『ランゴスタ奥様劇場』3

言うまでもなく、このシリーズのタイトルは著名な作品・番組のパロです。この番外編は無論、「ライオン奥様劇場」……って、若い人は知らんだろーなー。

『ランゴスタ奥様劇場』
その参


 このところ、極めて頻繁にヒルデガルドは村へとやって来ている。
 「こんにちは、お姉様! ……ついでにお兄様も」
 「うむ。よぅ来たの、ヒルダ」
 「うわー、俺はランのついでかよ?」
 「だ、だってぇ~」
 当初はランに反発していたヒルダだが、いったん気を許すと打ち解けるのも早かった。
 もともと上に男兄弟がふたりいるだけだったため、無意識に"姉妹"という存在に羨望があったのかもしれない。それが突然、大手を振って"姉"と呼べる人物が出来たのだ。喜ぶ気持ちもわからないではない。
 (一応長兄の妻、つまり義姉が別にいるのだが、どうも苦手なタイプらしく、そちらとはあまり付き合いがないらしい)

 さらに、ヒルダの目から見て、ランはこのうえなくハイパースペックな女性だった(実際は、ある種世間知らずだし、天然気味で抜けているところも多々あるのだが)。
 ランとしても、せっかくできた義妹には格好悪い部分は極力見せたくないらしく、最近ではその"よき義姉"っぷりに磨きがかかっている。
 ツンデレの気があるヒルダだが、いまの彼女はまさにランに対してデレ状態と言ってよかった。
 「無事、兄離れしてくれたのはいいが、ちょっぴりお兄ちゃん、寂しいぜ」
 ボヤきつつ、夜のクエストに出かけて行くマック。

 「ふむ。今晩は我が君は留守にされる故、我家に泊まってゆかぬか、ヒルダ?」
 「え!? よ、よろしいのですか、お姉様?」
 「無論。むしろ独りで過ごす無聊が少しでも紛れるからの。こちらからお願いしたいくらいじゃ」
 「そ、それではお言葉に甘えさせていただきますわね」
 ふたりで台所に立ち、ランといっしょに夕食を作るヒルダ。
 あまり家事が得意とは言えないヒルダだが、ランの教え方が良かったのか、思いのほか美味しい夕飯が作れた。
 「ふむ。我が君は、ヒルダのことを家事下手のようにおっしゃっておったが、どうしてなかなか巧いではないか」
 「いえ、これもお姉様のご指導の賜物ですわ」
 (あああ……なんだか、こういうの、イイですわね……)
 別にヒルダに百合な趣味があるわけではないのだが、「やさしい姉と一緒に共同作業する」と言うシチュエーションに、ちょっとだけ憧れていたのも確かだ。

 で。
 夕飯を食べ、お茶を飲み、一息ついたとなると、当然、妙齢の女性としては身奇麗にしたくなるのが当然の流れと言うヤツで。
 「ほ、本当によろしいのですか?」
 「ん? 仲の良い姉妹が一緒に入浴するのは、別に普通のことではないのかえ?」
 ええ、子供のころなら確かにそうでしょうが、二十歳過ぎた大人は、そんなこと滅多にしません。
 そう言って断わるべきだったのかもしれないが、とくに恥じらう様子もなくランがキモノの帯を解き始めたので、ヒルダもタイミングを逸してしまった。
 帯を外し、緋袴を脱ぎ、肩から小袖を滑り落としたランの裸身に、しばし見とれていたヒルダだが、ハッと我に返る。
 ぎこちないながら自らも、モタモタとドレスを脱ぎ始める
 「何じゃ、ヒルダ。まだ脱いでおらぬのか。……もしかして、その洋装は、人手がないと脱ぎにくい類いの服かえ?」
 手ぬぐいで髪をまとめ、もうひとつの手ぬぐいでわずかに前を隠したランが眉をひそめ、ついでポンと手を打つ。
 「水臭いのぅ。ほれ、この"義姉"に任せぬか。脱ぐのを手伝ってやろうぞ」
 「だ、だ、だ、大丈夫です。子供ではないのですから、服くらい自分で脱げますわ!」
 慌てて拒絶するヒルダ。
 「ふむ。そうかえ? まぁ、主がそう申すなら妾は先入っておるでな」
 少しだけいぶかしげな顔をしたものの、ランは浴室へと入って行った。
 その後ろ姿を見送りながら、半脱ぎ体勢のまま、ガックリ膝をつくヒルダ。
 「わ、わたくし、そういう嗜好はないはずですのに……」
 ドキドキドキと高鳴る鼓動を抑えきれない、イケない趣味に目覚めそうな少女がここにひとり。

 *  *  *  

 「お、お邪魔しまーす」
 不穏な胸の高鳴りを何とか鎮め、気の強い彼女らしくない、おっかなびっくりな態度で、ヒルデガルドは浴室へと入る。
 「おお、遅かったのぅ。やはり背中のファスナーか何かで手間取ったのではないかえ?」
 「え、ええ、まあ、そんなところです……」
 「やはりそうか。よし、着る時は妾が手伝うてやろう」
 (いえ、そんなことされたらわたくしの理性が保ちません)
 そう断わるわけにもいかず、曖昧に微笑むヒルダ。
 「姉妹仲良く裸のつき合いというヤツじゃ。ささ、まずはともに湯に浸かろうぞ」
 ランが湯船で伸ばしていた脚を開いてヒルダの入るスペースを空けてくれるが……。
 「ブッ……! (お、お姉様、お御足の間が……!)」
 幸か不幸か、今日の風呂は北風みかんの皮と汁を入浴剤代りに入れてあるため、ふつうのお湯よりは透明度は低いが、これだけ至近距離だと湯煙越しでもランのすらりと伸びた足もそのつけ根もほとんど丸見えだ。
 慌てて視線を逸らし、正面よりやや斜め下の方向を見ながら、湯船に入ったヒルダだが、お湯に身を沈めると、今度はちょうどランの胸のあたりを凝視する体勢になってしまう。
 象牙のような柔らかい白さを持った肌を水滴が艶めかしく走り落ちる。
 造化の神が作ったかのような、完璧な形と大きさを持ったランの乳房は、男ならずともその感触を確かめてみたいと思うだろう。
 胸部だけではない。うなじから彫りの深い貌へとつながる稜線、ありえないほど細く、それでいて不自然さなど一切感じさせないくびれたウエスト、まろやかな円弧を描くヒップ。
 全女性の99パーセントが嫉妬しそうな女性美の化身が、ヒルダが手を伸ばせば届くところで、ゆったりとリラックスして無防備な姿を見せているのだ。
 (ああ……なんて柔らかそうな……ちょ、ちょっとくらいなら触っても、お姉様も怒らないわよね。姉妹……そう、わたくしたちは姉妹なんですもの!)
 さっき浸かったばかりなのに、熱に浮かされたような妄言が浮かんでくる。湯当たりするには少々早いと思うのだが……自重しろ、ヒルダ。

 悪魔の誘惑に負けたヒルダが手を伸ばそうとした瞬間。
 「さて、そろそろ体を洗うかの」ザバーーーーッ!
 彼女の葛藤に気付かず、アッサリ湯船を出るラン。
 「…………」
 (そ、そんなことだろうと思いましたわ……いえ、ここは助かったと言うべきかしら)
 「ん? なんじゃ、ヒルダ、惚けた顔をして。のぼせたのかえ?」
 「い、いえ、何でもありませんわ。お気遣いは無用です、お姉様」
 湯船の中で器用にorzな姿勢をとっている義妹を、不思議そうに眺めたのち、ランは浴室にかけてあった体洗い用の糠袋を手にとった。
 「ふむ、そう言えば……。ヒルダ、もし嫌でなければ、妾の背中を流してはもらえぬかえ?」
 「!!」
 どうやらヒルダさんのピンチは未だしばらく続く様子。 

 *  *  *  

 (や、やったわ! ついにわたくしはやり遂げたのですわ!!)
 ランから背中を流して欲しいと頼まれ、まるでアプトノスのごとく鈍重な動きで湯船から出たヒルデガルドは、今まで自らも知らなかった"自分じゃない自分"の誘惑の声に耐えぬいて、何とか無事に、その大役を果たしたのだ!
 (欲望の赴くままに暴走せずに洗浄の役目は果たしましたし、その過程で合法的にお姉様の肌のやわらかさも堪能できましたから、結果オーライと言うところでしょうか)
 ふうっと、一息ついているヒルダに、邪気のないランの声がかけられる。
 「さ、お返しじゃ。ここに座ってたもれ、ヒルダ」
 ポンポンと、先程まで自分が腰かけていた木製の風呂場用椅子を叩いてみせるラン。
 (お、お姉様の御尻が載っていた椅子……じゃなくて、マズいですわ!)
 先程からヒルダのそこは興奮を抑えきれずに熱く濡れそぼっている。とりあえずタオルで隠してはいるものの、万が一そこを"洗おう"とタオルを取られたら、ひと目で丸分かりだろう。
 「あ、あの……その……わ、わたくし、くすぐったがりですので、他の方に体に触られるのはちょっと…………」
 苦し紛れにしては、我ながらナイスな言い訳だと思ったヒルダだったが……。
 「ほほぅ、それはよいことを聞いたの」
 ランがニヤリと悪戯っ子のような笑顔を見せながら、両手をわきわきさせる。
 いつもの落ち着いた大人っぽい顔しか見慣れていないヒルダは、不覚にもその表情を見て、「か、可愛い!」と内心萌えてしまったのだが、それが運のツキだった。
 「ほぅれ、覚悟せよ!」
 「ちょっと、いや、ダメ、およしになって、お姉様、あっ、そんな、イ……いやぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!」

 そしておよそ5分後。
 「ううぅぅ……」(もう、お嫁にいけないぃ)
 「あー、その……すまぬ。少々調子に乗り過ぎたようじゃ」
 ベソベソ半泣き顔のヒルダと、ペコペコ謝るランと言う、非常に珍しい光景が、浴室で繰り広げられていた。
 ……いったいどのような醜態が繰り広げられたかは、乙女の尊厳にかけて永久規制とのこと。残念。
 「ぐすっ……もういいです」プイッ!
 最初と同じく、ともに湯船に浸かりながら、拗ねたように顔を背けるヒルダに苦笑しながら、ランはやや強引に引き寄せ、背中からギュッと抱きしめる。
 「!」
 「本当にすまぬ。妾は、我が君と会うまで、長い間独りで生きてきたのでな。人と人、とくに同性のあいだでの距離の取り方と言うのが、未だよくわかっておらぬのじゃ」
 「お姉様……」
 「仕方ないので、かつて読んだ物語の姉妹が風呂場でじゃれるシーンを参考にしてみたのじゃが……お主を傷つけ、嫌われてしまったようじゃの。頭でっかちな本読みの悪い癖じゃ」
 「そ、そんなことありませんわ!」
 寂しそうに呟くランに思わず反論するヒルダ。
 「お姉様は素敵な方です。わたくし、お姉様がお兄様の奥様になっていただいて、本当によかったと思っておりますもの!」
 「まだ、妾のことを"姉"と呼んでくれるのかえ?」
 「当たり前です! それに、わたくしだって、上に兄がふたりいるだけで、親戚に歳の近い女性もいませんでしたから、姉妹関係というのが本当はどうあるべきなのかなんて知りませんもの」
 だから、おあいこです、と微笑うヒルダに、ようやくランもいつもの明るさを取り戻す。
 「そう…よな。妾たちはふたりとも"新米の姉妹"じゃからな。これから、ゆっくりとそのありかたを捜して……いや、築いていけばよいのじゃな」
 「はいっ!」

 ――翌朝、帰宅したこの家の主は、前日まで以上に仲良くなっているふたりの女性の様子に、何があったのか驚きいぶかしんだと言う。

 ~fin~

以上。義理姉妹が親密に(いろんな意味で)なるお話でした。


<オマケ>

 「ところで、お姉様、ご参考になされた物語と言うのは、ひょっとして……」
 「うむ。本棚の一番下の段にある『聖母観察中』と『少女学園的少年恋愛論』じゃ」
 ちょ……それ、間違ってますから!
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