『犬耳ッ! -俺の弟分が犬耳美少女過ぎる件について-』

 初代支援所のふたばスレに投下した作品。今読み直すと結構稚拙で恥ずかしい部分も多いのですが、あえてリライトは最小限にとどめました。 
 前提条件として、本作はKCA的α世界線(魔法や神魔の存在が一般的ではなく、TS病が存在する世界)でのお話。例によって、R指定版なので、Hシーンが読みたい人はピクシヴへ。


犬耳ッ! -俺の弟分が犬耳美少女過ぎる件について-

●その1:過去と現在

 「ど、どうかな、清にぃちゃん……?」
 「あ、ああ……いいんじゃないか? 似合ってるぞ」
 着慣れない和服姿ではにかむ幼馴染の姿にポカンと見とれていた俺は、慌てて肯定の返事を返す。
 「ホント!?」
 「うん、まぁ」
 途端にパッと花が綻ぶような笑顔になる幼馴染。
 「ありがとー♪」

 幼馴染の弟分・利明が、小学校卒業を目前にしたある日、TS病を発病した。
 しかも、犬耳属性付きとは……。
 医者の話では、TS病患者には、こんな風に耳の形が変わったり、尻尾や翼がはえたりだとかの「異変」が極々稀に起こるらしい。
 オーマイガッ! 神様、コレは獣耳スキーな俺に対する、生殺しという名の拷問ですか? それともご褒美?
 ……だが、ヤツは(元)男だッ!
 たとえ、卒業式の袴姿が可愛かろうと、中学の女子制服のセーラー姿に萌えようと、夏休みに妙に露出の多い格好でオレん家に遊びに来ようと……。
 明利(あかり)は、元男の子なんだ! 俺のことを兄貴分として慕っているだけなんだっ! 耐えろ俺! 弟分(いまは妹分だけど)の信頼を裏切る気か!?

 ──そういう風に思っていた時期が、俺にもありました。
 「きーよにぃ♪」
 「あ、こら、今日は勉強するんだろ?」
 「ぶぅ、清兄ってば冷たぁい。こ~んな可愛い彼女と部屋でふたりきりなのにィ」
 ……ええ、まぁ、コイツが高校入った頃に、我慢できずにキスしちゃいましたヨ。
 もっとも、向こうは随分前からアピールしていたつもりらしく、その場で互いに告白、即OKって流れになったんで、問題ないっちゃないんだけど。
 「それと、呼び方。また戻ってンぞ?」
 「あ! ゴメンゴメン……いやぁ、長年の習慣で」
 まぁ確かに、2年前相思相愛の恋人になってからも、俺のこと「清兄」って呼び続けてきたからな。
 それでも、先月、こいつの18歳の誕生日に恋人として最後の局面までたどり着いて以来、呼び方も変えようってことになったんだけど……やっぱ、なかなか慣れないみたいだ。
 「ほらほら、来年は俺と同じ大学入るんだろ。頑張れ、受験生」
 「はいはい、わかったわよ、き・よ・ひ・こ・さん♪」
 「……ッ!」
 「あはは、照れてる? ねぇ、照れてる? それともダーリンの方がいい?」
 「うるさい!」
 ふぅ、昔は俺の陰に隠れてもじもじしてた子が、いつの間にこんな小悪魔になったのやら。
 ふむ。思い返せば、中学2年になった頃からか? それくらいから女としての生活に慣れて、色々女友達ができたみたいだし、その影響かもな。
 まぁ、それでも顔がニヤケてしまうのは、やっぱ惚れた弱みかねぇ。

 * * *

 「お待たせ……って、ああっ! 何見てるのよォ!?」
 勉強がひと段落したところで、お茶を入れに行ったあかりが部屋に戻って来た時、俺はおもしろいものをあかりの机から見つけてペラペラとめくっていた。
 「や、スマン。そこの机の上にアルバムがあったんでな、つい」
 「もぅ、レディのプライバシーを覗くなんて……彼氏としてちょっとデリカシーに欠けるゾ?」
 「だから、ごめんって。ま、それはさておき、何だか懐かしい写真が満載だな」
 「あ、それだよね。うん、あたしも昨日押入れから見つけて、清彦さんに見せようと思って出しておいたんだ」
 ──「どうせ見せるつもりだったのに、なぜに怒られるんだ?」という疑問は、口にしないほうが賢明なのだろう。
 一つ年下の実妹と、妹分から昇格した彼女を持つ身として、俺も最近はその程度は学習したのだ。いわゆる「乙女の秘密」とかいうヤツらしい。
 「これは……小学校卒業の時だよな?」
 アルバムの中では、薄紅色の着物と紺色の袴を着た少女が、嬉しいような困ったような複雑な顔でこちらを見ている。
 「うん。そう言えば、この時初めて女の子の服着たんだよね」
 何か思い出したのか、クスクスとあかりが忍び笑いを漏らす。
 「どした?」
 「いやね、あの時の「ボク」ってば、人前で女の子の服着ることを嫌がってたんだよねー」
 「ああ、なるほど」
 確かに、小学生のころの明利(あかり)……いや、利明は、元々線の細い女の子に間違われることもある可愛らしい男の子だった。だからこそ、「男女」とか言ってからかわれることも多く、自分が男っぽくないのを気にしていたのだろう。
 それが、何の因果か100万人にひとりの奇病・TS病で本物の女の子になってしまうとは……運命とはなかなに残酷なものだ。
 「退院したのって、確か卒業式の一週間ほど前だったっけ?」
 「うん、そのはず。だから、お母さん達も困ったみたい」
 今後女性として生きていくことになる利明が、小学校の卒業アルバムに男の子の格好で載るのは、あまり好ましくないと考えたのだろう。
 しかし、女児用スーツやワンピースの類いは、どうしても本人が着たがらなかった。
 そこで、苦肉の策として、和服、それも着物+袴という組み合わせを提案したらしい。
 「剣道とか弓道とかを引き合いに出して「こういう着物は、男女関係なく着るものよ」って説得されたんだよね」
 利明も渋々納得したものの、それでもヘンじゃないかと気にしてたらしい。
 「で、おそるおそる家から出たとき、清にぃちゃんに会ったんだ」
 「ああ、覚えてる」
 なにせ、見たことのないような可愛らしい娘が利明ン家から出て来たのと、その娘が実は弟分の利明だってことに気付いたのとで、二度びっくりしたからな。
 「あの時さ、清にぃちゃんが「似合ってる」って言ってくれたから、ボクは……あたしはそのまま卒業式に出るふんぎりがついたんだよ」
 そ、そーなのか。
 いや、あの時は俺もテンパってたから、何言ったかハッキリは覚えてないんだが、それでも弟分改め妹分の助けになれたのなら幸いだ。

 「で、こっちが中学に入った直後くらいだね」
 紺色のセーラー服に身を包み、両手を腰に当ててるあかりの姿は、その少し前のオドオドっぷりが嘘みたいに、「元気な女の子」に見える。
 「そう言えば、中学に入った途端、お前、ずいぶんと雰囲気変わったよな」
 「うーーん、まぁね。実のところ、アレはある意味ワザとでもあったんだけどね」
 あかりいわく、中学進学を契機に女性になったのは、絶妙なタイミングだったらしい。
 もともと、あまり男の子のグループと積極的に交流しておらず、かといって女の子のコミュニティーにも当然入ってなかった「気弱な少年の利明」は、「女の子のあかり」となったとほぼ同時に新しい学校に進むことで、うまい具合に中学で形成される「女の子グループ」に混ざることができたのだそうな。
 「その意味では、ふたばちゃんには、ホントいくら感謝してもしきれないわ」
 なるほど。その過程で我が愚妹も多少は助けになってくれたらしい。まぁ、俺、利明、ふたばという幼馴染トリオの中では、ふたばは同い年ながら利明のことを弟的に見てたフシがあるからな。もともと世話焼きでもあるし。
 「そ・れ・に~、この中学の制服着たのを見て、初めて清兄、あたしのことを「かわいい」って誉めてくれたんだよ♪」
 「いいッ!? そ、そんなコト……」
 ……言ったな、そういえば。
 思えば、入学式が終わって体育館から出てきた新入生の群れの中から、こちらに手を振りながら駆け寄ってくる明利に桜の花びらが降りかかる様に見とれて、初めて「ああ、コイツ、女なんだな」と実感したんだっけ。
 まぁ、その直後にベシャッとコケてベソかく様子を見て、「でも、変わったのは見かけだけか」と安心したような落胆したような複雑な感慨を抱いたんだけど。
 「──そういや、あの時って、「もう泣くなって。可愛い顔が台無しだぞ」とか言って助け起こしたんだよな。うわぁ、今にして思うとなんつー恥ずいコトを」
 「あはは。でも、それを聞いたボクは嬉しかったよ。大事な清兄が「女の子のボク」を認めてくれるってわかったからね。だから、「それじゃあ、女の子としてがんばってみよっかな」って気になったし」
 「──もしかして、部活で弓道部を選んだのも、例の袴姿を俺が褒めたからか?」
 「うーん、それも理由のひとつかな。あと、弓道は、男女差のハンデがあまりないスポーツだからってのもあるけど」
 実際、中学高校と続けたあかりの弓道の腕前は、かなりのもので、中学では地区大会2位、高校でも2年の時にインターハイ出場を果たしているくらいだ。
 中学3年時には部長、高校2年でも副部長を務めているし、元々集中力のあるあかりと弓道との組み合わせはきわめて相性が良かったと言えるだろう。
 あかりの弓道着姿もバッチリ決まってるんだよなぁ。地方新聞がインターハイ期待の星として取材に来たくらいだし。 
 「いえいえ、ワタクシなんか、剣道で全国4位に入賞した清彦センセイには到底及びませんのコトよ」
 ヲイヲイ、からかうなよ。第一俺が入賞したのは団体戦だし、俺なんか個人戦ではインターハイに出てすらいないんだからな。

 「でも、そんなこんなで「ボク」から「あたし」へとどんどん意識改革していってるのに、この鈍感さんときたら、ぜんっぜん気づいてくれないんだもんねー」
 「いや、そんなコトはないぞ。えーと、ホレ、この写真の時とか、結構俺もいっぱいいっぱいだったし」
 プンプンと可愛く拗ねるあかりをなだめるべく、俺はアルバムを何枚かめくってお目当ての写真を見つけた。
 「え! ウソ!? コレって……確か中学2年の夏、だよね」
 「まぁ、写真の日付からしてもそうだろうな」
 「で、でもさ、この頃のあたしって……自分で言うのもナンだけど、お子様体型って言うか、まだ胸とかペッタンコだよ?」
 「まーな」
 自分から言ってて落ち込むあかりの頭をポンポンと撫でつつ、俺は、あかりがこの服装で俺の部屋に遊びに来た時のことを思い出していた。


○その2:夏のお嬢さん

 それは、桜守姫利明(おうすき・としあき)という少年が、桜守姫明利(おうすき・あかり)という少女になってから1年半ほどの歳月が過ぎた、とある夏の日のこと。
 「彼女」のひとつ年上の幼馴染にして兄貴分でもある少年、巽清彦は珍しく自室にこもって夏休みの課題を片付けていた。
 剣道部の主将であり元来アウトドア派である清彦だが、今日の予想最高気温は37度。どこの砂漠かと思わせるような猛暑の中に出かけていく気には流石になれなかった。
 もっとも、妹の双葉のようにプールに出かけるという手もアリだろうが……。
 (野郎ばっかりで泳ぎに行ってもなぁ~)
 クラスメイトや部活仲間などに女友達が皆無というわけではないが、哀しいかなプールに誘えるほど親しい仲の女の子はひとりとしていない。
 いや、正確にはひとりだけ心あたりはあるのだが……。
 (飢えた狼の群れに、いたいけな妹分を投げ込むワケにはいかんだろ)
 「保護者」として、清彦はそのような事態はむしろ断固阻止する心積もりだった。
 「アイツは兄貴分たる俺が護る!」と、グッと鉛筆を握りしめて決意を新たにする清彦だったが、ちょうどその時、母親がその妹分の来訪を告げた。
 しかし。
 「──清にぃちゃん……ボク…ボク……」
 彼の部屋の前まで来た妹分──あかりは、息も絶え絶えなか細い声で何かを清彦に訴えようとしている。
 ガン! と頭を殴りつけられたような気分だった。
 中学に入って以来、内気で人見知りがちだった小学校時代とは異なり、「彼女」は少しずつ明るく積極的になってきていたはずだ。
 幼馴染である彼や彼の妹以外にも随分と友達が増えた様子だった。
 中学に入ってから始めた部活の弓道も、あかりの性に合っていたのか随分と上達し、それもまた「彼女」の自信に繋がっていたのだろう。
 「ボク……もぅ…ダメかも……」
 けれど、今のあかりの声は、まるで小学生時代に逆戻りしたかのように、覚束なく頼りなさげに聞こえた。
 「どうした!? 何があった? 誰か意地悪な女にいぢめられたか? それともどこかの不埒な男に乱暴でもされかけたのか? クソッ、よくも俺の大事な大事な妹分(あかり)を……」
 急いでドアを開け、彼女を抱きかかえるようにして部屋の中に招き入れながら、清彦は、瞬時にヒートアップして矢継ぎ早に問いかけた。
 ところが。
 「はふぅ~、清にぃちゃん……ボク、も、ダメ……死ぬ……」
 そこには、あまりの暑さに目を回し、脳みそが蕩けかけた14歳の犬耳少女がいただけだった。

 「いやぁ、クーラーはいいねぇ。人類が生み出した文明の極みだよ♪」
 冷房の利いた清彦の部屋(受験生なので親に無理言ってエアコンを付けさせたのだ)に転がり込み、彼の母が持ってきた冷たい麦茶を飲んだ途端、アッサリあかりはいつもの元気を取り戻していた。
 「ドたわけ! いくら暑いからって、あんな死にそうな声を出すヤツがあるか!」
 早とちりした照れかくしもあって、仏頂面のまま清彦がジロリと寝転がる妹分をニラみつける。
 「うぅ……だって、ウチの家のクーラーが壊れちゃったんだもん。この家に来るまで、マジで干からびるかと思ったよ~」
 あかりの家は、彼女の両親の方針でリビングにしかクーラーがないのだ。
 「クーラーがダメでも扇風機があるだろうが」
 「あのね、清にぃちゃん。扇風機を使って風を受けると涼しく感じるのは、周囲の温度が体温より低いからだよ? こんな人間の平熱とたいしてかわらない温度の風受けたって、涼しいはずないじゃない」
 確かに正論だった。
 「む……しかし、お前、まがりなりにも精神修養が必須の弓道部員だろう? 心頭滅却して耐えられないのか?」
 「それ、剣道部主将の清にぃちゃんにだけは言われたくないよ」
 見事なあかりのカウンターパンチに、清彦も白旗を上げるしかない。
 「──それとも、ボクがいると迷惑、かな?」
 ちょっとだけ上目使いになった可愛い妹分にそう問われて、清彦が肯定できるはずがない。
 「いや、それは別にいいんだがな。ただ、今ちょうど課題やってるところだから、あまり構ってやれねーぞ?」
 「うん、いいよ~。しばらく……て言うか、とりあえず陽が落ちるまで、この部屋で涼ませて欲しいだけだし」
 と、平然と清彦のベッドの上に寝転がって本棚からマンガを取り出して読み始めるあかり。
 「すでにくつろぎ体勢かよ!? 一応は部屋の主に断れよ!」
 とツッコミは入れるものの、元より互いに物心ついた頃からずっと一緒に育ってきた気の置けない仲だ。清彦自身も言うほど気にしてはおらず、そのままやりかけの課題へと意識を戻した。

 それから、おおよそ2時間あまりが過ぎただろうか。
 「ん……はぁ。今日はこのヘンにしとくか」
 普段あまり根を詰めて勉強なぞやらない清彦にしては、2時間も集中力が保ったのは上出来だろう。あるいは、「妹分に情けない姿を見せたくない」という見栄のようなものもあったのかもしれない。
 「おーい、あかりィ! 一段落したから相手してやれるぞ。ゲームでもするか?」
 ところが。
 「zzz……」
 当のあかりの方は、いつの間にやら、マンガ本を枕元に放り出してベッドの上で仰向けになって熟睡しているようだった。
 「ったく、お姫様はお昼寝中かよ」
 ボヤきながらも、彼女を見る清彦の視線は優しい。
 「おーい、いくら暑いったって、こんなクーラーの効いてる中でヘソ出して寝てたら風邪ひくぞ~」
 妹同然、いや実の妹に対するのより数段優しさと気遣いの籠った口調でそう呟くと、清彦は上に何か掛けてやろうとベッドの足もとの方へと向かう。
 「しょうがねーなぁ」などと言いつつ、あかりが床に蹴り落としたタオルケットを拾って、彼女の方に向き直った清彦だったが、突然そのままの姿勢でカチンと固まってしまう。
 その原因は、今日のあかりの服装にあった。

 1年半前の春に性別が♂から♀に変わった「彼女」だったが、中学の制服は別にして、当初はやはり普段着ではショートパンツやジーンズといったパンツルックを着ていることが多かった。
 あかりの両親もデキた人だったので、無理に女の子らしい服を強要しようとはせずに、できるだけ彼女の意志に沿うようにしていたのだ。
 そういう格好をしているためか、女友達の中では自然と「活発でボーイッシュなコ」という役回りを期待されることが多く、それに応える形で「彼女」の引っ込み思案がいつの間にか直っていったのだから、これはある意味、怪我の功名と言えるかもしれない。
 そうやって、女の子の輪の中に徐々に溶け込んでいったあかりだったが、逆に女の子としてのライフスタイルに馴染んで来たせいか、当初ほどスカートを履くことへの抵抗はなくなってきたようだ。
 そもそも、平日はほぼ毎日制服でスカートを履いているわけだし、むしろ当然とも言えるだろう。
 そこで、中学2年生に進級したころから、私服でもスカートを履くことが少しずつ増え始めたのだ。
 彼女の両親、とくに母親のほうは密かにこの傾向を歓迎している。やはり女親たるもの、可愛い娘を着せ替えさせることに一度は憧れを抱くものらしい。まだフェミニンなワンピースなどは恥ずかしがって着てくれないが、それでも婦人物売り場へつきあうようになった愛娘のことを、母は以前にもまして可愛がるようになっていた。
 閑話休題。
 そんなワケで、今日の彼女は、肩を思い切り露出したキャミソールと、制服以上に丈が短いミニスカートという誠に真夏らしい涼しげな服装だった。
 そして、今現在、彼女は仰向けになって、ややお行儀悪い感じに手足を投げ出して眠っているのだ。
 そんな状態のとき、足元の方に立つと……やはり見えてしまうワケだ。
 何がか? 無論、スカートの中身が、である。
 元々、あかりにしては珍しく、膝上20センチ近いミニ丈のスカートを履いているうえ、タオルケットを蹴散らすくらいに無意識に足を動かしているのだ。当然、半分以上めくれあがったスカートの下から、清楚な水色と白のボーダー柄のショーツ(俗に言う縞パン)がバッチリ覗いており、意図せずして清彦はそれをクッキリ目に焼き付けてしまう結果となった。
 本気で一瞬呼吸が止まる清彦。
 こんな風にあかりがこの部屋で寝てしまうことは(女になってからも)何度かあった。その時はショートパンツ姿とかだったので、別段気にも留めなかったし、実際太腿の露出度で言えばそう大差はないはずなのだ。
 なのに、スカートから下着が見える、いわゆるパンチラ状態になっているだけで、これほどエロいとは……。

 (おおお、落ち着け、俺。まずは素数を数えるんだ! 2、3、4……って、4は思い切り偶数じゃねぇか!)
 どうやら相当テンパっているらしいが、まぁ無理もない。
 彼にとってあかりは、男だとか女だとかそういうカテゴリーにくくる以前にまず大事な「幼馴染」であり、彼が「守るべき相手」だった。そのスタンスは、幼いころから中学生になった今に至るまで何も変わっていない。
 いや、弟分から妹分へと呼び方こそ変わったが、それこそ些細な問題だ。
 その大事な、ことによっては実妹以上に大切にしている妹分に、「女」の色香を感じて、ドキドキしてしまうとは……彼にとってまさに青天の霹靂である。
 (臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前……キェーイ! 悪霊……じゃなくて煩悩退散ッ!)
 心の中でマンガで読んだ九字を切り、自らの不埒な思いを鎮めようとする清彦。
 しかし……。
 「んんっ……」
 コロンとあかりが寝返りをうったせいで、さらにヤバげにスカートがめくれ、オマケにキャミソールの肩紐が片方ズレかかり、そのささやかな膨らみまで(僅かながら)清彦の視界に飛び込んでくる。
 「はぅわぁ!!」
 意味不明な呻き声を漏らすと、清彦はまるでロボットのようなぎこちない動きで、手にしたタオルケットをあかりの体に掛け、その首から下が見えなくなることで、ようやく人心地を取り戻す。
 「ふぅ~~、あ、アブなかった。先にタオルケットを手にしてなければ、負けていたのは俺の方だったかもしれん」
 ナニに負けるのか、そして負けるとどうなっていたのかは、思春期の男の子の秘密だ。とにかく大変な事になっていたことは間違いない(いや、ヘンタイなコト、かもしれないが)。
 まだ完全には平静に戻っていない胸の動悸を抑えつつ、清彦はベッドの枕側に回ると、寝乱れたあかりの髪をソッと撫でつけた。
 何の気なしに指先があかりの犬耳に触れると、眠ったままピクッと耳が動く。本人の表情もどこかくすぐったそうな、それでいて気持ちよさそうな表情になっていて、なんだか癒された。
 獣耳スキーの清彦としては、そのまま触っていたかったのだが、これで起こしてしまうのはちょっと憚られたので自重する。
 「それにしても、まだまだ子供だと思ってだけど……ちっちゃくても女の子なんだなぁ」
 無論、頭では理解していたつもりだった。そもそも自分だって来年には高校生になるのだ。自分が並はずれたスケベだとは思わないが、それでも健全な15歳男子の平均程度の欲望は持ち合わせている。
 しかし、あかりが以前と同様に自分のことを兄として慕ってくれているため、昔と同じ関係がこれからも続くとつい錯覚してしまっていたのだ。
 「これからは、もー少し女の子扱いしてやるか」
 とりあえず、あかりの目が覚めたら、男の傍で無防備に寝たりしないよう説教しとこう……そう考えて、自分の照れくささを誤魔化す清彦だった。


●その3:幼馴染からの一歩

 「エエーーッ、そんなコトがあったの!?」
 「まぁ、な」
 旧悪(?)を白状したため、少々決まりが悪いが、4年も経てばもう時効だろう。
 「そっか、だから、あれ以来、清兄、ちょっと口うるさくなったんだぁ」
 「う! 迷惑だったか?」
 俺なりにあかりの身を案じたつもりだったが……。
 「う~ん、ちょっとだけね。でも、その反面、ボク……あたしのことを大切にしてくれてるって感じて、うれしくもあったかな」
 「そ、そうか……」
 その答えに、ホッと一息つく。
 「でも、あたし、そんなコト知らなかったから、あれだけ気合い入れたカッコしたのに、清兄の反応がゼロだって、実はほんの少し落ち込んだんだよ?」
 聞けば、あの露出の多い格好で俺を誘惑してみろとアドバイスしたのは、ウチの妹の双葉らしい。
 考えてみれば、プールに行くのに双葉があかりを誘わない時点で明らかに不自然だ。そんなコトにも気付かんとは……俺も結構テンパってたのかもな。
 「でね、無邪気な元気っ娘が駄目なら、今度は逆のお淑やか路線で行こうってことになったの」
 歩き方とか話し方とか、色々工夫したんだから、と語るあかり。
 成程、それで2年の秋ごろから急に大人っぽくなったように感じたのか。
 てっきり部活の部長になったのが原因かと思ってたんだが、まさかそんな思惑が裏にあったとは……。
 それも大方、双葉の入れ知恵だろう。ギャルゲーと乙女ゲーのやり過ぎだ、アイツは!
 「ん~~、でも、効果はあったよね?」
 「む、確かに」
 夏休みのコトがあって、俺もあかりのことを徐々に「女の子」として意識し始めたころにソレだからな。異性として気になり出したのは否定できない。
 それに、俺の好み自体、「物静かで落ちついた女性」なのも確かだし……いや、家族含めて周囲にそういう人がいなかったから、ちょっと憧れてたんだって。
 で、俺が高校に入って、中3のあかりと疎遠──ってほどじゃないが多少距離ができた翌年に、アレだもん。そりゃあ、墜ちるのも無理ないぜ。
 「エヘヘ、あたしの作戦勝ち、かな?」
 ああ、正直に脱帽だ。


○その4:君は天然色

 「ふわぁ~~あ、今日から新学期かぁ……」
 気を抜くと口から漏れそうになる生アクビを、清彦は口の中で噛み殺す。
 カッコつけるワケではないが、周囲には新入生らしき人影も多い。新学期早々、上級生としてあまり間抜け面さらすのもナンだろう。
 幸い、今日は始業式とHRだけで授業はない。外食するのも金がもったいないし、早く家に帰って昼飯でも食べるべきだろう。
 (ん、そう言えば、今何時なんだ?)
 ポケットから時計代りのケータイを取り出そうとしたところ手が滑る。
 「ありゃ……ハッ! とととと、ふぅ」
 地面に落としかけたケータイをかろうじて膝で跳ね上げ、空中でバシッとカッコよく掴むつもりが、結局失敗してお手玉のような形で何とか捕まえる。
 (うー、誰も見てないといいんだけどな)
 心なしか顔が赤くなるのを感じながら素早く周囲を見回す。
 幸い、彼の奇行に注目していた人間はいない……。
 「クスクス……」
 ──訂正。約1名いたようだ。
 彼の背後の少し離れた位置にある塀際の桜の樹。その幹にもたれるようにして立っている少女が、彼の方を見て上品な微笑を浮かべていた。
 タイの色からすると新入生だろうか。
 (うわっ、恥ずかしーぜ。よりにもよってあんな可愛い後輩に見られてたとは……)
 色恋関連にはやや鈍感な傾向のある清彦だが、そんな彼をしても注目させるだけの魅力を持った美少女だった。
 ボブカットにしたサラサラの髪と、天使のように中性的な印象を受ける整った顔立ち。
 グラマーと言うほどではないが、女らしく柔らかい曲線で構成された綺麗な身体のライン。
 おっとり優しそうで、それでいてどこか悪戯っぽさも感じさせる瞳。
 そして、頭頂部付近で愛らしく揺れている犬耳。
 (……って犬耳ィ!?)
 「ふふっ、相変わらずですね」
 「も、もしかして……いや、もしかしなくても、あかり、か?」
 「え? ええ、そうですけど……どうかしましたか、巽先輩? まさか、15年来の幼馴染の顔を忘れたわけじゃないでしょう?」
 「いや、さすがにそりゃないが……」
 確かに、顔と言い髪型と言い、よく見れば彼の幼馴染にして妹分たる桜守姫あかりに他ならない。それは間違いない。しかし……。
 (ふ、雰囲気変わり過ぎだろーが!)
 ほんの1年半ほど前、彼の部屋でおヘソ放り出して昼寝していたチビっ子と、今彼の目の前にいる美少女がとっさに重ならない。それくらい印象が異なった。
 中二の頃のあかりは、小学生と間違われるほど背が低く、よく言えばスレンダー、率直に言えばズン胴ツルペタな体型。そして、少しずつマシになっているとは言え、まだまだ少年っぽさの抜けないボーイッシュな元気少女だった。
 しかし、清彦の目に映るあかりは、髪型こそ以前とほとんど変わりないものの、身長は160センチほどに伸び、体つきも年相応、いや平均以上に整った見事なプロポーションをしている。
 そして何より、その身に纏う雰囲気が以前とはまるで別物だった。
 決して悪い意味ではない。しっとりと落ち着いた、一言で言うならまさに「淑やかな大和撫子」といった趣きを感じさせるのだ。
 考えてみれば、女性の15歳前後と言えば、もっとも変貌と成長の著しい時期だ。
 中学と高校に別れ、顔を合わせる機会がめっきり減った(最後に会ったのは、正月の年始挨拶をした時だったろうか?)ため、妹分の成長に気づいていなかったのは、清彦らしい鈍感さと言えよう。

 しかしながら、その分、この「出会い」の印象は鮮烈だった。
 「あの……巽先輩、もしよかったら、久しぶりに一緒に帰りませんか?」
 上目使いに彼の顔を見上げながら、そう遠慮がちに聞いてくる様子も、たまらなく愛おしい。
 「あ、ああ、もちろん。それと、俺の事は、そんな他人行儀じゃなく、以前みたく「清にぃちゃん」て呼んでくれてもいいんだぜ?」
 「そ、それじゃあ……「おにぃちゃん」。」
 ポッとほのかに頬を染めたあかりに、そう呼ばれた清彦は、身悶えしたくなる衝動を抑えつけるのに精神力の大半を注力せねばならなかった。
 (うぉおおーーーっ、お、俺は今猛烈に感動しているッ!)
 これほど(萌的な意味で)破壊力の高い呼びかけをされたのは、生まれて初めてだった。
 ──ちなみに、清彦の実妹である双葉は、彼のことを数年前から「兄貴」としか呼ばない。さらには頭に「バカ」の二文字をつけることすらある。決して兄妹仲が悪いわけではない(むしろ他人の話と比較する限りでは結構いい)が、「妹萌え~」とかそういう心境になったことは、これまで一度もなかった。
 「や、やっぱり、ちょっと恥ずかしいですね」
 頬の赤みを増して俯く目の前の少女を、つい抱き寄せそうになるのを懸命に自制した自分を褒めてやりたい清彦だった。
 「ま、まぁ、俺達ももう高校生だし、な。しかし、さすがに苗字+先輩だと、兄貴分として、ちと寂しいんだが」
 「えっと、じゃあ……「清彦兄さん」でどうでしょう?」
 「ん~、悪くはないけど、ちょっと長くて言いづらくないか?」
 「それなら……「清兄(きよにい)」とか?」
 そんな会話をしながら、ふたりは寄り添うようにして、帰路を共にするのだった。

 それ以来、清彦は何かにつけてあかりのことを気にかけるようになっていた。
 いや、中学さらに遡って小学校時代から、「彼女」の兄貴分として世話を焼いていたつもりではあるが、今の彼の心情は、かつてのように単なる「保護欲」とは言い切れない部分が多々ある。
 ブッちゃけて言うなら、あかりを「とても好ましい異性」として意識しているのだ。
 朝は、いつも迎えに来てもらい、双葉も交えて3人で談笑しながら登校する。
 昼休みは、学食で待ち合わせて一緒にお昼を食べる。時には、あかりが作ったお弁当を受け取ることもある。
 放課後も、部活の関係で大幅に時間がズレる時以外は、大抵一緒に帰るようにしている。
 「そ、それなのに、兄貴、まだあかりと付き合ってないって言うの?」
 「アンタって人はーッ!」と吠える双葉の剣幕に、思わず身を縮める清彦。
 「いや、その、何て言うか、告白するタイミングが、な」
 それに今更な感じもするし……とゴニョゴニョ言っている兄に、双葉は冷たい視線を向ける。
 「やれやれ、我が兄ながら、ここまでヘタレだったとはねー」
 「失望した。帰れ!」と息子に吐き捨てる某髭眼鏡ばりの、軽蔑のまなざしだった。
 「わかってると思うけど、あの娘、男子の間ではかなりの注目株よ?」
 「う……」
 気にしていることをズバリと言われて、ギクリと身を強張らせる清彦。
 成績優秀、容姿端麗、控えめながら人柄もよく、弓道部の期待のホープ……ともなれば、そりゃモテない方が嘘だろう。たまにちょっと無防備でドジっ子な所も、男からしたら「助けてあげたい」と思うはずだ。
 今のところ、清彦が傍にいるせいか、直接行動(こくはく)に出るような猛者はいないが、このまま「幼馴染以上、恋人未満」な関係を続けていれば、その限りではないだろう。
 「いや、でも、アイツ、元男だし……」
 「そんなの今更カンケーないわよ! それとも、兄貴、まさかそれが理由でコクってないんじゃないでしょうね?」
 「馬鹿、そんなワケあるか。問題は俺の気持ちじゃなくてだな……」
 「あかりの気持ちだって言うんならお門違いよ。あのコ、もうすっかり女の子してるし」
 下手したら、わたしなんかより女らしいんじゃないかしら? と首をヒネる双葉。
 「それはそれで生粋の女としてどーよ?」と思う清彦だったが、この際、妹の女らしさについては脇に置いておこう。
 「いや、そうじゃなくて、周囲の男共の反応についてだよ」
 あかりは、小学校卒業時に女性へと変じ、中学高校と女生徒として過ごしている。普通なら、それだけ時間が経てば、進学時の環境の変化とあいまって、元男性だったということは、よほど親しい者でない限り周囲に知られることはほとんどなくなる。
 ところが、あかり=利明の場合、犬耳が生えるという稀な症例から、どれだけ時間が経っても「TS病経験者」であることがひとめで分かってしまうのだ。
 「うーん、でも、わたしの周りに関して言えば、誰もそんなの気にしてないみたいよ? まぁ、偏った嗜好のヤツが「元・男の娘なんて、むしろ御褒美です!」とか抜かしてたから殲滅しといたけど」
 確かに、男の子時代の「利明」を知らない人間にとっては、今の「あかり」こそが自然なのだろう。となれば、恋人にしたいと本気で願う人間がいても、まったくおかしくない。
 その事に思い至った清彦が、ようやく焦った表情になるのを見て、双葉は溜め息をついた。
 「やっと分かったみたいね。そろそろ気合い入れないと、トンビに油揚げさらわれても知らないわよ、バカ兄貴」

 さて、そんなこんなで遅まきながら、自分の想いを改めて自覚し、告白しようと決意した清彦ではあったが、彼女いない歴17年の悲しさ、どういう風に「告白」に最適のシチュエーションに持ち込めばいいのか、どうもよくわからない。
 幸い、焚きつけた責任を感じたのか、あるいは親友である明利(あかり)の身を案じたのか──たぶん後者だろう──彼の妹・双葉が、「3人で映画を見に行く」という絶好の口実を作って、あかりを誘ってくれた。
 そして、当日……。
 「えっ、双葉ちゃん、来られないんですか?」
 「あ、ああ。どうやら予定を忘れてダブルブッキングしてたらしくてな。「向こうの用事の方が先約だからゴメン」と謝っていたぞ」
 もちろん、言うまでもなく嘘である。
 当初は3人一緒に行動して、折を見はからって双葉だけ姿を消すという案もあったのだが、このヘタレ兄に緊張感を持たせるためには、最初からふたりきりで「デート」させたほうがよい、と双葉は考えたのだ。
 「いえ、それなら仕方ないですよ。別段気にしてないって言っておいてくださいね、清兄」
 そう言ってホニャッと笑うあかりを見て、つくづくよくデキた娘だと感心する清彦。
 優しい、というだけなら昔から……それこそ男の子の頃の利明も優しい子だったが、こんな風にフォローを入れる一言を付け加えられるようになったのは、間違いなく、ここ最近──高校に入ったくらいからだろうか。
 あるいは、中三の時は弓道部の部長を務めていたというから、その時の経験に基づくのかもしれないが、残念ながら清彦は卒業していたので詳しいことは知らない。
 それは社交辞令だけの話ではない。あかりは今日映画を見られなかった双葉の分までパンフレットを買い込み、それを渡してくれと清彦に頼んできたのだ。
 双葉推薦の映画は、最新CGを駆使したSFアクション物だったが、管理された未来社会に反旗を翻すメインストーリーを縦軸に、主人公とヒロインの困難を伴うラブストーリーを横軸に織りなされた物語は、デートで見る作品としも、なかなかポイントが高かった。
 映画のあと、ふたりで喫茶店(こちらも双葉推薦のカップル向けオープンテラスのある店)に入り、先ほど観た映画について、あそこCGがすごかった、こちらの話が納得いかない、ヒロインがけなげで可哀想……といった感想を話し合う。
 改めてこうやってふたりで向き合うことで、清彦はあかりが女の子として、そしてひとりの人間として予想以上に成長していることに気付いた。
 (昔は、俺のあとをカルガモの雛みたくくっついて回っていたのになぁ)
 その成長に一抹の寂しさを感じないと言えば嘘になるが、それ以上に「妹分」が立派になったことへの「兄貴分」としての感慨と、ひとりの「男」としての魅力的な女性への「好意」のほうが強い。
 (こりゃ、俺の方も、うかうかしてらんねーぞ)
 「目の前の少女の恋人として相応しい男か?」と問われて「当然!」と胸を張れる自信は、今の清彦にはなかった。
 思わず、「きょ、今日のところは、とりあえずデートだけして、告白は後日改めて……」と日和かけた清彦だが、あかりの言葉にハッとする。
 「でも、双葉ちゃん残念でしたね、あの映画、すごく面白かったのに……」
 そうだ。自分は、わざわざあかりに嘘をついてまでふたりきりになったのではなかったか?
 それなのに、ここでヘタレてしまっては、妹にも、そして目の前のあかりにも申し訳がなさすぎる。
 「──あかり、すまん」
 テーブルに両手をついて頭を下げる清彦。
 「ふぇっ!? い、いきなりどうしたんですか、清兄?」
 突然謝られて、あかりは目を白黒させる。
 「実はな、双葉がダブルブッキングで来れないっての、アレ、嘘だ。
 俺が、あかりとふたりになりたくて、双葉に今回の件を頼んだんだ」
 首謀者はどちらかと言うと双葉であることは、この際関係ない。妹は情けない自分のことを心配してケツを叩いてくれたのだから。
 「えと……どうしてわざわざ? あたし、清兄に誘われたなら、別に断らないと思うんですけど」
 戸惑うような、何かを期待するような視線で、あかりは清彦を見る。
 それに対する答えは清彦の中にあった。
 しかし、彼はあえて自分から背水の陣を敷くことにする。
 「大きな声ではちょっと言いづらいな。あかり、ちょっと耳貸してくれ」
 「は、ハイ!」
 まさにドキドキワクワクと言った表情で、中腰になりテーブルの上に乗り出すあかり。
 清彦は、その耳元に口を寄せる……と見せかけて。

 ──chu!

 ほんの一瞬、触れるだけに近い状態だが、確かにあかりの唇に、清彦のそれが重なった。
 「これが、俺の気持ちだからだ」
 「え? え!? えぇーーーーっ!?」
 徐々に自分に何が起こったのかを理解したのだろう。
 あかりは、耳まで真っ赤になり、中腰の姿勢から力が抜けてポテチンと椅子に倒れこんだ。
 「ささささ…先刻のって、ききき…KISS、ですよね? てことは、清兄の気持ちって……そのぅ、あ、あたしを、すすすす…好き……」
 先程までの淑やかさはどこへやら、あかりは狼狽してドモりまくっている。
 その様子に「昔と変わらんトコロもちゃんと残ってるんだなぁ」と微笑ましい気持ちになる清彦。まぁ、目の前の懸案から一時逃避しているだけとも言うが。
 「ほら、落ち着けって。そもそも、まったく予想してなかったワケじゃないんだろ?」
 「えーーっと……まぁ、ハイ。薄々は……」
 多少心の整理ができたのか、椅子の上に座り直し、背筋をしゃんと伸ばすあかり。
 「て言うか、どっちかって言うと、あたしのほうがアプローチかけてるのに、それを清兄がスルーしてたんだと思うんですけど」
 ちょっと恨めし気な視線になる。
 「そ、そりゃ、まぁ、な」
 思い当たるフシが無いわけではないので、口ごもる清彦。
 それでは、思いすごし、自分に都合のいい妄想だと切って捨てていたアレやソレやは、やはりあかりなりのアピールだったということだろう。
 「えっと、それじゃあ、お前の答えは……」
 「うーーん、多分ご想像の通りですけど……でも、明確な答えが欲しいなら、清兄の方もキチンと言葉にして下さいね」
 悪戯っぽい流し目で、そう言われてしまっては、清彦としても素直に白旗を上げるしかない。
 「オッケー、降参降参。
 ──明利、お前が好きだ。俺と付き合ってくれ」
 この上なくストレートな清彦の言葉に、あかりも満面の笑顔で答える。
 「はい、喜んで」
 かくして、年若いカップルの誕生と共に物語はハッピーエンドを迎える……というワケには当然いかなかった。
 「うわーーーーっ」と言う歓声が周囲から巻き起こり、「ヒューヒュー!」という口笛や、「よかったな、お嬢ちゃん!」という激励の言葉が聞こえてきたからだ。
 ──ふたりとも互いの言葉に集中するあまり、オープンテラスとは言え、ここが喫茶店の中だと言うことを忘れていたようだ。
 どうやら周囲の客は、ふたりのやりとりに耳を澄ませつつ、固唾を飲んで見守っていたらしい。空気を読めると言うか、出葉亀と言うか……。
 状況を飲み込んで真っ赤になったふたりの元に、ニヤニヤ笑いを浮かべたウェイトレスが近づいてくる。
 「おめでとうございます! コチラはマスターからおふたりへの奢りだそうです」
 テーブルに置かれたレインボーカラーのドリンクがなみなみと讃えられた特大グラスに突き刺された、クネクネと絡み合ってハートマークを描く2本のストロー。そして、ふたりを取り囲み、再びシーンと静まり返って(しかし「ニヤニヤ」という擬音が聞こえてきそうな生暖かい目つきで見つめて)いる周囲の客。
 この時、清彦とあかりの脳裏には、期せずして同一の単語が浮かんでいた。

 「人類に逃げ場なし」


●その5:Sweet Memories

 「──アレは恥ずかしかったなぁ」
 「……うん、確かに」
 あの時の感情を思い出し、しみじみ呟く俺と、疲れたような声で同意するあかり。
 「だいたい、清彦さんは、途中のステップをスッ飛ばし過ぎなんです! アレがあたしでなければ、「エッチ、痴漢、変態」呼ばわりされても文句言えませんよ?」
 と、腰に手を当てて、お説教モードになるあかり。
 俺といわゆる「深い仲」になって以来、ふたりきりの時は、中学のころのような気安い甘えた口調になるあかりだが、今も人前や怒った時などは、よそいきの丁寧語で話している。
 事実、現在もコイツが通う高校(俺の母校でもある)に於いては、3年生の桜守姫明利という少女は、「元弓道部副部長の、綺麗で優しくて頼りになる先輩」キャラとして認知されてるみたいだし。
 実際、つきあいだしてから丸2年近く、俺もあかりのことを「年齢に似合わず落ち着いた淑やか系の女の子」に成長したと完璧に思い込んでたからなぁ。
 本人いわく、「どっちも、今の自分」だそうで、殊更に猫かぶってるつもりはないらしい。
 確かに、「大和撫子」モードでも、演技してる不自然さはないんだよ。だからこそ、俺も気づかなかったわけだし。
 いや、中学2年の後半ごろ、「大人っぽくなった」と感じてた時は、今にして思えば、どこか無理して演技してたんだろう。でも、それから3年以上も経てば演技も単なる「仮面」じゃなく、半分以上は「地」になるモンだ。
 それに、俺の前でだけ、昔に近い「素顔」を見せてくれると思えば、コレはコレで嬉しいもんだしな!
 「ちょっと、聞いてるんですか、清彦さん!」
 おっと、回想に気を取られて上の空になってたか。
 「はっはっは、なぁに、アレは相手があかりだからこそ、多少の強引な手段に出た面もあるのサ! なにせ、他の男に横からかっさらわれないか気が気じゃなかったしナ!」
 無駄に歯を光らせてサムズアップしてみせる。
 「な……ん、もうっ! 調子いいんだから」
 などと言いながらも、真っ赤になったあかりの怒気が治まるのがわかる。
 「まぁ、アレはアレで感慨深いと言えないこともないけどさ~。でも、もうちょっと乙女心を清兄には理解してほしぃなぁ」
 口調が甘えんぼモードに戻ってるということは、どうやらもう怒ってないらしい。
 「ああ、わかってるって。それに、セカンドキスは、それなりに時と場所を選んだだろ?」
 そのために、わざわざゴールデンウィーク最終日にふたりで神戸まで日帰り旅行に出かけて、「夕暮れ時の異人館の見える丘」なんて少女マンガちっくなシチュエーションを演出した俺の苦労も察して欲しい。
 「うん、アレは凄く嬉しかったよ。ありがとう、清彦さん♪」
 ゴロゴロと猫が懐くような感じで俺にすり寄るあかり。
 おいおい、君は犬耳っ子でしょ……ってツッコミは、無論野暮なのでしない。恋人歴2年目ともなれば、そういうエアリード能力もそれなりに発達してくるのだ。
 「そ・れ・にィ~、初めてのエッチは……ポポッ」
 「その時」のことを思い出したのか、頬を桜色に染めるあかり。
 ──と言うか、口で「ポポッ」とか言うなよ、某十二人姉妹の和服担当じゃあるまいし(いや、確かに弓道娘だから共通要素はあるけどさ)。
 傍目から見れば、極上の美少女が、いやんいやんと身体をクネらせながら思い出し笑いをしている光景なんて、どん引きかもしれないが、その「初体験」を共有した俺自身も、当時のことを思い出して、照れくさいような、でも幸せなような、微妙な気分になっていて、それどころじゃなかったりするんだな、これが。


○その6:恋人同士でするコト

 「あ! 清兄、清兄! どうですか、ほらこれ?」
 幼馴染時代、そして恋人としてつきあうようになってから、清彦は、あかりの色んな表情を見てきたつもりだが、それでもこれほど満面の笑顔を浮かべているのを見たのは、本当に久しぶりだった。
 そして、そんな表情になっていることも十分頷けるし、またその表情を浮かばせたのが自分だと思うと誇らしい気分にもなる。
 しかし、たった今、そんな小難しい理屈は、清彦の脳裏からスコーンと飛び出していた。
 何故か?
 ──それは、今のあかりの格好を見ていただければたやすく理解できるだろう。
 肩を大きく露出したプリンセスラインの純白のドレス。
 頭部には薄絹の真っ白なベール。
 ドレスと同じ素材の長手袋をはめた両手には、バラを主体にしたブーケを携えている。
 著名な画家を呼んでスケッチさせ、額に入れて「六月の花嫁」と題名をつけて飾っておきたくなるような、完全無欠の花嫁姿のあかりが、目の前に立っているのだ。
 魂のひとつやふたつ消し飛ばさなければ、恋人として嘘だろう。
 実際、清彦はポカーンとだらしなく大口を開けたまま、食い入るように目の前の愛しい恋人に視線を注いでいるのだ。
 「──きよにぃ?」
 「あ、ああ、すまん。思わず見とれてた」
 ほんの少しいぶかしげな口調があかりの言葉に混じったところで、どうやら清彦も現世復帰したようだ。
 「えっと……それで、どうでしょう?」
 スカートを軽く摘んで、カーテシー(貴婦人の礼)の真似事をしてみせるあかり。
 それだけで、清彦の血圧が10ばかり上がった。
 「ああ、バッチリだ。三国一の花嫁ぶりだぞ! 近い将来、こんな綺麗で可愛い嫁さんをもらえる俺は、幸せだなぁ~」
 ……なぜに、最後が若大将口調? まぁ、それだけ舞い上がっている証拠だろう。
 「もぅ、そんなぁ、褒めすぎですよぅ」と謙遜しつつ、あかりの方も満更ではない。いや、むしろ人目がなかったら抱きついて熱烈なキスのひとつやふたつはカマしてそうな勢いだった。
 言うまでもないが、今日がふたりのめでたい門出の日……というワケではない。
 試験休みを利用して信州の高原まで一泊二日で遊びに来た清彦と明利が、とあるチャペルを背景に、地元の写真館が行っている「記念撮影サービス」を利用しているのだ。
 鹿鳴館風ドレスからメイド服、大正女学生風矢絣袴あるいは打ち掛けや十二単などなど、衣裳は色々選べるのだが、あかりはほとんど迷いなく今着ているウェディングドレスを選んだ。
 本来、未婚の女子が結婚前に花嫁衣装を着ると婚期が遅れるという俗信があるのだが……旦那様の最有力候補を既に確保しているが故の余裕だろうか?
 あるいは、単純に清彦に婚礼姿をアピールして、「早くもらってくださいネ♪」とプレッシャーをかけたつもりなのかもしれない。
 いずれにしても、「効果は抜群」だったようだ。
 なぜならば、記念写真(清彦がタキシード姿で、椅子に座ったあかりの背後に寄りそっている代物)を受け取り、今夜泊る予定のペンションに向かう途中、ふたりの間の会話が妙に少なかったからだ。
 気まずい沈黙と言うワケではない。むしろその逆だ。
 言葉を発さなくても互いに何となくわかり合える気がする幸福な空気、それを壊したくないが故の静寂だろう。
 その空気は、受付で鍵を受け取り、ふたりが泊る部屋に入っても、ほんのり残っていた。
 そして……。
 「う……だ、ダブルベッド?」
 床にぼとりとボストンバッグを落とす清彦。
 おかしい、確か自分はツインを予約したはずなのだが……と、首をひねる。
 ──いや、年頃の男女がツインとはいえ同じ部屋で夜を過ごすこと自体、本来風紀的に問題があるのだろうが、「その程度」なら無駄に発達した清彦の克己心が防波堤になってくれるはずだ。
 しかし。
 「あのぅ、清兄、実はあたしが……」
 おずおずと口を開くあかり。どうやら、旅行前に清彦から泊る場所を聞いた時点で、このペンションに電話して、部屋の予約をチェンジしたらしい。
 「──なぁ、あかり。それって、どういう意味か、わかってやってるんだよな?」
 異様に穏やかな口調で語りかける清彦。
 「……うん、わかってます。
 あたし……清兄の女(もの)になりたい! 清兄に抱いて欲しい!」
 普段の穏やかさ、淑やかさをかなぐり捨てたあかりの激情の発露に、清彦はほんの一瞬だけ、呆気にとられたものの、すぐに優しく彼女の身体を抱き寄せる。
 「バーカ。これから深い仲になる恋人に、いつまでも「清兄」はないだろ。ほら、名前で呼んでみな」
 「えっと……き、きよひこ、さん?」
 「オーケイ、上出来。これで、お前は俺の「妹分」から、本当の意味で一歩踏み出したってワケだ。だから、俺の方も踏み込むぜ。
 改めて……あかり、好きだ。お前が欲しい」
 「はい、清彦さん、喜んで」
 そっと唇と唇が触れ、キスとは対照的にくるおしい激情を込めた瞳で見つめ合う。
 先ほどまでとは別の意味で、今この瞬間、言葉はいらなかった。

 「綺麗だぞ……利明(あかり)」
 やや不器用な手つきであかりの髪を撫でながら、清彦が睦言を囁く。
 「あは、うれしいです、清彦さん」
 蕩けるような微笑みを浮かべるあかり。
 もっとも、今の彼女の姿と表情を見たら、同性ですらあかりに見とれるに違いない。
 膝小僧が見えるかどうかという絶妙な丈の白いサマードレス。白を主体にしながら、ヘアタイやリストなど所々に水色や桃色のアクセントが入った色彩も、彼女の清楚な女らしさを引き立てている。
 さらに、素足ではなくあえてレースのニーソックスを装備しているあたり、清彦のフェチ心をよく理解していると言えよう。
 お姫様抱っこに抱き上げたあかりを、清彦はゆっくりとベッドに寝かせる。
 白い衣装のままベッドに横たわるあかりの姿に、先刻の花嫁衣装を想起させられて、清彦の内部の欲望が一段と加速する。
 「最後にもう一度聞……いや、タンマ。これ以上の確認は卑怯だな。あかり、俺は、俺自身がお前を欲しいから、抱く!」
 「構いません。今のあたしを、清彦さんの色に染めてください」
 耳元で甘美な囁きを聞いて、自然と清彦の下半身に力がこもった。
 「──そうか。こういう時は、「優しくか、それとも激しくか?」と聞くのが礼儀なのかもしれんが……スマン。できるだけ気をつけるが、生憎こちとら初心者なんで手加減できるかわからん」
 「アハ、これからどんなことされるかと思うと……ゾクゾクしちゃいます」
 その言葉には強がりもあったのだろうが、同時にあかりの目の中にも欲望の影が見え隠れしていた。
 「あかりッ!」
 その表情と、ここ1、2年で急速に大人びた体つきとなったあかりの身体が放つ魅惑に触発され、清彦は彼女の上に覆いかぶさった。
 「んっ…はぁ……ん…」
 互いの唇を求め、舌を絡ませると、室内にクチュクチュという音が響く。

 しばしの後、唇が僅かに離れることで、ふたりの間に銀色の唾液の橋が架かった。
 「──ヤバい。どうしよう、あかり。俺、お前のことが好きなのに、大好きなのに……なのに、なんかお前のコト、無茶苦茶にしたい」
 熱っぽい目で恋する少年に囁かれて、少女は華奢なその身を震わせた。
 恐怖からではなく、歓喜から。
 今の清彦は、「物分かりのいい幼馴染」でも「優しい保護者」でもなく、ただひたすらに「男」として「女」の自分を求めてくれていることを痛感したからだ。
 「いいよ、清彦さん……あたしのこと、滅茶苦茶にしてください」
 だから、あかりは全身の力を抜き、全てを目の前の愛しい男性に委ねた。

 ……
 …………
 ………………

 「ん…」
 初めての交わりが終わりぐったりとしたあかりに、清彦は優しく口づけて抱き締める。
 「可愛いぞ……あかり」
 頭を撫でてやると、あかりは朦朧とした意識のまま、それでも嬉しそうな顔で清彦に抱き付いた。
 ──ふたりの営みはまだまだ始まったばかりだ。


●その7:犬耳少女と愛を叫ぶ婚約者

 「しっかし……あのあと、お前のしゃべり方が突然変わったのには驚いたぞ?」
 正確には、変わったと言うより、猫かぶらなくなった、という方がただしいんだろうけどな。
 「あはは。ゴメンね。やっぱり幻滅した?」
 ピコピコと犬耳を動かしながら苦笑するあかりに、「いんや」と首を振る。
 「驚いたのは事実だけど、懐かしかったという面の方が大きかったしな。
 それに、確かにお前を「女」として意識したのは、ああいう淑やかさんな態度がキッカケだけど、今となってはそんなの気にならないほど、お前に惚れてるし」
 「──も、もぅ……清彦さんたらぁ、普段は朴念仁なクセに、こういう時だけ直球投げて来るんだから、ズルいわ」
 そう言いながら、頬を染め、床の上であぐらをかいてる俺の隣りに腰をおろし、ポフッと身体をもたせかけてくる愛しの仔犬ちゃん(マイパピー)。
 ま、これくらいはいいよな?
 俺があかりの肩を抱き寄せると、あかりも心得たものでそっと瞳を閉じる。
 そのまま、ふたりの唇が重な……

 ──バタン!
 「へろー、えぶりわん! 今日も元気にサカってるー?」

 ……ろうとして、残念ながら果たせなかった。おにょれーー!
 「──双葉、いくら親友の部屋だからって、ノックぐらいしろ。それと、年頃の女の子が「サカる」なんて言っちゃいけません!」
 「じゃあ、「ニャンニャンしてる」?」
 「いつの生まれだお前は!?」
 我が妹ながら、あいかわらずフリーダムなヤツめ。
 「ああ、あかりの場合、犬っ娘だから、もしかして「ワンワン」?」
 「どっちでもいーよ! つーか、そこから離れろ!!」
 「へう~、ワンちゃんスタイルでエッチなんて……で、でも、清彦さんが望むなら、あたし……」
 あかりも真に受けて妄想するなって!
 まったく、コイツら自分が受験生だって自覚あんのか?
 「いやぁ、大丈夫でしょ、少なくとも、この子は愛しのアニキのいる学校入るためなら、大統領だってブン殴ってみせるわよ」
 「いや、殴ってもどーにもならんだろ」
 まぁ、確かに、あかりの成績は、現時点で模試判定BときどきAって感じだから、気を抜かなければ大丈夫だとは思うがな。
 「あ……はい、頑張りますね、清彦さん」
 ご覧の通り、俺とふたりきりの時以外は、親友の双葉の前でも丁寧口調なんだよ、コイツ。そう考えると、「甘えんぼモード」のあかりが見れるのって彼氏の特権だな。
 「ほらほら、ソコ! 気を抜くとすぐイチャイチャするんだから!」
 確かにそれは否定せんが、それがわかってるなら席を外す程度のエアリード能力は欲しいものだな、妹よ。
 「だが断る! ……じゃなくて。おばさんが、晩ご飯出来たから降りておいで、って」
 「え、双葉ちゃん、もうそんな時間なの? はわ、お母さんのお手伝いするの忘れてました!」
 「あー、だいじょぶ。今日は焼き肉で、そんな手間じゃなかったらしいし」
 そんなコトを言いながら、部屋を出て行くふたりのあとを俺も追って立ち上がる。
 (ちなみに、今日はウチの両親が留守なので、あかりン家で御馳走になる予定なのだ)

 部屋を出ようとした時、開いたままのアルバムに気づき、バタンと閉じて本棚にしまう。
 思い出は思い出として大事だけど、追憶にふけるにはまだ早過ぎる。
 「これからも、俺とあかりの思い出は永久(とわ)に……ってのはクサ過ぎるけど、少なくとも「死ふたりを分かつまで」はつづられていく予定なんだしな」
 「──ホントですね? 言質はとりましたよ?」
 うわっ、あかり、いたのか? てか、そのボイスレコーダー、どこから出した!?
 「あきらめなって、兄貴。て言うか、兄貴も満更じゃないんでしょ?」
 双葉……。
 「うむうむ、清彦くんになら、ウチのあかりを安心して預けられる」
 「あら、私はとっくに半分お嫁にやった気でいましたよ?」
 お、おじさんにおばさんまで……。
 こーなりゃ、ヤケだ。
 「ええぃ、わかった、わかりました! わたくし巽清彦は、近い将来、桜守姫明利を妻として娶り、ともに人生を歩むことを誓います!!」

 ──その日の桜守姫の晩餐が、臨時の「清彦・あかり婚約記念パーティー」に早変わりしたことは言うまでもない。
 「きよにぃ、だーーーいすきだよ!」

<FIN>
スポンサーサイト

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

まとめtyaiました【『犬耳ッ! -俺の弟分が犬耳美少女過ぎる件について-』】

 初代支援所のふたばスレに投下した作品。今読み直すと結構稚拙で恥ずかしい部分も多いのですが、あえてリライトは最小限にとどめました。  前提条件として、本作はKCA的α世界線(...

コメントの投稿

非公開コメント

No title

犬耳といえばたれ耳のイメージがあって多少おバカなイメージがあるのは偏見だろうか?

Re: No title

ありゃ、個人的にはむしろ「犬→賢い」「猫→わがまま」「鳥→アホの子」「兎→さびしがり」ってのが一般イメージなんですけどね。
まぁ、狼娘を残念系美少女にしたり(狼の恩返し)、猫娘を人懐こくけなげな甘えん坊にしたり(にゃん?)してる自分が言っても説得力に乏しい気もしますが(笑)。

犬耳のあかりと、猫又の珠希、狼耳の穂浪、猫娘の純(母校)が一堂に会したらすごくカオスかも。いや、もともと珠希と穂浪は友人なんですが。

> 犬耳といえばたれ耳のイメージがあって多少おバカなイメージがあるのは偏見だろうか?

No title

犬耳ですか
自分の好みでいえばご主人様ラブだけど少しお間抜けでしょうがない奴的な犬っ娘が大好物ですな

犬耳といえばドッグデイズがありますが、なのは好きでしたらご存じでしょう
BS放送で見ておりますが再放送の後は第2期も始まるようで楽しみであります
自分はロリコンなのかリコッタが大好物ですw

Re: No title

ピクシヴの方もありがとこざいます。
私は姫様好きですが、リコッタもいいですね。水樹さんにしては珍しい役かも
(コレット@TOSとかほたる@メモオフ2とかからするとそうでもないかな)

> 犬耳ですか
> 自分の好みでいえばご主人様ラブだけど少しお間抜けでしょうがない奴的な犬っ娘が大好物ですな
>
> 犬耳といえばドッグデイズがありますが、なのは好きでしたらご存じでしょう
> BS放送で見ておりますが再放送の後は第2期も始まるようで楽しみであります
> 自分はロリコンなのかリコッタが大好物ですw
プロフィール

KCA(嵐山之鬼子)

Author:KCA(嵐山之鬼子)
Pixiv、なろう、カクヨムなど色々書いてます。感想などもらえると大変うれしいです。
mail:kcrcm@tkm.att.ne.jp

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード