『しきたり』(前編)

 このブログにもいくつか二次創作を載せているゲーム『剣と魔法と学園モノ。』……の公式ノベライズ作品『入学試験は命がけ!?』にインスパイアされて書いたSS。より正確には、この本のカラー口絵にピピッとキて支援所に投下したSSを軽くリライトしてみました。
 (ちなみに「王女様と私」の方は、ただいま5話以降を2ちゃん投下時から大幅に変更中。まぁ、待ってる人はいないでしょうが)
 なので、前述のノベルと人名・種族・外見などは一致してますが、基本設定は大幅に変更。
ロザリンドにお付きの執事がいませんし、ヴィントにも幼馴染のツンデレエルフ娘はいません。
 いえ、正確にはどちらも存在はしているのですが、ドラッケン学園まで付いて来ず、実家や故郷の町にいるという設定。なので、直接本筋にはからんで来ないかと。
 内容的には、端的に言うと、いつものKCA的な「予定調和系TSラブコメ」。……いっそ「約束された馬鹿夫婦への道程(ロード・トゥ・バカップル)」とでも名付けてみましょうかね、このタイプ。



しきたり ~剣と魔法と性転換モノ~』(前編)


1.from 坊ちゃん to お嬢様

 ここは、大陸でもっとも有名な冒険者学校「ドラッケン学園」……の学生寮の一室。
 二人部屋なのを住人のわがままでひとりで使用しているため、本来スペースにかなり余裕があるのだが、さすがに女子といえど5人も集まると多少は狭く感じられる。
 もっとも、いかに冒険者志望とは言え、やはりそこは年頃の女の子達。空いた時間に、友達同士で集まって、お茶菓子をつまみつつ談笑するのが嫌いな人間などいはしない。

 ただし、今日の集まりはいつものソレとは少し趣きが違った。
 「それにしても……ロジャー、本当に女の子になっちまったんだな」
 真っ赤な髪をポニーテイルに束ねた人竜族(バハムーン)の少女が、しみじみと呟く。
 「うむ。我がヴィンターナーゲル家のしきたりでな。長男以外の男子は、15歳になったら俗世を捨てて僧院に入るか、あるいは魔法等の手段で女性にとなるか選ばねばならぬ。それと、余(よ)──いや妾(わらわ)のことは、今後「ロザリンド」と呼ぶがよい」
 ソファでふんぞり返っている金髪娘が偉そうに胸を張る。一見、ただの人間(ヒューマン)に見えるが、ツインテールに束ねた左右の髪の下から角が覗いているところからして、魔人族(ディアボロス)の血を引いているようだ。
 この国では、王族を始め貴族階級にディアボロスが多いので、おそらくは彼女もその一員なのだろう。
 「へぇ、名前まで変わるんだ。貴族の家って、よくわかんない風習があるんだね~」
 戦利品の"きわどいビキニ"(一応、これでも防具だ)を試着していた猫妖族(フェルパー)の少女が、その格好のままロザリンドの横に腰かけた。
 男性(ロジャー)の頃なら顔を赤らめて席を立ったであろう「彼女」は、しかし、チラと一瞥しただけで話を続ける。
 「元々は後継者となり得る男子が何人もいるとお家騒動の元だから──というのが理由らしいがな。実際、ヴィンターナーゲル家の初代様には3人の息子がいて、家督争いで相当揉めたらしいからのぅ……って、こら、ミーナ、どこを触っておる!」
 「えー、いーじゃん、女同士なんだしぃ♪ あ、確かにちっちゃいけど、ちゃんとオッパイがあるぅ」
 今ロザリンドが着ている服は、素材やかけられた強化魔法こそ量産品とは段違いだが、形状的にはキチンとドラッケン学園の女子制服の形式に則っている。
 着慣れた制服なのをいいことに、この脳天気な猫娘は、スルリと胸元に手を入れてロザリンドのバストをチェックしているらしい。

 「ち、ちっちゃいと言うでない、失敬な。そもそも妾が女になったのは、昨日、戦乙女(ヴァルキリー)になってからで、まだ丸一日しか経っておらんのだ」
 巧みな手つきでミーナに制服をはだけられ、下に着ているブラジャーを露出させられたロザリンドは、頬を赤らめながら慌てて胸元を押さえて逃げた。
 「成程。女性だけのクラスである戦乙女に転科(クラスチェンジ)して強制的に女の子になったのですね」
 パーティー随一の理論派である地霊族(ノーム)のテュルキスは感心している。
 「うむ。他にも修道女(シスター)や姫君(プリンセス)という候補もあったのじゃが、妾たちのパーティーだと後衛より前衛の方が必要性が高いと感じたのでな」
 名門貴族の出だからプリンセスはまだ良いとしても、魔人(ディアボロス)の身でシスターになるというのはどうなのだろうか?
 「それと、母上も姉上もスタイル抜群ゆえ、妾の胸には未来がある!」
 なにげに、「ちっちゃい」と言われたことを気にしてたらしい。
 「わぁ、ロザリーちゃん、ボン、キュッ、ボンになるの?」
 小児族(クラッズ)のリープは、キラキラと無垢な瞳でロザリンドの根拠に乏しい希望的観測を信じている。
 「当然だ。あと数年経てば妾も目の覚めるような美女に成長しておるに違いあるまい!」
 エッヘンと胸を張るロザリンド。

 「(え~、そうかなぁ?)」
 一瞬疑念を口にしかけたミーナは、ピンッと何かを思いついたのか、ニヤニヤし始める。
 「ふーん、確かにヴィントは意外とオッパイ星人だから、ボクらより大きくなるといいねぇ」
 彼女達のパーティーのリーダーを務める少年のことに言及する。
 「なななな…何を言うか! なぜに妾が、あのうつけの好みを気にする必要がある!?」
 慌てて抗議するロザリンドだが、先程以上に真っ赤になってる顔を見れば、その真意は一目瞭然だ。
 「へぇ、ロザリンドって案外男のシュミが悪いんだね」
 「シュテルちゃん、お兄ちゃんはいい人だよ?」
 こうして、俄か娘ロザリンドをその輪に取り込みつつ、なし崩し的にガールズトークが始まっていくのだった。

 一方、その話題の人物であるヴィントはと言えば……。
 「うわぁ、気まずいコト聞いちまったなぁ」
 スケベ心を出してコッソリ女子部屋を覗きに来た揚句、思いがけない情報を耳にして、窓の外でしゃがみ込んで頭を抱えていた。

 歴史と伝統ある名門貴族の出身であるロジャーと、庶民でありながらヴィンターナーゲル家の威光を歯牙にもかけないヴィントは、いつも事あるごとに口論していたが、だからと言って心底対立していたわけではない。
 むしろ(口には出さないものの)互いの長所については認めあっていたし、女性が過半数を占めるパーティーの貴重な男同士ということで、お互い色々頼りにもしていたのだ。

 ところが、そのロジャーが家の事情から「ロザリンド」になったことで、ついにヴィントは「黒一点」になってしまった。
 「世間的には、ハーレムパーティって言われるんだろうけど、そんないいものでもないよな」
 アイツら、たくましいし……と愚痴るヴィント。
 「そりゃあ、見た目だけなら、全員クォリティー、メチャ高いけど」
 たとえパーティーメンバーの女子との関係が、全員友好度「普通」レベルであっても、それだけで大半の男子学生を敵に回すには十分だろう。

 中でも、金髪碧眼で彼より頭10センチほど背が低く、抱きしめると折れそうな華奢な肢体をしたロザリンドのルックスは、確かに胸の大きさ以外は彼の好みにぴったりマッチしていた。
 「うわ、またいらんコト考えてるし。明日、アイツと顔合わせたら、絶対意識しちまうだろうが!」
 煩悩を振り払うべく頭をゴンゴン叩くと、妙に疲れた足取りで、自室に帰るヴィント少年。

 ──そして、翌日。ヴィントのみならず前日仲間に色々いぢられたロザリンドも、案の定、顔を合わせただけで妙に照れてしまい、他の仲間達から生温い視線を浴びることになるのだった。


2.FriendとLoverの間に横たわるRiver

 あれから──「ロジャー」が「ロザリンド」になってから2ヵ月あまりの時が経過した。
 ヴィントとロザリンドの仲も、翌日の初顔合わせこそ微妙に気まずい雰囲気になったものの、もともと息の合った戦友にしてケンカ友達同士、いくつかの冒険行を経て、すぐに元のような軽口を叩ける関係に戻った。
 ──いや、当人達はそう思い込もうとしていたのだ。
 もっとも、それなりに見る目を持った人物から見れば、ふたりの関係の変化は明らかだったが。

 このドラッケン学園では、入学後の最初の1ヵ月こそ、魔法や戦術、あるいはモンスターやアイテム関連の知識といった冒険者にとって基礎的な座学を徹底的に叩き込まれるが、そのあとは指定の目的地へとパーティを組んで冒険に出るスパルタ方式をとっている。
 これは他の姉妹校──プリシアナ学院、タカチホ義塾も同様だ。
 とは言え、卒業までの2年間のあいだに必要な単位を揃えれば落第することはないので、卒業するだけなら別段それほど急ぐ必要はないのだが、「一流冒険者」を目指すなら話は別だ。
 ヴィントたちのパーティーも、「どうせなるならテッペン目指そう!」を合言葉に、精力的に依頼(クエスト)の達成に励んでいた。

 「はぁ~、お茶が美味い」
 連日かなりハードな探索を続け、明け方に学園に帰って来たヴィントたちのパーティは、その日の午後と翌日は休養にあてることに全員の意見が一致していた。
 「当然だ。タカチホ付近で採れた最高級の茶葉を、妾が手ずから淹れてやったのじゃからな」
 あいかわらず薄い胸を張るロザリンド──いや、微妙に成長はしてるかもしれないが。
 「……お前なぁ、エラそうに言うなよ。野営の時の炊事番は散々じゃねぇか」
 なんとなく気になる目の前の少女の「膨らみ」の部位からさりげなく視線を逸らしつつ、ヴィントが悪態をつく。
 「し、仕方なかろう? 何事も向き不向きというものがある。あのような大雑把な焚火でまともな料理などできぬわ。言っておくが、妾とて、キチンとした台所で竃(かまど)やオーブンを使えば、それなりの料理は作れるのだぞ?」
 ここしばらく休日に実家に帰ると母上に指導(てほどき)を受けておるからな、とロザリンドは語る。

 「ふーん、ま、確かにお前がお茶を淹れるのが上手いことは認めるけどな」
 思いがけない称賛の言葉にディアボロス娘が気を良くしかけたところで、ヴィントが余計な一言を付け加える。
 「で、ちゃんとした台所なら何ができるんだ? 目玉焼きか?」
 「む、ヴィント、貴様信じておらぬな?」
 侮られたと感じたロザリンドは、自室のソファから立ち上がり、対面に座る少年の元へと歩み寄る。
 「よかろう。幸い明日は休養日。貴様も暇をもてあましておるだろう。我がヴィンターナーゲル家の屋敷へ招き、そこで我が料理の腕前を存分に貴様に見せつけてやろう!」
 ロザリンドの挑戦的な発言に、ニヤリと頬を歪めるヴィント。
 「へぇ、おもしろい。いいぜ、行ってやる。苦労知らずの貴族様の「料理の腕(笑)」をさらすハメにならないといいけどな」

 「ぐぬぬ~」、「むむむ!」とふたりはニラみ合いになったが、やがて少年の方がフイと視線を逸らして立ち上がった。
 「美味いお茶、ご馳走さん。明日の朝になっても気が変わってなければ、部屋まで声をかけに来てくれ」
 「う、うむ……」
 意地の張り合いをいきなり中断されたため調子の狂ったロザリンドが、返事するかどうかというタイミングで、ヴィントは彼女の部屋を出て行った。

 「むむぅ~、ヴィントの奴め。なにゆえに妾が、貴重な休日を慣れぬ花嫁修業で費やしていると思っておるの、じゃ……」
 思わず零れた愚痴に、ハッと自分の口を押さえるロザリンド。
 「わ、妾は……何を考えておる。料理や裁縫を習っておるのは、ヴィンターナーゲル家の娘として、冒険の野営の時などに無様をさらしては屈辱じゃからに決まっておろう」
 「それだけじゃ、他意はない」と自分に言い聞かせるように、口にする金髪少女。
 男の頃から素質はあったが、女性化して2ヵ月足らずとは思えぬほどの、見事なツンデレっぷりだ。

 (む……しかし、よく考えてみると、アヤツは「余(よ)」が「妾(わらわ)」になってから初めて屋敷に招く友人、ということになる、のか?)
 「友人」を脳内で「ボーイフレンド」と発音しかけ、真っ赤になって首を振るその様子は、「KOIと呼ばれる一過性の発情症候群」に罹患していることが明らかであったが、それを指摘しても、意地っ張りなこのディアボロスのお嬢さんは決して認めようとしなかっただろう。

 もっとも、それは自室に戻るヒューマンの少年も似たようなものだったが。
 「ん? 待てよ。明日のアレって……もしかして初めてのご両親へのご挨拶ってヤツになるのか!?」
 反射的に「お義父さん、お義母さん、お嬢さんを僕に……」と土下座している光景を想像しかけて、慌てて妄想をかき消すヴィント。
 「は、ははっ、何勘違いしてんだよ。ちょっとダチの家に遊びに行くだけじゃんか、なぁ?」
 ──誰に同意を求めているのだろうか。
 なんと言うか、似た者同士なカップルである。
 「「誰が、カップルだ、だれが!」」
 呼吸ピッタリでナレーションにツッコまないでいただきたい。

(つづく)
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