『Stargazer』

 家庭用ゲーム機のギャルゲーに関して、ある種の伝説を残しているKIDというメーカーがあります──もとい、「ありました」。メーカー自体は解散して久しく、その後継者の一部は現在の5Pb.などに流れているのですが、ここは『EVER17』や『メモリーズオフ』シリーズなど、家庭用ギャルゲーとしては画期的な作品を多数生み出した、2000年前後からギャルゲーをプレイしていた人間にとっては、非常に思い出深いブランドなのです。
 で。そのメーカーの作品で、個人的には『E17』と並ぶ傑作だと確信しているのが、『My Merry May』とその続編『My Merry Maybe』です。より正確に言うなら、『MMM』自体は佳作レベルなのですが、傑作『MMMbe』を正確に理解するための前編、といった趣きなのです。
 当時、土日の大半の時間を費やして『be』をコンプリートした際は、いい加減ギャルゲー慣れしていた自分でさえ、目頭が熱く──いえ、正直に言うとボロボロ泣きました。
 無論、この種の「感動」には人によってツボが違うのも確かなのですが、それでも少なくとも最後までプレイした人の大半が「いい作品だ」と認めていることも、確かだったりします。
 まぁ、この作品に関して語り出すと止まらないので、このヘンにしておきますが、当時、その感動の余勢を駆って書いた拙いSS……の書き出し部分が出てきましたので、ここに掲載しておきたいと思います。
(まぁ、ゲーム本編を知らないと、伏線やトリックが意味不明でチンプンカンプンかもしれませんが……)

Stargazer~The days after My Merry Maybe~

1.[April] Show goes on

 「"レプリスは人間の従属者であり、奉仕者であり、しかしパートナーでもある"
 レプリスに関して、こんな言葉を残した有名な研究者がいる。 
少々理想主義的ではあるけど、先生もこの言葉がいちばん適切なスタンスじゃないかと思うんだ」

 ──キーンコーンカーンコーン……

 「よし、今日はここまで」
 6時限目の終わりを告げるチャイムが鳴ったのを機会に、授業を切り上げた。
 俺の受け持ちはこのクラスだから、そのままHRに入る。
 といっても、今日は特に連絡事項もないので、簡単な挨拶をして終了だ。

 「岸森せんせー、さよならー」
 「おぅ、気をつけて帰れよー」
 生徒たちの声に手をあげて答えると、俺は職員室へと向かった。

   *   *   *

 教育実習から3年後、俺は再びこの晴天町へと戻り、晴天中学の社会科の教師に就任していた。
 この町には一言では言い表せない複雑な思いを抱いている俺だが、1留の末に大学を卒業したのち、結局はここに戻って来てしまった。

 あの女性の面影を求めて?
 ──否定はしない。

 あの時の事件は俺の人生に少なからず影響を与えていたが、それは決して負の方向性だけに作用したわけではなく、俺は俺なりに人生というものについて真摯に向き合えるようになった。それだけは確かだ。

 ともあれ、現在の俺は新米の中学教師、岸森先生、というわけだ。
 正式に赴任してからすでに一月近く過ぎたわけだが、教育実習のときに初めて痛感した自分の未熟さというものは、むしろ強まっているようにさえ思える。

 校長先生にそのことを伝えると、
 「そりゃ、ぺーぺーの新米教師にいきなり完璧な授業をされたら、私たちベテラン組の立場がないさ」
 と笑っていた。

 確かにそういうものか、とも思うが、だからといって、いつまでもその"若さゆえの未熟さ"に甘えているわけにはいかない、とも思う。

 一足早く教師になっていた篠片さんなんかは、
 「まぁまぁ、先は長いんだから。焦らず気楽にいきましょう」
 なんて、気軽に励ましてくれるのだが。

 ともあれ、今日は4月28日木曜日。
 明日一日授業をすれば、生徒、教師ともに待ち望んだ五月の大型連休に突入するわけだ。

 「それじゃあ、お先に」
 ちょっとやる事があるという篠片さんに挨拶して、俺は職員室を出て家路についた。

   *   *   *

 帰路の途中、商店街の片隅にある古ぼけた診療所の前を通ったとき、柄にもなく郷愁に襲われる。
 今にも、そこのドアを開いて、白い看護服を着た女性が微笑みながら出てくるかのような……。

 俺は頭を振って、その幻想を振り払い、家へと向かう。
 彼女との関係も俺の頭を悩ませる原因のひとつだ。
 すっかり割り切ったつもりではいたのだが・・・。

 「ただいまー」
 母親のしつけの賜物か、答えを期待していないのに、家に帰るとなぜか習慣的に挨拶してしまう。

 ところが・・・

 「あ、お帰りなさーい」
 青い髪の女性が玄関まで出迎えてくれる。

 「や、お帰り。遅かったね」
 それどころか、俺よりあとに学校を出たはずの校長までが缶ビールを片手に機嫌よく迎えてくれたのには驚いた。

 「校長先生、お仕事は?」
 「まぁ、たいして急なものなかったから、明日に回すよ。ひとり息子の誕生日なんだ、それくらいいいだろうさ」

 そう言って、晴天中学校長にして、俺の父でもある男性、岸森浩人は不器用にウインクしてみせる。

 「え……」
 「……もしかして、恭人ちゃん、忘れてたの?」
 俺の母である岸森(旧姓・玉村)穂乃香が鋭く突っ込む。
 「いや、その、まぁ・・・」

 二十歳を過ぎた成人男子にとって、誕生日なんて……とモゴモゴ言いかけたが、すっかり忘れていたのだから説得力には欠ける。

 「3人とも、いい加減、中に入ってきたら?」
 「ま、ま、何はともあれ乾杯ってことで」
 「母さん、主賓が来る前にビール開けないで」

 雷香さんや篠片さん母娘まで来ていたのには、もう驚かない。
 ──それにしても、みんな仕事はいいのだろうか?
 とくに雷香さん。爺ちゃんが死んだ今、アンタ、まがりなりにもこの町唯一の医者でしょうが!

 ……などとキバってはみたものの、久々に彼女の仕事着姿(医者のクセに看護士の白衣を着てたりするのだ、この人は!)が見れて、内心ちょっとうれしかったり。

 「はいはい、それじゃあ、恭人ちゃんは手を洗ってきなさい」
 元看護士のせいか、母さんは妙に衛生面で細かいところがある。
 「母さん、もう子供じゃないんだからさぁ」
 口では文句を言いながらも、洗面所に入る俺。弱ッ!!

   *   *   *

 「ではあらためまして……岸森恭人くんの24回目の誕生日を祝して乾杯!」
 主婦3人の合作とおぼしき料理を前に、篠片さん(お母さんの由真さんの方だ)が音頭をとって、身内だけのささやかなバースデーパーティが始まった。
 まぁ、誕生日パーティと言うのは口実で、この人たちは集まって騒げればよいのだろう。

 メンバーは俺、父さん、母さんに父の義妹の雷香さん、親の代から付き合いのある篠片由真さん、恋羽(れう)さん親子の6名。
 これに、近所でも仲の良い──なんでも昔父さんの教え子だったそうだ──草津さん一家と、保健所の鏡さんを入れると、宴会要員のフルメンバーなのだが、今回は遠慮したのか、都合がつかなかったのか姿が見えない。
 おかげで、いつもより混沌(カオス)の侵食率が低い。……あくまでも、"いつもより"だが。

 ともあれ、母さんが酔いつぶれ、父さんが雷香さんと由真さんにからまれるという長年見慣れた構図に変わりはない。

 「やっぱり、見てるんだ」
 不意に横から声をかけられて、ほんの少しだけ焦る。

 「──篠片さん」
 「もぅ! 学校でもないのに、その呼び方はやめてよ」
 親同士が友人で、近所に住んでいたこともあって、2歳年上だが恋羽さんは俺にとって幼馴染と言ってもよい存在だった。
 ……ほんの少し前までは。

 「以前どおり、恋羽ちゃんでいいわよ。それとも……」
 チラッと悪戯っぽい流し目を投げかけてくる。
 「──別れた女から親しげに話しかけられるのはイヤ?」

 そう、学生時代のほんの一時、俺と彼女は"恋人"だったことがあるのだ。
 お互い大学生になって親元を離れ、偶然コンパで再会し、それまでの幼馴染というフィルターを通さずに互いの姿を見たことで、自然と男女関係が生まれ……。
 けれど、結局は長続きせず、彼女の大学卒業とともに自然と終焉を迎えたのだけれど。

 (嘘、だな……)
 苦く自嘲する。
 いずれにせよ、俺達の関係は終焉を迎えたに違いない。結局のところ俺は彼女を通して、別の女性の影を見ていたのだから。
 彼女が憧れ、少しでも近づこうと努力していた女性の影を。

 わずかな救いは、俺達ふたりともそれを自覚し、比較的穏便に別れられたことだろう。
 もっとも、これは俺の勝手な主観であって、恋羽さんの方からすれば別の言い分があるかもしれないが。

 「……さすがにこの歳になって"恋羽ちゃん"は恥ずかしいしね。呼び捨てもなんだから"恋羽さん"ってとこで勘弁してよ」
 仕方ないわねぇ、とおどけてみせる彼女に感謝する。

 「──告白、しないの?」
 互いのグラスにビールを注ぎ合いながら、恋羽さんが尋ねる。

 「実は、高校生のころにすでに玉砕してたりするんだな、これが」
 もっとも、あの時の"告白"を彼女が真剣に受け取ったかは大いに疑問だけれど。

 「そっか……ねぇ、あたしと付き合ったのって、その反動?」
 「主原因ではないけど、100パーセント違う、とは言い切れないかも」
 「……素直に認めたから許してあげる」
 ハードルは高いけど頑張ってね、と俺の肩を叩くと、恋羽さんは父さんに絡む由真さんの方に歩み去っていった。

 「まだ、思いきれないのね」
 思いがけず背後から声をかけられて、飛び上がる。
 「か、母さん……聞いてたの?」
 「ええ」
 「どこから?」
 「えぇっと……"以前どおり、恋羽ちゃんでいいわよ"から、かしら」
 ほとんど全部だよ、そりゃ。

 「あなたの悩みはわかる、なんてことは口が裂けても言わないけど……でも、自分から行動を起こさなければ、状況は変わらないわよ」
 それは……もちろん、わかっている。
 だけど、なけなしの勇気は、18歳の冬のあの夜に使い切ってしまった。

 「そう……」
 母さんは一瞬だけ痛ましそうに目を閉じた後、すぐにいつもの優しい微笑みを浮かべた。
 「そういえば、私と浩人さんの結婚に至るいきさつを話したことってあったかしら?」
 と、一見それまでと関係のなさそうな話題をフッてくる。

 「ないと思う……って言うか、両親の馴れ初めを、こと細かに知っている子供って、世の中にそう多くはないと思うけど」
 お惚気なら長年聞かされてきたけど、と、これは心の中だけで呟く。

 すでにひとり息子が成人して久しいというのに、うちの父母は、よく言えば円満、悪く言えば年甲斐もなく熱々(死語)な、万年新婚さん状態な夫婦だった。

 もっとも、そのせいかどうかわからないが、夫婦揃って実年齢よりかなり若々しい。レプリスである穂乃香母さんが未だ30歳過ぎの外見なのはまだしも、浩人父さんもとっくに40歳を越えているようには見えない。
 
 「いい機会だから話してあげる。あなたの参考になるかは、わからないけど……」

  
<to be continued>
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……と言いつつ、5年以上経っても、続きがエターナってるわけですが。
見ての通り、『MMMbe』の穂乃香エンドからの後日談です。
一応構想はあるんですがねぇ。
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