「令嬢メイド」/「愛憎相克」

以前、2ちゃんの立場交換スレに投下した『黒の誘惑と白への回帰』という作品を、(18禁作品なので、そのままだとこのプログに掲載できないので)誤字脱字その他を微修正したうえでピクシヴに掲載しました。
私にしては珍しい「悪堕ち」物なので、その手の話が好きな方は読んでやってください。

で、そのあとがきで
 「帝国の故郷である異世界は「令嬢メイド」や「愛憎相克」の舞台と同じサイデル大陸」
とか書いてるのですが、よく考えるとその両作品とも2ちゃんに投げっぱでどこにも保管されてないことを思い出しました(すでに掲載スレも消えてます)。
 SSというより小ネタに近い作品ですが、せっかくなので、2本まとめてこのブログに掲載することにしました。



令嬢メイド

 「セリカって、ほんと女らしくてグラマーよね。いいなぁ」
 仕えている家の御令嬢に心底羨むように言われて、ティーポットから紅茶を淹れていたメイドは目をパチクリさせた。
 「エロイーズ様みたいな綺麗な方に言われると、なんだか複雑なのですけど……」
 メイド──セリカの言う通り、彼女が側付きの侍女として仕えているエロイーズ・マリアンヌ・ド・ダルタニアンは、掛け値なしの美少女だった。
 豪奢な蜂蜜色の巻き毛と、人形のように整った顔立ち、そして雪花石膏(アラバスター)のように白い肌という、この国に住む乙女なら誰でも憧れるであろう美の要素を兼ね備えているのだ。
 さらに小柄で華奢ながら均整のとれた肢体は、さながら「現世に舞い降りた妖精」と見まがうばかり。
 伯爵令嬢という身分もあいまって、世の多くの少女達が思い描く「理想のお姫様」像と極めて近しい存在だと言えた。

 対して、セリカの方は、エロイーズと歳こそ同じだが、ごくごく平凡なメイド娘にしか過ぎない。
 曾祖父の時代に東方から移住して来たため、この国ではかなり珍しい黒髪黒瞳と、ほんの少し黄色みを帯びた肌が多少は目を引くが、顔立ち自体はいわゆる「十人並みの美人」。
 確かに女にしては比較的背が高く、胸もかなり大きい方ではあるが、それとて飛びぬけて目立つ要素ではない。
 実家は大きな農園を経営しており、それなりに裕福で多少は教養もあるが、身分制が厳格なこの国では、あくまで爵位を持たない平民だ。
 聞くところによると、海の向こうの国ブリタニカでは、貴族と平民のあいだに「郷士(ジェントリ)」と呼ばれる階層があるらしい。かの国でならセリカの家は確実にその郷士階級であったろうが、このプロバンスでは平民として十把一絡げにされる存在だった。

 とは言え、ひと口に貴族と言っても様々で、平民のことを金が成る木かしゃべる家畜くらいにしか思っていない非道な輩もいれば、国と領民のことを本気で考えてノブレス・オブリージュ(高貴なる者の責務)を尽くす立派な「真の貴族」もいる。
 セリカが仕えるダルタニアン伯爵家は、どちらかと言えば後者だ。陽気で平民にも気さくに接する伯爵と、厳格だが思いやり深い夫人のあいだに生まれた娘たちも皆、知的で淑やか、かつ誇り高く慈悲深い。
 ……もっとも、末娘のエロイーズに関しては、本性はなかなかお転婆だったりするのだが。

 叔母がエロイーズの乳母であった縁で、行儀見習いを兼ねてダルタニアン家に仕えることになったセリカは、この家の人々と出会えて本当に幸運だったと思っている。
 とくに現在側に仕えお世話しているエロイーズとは、貴族と平民という身分差はあるものの、主従の域を超えて親しくさせてもらっている。
 エロイーズは、少々勝気で好奇心が強過ぎるきらいはあるものの、基本的にはダルタニアン伯の娘にふさわしい、優しく聡明な少女であり、主として、また友人としては非常に好ましい。
 ただ、残念なことに、15歳になったエロイーズは、来月から王都の王立学習院(カレッジ)に入学し、勉学に励むことになっている。
 ルイズが学院にいる3年のあいだは、彼女付きのメイドであるセリカは暇をもらい、実家で家業を手伝うことになるだろう。基本的に学習院は従者の同伴は禁止されているからだ。
 弟妹たちに会えるのは嬉しいが、その面倒をみることや、畑仕事のことを考えると、多少憂鬱になる。
 いっそ地元で裕福な平民の娘が通う女学校に入学するか……とも思うが、読書好きで勉強熱心なセリカは、エロイーズの許可を得て、彼女が家庭教師から習っている教科書や蔵書類を読ませてもらい、それなり以上の学習領域に達している。
 今更、町の女学校に通っても退屈なだけだろう。

 「いいこと、セリカ。確かにわたしは自分でもそれなりに美人だと思うわ。周囲の人もお世辞込みとは言え、褒めてくれる。で・も! 最後に殿方が選ぶのは、いつだって胸の大きな女の子なのよ!」
 どうやらエロイーズは自分のスレンダーな体型にコンプレックスがあるらしい。
 あるいは、兄のように慕い、密かに憧れていた隣領の子爵が、巨乳の姉と結婚して義兄になったことにショックを受けたのかもしれない。
 「うーーん、そういうものでしょうか」
 もっとも、セリカなどに言わせれば、胸なんてあまり大きくない方が動くのに邪魔にならなくていい。エロイーズの好きな乗馬の際も、大きな乳房は邪魔になると思うのだが……。

 このあたりの問答は、いつもの流れだったが、しかし今日は少し趣きが違った。
 「──ねぇ、セリカ、貴女、本当にわたしのこと羨ましいって思ってる?」
 「?? はい、そう思ってますけれど……」
 「なら、さ。もし、一時的にわたしの立場になれる……って言ったら、どうする? しばらくわたしと代わってくれるかしら?」
 「……え!?」

 ──エロイーズの提案は驚くべきものだった。
 彼女屋敷の長年閉ざされていた倉庫で偶然見つけた一組の妖しげな魔法の指輪には、はめた者同士の魂を入れ換える効果があると言うのだ。
 うさん臭い話だったが、つい好奇心に負けたセリカは、エロイーズの「しばらく入れ替わってみない?」という提案に頷いてしまった。
 セリカはもちろん、エロイーズも内心半信半疑だったのだが、その「換魂の指環」は添えられていた覚え書き通りの効果を発揮し、ふたりの少女の心を入れ換えた。
 平素とまるで異なる視点や身体の感覚の違いに新鮮な感動を覚えるふたり。

 その時は、わずか半刻だけの入れ替わりで済ませたのだが、普段とはまるで異なるメイド(あるいは貴族令嬢)としての環境で過ごすことに味を占めたふたりは、それからも度々秘密の入れ替わりを実行するようになる。
 そしてついには、エロイーズに代わってセリカが王都の学習院に入学するという「大冒険」を計画・実行するに至ったのである。
 勉強好きなセリカは思いがけず高等教育を受けられることを喜び、「エロイーズ」になり済まして学院へ向かい、勉強より身体を動かすほうが好きなエロイーズは「セリカ」として何食わぬ顔で彼女の実家に帰る。
 それまでにも何度か入れ替わりを実行していた──そして回を重ねるたびにふたりとも巧みに相手になりきることができるようになっていたので、そう簡単にバレるおそれはなかった。

 ──そして数ヵ月後。
 元より素質があったのか、「エロイーズ」は学院でも有数の優等生となり、貴族としての立ち居振る舞いや礼儀作法も身に着けて、他の生徒たちからの「憧れの君」となっていく。
 一方、「セリカ」は庶民の暮らしへの知識不足で、当初こそ多少は苦労したものの、思い切り身体(しかもセリカの大柄ですこぶる丈夫な肉体)を駆使して働く喜びに目覚めていく。
 また、彼女は末っ子だったため、セリカの弟や妹にお姉さんぶれるのも非常に楽しかった。

 年末休暇で「エロイーズ」が屋敷に戻った際に元に戻ろうと約束をしていたのだが、互いに今の生活が未だ名残惜しく、「もうしばらくこのままでいよう」と合意してふたりの少女は、再びそれぞれの日常に戻っていった。
 翌年の年末も、結局同じことの繰り返しとなった。

 しかし、17歳になったことで、ふたりの日常に僅かに変化が生じていた。「エロイーズ」は家が決めた婚約者と引き合わされ、「セリカ」の方も地元の若者の求愛を受けることとなったのだ。
 どちらの相手も好青年で、なし崩しに彼らと交際を始めたふたりは、すぐに恋人との甘いひと時に夢中になってしまった。
 エロイーズは現在の義兄にかつて淡い想いを抱いたことはあるものの、ふたりとも実質これが初めての恋と言ってもよく、その分歯止めが効かなかったのだ。

 とは言え、さすがに一生このままと言うわけにはいかないだろう。
 つらい気持ちを互いに押し隠して、「エロイーズ」が学院を卒業したら必ず元に戻ることをふたりは約束していたのだが……。
 「セリカ」が溺れていた弟を助けるために川に飛び込み、指輪の片われを無くしてしまうという、思いがけないハプニングが起こる。
 3年目の年末休暇で、涙ながらにそのことを「エロイーズ」に告げる「セリカ」……言うまでもなく、それは本来のエロイーズだった。

 「換魂の指環」が無くては、もはや入れ換えは不可能だ。
 「親友」の「不始末」を「伯爵令嬢」は優しく赦し、受け入れ、結局ふたりの少女は、その後互いの身体を取り替えたまま、それぞれの人生を歩むハメになったのである。

 ──もっとも、ふたりがそれを厭い、「ちょっとした悪戯心」を起こしたことを後悔したかと言うと……まぁ、その可能性は低いであろう。なぜなら、「セリカ」は、故郷に戻った「エロイーズ」の元に「以前と同様」親身に仕えたからだ。
 その後、「エロイーズ」は20歳、「セリカ」は19歳になった直後に、それぞれの婚約者と結婚し、幸せな家庭を築いた。
 ふたりは身分の差を超えて終生友誼を結び、「セリカ」は「エロイーズ」の子の乳母まで務めた……と、ダルタニアン伯の随想録には記されている。

-おしまい-

 #無論、モデルはラノベ・アニメのあの娘達。色々変えてはいますが。



※近世ファンタジーっぽい世界(ゼロ魔とかアリアンロッドとか)を想像してください。

愛憎相克

 今日は太陽神ルーの曜日。つまりは、身分の貴賎を問わず仕事や学業を休める休日だ。
 ここ、ガーシュナー伯の居城・エッフェルバルト城も、主たる伯爵とその家族はもとより、ごくわずかな例外を除いて使用人たちも週に一度の休養を謳歌している。
 否、そのはずだった。
 しかし……。

 「あら、あなたは?」
 芳紀16歳の伯爵令嬢エリスは、お忍びで城下へ抜け出す途中の廊下で、見慣れない顔の侍女と出会った。
 「──エリスお嬢様ですね。リリスと申します。一昨日よりこのお城にご奉公にあがっております」
 なるほど、新米メイドだったらしい。
 聞けば、せっかくの休日なのに、別の地方の出身で親しい知り合いもいないため、町に出かける勝手もわからず、このまま城の自室で休もうかと思っていたとのこと。
 少々勝気(というかお転婆)な傾向はあるものの、根は優しいエリスは、気の毒に思い、 「よければ、自分について来ないか?」とリリスを誘う。
 最初は躊躇う風を見せたものの、エリスが重ねて誘うと彼女も「では、恐縮ですが、お供させていただきます」と首を縦に振った。
 ──しかし、エリスは気づいていただろうか。
 頭を下げたリリスの唇に不遜な微笑が浮かんでいたことに。

 城下町に出かけた貴族の娘エリスと侍女のリリスだが、なぜか初対面とは思えぬほどにふたりは身分の差を超えてうち解けていた。
 エリスの奢りで美味しいスイーツを食べたり、市場を見て回ったり、庶民向けだけどちょっと高級なブティックで色々試着してみたり……と、楽しい「女の子同士の休日」を過ごす。

 ところが、最後に買う服を決めて、元の服に着替えようか……という段になって、広めの試着室に一緒に入っていたリリスの目付きが豹変した。
 彼女の瞳を覗き込んだエリスは、「あっ」と思う間もなく催眠状態に陥ってしまう。

 リリスの指示に従い、下着に至るまですべて脱ぎ捨てて全裸になるエリス。
 自らも服を脱ぎながら、リリスは虚ろな目をしたエリスに話し掛ける。
 「貴女とふたりきりになる機会を待っていたんですよ、エリス様。
 よく見てください。わたしの顔、どこかで見たような気がしませんか?」

 後頭部にまとめた髪を解き、伊達眼鏡を外したリリスの顔は、眼と髪の色を除けばエリスにソックリだった。じつは、リリスはガーシュナー伯爵が地方巡視の際、平民の呪い師であった女に手をつけて産ませた、エリスの異母姉だったのだ。

 姉妹でありながら、かたや何不自由なく暮らし、王都への留学も決まっている妹と、苦労して育ち、母が亡くなった後は、父の家で使用人として働くことを余儀なくされた姉。
 リリスは異母妹のすべてを奪うことを決意していたのだ。

 「そう、今日からはわたし……いえ、わたくしこそがエリス・ロクサーヌ・フォン・ガーシュナーとなるのですよ」
 魔法の染色薬で自らの髪を金色に、瞳を碧に変えたリリスが高らかにそう宣言する。
 「ち…が……う……わた……し……エ、リス……」
 「あら、それではエリスがふたりになってしまいますわ。それに、ホラ……」
 素早く別の染色薬をエリスの髪と眼に振りかけるリリス。
 「鏡の中を見て御覧なさい。あなたの瞳は何色をしてるかしら? 髪の毛の色は?」
 後ろからエリスの肩に手を掛けたリリスが、優しげな声色でエリスを鏡の前に誘導する。
 鏡に映った自分の姿から目を離せないエリス。
 「……みど、り………と……あ、か……?」
 「ええ、その通りですよ。そして、その色彩を持つ娘を、あなたは知っているのではなくて? 誰だったかしら?」
 「……リ、リス?」
 リリスの笑みが深くなる。
 「そう、先日お城にあがったばかりの、不慣れな新人メイドのリリス。それがあなた」
 「わたし、が…リリス……」
 「じゃあ、もう一度聞きますわね。あなたのお名前は?」
 「──リリス、です」
 「はい、よくできました」

 暗示が定着したことを確認したリリスは満足げに頷くと、エリスが脱ぎ捨てた高価な絹の下着とドレスを、エリス本人に手伝わせて身に着けた。
 自らの身支度が済んだところで、今度は先程まで自分が着ていた衣服を目の前の娘に着させる。
 城勤めの侍女として普段から清潔にしているとは言え、すでに朝起きて着替えてから半日あまりが過ぎている。
 春先の陽気に流した汗や、拭ききれなかった尿などで微かに汚れているはずの下着(ソレ)を、高貴なお嬢様であるはずの少女が身に着けていると考えると、リリスの心に倒錯的な欲望が湧き上がってくる。
 それは、無垢なる者を貶め、汚す悦び。

 少女がスカート丈のやや短いメイド服に着替え、頭頂部に侍女の象徴ともいえるヘッドドレスを着けたところで、リリス──いや、「エリス」は「リリス」の手を引いて試着室を出た。
 傍目には、試着室に入るまでと何ら変わりなく見える、ふたりの娘。
 その主従が実は逆転していると知る者は、それを画策した本人ひとりしかいない。
 「さて、そろそろお城に帰りましょうか、リリス」
 「──はい、エリスさま……」

 城に帰った「エリス」と「リリス」は、当然のことながら、それぞれの立場に相応しく、「城主の娘」と「新米メイド」としてその日の残りを過ごす。
 あるいは、そのまま何日か経てば、エリスの家族や古株の使用人たちがこの「エリス」に不審を抱いたのかもしれない。

 しかし、その翌日、「エリス」は馬車に乗って王都へと旅立ってしまった。この春から、貴族の子女が集う王立学院へ入学して通うためだ。
 一方、残された「リリス」も、まだ城で働き始めたばかりということで、あまり性格なども知られておらず、メイドの仕事に不慣れなことも「新米だから」ということで納得され、いろいろ親切に指導を受けることになった。

 その後、「エリス」が再びこの城に戻ったのは、学院を卒業した2年後であり、そして、その頃には、ふたりとも現在の立場にすっかり馴染み、そのまま生涯を「伯爵令嬢」と「メイドとして」過ごすことになるのだった。

-おわり-

#以上。こちらは「令嬢メイド」のダーク版とも言うべきお話(小ネタ)でした。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

KCA(嵐山之鬼子)

Author:KCA(嵐山之鬼子)
Pixiv、なろう、カクヨムなど色々書いてます。感想などもらえると大変うれしいです。
mail:kcrcm@tkm.att.ne.jp

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード