『籠球少女(偽) ロウきゅーガール?』(前編)

 連休恒例(?)の3連続更新の1。今回は、『桜小娘』関係のSSを書く際にも参考にさせてもらった、某さわやかローリング・スポーツコメディなラノベにインスパイアされた、男の娘物です。
 シチュエーション的には、「もし、すば●んの身長が10センチ程低かったら」。構想ヒネってるうちに、それ以外にも設定を色々いぢる必要ができてきたので、あえて『ロウきゅ●ぶ』二次創作という形にはしていません。某TMAの『涼宮ハヒル』とか『非日常』みたいなモノ……とでも思ってください(笑)。
 PIXIVには掲載済みで、このブログにもアップすべきかどうか迷ったのですが、元々投下してあった2ちゃんのSSスレが落ちたようなので、ピクシヴIDが無い人に向けて、こちらにも掲載することしました。


籠球少女(偽) ロウきゅーガール?』(前編)


Act.1

 最寄り駅からクルマでおよそ15分。バスなら軽く30分近くかけてたどり着く、赤煉瓦造りの塀に囲まれた、かなり広めの学び舎の名は、私立・恵心学園。
 初等部から大学部までを有する由緒正しい総合学園だ。もっとも、この場所にあるのは初等部と中等部だけで、高等部と大学部はそれぞれ郊外に別の校舎があるらしいが。
 それはさておくとして、「彼女」は少なからず当惑していた。

 そもそも、最初にこの話を持ち込まれた時は「一週間だけの臨時コーチ」と言う話だったのだ。気乗りせず、断わったのだが、依頼者──血縁上は叔母であり、実態的には姉貴分と言ってもよいその女性、高村美穂は執拗だった。
 ついに根負けして、どうせやることもない(正確には「やりたいことはできない」)のだから……と、妙な仏心を出して引き受けたのが運の尽きだった。
 土曜日の半ドン授業が終わってすぐに、迎えに来た美穂のクルマに引っ張り込まれ、渡されたジュースを飲んだところで、なぜか眠くなり……。
 車中で再び目が覚めたとき、まさか「こんなこと」になっているとは! どうやら、一服盛られたらしい。
 わざわざ自分を眠らせてまでこんなことをしたのはなぜか、まさか脅迫写真でも……と、とっさに浮かんだ「彼女」の考えは、当たらずとも遠からずだった。

 そのままロクに事情説明もせずにクルマから引っ張り出され(160センチそこそこの背丈しかないクセに美穂は呆れるほど馬鹿力なのだ)、有無を言わさず美穂の職場──つまり彼女が教鞭を執るここ恵心学園初等部の体育館に連れて来られたのだ。
 体育館には、美穂が顧問を務める女子バスケ部の部員達が待ち受けていた。
 改めて言うまでもなく、彼女達は、別段メイドさんのコスプレやスク水エプロンなんてヤバい格好はしていない。体操服&スパッツ(約1名制服から着替えていない子もいたが)という、ごく普通の運動部の部活の練習スタイルだ。
 「恵心学園・女子バスケ部、水都朋香です」
 「同じく、鷺澤眞子でーす!」
 「長津田咲です」
 「か、樫井、藍璃、です」
 「そなた──濱田そなた」
 「「「「「よろしくおねがいしまーーす」」」」」
 簡潔な自己紹介も、最後の声の揃った挨拶も、気合いが入っていて微笑ましい。十分好感に値すると思う。

 問題は……。
 「さ、アンタもチームメイトに自己紹介しな、"すばるちゃん"(さっき言った設定でね)」
 ニヤニヤしながら小声で補足する叔母を蹴っ飛ばしてやろうかと思うが、バスケ部員たちの手前、そういうワケにもいかないだろう。
 「えっと、は……じゃなくて、高村すばるです。こちらこそ、よろしくお願いします」
 5人の少女達と同じ襟と袖口に赤い縁取りのついた体操服と黒いスパッツ姿で、もぢもぢと恥じらいながら「彼女」もペコリと頭を下げる。
 おそらく女バスの面々は、「恥ずかしがり屋な娘だなぁ」とでも思ったことだろうが、真相はちょっと異なる。

 (うぅ……どうして、俺がこんなメに……)
 高村すばる──本名・羽瀬川昴流。恵心学園初等部6年B組の担任教師・高村美穂の姪……ではなく甥っ子だ。ついでに、ちょっと背は低いが小学生ではなくれっきとした高校1年生でもある。
 (いくら負傷で欠員が出たからって……恨むぞ、ミホ姉~~!)
 ──まぁ、そういうコトだ。
 昴流は、これからしばらく「別の小学校に通う6年生の女の子・高村すばる」として、この女バスのメンバーとともに練習に参加し、さらに1週間後に行われる男子バスケ部との練習試合に出場しなければいけないハメになったのだ。


Act.2

 思えば、入部したばかりのバスケ部が、3年の先輩の不純異性交遊による不祥事(なんでも12歳の子を誑かしたらしい)で1年間の活動停止となったことがすべての始まり……は言い過ぎでも、ケチのつき始めだったと、昴流は溜息をつく。

 そもそもバスケの腕を見込まれて体育科に入学したのに、そのバスケ部が活動停止となっては、何のためにこの七城高校に入ったのかわからなくなる。
 あまりのショックに昴流が、翌日の火曜日から3日続けて学校をサボったのも──まぁ、決して良い事ではないが──十分同情の余地があると言えるだろう。
 そして、プチひきこもり状態3日目の木曜の夕方、ミホ姉こと美穂が来襲し、昴流にちゃんと学校に行くことと、自分が顧問をする女子バスケ部の臨時コーチをすることを(主に肉体言語をもって)、承知させたのだ。
 とは言え、もともとアウトドア派である昴流も、部屋に引きこもっているのにはいい加減飽きていたし、そんなコトをしても何の解決にもならないことは頭では理解していたのだ。
 翌日。3日ぶりに顔を出した学校は──幼なじみの少女・萩谷アオイだけは、心配そうな素振りを見せたものの──呆れる程何も変わりはなく、昴流は拍子抜けした気分にさせられた。
 そう、バスケ部が活動停止になろうが、自分が数日無断欠席しようが、世の中は何も変わらない。その事実が、良くも悪くも昴流にある種の「悟り」めいた諦観をもたらした。
 五月病になった新入社員のような気分で授業時間を惰性で適当にやり過ごす。
 いろいろ気遣ってくれるアオイには悪いと思うが、こちらも適度にあしらって振り切り、本屋で適当に時間をつぶしてから帰宅した。
 もっとも、その際、しっかり「ミニバスケットのルールと指導」という実用書を買ってるあたりに、彼の義理固さが見てとれるが。

  * * * 

 そして迎えた土曜日。授業が終わるや否や、HRもまだだと言うのに堂々と教室に押しかけてきた美穂に昴流は拉致され、有無を言わさず彼女の愛車に押し込まれた。
 「ったく。教師のクセに無茶が過ぎるぞ、ミホ姉」
 「にゃはは、ごめんごめん。いや、昴流のこと信用してないワケじゃないけどさ。どうせなら、少しでも長くあの子達と練習してもらいたくて──時間もないことだし」
 ふぅん、と聞き流しかけて、最後のひと言が微妙に引っかかる。
 「……おい、ミホ姉、何か隠してるだろう?」
 「さ、さぁねぇ~」
 トボケようとする彼女を何とか問い詰めたところで、女子バスケ部が来週の土曜日に練習試合を控えていて、その結果如何で廃部になることを昴流は知ってしまう。
 「ちょ、なんでそんな大事なコト黙ってたんだよ!?」
 「言えば、アンタ、絶対尻ごみしたでしょ?」
 「そんなコト……」
 ない、とは言えなかった。
 確かに、1週間のコーチでできることなどたかが知れている。それでも、その子たちが負けたとしたら──自分は彼女達の「バスケをする場所を守ってやれなかったコト」を悔やみ、落ち込むだろう。
 そして、それがわかるからこそ、ハンパな関わり方を拒否したはずだ。

 「くそっ! せめて俺自身が試合に参加できれば、いろいろやり方もあるのに……」
 「(ちゃーんす♪ 確かに言質はとったわよ~)それより、昴流、着くまでにコレでも飲んどきなさい。生憎、昼ご飯食べてる暇はないからね」
 そう言って、ブリスターパック入りのジュースを助手席に投げてくる美穂。
 「ひでぇッ!!」
 苦笑しつつも、パックにストローを刺して飲み始め……たトコロで、ブフッと吹き出しかける昴流。
 「な、なんだよ、この「どろり濃厚果汁200%」って?」
 「ん? 言葉通りでしょ。本来の半分の量まで煮詰めてあるんじゃない?」
 昴流の抗議をサラリと美穂は受け流す。
 「いやぁ、名前がおもしろそうだったんで、つい買っちゃったんだけど、さすがに自分で飲むのはためらわれてね~。で、どう、味の方は?」
 「……第一印象よりは、マズくない」
 とは言え、空き腹にめちゃめちゃ甘い果汁ジュース(カ●ピス原液なみの濃さ)を流し込むのはちょっとした苦行だった。まぁ、カロリー補給だけはそれなりにできそうだが……。
 四苦八苦しつつジュースを飲み終えた昴流は、だから気付かなかった。
 パックの角に一度開封された痕跡があったことに。そして、ジュースの濃さにまぎれて、微妙に味がヘンだったことに……。

  * * * 

 「ほら、そろそろ起きな、すばる!」
 ゆさゆさと体を揺さぶられて、昴流は自分がクルマの中で寝てしまっていたことに気付いた。
 「あ、ああ、ごめん、ミホ姉。ちょっとウトウトして……」
 言いかけて、軽い違和感に襲われる。
 確か、学校から直で拉致られた自分は、紺色のブレザーとスラックスという七高──七城高校の男子制服を着ているはずではないだろうか?
 それなのに、妙に手足がスースーするような気が……。
 「!」
 気のせいではなかった。長袖長ズボンから、いつの間にか半袖の体操服に着替えて──もとい着替えさせられていたのだ。
 いや、体操服姿であること自体はいい。コーチ役とは言え、指導上身体を動かす必要がある時もあるだろう。
 勝手に着替えさせられたのも、まぁいい。本当はあまりよくはないが、どうせこんなコトをするのは美穂くらいのものだ。恥ずかしさが皆無というわけではないが、姉弟とか従姉弟に近い感覚の間柄だし、今更だろう。

 問題は──「どうして、スポーツバッグに詰めて用意してあった、自分の七高の体操着ではなく、見覚えのない赤い縁取りの体操服を着せられているのか?」という点だ。
 おまけにボトムは、ショートパンツではなく3分丈程度の紺のスパッツ。ピッチリして臀部のラインが如実出過ぎるので、パンツ一枚でいるような気恥しさを覚えてしまう。
 「おい、ミホ姉! 説明してくれるんだろうな?」
 さすがにコレは「お茶目なジョーク」で済まされるレベルのイタズラではないと、彼なりに険悪な声で問い詰めた昴流だったが……直後に、聞くんじゃなかった、と後悔するハメになる。

 美穂によると、5人しかいない女子バスケ部の部員のひとりが昨日利き手をケガしたと言うのだ。幸い骨に少しヒビが入った程度らしいが、それでもバスケットボールの試合はおろかこの1週間練習だってできるはずがない。
 このままでは不戦勝になるし、ケガを押してその子を棒立ちのカカシとして出場させても、結果は変わらないだろう。
 「そこで、アンタの出番ってワケよ」
 「フザケんな! 高校生が小学生の試合に出られるワケがないだろ!?」
 しかしながら、幼いころからの経験で、激昂する昴流をいなすコトにかけては美穂の右に出る者はいない。
 美穂は、懇切丁寧に女バスの窮状を訴えて出鼻をくじき、眠っている間に撮った写真をネタに脅し、さらに「たった1週間の我慢だから」となだめすかして、ついに「バスケ経験のある女子小学生」のフリをすることを、昴流に承知させたのだった。

  * * * 

 「いーい? このクルマを一歩出たら、アンタは、あたしの姪っ子で、とある私立小学校に通う6年生の"高村すばる"ちゃんだからね」
 「はぁ~……もぅ、好きにしてくれ」
 「おっと、言葉使いにも気をつけなさい。まぁ、とりあえずは初対面だし、です・増す調の丁寧語でしゃべるようにしてれば、ボロは出ないわよ」
 学園の駐車場でクルマを降りた時、一瞬そのまま逃げようかとも思ったのだが、生憎と着替えの入ったカバンは美穂のクルマのトランクの中だ。この格好のまま外を出歩きたいと思うほどの勇気はなかった。
 「それにしても、俺「私か、せめて僕にしときなさい」……ボクの正体が、本当にバレないと思ってるのか「ですか」……思ってるんですか?」
 体育館までの道のりで、小声で(一部言葉遣いを正されながら)会話する。
 「思ってるわよ。だって、アンタ、男にしとくにはもったいない程、可愛い顔してるし」
 「ぐっ……!」
 「背だって160センチちょっとしかないし」
 「ぅぐッ!」
 小柄で童顔(というか女顔)という昴流のコンプレックスを的確に突いてくる美穂。
 「手足も華奢で撫で肩だし、体毛も薄いしね。アソコだって……」
 「はぅわぁ!!」
 もうやめてー! スバルンのライフはもうゼロよー……と、自分でツッコミながら、果てしなく落ち込む昴流。

 「──って言うか、なんでミホ姉が、お…ボクのアソコの毛のことまで知ってるんだよ!?」
 何とかとっかかりを見つけて反論するものの……。
 「さっき、着替えさせる時に見たから」
 当たり前のような顔をして、シレッと返す美穂の答えに、完全に心を折られる。
 「も、もしかして、この下は……」
 思わず履いているスパッツに視線を落とす昴流──いや、すばる。
 「にゅふふ、もっちろん、かーいいの履かせといてあげたよ~。まぁ、急な話だったから、近くのウニクロにあったローティーン向けのショーツだけど」
 おそるおそる今履いてる(履かされてる)スパッツのお腹の部分をめくりかけたすばるは、白と水色のストライプが見えた時点で、あわてて手を離した。
 「し、縞パンとか、何考えてんだよ、ミホ姉ぇ~!!」
 「おろ、クマさんパンツの方が良かった? それとももっとアダルティなヤツが好み? うーん、でも一応"すばるちゃん"は12歳の女の子だから、背伸びし過ぎるのはどうかと思うなぁ」
 スッ惚けたことをヌかす美穂。無論、わかっていて弟分をからかっているのだ。

 何と言ってよいかわからず、目を白黒させてる昴流に、幾分マジメな顔になって、「女子小学生としての擬装のためだから」と言い聞かせる。
 「そう言えば、こんなピッチリしたの履いてるのに、その……ま、前の膨らみが見当たらないんですけど?」
 (まさか、昔冗談で言ってたみたいにハサミでチョン切ったわけじゃあ……いやいやさすがにソレはない!)
 「ああ、それはタックって言ってね……」
 得意げな美穂の説明によると、タックとは女装をたしなむ人が自分のち○ち○を隠すための技術らしい。要は、"球"を体内に押し込んだうえで、"竿"を後ろに倒して手術用接着剤で固定し、余った"袋"の皮を貼り合わせて女のソレに近い形に見せかけているのだ。
 「ちなみに、上はブラじゃなくてカップ付きハーフトップにしといてあげたよ。ヌーブラも胸に貼り付けてあるからちょびっと膨らみもあるように見えるしね」
 何、この細やかな心遣い?
 こういう気配りはもっとまともな方面に発揮してほしい……と心から願うすばるなのだった。


Act.3

 ──そして、物語は冒頭の場面に戻るワケだ。

 懸念していたよりは、"高村すばる"と恵心女バスメンバーとの邂逅は巧くいった。
 「高村すばるです。これから試合までの一週間という短いあいだですが、こちらこそよろしくお願いします」
 5人に向かってペコリと頭を下げる。体育会系で元々礼儀正しい面のある昴流にとっては、たとえ年下の女の子とは言え、初対面の相手に礼を尽くすことは別段苦にならない。
 挨拶も済んでさてコレからどうすれば……と思ったところで、綺麗に整えられたボブカットの少女──確か"水都朋香(みなと・ともか)"と名乗った娘が、一歩前に出て聞いてきた。
 「その、不躾ですが、高村さんはポジションはどこを?」
 「えっと、ポ……」
 PG(ポイントガード)と言いかけて思い直す。
 高1の男子バスケ部員なら当り前だが、小6でこの身長なら……。
 「ポ、ポストです。センターって言うほうがわかりやすいかもしれません」
 一応、中学の頃はキャプテン兼司令塔としてチームを引っ張っていたので、ポストプレイに関する知識もそれなりにはあるから、大丈夫……だと思う、たぶん。
 「そうですか。負傷した藍璃の穴を埋めてもらうのなら、それが一番助かります」
 なるほど。体操服に着替えていない長身(たぶん170センチ近くありそうだ)の「樫井藍璃(かしい・あいり)と名乗っていた子が、腕をケガしたメンバーなのだろう。言われてみれば、制服の下の右腕が、包帯でも巻いているのか不自然に膨らんでいる気がする。
 「しばらくブランクがあるので、多少ぎこちないかもしれませんが、精一杯がんばります」
 センターなんて、ほとんどやったコトのないポジションだが、本来は15歳の男が4学年下の女子に混じってプレイするなら、このくらいのハンデはあって然るべきだろう。

 「ねぇ、すばるぅん!」
 金髪に近い栗毛をツインテールにまとめた少女、鷺澤眞子(さぎさわ・まこ)が、グイとすばるの手を引っ張る。
 「わわっ、さ、鷺澤さん……ですよね? どうかしましたか?」
 「あのさぁ、そういうしゃべり方だと疲れない? あたし達、チームメイトなんだから、普通に話そ、ね?」
 初対面からざっくばらんというかフランクな娘だが、これが彼女の持ち味なんだろう。
 とは言え、普通に「女の子口調で」話すとなるとボロが出そうな気がする。美穂に言われた通り今日のところは丁寧語で通す方が無難だろう。
 「えっと、すみません、人見知りする方なんで、いきなりはちょっと……」
 「え~、ノリが悪いなぁ」
 ブーブーと頬を膨らませる眞子を、アイガードをかけた長髪の子──長津田咲(ながつだ・さき)がたしなめる。
 「コラ、眞子、そんなこと言わないの。ごめんなさい、高村さん、この子、悪気はないんだけど、慣れ慣れしくて」
 「い、いえ、気にしてませんから……。じゃ、じゃあ、早速練習始めませんか?」
 彼女達との接し方と距離感についてはひとまず棚上げすることにして、話題を逸らす。
 「そうですね! じゃあ、みんな、まずはいつも通り準備体操から始めよう」
 「おー、そなた、練習、がんばる!」
 朋香の賛同の言葉に、飛びぬけて小柄なふわふわ髪の少女──濱田そなたも元気よく同意したため、ようやく練習が始まったのだった。

 さて、いったん練習が始まれば、すばるもスポーツマンのハシクレ(まぁ、今の外見では"スポーツガール"だが)として、雑念をある程度切り捨てることができる。
 10分ほど柔軟を兼ねた準備体操を行ったのち、まずは互いの技量を確認する意味で、ひとり5本ずつフリースローを打つ。
 張り切って先陣をきった眞子は、ボールの勢いはいいもののコントロールが乱雑で、リングに当たったのが3回で1本も入らず。
 二番手の咲は、シュートの勢いは劣るものの、精確さでは眞子より勝り、1点獲得。
 その次のそなたは根本的な力不足だ。ゴールまでシュートが届かない。

 そして、四番目にボールを手にした朋香は……。
 「!!」
 その光景を見た時、すばるは思わず息を飲んだ。
 これほど美しいフォームでシュートを打つ選手を見たのは初めてだったからだ。
 恵心女バスの中で唯一のバスケ経験者だとは聞いていたが、女子のミニバスに多いボスハンドではなくワンハンドで、軽くジャンプしてシュートを打つその背中に、まるで天使の羽でも生えているかのように、すばるの目には映った。
 すばるの熱い視線も知らず、気負うことなく5本ともなんなく決める朋香。
 「はい、最後は高村さんの番ですよ」
 「……あ、はい」
 朋香のシュートの余韻に酔ったような心地のすばるは、いつもよりボールが小さいこともあって、1本目を外してしまう。
 「あ……」
 もっとも、それで負けず嫌いな気性に火がついたのか、残る4本は力加減を考え入れてキチンと入れてみせる。
 「おぉ、すっげえ! すばるん、やるじゃん」
 「すごいわね。これなら試合に勝てる見込みが出てきたわ」
 盛り上がる眞子と咲を尻目に、すばると朋香の視線が交錯し──ふたりはニコリと微笑む。それなりの技量を持つ者同士のみが分かる境地というヤツはあるのだ。
 その後は、すばると朋香が相談して決めたドリブルとパスの練習、そして最後は3on3ならぬ3on2の変則マッチを行い、今日の練習は終了となった。

  * * * 

 「あ~、つっかれたぁ。でも、楽しかったなぁ」
 「おー、練習、たくさん」 
 「そうね。これまで以上に充実してたわ。やっぱり経験者がふたりもいると違うものなのね」
 クールダウンを兼ねた軽いストレッチをしながら、眞子たち三人は満足そうだ。
 「すごいですね、高村さん」
 「いえ、水都さんこそ……」
 お世辞ではなく、まぎれもなく本音だ。「小六女子」として多少実力をセーブしていたとは言え、朋香はすばるの予想を大きく上回る技量を見せてくれたのだ。

 「おーし、そろそろアガリの時間だぞ。ちゃっちゃと着替えて気をつけて帰れよ~」
 「一応」顧問として監督していた(というか見てただけ)の美穂が、それでも最後には先生らしいことを言って締める。
 「もう6時20分なのね。みんな、更衣室に移動しましょ」
 「そうだね。あ、高村さん、こっちです」
 だが、和やかな雰囲気で女バスメンバーに誘われた瞬間、すばるの中の充実した時間は終わりを告げた。
 (な!? き、着替えるって……)
 さきほどまでの心地よい疲労感に満ちた汗ではなく、ガマの油のような冷や汗が背中を滴り落ちる。
 (さすがにソレは、マズいよ!)
 いくら相手が小学生とは言え、そろそろ多感なお年頃の女の子たちの着替えを間近で見るのは、年上の男としてアウト過ぎる。
 第一、いくらすばるが小柄で女顔とは言え、裸になったら流石にバレる──と思う(もしバレなかったら、それはソレで何か大切なモノを喪うような気がするし)。

 進退きわまったすばるを救ってくれたのは(はなはだ遺憾なことに)、叔母である美穂だった。
 「あー、スマン、こいつ、この後ちょっと用事があるらしくてな。着替えもあたしの部屋に置いてあるから、これからクルマで送ってやんないといけないんだよ」
 「地獄に仏とは、このコトか!」と、思わずチワワのようなうるうる目で、美穂に感謝の視線を向ける──もっとも、その"地獄"に放り込んだのも彼女本人なワケだが。
 「明日は朝9時に体育館に集合するように」などと顧問らしげな言葉を残し、美穂は体操着姿のすばるを連れて駐車場に戻った。

 「た、たすかった~」
 クルマが発進した瞬間、思わず脱力して素の言葉を漏らす昴流。
 「大げさだなぁ。今日は大目にみたけど、明日からはちゃんとみんなと一緒に着替えなさいよ」
 「いいっ!?」
 一難去ってまた一難とはこの事か。
 「当り前でしょ、臨時とは言えチームメイトなんだから」
 「み、ミホ姉は、それでいいのかよ、教師として」
 「にゅふふ、あたしは、"すばるちゃん"のコトは信頼してるからねー」
 流し目で含み笑いをしていた美穂だが、表情をやや真面目なものに改める。
 「それより──どうだった、今日一緒に練習してみて」
 「……まぁ、悪くはない気分、かも」
 悪戯好きの叔母を調子づかせるのはシャクだったが、それでもすばるは正直にそう答える。
 わずか5日ぶりとは思えないほど、バスケットボールを手にしてコートを走り回るのは楽しかった。それに──と、4人の「チームメイト」の顔を思い浮かべる。
 「水都さんは、バスケ選手としてすごく高いバランスで仕上がってる。強いて言うと、ややチームプレイがぎこちないところがあるくらいかな。
 鷺澤さんの運動神経は女の子離れしてるし、長津田さんの正確なコントロールと落ち着いた性格も頼りになりそうだ。濱田さんは、体力さえつけば逆にその小柄さと気配の読みにくさを武器にできると思う。ただ……」
 そう、練習試合まで、あと一週間しかないのだ。
 「だから、アンタを引っ張り込んだんじゃん。お願い、すばる。あの子達のバスケできる場所、守ってあげて」
 「……できる限りの努力はする」
 ぶっきら棒に、そう答えるすばる。

 ──しかし、彼はまだ知らない。
 「じゃ、途中で投げ出さないように、股間は来週までそのままね」と、美穂の部屋に帰って来ても、股間のタックを外してもらえないことを。
 「それと、平日の放課後はコレ着て、学園(ウチ)まで来なさい。あぁ、那夕お姉ちゃん(昴流の母)には話通してあるから、心配ないわよ」
 と、恵心学園初等部の女子制服(薄紫をベースにしたセーラーカラーの膝丈ワンピース。ただし、襟元やスカートの裾にはレースとフリルが一杯)を、ラン型スリップ&ショーツ込みで渡され、頭が真っ白になることを。

 こうして、"高村すばる"の女子小学生(偽)ライフは、幕を開けたのである!


-つづく-
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