それだけでも十分驚きなんだけど……。
 「それでは紹介します。今後、わたしに代わって、TKBのセンターを務めてくれるのは──この子です!」
 ステージには、ピンクの縁取りのついた黒のミニワンピという、いかにもなアイドル衣裳を着て、キチンとお化粧やヘアメイクもされてる(そして身内からみてもすごく可愛い)お兄ちゃんが、恥ずかしそうに頬を赤らめながら立ってたんだ。

 そのあとのことは、あたしはちょっとしたパニックになっちゃったから、実はハッキリ覚えてないんだよね。ただ、思ったよりウチの両親は驚いてなかったような気がした。

 で、その夜の内に、引退表明したアッちゃん──舞田晶子がいきなり家に来た。
 「今後は、わたし……いや、ボクがこの家の長男になります」
 って宣言して、うちのお父さん、お母さんも、なぜか納得したんだよね。
 代わりに、敦お兄ちゃんは、お仕事もあるから、アッちゃんのマンションでひとり暮らしするんだって。

 そして、翌日からは、舞田晶子改め「宇佐見晶」が、お兄ちゃんに代わって、"14歳の少年"として、詰襟の制服を着て中学に通い始めた。
 同時に、敦お兄ちゃんはTKB48の筆頭格の「舞田敦子」として、芸能活動を行うようなったんだよね。
 冷静に考えたら無茶な話なんだけど、なんでか知らないけど、周囲もソレが当り前のように受け入れてたから、あたしも、つい異議を口にしづらくなっちゃって……。

 もっとも、最初の数日はギクシャクしてたけど、一週間もしたら、あたしも、その「宇佐見晶」を「お兄ちゃん」と呼んで受け入れるようになってた。
 晶お兄ちゃんの外見自体は以前のままだけど、呆れるくらい男子中学生としての暮らしに適応して、言葉遣いや服装、仕草、趣味嗜好は完全に「14歳の男子」そのものになってたしね。
 テレビを見る限り、「アッちゃん」の立場になった舞田敦子も巧くやってるみたいで、以前と変わらず……ううん、以前以上の人気になってた。

 ──で、結局そのままの状態で、2年後の現在に至るってわけ。
 今のあたしにとっては、「お兄ちゃん」と言えば、ごく当り前に一階でだらしなくソファに寝そべってポテチを食べてるあの人のことを指す。
 反対に、テレビとかで見る舞田敦子は、完全に別世界のスターだ。
 なにしろ、あの人、今だにTKB48の総選挙ナンバー1で不動のセンター張ってるのに加えて、最近では映画やドラマの女優としても活躍してるし、この間出した写真集も50万部を越える勢いの売れ行きだったらしい。
 ちなみに、本屋で写真集チラッと見た限りでは、女性ホルモン飲んでるのか、豊胸手術とかしたのか、パッドとかの偽乳なのかは知らないけど、ちょっと小さめながら胸はあるように見えた。
 いや、ウチのお兄ちゃんの胸は、いつの間にかすっかりペタンコになってたし、もしかしたら自然に膨らんだのかもしれない。
 え? 「下の方は?」って……さすがに、そんな事、聞けるわけないでしょ!

 とにかく! 本人達も今が楽しそうだし、周囲もなぜか現状を好意的に認めてる。
 妹のあたしとしては、正直ちょっと割り切れないものを感じることもあるけど、かと言って、絶対に嫌だってわけでもないし……なんか、この2年で慣れちゃったしね。

 「お~い、奈々ぁ、晩ごはんだって~」
 「はーい、今行くー!」

-おしまい-
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

KCA(嵐山之鬼子)

Author:KCA(嵐山之鬼子)
Pixiv、なろう、カクヨムなど色々書いてます。感想などもらえると大変うれしいです。
mail:kcrcm@tkm.att.ne.jp

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード