『籠球少女(偽) ロウきゅーガール?』(中編)

昨日に引き続く女子小学生バスケSSの中編です。このブログに載せるものにしては何気に変態度(笑)が高いなぁ。
ちなみに、本作の主人公・昴流は、某薔薇人形の蒼いコを人間化したようなルックスです。もちろんオッドアイではありませんが。



籠球少女(偽) ロウきゅーガール?』(中編)

Act.4

 恵心女バスメンバーとの初めての練習を終えたその夜。
 羽瀬川昴流は絶体絶命のピンチに陥っていた。
 敵は理不尽なほどに強大で、自分以外の味方はおらず、さらに一縷の望みをかけた援軍はあえなく裏切り、敵方に加勢する。
 このままでは、日付が変わる頃には昴流のプライドはズタズタになり、一生もののトラウマが刻まれることになりそうだ。

 つまり、何が言いたいかと言えば……。
 「さ、すばる~、ちゃっちゃとコレに着替えな」
 「美穂ちゃん、どうせなら下着はコチラの方がいいんじゃないかしら」
 「お、ナ~イス! さすがは那夕お姉ちゃん」

 叔母である美穂と、実の母親である那夕(なゆ)の等身大着せ替えドールにされているのである──無論、「女の子らしい可愛い衣裳」限定で!!

 練習帰りのクルマの中で、美穂は自分の姉であり昴流の母でもある那夕に「話は通してある」と告げた。これは、確かに嘘ではない。昴流を七高まで迎えに行く前に、姉には電話を一本入れてあった。
 美穂の担任する女生徒たちの窮状を助けるため、しばらく放課後は、昴流が「高村すばる」という「12歳の女の子」として恵心学園初等部に来ることになった──という美穂が電話でした説明自体にも、大きな不備や過不足はない。
 ただ、その際「だから、那夕お姉ちゃんも協力してよね」という一言は、明らかに(少なくとも昴流にとっては)蛇足だったと言えるだろう。

 世の中の大半の母親と同様、昴流の母である那夕も、「娘を可愛らしく着飾りたい」という欲求は少なからず抱いていたのだ。もっとも、羽瀬川家の場合、子供が男子の昴流ひとりだけだったので、その欲求が満たされる機会がなかったが。
 しかし、思わぬ成り行きからその隠れた欲求を実現するチャンスを得た那夕は、普段のおっとり落ち着いた様子からは考えられないほどに「暴走」したのだ。
 すなわち……。
 「た、たかだか一週間の変装のために、こんないっぱい女の子の服買って来てどーすんだよ、母さん!」
 羽瀬川家のリビングには現在、ところ狭しとローティーンの女児向け衣類(無論、那夕が買って来たばかりのものだ)が並べられているのだった。

 襟元にふんだんにフリル飾りの着いたパフスリーブの白い半袖ブラウス。
 紺と空色のシンプルなギンガムチェックのジャンパースカート。
 小さく薔薇の花模様を散らしたジョーゼット地のピンクの長袖ワンピース。
 薄いコバルトブルーで、Aラインを描くスカートがくるぶし近くまであるノースリーブのサマードレス……などなど。
 アウターだけではない。
 美穂に渡されたラン型スリップとはシルエットの異なる白いシルクのシュミーズや、細い肩紐のキャミソール、レースとフリルに彩られたドロワーズから、「小学生には早過ぎる!」とPTAに怒られそうなハイレグ気味のビキニショーツといった下着類までも揃えてあった。
 言うまでもなく、昴流──いや、「すばる」のために、那夕が浮き浮きしながら購入してきた代物だ。

 無論、昴流とて抵抗はした。したのだが……保護者であり父がいない間この羽瀬川家を預かる母親と腕力では到底叶わない叔母の、姉妹コンビの言葉と物理的暴力の前に、あっけなく撃沈され、プライベートファッションショーを披露するハメになったのである。
 オマケに──那夕にはそのつもりはなかったのだろうが──デジカメでパシャパシャと大量に女児女装中の写真を撮られたため、これでまた昴流が美穂に逆らえない材料(ネタ)が増えてしまった。

 「ちくせぅ……やっぱミホ姉の頼みなんて引き受けるんじゃなかった」
 「『口ではそう悪態をつきながらも、彼、いや「彼女」も内心自分の可愛らしい格好にまんざらでもない気分に浸っているのだった』」
 「勝手なナレーション入れんな!」
 悪ノリした美穂の合いの手にすぐさまツッコむ昴流。
 「第一、いくら俺が童顔だからって、女の子のカッコしたって見苦しいだけだろうが」
 「あらあら、そんなコトないわよ~。とってもよく似合ってるわ、スーちゃん♪」
 母親の那夕がすかさず否定する。
 「母さん、だから高校生の息子をスーちゃんって呼ぶのはやめてくれって……」
 お決まりの昴流の抗議は、これまたいつも通りスルーされる。
 「まぁまぁ、ちょっと見てご覧なさいな」
 ポヤポヤ天然系でありながら何気に押しが強いのは、さすが美穂の姉だと思わされる。那夕に後ろから肩を押され、渋々鏡を覗き込んだ昴流だが、そこに映る人影を目にしてピタリと固まる。
 「……だれ、これ?」
 目の前にいたのは、中学に入った当初からバスケ部で懸命に頑張ってきたにも関わらず、やや小柄で体格もいまいち貧相な15歳の少年……ではなかった。

 前身ごろにギャザーを寄せた白い胴着と肩の部分が膨らんだ黒いサテン地の半袖で構成されたボディスを着て、半ば透けるような白い紗のフレアスカートを履いた、12、3歳くらいの可愛らしい「少女」が佇んでいたのだ。
 首には袖と同じ生地の付け衿を着け、その上に真紅のリボンタイが結ばれている。足元は、清楚な純白のタイツとダークブラウンのストラップシューズだ。
 栗色に近い茶色のサラサラ髪はナチュラルな感じのボブカットに整えられ、ボンネットと呼ばれるややクラシックな頭飾りを着けているせいで、どことなく小貴婦人(リトルレディ)と言った趣きにも見えた。
 「……クッ!」
 一瞬"鏡の中の美少女"に見とれかけ、それが他ならぬ自分の姿だと気づいて、昴流は唇を噛む。
 美穂のドヤ顔を見るのは悔しいが、似合っていることは認めざるを得なかった。

 「そ、それはともかく! これはあくまで、恵心女バスでボクが活動するための擬装なんだから、あんまり凝っても仕方ないだろ」
 「甘いッ! 擬装(カモフラージュ)だからこそ、バレないようにしっかりやるのが鉄則ってモンでしょーが」
 確かに美穂の言うこと自体は正論だが、その真意は明らかなので素直には頷けない。
 「まぁまぁ、スーちゃんもそんな堅苦しく考えないで、一種のお祭り騒ぎ(イベント)だと割り切って楽しんでみたらどうかしら?」
 その点、那夕の意見の方が、まだ多少は自分を誤魔化しやすそうだ。

 (はぁ~、仕方ない。どうせ一週間の辛抱か)
 自分のお人好しさ加減に苦笑しつつも、母と叔母の「お楽しみ」につきあう覚悟を決めた昴流──いや、"すばる"だったが……。
 その後も2時間以上にわたってファッションショー(+撮影会)が続き、のみならずポーズや仕草、さらに言葉遣いまで、「小六の女の子」らしいそれに矯正されるに至って、自分の判断が甘かったと悔やむことになる。
 さらに、その格好(ちなみに、「普段着」というコンセプトで、比較的シンプルなオフホワイトのブランドトレーナー+サーモンピンクのロング丈キャミワンピという組み合わせ)のままで、夕飯を取らされる。当然、お行儀や食べ方などにもチェックが入った。
 食後に風呂に入って、ようやくこの馬鹿騒ぎから解放されたかと思いきや、風呂から上がると、脱衣籠には当然のようにライトイエローの女児向けパジャマが置いてある。
 キャミソールとの重ね着風ネックのトップと、チュールレースのフリルが重なったキュロットミニとのセットで、いかにも女の子らしいデザインの上下を手にとり、もはや"すばる"は力なく笑うしかなかった。


Act.5

 ──その日は、朝から夢見が悪かった。

 ふと気がつけば、昴流はバスケのコートに立ち、懸命にボールを追っていた。
 目の前の試合に熱中する一方で、心のどこかで「これは夢なんだな」と思う自分がいる。
 「バスケ馬鹿」である昴流にとって、この種の夢はこれまでに何度も見た経験があるので、ある意味、「見慣れて」いるのだ。
 ただ、いつもと少し違うこともあった。
 「すばる~ん、パース!!」
 「高村さん、カウンターです!」
 一緒に試合しているのが、中学時代のチームメイトではなく、恵心学園女バスの面々だったことだ。
 夢の中とは言え、昴流もそのことにまるで違和感を抱かず、少女たちに混じってボールを追いかけていた。
 これまた夢のせいか、朋香を除いてほぼ素人であるはずの彼女たちも、なかなか達者なプレイを見せてくれる。
 「くっ……水都だけじゃない。そっちデカいのもなかなかやるぞ」
 「ダブルチームをふたつ作るか!?」
 相手が小学生くらいの男子たちであるところから見て、どうやらこの夢は「来週の練習試合」という設定のようだ。
 ただでさえ、朋香のプレイに翻弄されがちなのに加えて、藍璃に次いで身長(タッパ)があり、技量で遥かに上回るすばるが加わっては、男バスに勝ち目はない。
 試合は10点以上の大差をつけて、女バスの完全勝利に終わった。
 「やったゾ、すばるん!」
 「お~、そなたたちの勝利」
 見学していた藍璃も含めた5人の"チームメイト"と抱き合って喜ぶすばる。そこには、皆と一丸になって試合に勝ったという純粋な喜びだけがあった。
 (あぁ……やっぱりバスケっていいなぁ)
 久々に思う存分バスケットボールをすることができて、晴れやかな気分になる。
 もっとも、試合が終わった以上、「高村すばる」は臨時女バス部員のお役目御免となり、二度と彼女たちと共にプレイする機会はないのだろうが……。
 少しだけそれが残念だと感じる。

 「はぁ? 何言ってるんだよ。すばるんは、もう立派なあたしらの仲間だろ」
 「そうよ。これからもトモと一緒に、いろいろ教えてよね」
 眞子と咲が不思議そうな顔で、そんなことを言ってるが、さすがにソレはマズいだろう。今回は特別としても、部外者がいつまでも他の学校の部活に混じっているワケには……。
 「そう言うと思って、「高村すばる」の転校手続き、しといてやったよ」
 み、ミホ姉、冗談……だよな?
 「大丈夫よ、女の子として必要なことは、お母さんが教えてあげるから」
 か、母さんまで……。
 不気味なほどにイイ笑顔のふたりに、さすがにちょっと引いて逃げ出したところで、幼馴染のアオイの後ろ姿を見つけ、助けを求める。
 「あ、アオイ! ミホ姉たちが何かヘンなんだ!」
 ところが、七城高校の女子制服であるブレザーを着たアオイは、振り返るとコツンと軽く拳骨を落としてきた。
 「こ~ら、ダメでしょ、年上の人を呼び捨てにしちゃあ」
 「へ? 年上?」
 いや、アオイは昴流と同じく高一のはずなのだが……。
 「あら、だって、そうでしょ。すばるちゃん、小学六年生の女の子だもの」
 「え……あ!」
 気がつくと、いつの間にか「彼女」は、ライトパープルの長袖ワンピース──つまり恵心学園初等部の女子制服を着ている。足元もバッシュから三つ折ソックス&爪先部分が赤い上履きに変わっていた。
 「え……な、なんで!?」
 「コラァ、すばる! なに授業中に寝ぼけて立ち上がってんの! 廊下に立たせるわよ」
 めったに見ない先生然とした美穂に叱られ、反射的に「ご、ごめんなさい」と謝って席に着くすばる。周囲を見れば、教室には、どう見ても小学生の男女──それも制服からして恵心学園の生徒と思しき子たちが座っている。
 「あ、あれっ?」
 「大丈夫、すばる?」
 事態が飲み込めないすばるを、隣席の朋香が気遣ってくれる。
 「う、うん。平気」
 (なんでボクがこんな所に……それに、水都さんは「高村さん」って呼んでたんじゃあ……)
 そんな風に違和感を抱いたのもつかの間で、次第にあやふやになってくる。
 (あ……でも、平日の授業中に教室にいるのは当たり前、なのかな。朋香とも、この間、名前で呼び合おうって約束した……んだっけ?)
 そう考えると不思議とソレが正しいような気もしてくる。
 (そう、そうだよね。ボクは恵心学園初等部6年生で、女子バスケ部員の高村すばるなんだもん)
 ──そうして、"高村すばる"は、そのまま女子小学生として楽しい日々を過ごすのだった。

 「……って、ンなわけあるかぁーーーーーっ!」
 絶叫とともにガバリとベッドの上に起き上がるすばる、いや昴流。
 「ハッ、夢か。良……」
 「よかった」と言いかけ、視線を下として、何とも言えない表情になる。
 「全部夢だったら良かったのに……」
 その目に映るのは、フリルとレースで愛らしく飾り立てられた、ローティーンの女児向けパジャマだ。
 いや、パジャマだけではない。
 元々部屋自体はきれい好きなので比較的整理整頓されている方だったが、明らかに男子高校生の部屋には似つかわしくない可愛らしい色と柄のカーテン&ベッドカバーに換えられている。
 愛用している枕にも白いレースカバーがかけられ、さらにその隣には高さ30センチくらいのテディベアのぬいぐるみが置いてある。これを抱きしめて眠れとでも言うのか。
 「なんであのふたりはこんなに凝り性なんだ……」
 さらにベッド脇のローテーブルには、今日の着替えが置いてあった。
 あまりにフリフリヒラヒラした服だと着替えや仕草でボロが出ると抗議した結果、白い丸襟ブラウスに若草色のキュロットを合わせ、その上に萌黄色のスプリングコートを羽織るという、比較的ボーイッシュな格好にOKが出たのは、不幸中の幸いというべきか。
 もっとも、下着についての譲歩はなく、昴流は何とも形容し難い表情で、やや履き込みの深めの水色の女児用ショーツと揃いのハーフトップ(ブラカップ付き)を渋々身に着けた。
 (ぅぅ、何か悪い事してる気分。まぁ、着心地自体は悪くないんだけどさぁ)
 ……本人は気づいてないが、どうやら昨日の"荒療治"の成果か、女の子の服装への拒否感がだいぶ薄れたようだ。
 そもそも、いかにボーイッシュとは言え、明らかに「元気な女の子」風の服装を、たいした抵抗もなく着ている時点で、美穂たちの悪だくみは着実に成功してると言えよう。

 「おはよう、母さん、ミホ姉」
 そんな自分の内面の変化も知らず、昴流は(多少の気恥ずかしさは意図的に無視して)ダイニングへと顔を出し、母の那夕と、結局昨夜そのままこの家に泊った美穂に挨拶する。
 「おはよう、スーちゃん、とっても可愛いわよ♪」
 「ふぁ~あ。おあよー、すばる……うんうん、よく似合ってる」
 「よしてくれ」
 酸っぱい顔つきになった昴流に、美穂がチッチッチッと指を振る。
 「言葉遣いがなってないなぁ、せめてもうちょっと丁寧にしゃべりなさいよ」
 「はいはい、わかりましたよ、ミホお・ば・さ・ま♪」
 「んあ゛っ!?」
 ホットミルクにむせる美穂を見て、ささやかな勝利に酔う昴流だった。

 朝食の後、そろそろ時間なので美穂のクルマに乗せてもらい、そのまま恵心学園初等部の体育館へと向かう。
 その場で5人の女バス部員と合流した後、まずは女子更衣室で着替えることが、この日の"高村すばる"の最初の試練となった。

 「は~、それにしても、もうすぐ6月だけあって、今日は暑いわね。まだ練習前なのに、汗がアンダーシャツに染みてる感じ」
 「にゃはは……あいかーらず、つるぺったんだな、咲は」
 「何よ! スットン共和国代表の眞子だけには言われたくないわよ」
 「あ、あたしはいーんだ。あと3年も経てばママみたく「ぼん・きゅっ・ぼん」のないすばでぃになるから」
 「あ、そなたちゃん、そのパンツ初めて見た。かわいいパンダさんだね」
 「おー、こないだデパートで見つけて、買ってもらった」

 『きゃる~ん、きゃぴきゃぴ』という擬音が聞こえてきそうな現役女子小学生に混じっての着替えは、天国と地獄──いや天国(ごほうび)成分が控えめな分、羞恥心と罪悪感の焦熱地獄120%となって、すばるの良心を苛んでくる。
 (お、落ち付こう。この子たちはまだ小学生、ほんのお子様なんだから……)
 と、頭では考えるものの、どこか甘酸っぱい匂いのたちこめる狭い部屋で、4人の少女達とともに着替えるという体験は、それだけですばるの平常心をゴリゴリ削る。
 しかも……。
 「あ、高村さんは、けっこう背が高いから、やっぱりそれなりに胸あるんですね」
 "女同士"の気安さからか、朋香などが無防備に下着姿で話しかけてきたりするのだ。
 「そ、そう…ですか? いや、たいしたモノじゃないですよ」
 (何せ、シリコン製の偽乳ですから)とはさすがに口に出せない。
 「ほほう、たしかに多少はありそうだな。しかーし、ウチのアイリーンに比べればまだまだ……」
 ──ポカッ!
 「バカなこと言ってるんじゃないの。だいたい藍璃の胸の大きさは眞子が誇ることじゃないでしょ……ごめんね、高村さん。このツルペタ娘の言うことは気にしないで」
 「あたしがツルペタ娘なら、咲はペチャパイメガネじゃねーか!」
 半ばじゃれあい、半ば本気のケンカを始める眞子と咲。着替えの途中なので、絶対男の目には触れさせられない状態になっている──まぁ、約1名、不可抗力で目にしているワケだが。
 「あ、あの……時間がもったいないですし、さっさと着替えて、練習しません?」
 女の子同士のコミュ二ケーションなんてものをロクに知らないすばるとしては、ふたりの争いから目を逸らし、控えめにそう口にするのが精一杯だった。

 とりあえず今日の練習では、以前朋香が考案していた(が、有名無実化していた)練習メニューをベースに、ドリブルやパス、シュートなどの基礎練習を中心にした堅実なメニューを再構築し、実施する。
 合い間には、飽きがこないよう1on1や3on3などの実戦に近い形式のトレーニングも挟むことで、彼女たちのモチベーションを維持する。
 もとより中学時代はチームマネジメントも兼ねた頭脳派キャプテンとして知られていた昴流にとっては、このテのことはもっとも得意とする分野だ。"すばる"としても苦にはならない。むしろ、楽しいとすら言ってよい。

 しかし……人生楽ありゃ苦もあるさ、楽しいことの次には苦しい(?)コトが待ち受けているものなのだ。

 ──ブルッ!
 「すみません、水都さん、ちょっと……」
 女の子向けのトイレの隠語が浮かばなかったが、朋香は察してくれたようだ。
 「あ、お手洗いなら、裏口から出た廊下を左に行くとありますよ」
 「は、はい。じゃあ、少しだけ外します」
 と、体育館を出たまでは良かったものの……。
 「や、やっぱりコッチに入らないといけないのかなぁ」
 赤いスカート姿の女性を擬人化したマークのついた、女子トイレの入口を前に、躊躇いを捨てきれない"高村すばる・12歳♀(偽)"なのだった。


Act.6

 トイレには入りたいが、この姿で女子用に入るのは何かに負けた気がする……という昴流の男としての葛藤は、迫り来る尿意に負けて、案外あっけなく決着がついた。
 そして、いざ覚悟(?)を決めて足を踏み入れてみれば、壁や床に薄いピンク色のタイルが敷き詰められた其処は、女の子特有のフローラルな香りが漂う……わけもなく。
 清潔に掃除されてはいるが、それでも僅かに特有のアンモニア臭が感じられる、まぁ、「トイレ」としてはごくありふれた場所だった。
 無論、男子トイレに固有の小便器──いわゆるアサガオが見当たらず、個室だけというのは、男にとってはやや落ち着かない気分にさせられるが、逆にその個室に入ってしまえば大差はない。
 一番奥の個室に入って鍵をかけたところで、我知らず昴流は、「ふぅ」とひと仕事終えたようなため息をついていた。

 とは言え、ここからがむしろ「本番」である。
 まずは、便器のフタを開ける。通常ならそのまま内蓋も開けるのだが、今の"すばる"の状態では立ち小便ができないことは、昨夜から何度か経験済みなので、すばるは内蓋を紙で軽く拭いてから腰掛けた。
 座った状態から軽く腰を浮かせて、スパッツとショーツを膝の下までずり下ろす。
 モスグリーンの可愛らしいリボンがワンポイントについたショーツが視界に入ると、今自分が履いているモノなのに、なぜかイケナイものを目にしたような気分になり、すばるは視線を逸らした。
 その逸らした先で目に入るのは、まるで幼児のようにツルツルに陰毛を剃られた股間。しかも、一見したところ男の徴(シンボル)は見当たらず、逆に肉の合わせ目で出来た一本の縦筋──女の子の"割れ目"があるように見える。
 無論、本当に性転換したわけではなく、美穂の手による人体用接着剤を用いたタックで、疑似的にそのような形にされてしまったワケだが。

 まるで、幼い女の子のアソコのような外見になっている自分の股間を見ると、すばるは羞恥心とともに、いわく言い難い感情(認めたくはないが、「快感」や「興奮」と呼ぶべき代物)が胸の中に湧き上がってくるのを感じる。
 目をしばたいて、そんな淫靡な想いを振り払うすばる。
 (ダメダメ、何考えてるんだ、ボクは……さっさと済まそ)
 そう反省しながらもすばるは、足元を肩幅くらいに広げつつ膝頭を軽く合わせた、いかにも「女の子がおしっこする時」らしい格好を自分がとっているコトに気が付いていない。
 そのまま、ぴんと背筋を伸ばした状態でお尻を後ろに突き出すような姿勢になって、下腹部の尿意に意識を集中する。 
 これは、タックによってペニスが後方に折りたたまれて尿道が圧迫されている状態のため、少しでも尿道への圧力を減らすためだ。
 しばらくすると、普段小用を足すときとは、かなり異なる感覚が下半身に満ちてくるのがわかった。
 押さえつけられているせいかチ●チンの特有の放尿感覚がなく、陰嚢の皮で形成された疑似"陰裂"の下部、俗に"蟻の門渡り"と呼ばれる部位のあたりから、ちょろちょろと尿が滴り、次第に勢いを増していく。
 もっとも、尿道が圧迫されているため小便小僧的な"水流"にはならず、水撒きのホースを指で押さえたような、プシャッと噴き出す感覚に近いのだが。

 「えっと……あ、コレか」
 昨夜教えられた通り、"音姫"などと通称される女子トイレ固有の装置のボタンを押すと、水音が流れて、小用の音がかき消された。
 そのまましばらくして、立ちションよりかなり時間をかけて、ようやく溜まった尿を放出し終わると、思わずホッとした気分になる。こればかりは男女いずれの立場でも変わらない。
 男なら後は逸物を振れば済むのだが、今のすばるの状態では、アソコを折り畳んだペーパーで丁寧に拭くしかなかった(それがまた"彼女"に自分があたかも女の子になったかのような錯覚を無意識に植え付けているのだが……生憎本人は気づいていない)。
 立ちあがってショーツ、そしてスパッツを上げ、今度は本当に水を流して個室を出る。
 洗面所で手を洗い、首にかけたタオルで手を拭きながら、鏡を覗き込み、軽く身だしなみを整える。
 普段の無頓着な「昴流」ならまずそんなコトはしないが、今の状態が「普通ではない」以上、念のために鏡の前では必ずチェックするよう、母や美穂にもよく言い聞かされているのだ──無論、ふたりの真意が別にあるのは言うまでもない。
 「うーん、問題ない、かな」
 鏡の中に映っている人影は、すばるが自分で見ても腹立たしくなる程、「小学生にしては背は高めだが、普通に可愛い女の子」にしか見えなかった。
 (今の状況だと、そうじゃないと困るんだけど……何だかフクザツ)
 喜ぶべきか悲しむべきか、微妙な気持ちのまま、すばるは練習に戻った。

  * * * 

 その後の女バスの練習自体は極めてスムーズに進行した。
 几帳面な朋香や咲はもとより、奔放な眞子や不思議ちゃん系のそなたも、真面目にトレーニングに励み、わずか半日の練習とは思えない程上達していく。
 制服で見学している藍璃には、センターとして自分の動きをよく見ておくように言ってある。彼女も神妙に頷いて、懸命に理解しようとしているようだ。
 そして、練習後の着替えも、二度目とあって──眞子に着衣の上からヌーブラ入りの胸を揉まれるというハプニングはあったが──すばるもそれほどテンパることなく済ませることができた。
 もっとも、今回は別の部の先客がいたため使えなかったが、本来彼女たちは練習後にシャワーを浴びる習慣らしいので、次回はそれもクリアーする必要があるだろうが。

 「用があるから」と偽って仲間達と別れ、すばるは美穂のクルマで家まで送ってもらう──つもりだったのだが。
 「ミホねえ……ちょっと相談したいことがあるんだけど」
 「へぇ、珍しいね。まさか、すばるの方からそんなコト言うなんて。なになに、おねーさまに、話してみそ♪」
 「茶化さないでよ! 水都さんにさぁ、ちょっと怪しまれてるみたいなんだ──いや、女の子の格好してることじゃなくて、手加減してるんじゃないかって」
 「あ~、なるほろ」
 本来慣れたPG(ポイントガード)ではなく、センターのポジションについているとは言え、基礎体力自体が高校生男子と小学生女子ではかけ離れているのだ。一応セーブしているとは言え、個人技に関する部分ではやはり完全に隠すのは難しい。
 さらに言えば、すばる自身、かなりのバスケ馬鹿で、バスケに関しては熱くなりやすいタチだと言う自覚もあった。
 「ボクが我を忘れても実力をセーブできるような、工夫とか何か考えられない?」
 「うーん……さすがのあたしも、大リ●ガー養成ギプスまでは持ってないなぁ。パワ●リストとアンクルなら、一応あるけど?」
 「それしかないかなぁ。睡眠薬とか下剤を飲むとかも考えたんだけど、それも問題ありそうだし……」
 「(あ……いーコト思いついちゃった♪) ねぇ、すばる。ソレに近いこと──"人為的に体調不良にするする手段"なら、心あたりがないでもないわよ」
 「ホント、ミホねぇ!?」
 「ええ。ただ、当然のことながら、アンタの身体にちょっと負担がかかるけど……大丈夫?」
 「……やる」
 わずか2日間とは言え、共にバスケをした以上、すばるにとって彼女達はすでに「大切な仲間」という意識が芽生えていた。ここまできた以上、ぜひとも試合まで彼女達につきあって、何としても勝たせてあげたい。
 そのためにも、チーム1の実力者である朋香と気まずくなるのは避けたかった。
 「うむ、よく言った! それじゃあ、明日の練習までに用意しとくよ。それと……これから、ちょっと寄るところがあるから」

-つづく-
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