『夜ノ夢』

 ウチのSS用にいくつかイラストを描いていただいた皐月紫龍さんが、サイトでフリー配布されている連作TSゲーム『夜ノ夢』シリーズを、ノベライズさせていただいた作品。
 もっとも、原作にない設定やルートを入れ込んでいるので、むしろ二次創作と言うべきかもしれませんが……。一応、ご本人の許可を得て、書かせていただきました。
 これを読んで「原作」に興味の湧いた方は、皐月さんのサイトでDLしてプレイしてみてください。



夜ノ夢』 (原作:皐月紫龍)
 

白昼

 「はぁ……なんかおもしろいコトないかなぁ」
 ゴールデンウィークに入って早々に、俺はそんなコトをボヤきながら駅前の繁華街……の裏道を歩いていた。

 専門学校に入って1月ほどが経つが、早くも俺はその授業に辟易していた。
 両親には、「ゲームクリエイターになる!」と大見得切って今の学校の授業料を出してもらっているのだが、正直授業は予想してた以上に退屈だ。
 そもそも俺は確かにゲームが好きだが、プログラムの専門的な知識を持ってるわけでもなければ、絵が上手なわけでも、作曲などができるわけでもない。
 と言うか、ゲームクリエイターという職自体、雑誌とかで見てなんとなく憧れてただけで、「将来こういうゲームを作ってみたい」とかの明確な展望があっての発言じゃないのだ。

 思い返せば、昔から俺はそんな人間だった気がする。
 流されるまま適当に生きて、そのくせ、辛い事苦しい事からは逃げてばかり……。

 ──よそう。せっかくの休日に、朝っぱらから鬱になりそうなことを考えるのは。
 それが思考停止だとわかっていても、あえて気付かないふりをして、俺は(自分でもわざとらしく)辺りをキョロキョロ見まわしてみた。

 「兄さん、おもしろいものをお探しかい?」
 え!?
 足元から声をかけられて、俺はビックリして跳び上がった。
 よく見れば、道端に露天商らしき人物が、小さなむしろを広げて10数個の品物を並べている。
 「ははは、兄さん、驚き過ぎだよ」
 「す、すみません……」
 「いいよいいよ。私も唐突過ぎたからね。それより、退屈しのぎの種を探してるんだろう? よかったら見ていかないかい?」
 「は、はぁ……」
 まぁ、確かに取り立てて急ぐ用事もない。俺は改めて、むしろに並べられた商品に目をやった。

 その大半は、「願い事が叶う魔法の指輪」だの、「運勢を変える水墨画」だの、安眠用お香だのの、いわゆるおまじないグッズ類だったが、中にひとつ妙に注意を引く代物があった。
 ひと言で言えば、「金属ケースに収められた黒く輝くガラスの多面体」……だろうか。
 チープなグッズが大半の品揃えの中で、あきらかにソレだけ浮いている。
 「えっと……コレは?」
 そう俺が聞くと、とたんに露天商は商売人に表情で唇をニヤリ歪めた。
 「お、お客さん~、お目が高い! ソイツは「夢見の黒水晶」って言ってね。枕元に置いて眠ると変わった夢が見られるって代物さ──まぁ、実物じゃなくてレプリカだけどね」

 胡散臭い効能だったが、退屈していた俺は、値段が存外安かったこともあってついソレを買ってしまったのだ。
 長さ10センチ程の筒状のケースを紙袋に包んでもらって受け取ると、なんとなくドキドキするような気分になっている自分に気づいて苦笑する。
 (ハハハ……インチキに決まってるのにな)
 仮にその「夢見の黒水晶」とやらに本当にそういう効果があったとしても、コレはレプリカ──つまりパチモンなんだし。
 今晩寝て効果がなかったら、明日もここに来て、さっきの露天商に文句を言ってやろう。

 そんなコトを考えていた俺は、けれど気付いていなかった。
 確かに先程自分が言葉を交わしたはずの露天商の顔が、どうしても思い出せない──そればかりか、相手が男か女かすら覚えていないことに。


壱ノ夜

 ふと気が付くと、僕は暗い闇の中にいた。
 部屋の片隅に置かれたランプのようなものが唯一の光源なので、暗くてわかりづらいが、どうやら見覚えのない部屋にいるようだ。
 壁はコンクリート、ベッドは硬い木でできていて、僕が寝ていたはずの自室とは、まるで様子が違った。

 ──うん? 自室?
 そう言えば、その僕の部屋はどんな様子だったろう? なぜか記憶に霞がかかったようにハッキリ思いだせない。

 粗末な寝台の上で首をヒネっていると、唐突に背筋がゾクゾクして、くちゅんとクシャミをしてしまう。
 「……ってェ、素っ裸じゃないか!?」
 慌てて何か着るものを探すが、ベッドの周囲にはシーツ1枚見当たらない。
 「せ、せめてパンツか何か下だけでも隠すものを……」
 そろそろ闇に目が慣れてきたので、とりあえず部屋の中を探ってみることにした。

 まず、目についたのはベッドのすぐそばの壁にかけられている姿見。近寄って見ると、アンティークっぽい作りのなかなか洒落た代物だったが、鏡に映っているのが丸裸の男では台無しだ。
 姿見の隣りには木製のタンスがあった。こちらも姿見と同様、凝った装飾が施されている。
 タンスと言えば通常は衣類を収納しておくものだろう。まぁ、某国民的RPGみたく、薬草とか小さなメダルが入ってる可能性も0ではないが。

 できれば"旅人の服"か、せめて"ステテコパンツ"くらいあればなぁ……という僕の希望的観測は、残念ながら叶わなかった。
 簡素なデザインの黒の長袖ブラウスと同色のミニスカート。水色と白の横縞柄のショーツとキャミソール。膝までの白いストッキングと、黒革のローファー。
 ──あいにく中に入っていたのは女物の衣類ひと揃えだったのだ。
 とは言え、見たところ僕にも着れそうなサイズではある。
 「うーーーん……全裸のままでうろつくよりは、女装した方が、まだ変態度は低そうな気がするな」
 悩んだ末、ひとり言葉で自分に言い訳しつつ、僕はその女物の衣類に袖を通した。

 最初は上着だけでいいかと思ったのだが、スカートの下がノーパンだと、その……ナニがブラブラして、どうにも落ち着かない。
 だから、僕は仕方なく──そう、仕方なく、嫌々、緊急避難として、その縞パンを履いてみたのだが、ぴったりフィットする感覚が意外と快適だ。
 そうなると、毒を食らわば皿までと言う気分になり、いったん上を脱いでショーツとお揃いの柄のキャミソールをかぶり、改めてブラウスを着直した。
 男物とは逆側についている小さめのボタンが、否応なく自分が女性の衣類を身に着けていることを意識させて、羞恥とともに僅かな興奮を覚えてしまったのは……ココだけの内緒だ。
 さらにストッキングを履き、ローファーに足を入れる。どちらも至極すんなり着用することが出来た。

 ──もしかして、コレは僕のために用意されたものだったんだろうか?

 そんな考えがチラリと頭をかすめる。
 念のため、今の格好を確認しようと、先程の姿見を覗き込んでみる。

 「!」
 そこには今まで見た事のない「少女」が映っていた。
 いや、顔の作りなどは確かに「僕」ではあるのだが、予想外、あるいは予想以上に女装しているという違和感がなく、美人と言う程ではないものの、道端を歩いてる普通の女の子っぽく見えた。
 靴と一緒に置かれていたカチューシャで前髪を上げてみると、さらに普段の僕とはかけ離れた印象になった。何と言うか……委員長タイプの気まじめ娘?
 これはヤバい……このまま鏡見てたら癖になりそう。
 僕はあわてて目を逸らし、部屋の探索に戻った。

 部屋の中にめぼしいものがないとわかると、自然と僕の視線はドアの方に向いた。
 この部屋には、姿見の向かいとベッドの向かいのふたつにドアがあるのだ。
 「さて、どちらから行くべきか……って言っても、物音も聞こえないし、判断の手掛かりはないんだよな」

 僕は溜め息をつきながら、片方のドアを開いて部屋から出……た瞬間、出会いがしらに何者かとぶつかって、床に転んでしまった。
 頭を強く打ったせいか、意識が軽く朦朧としている。
 見れば、相手の方も床に倒れているようだ。

 「す、すみません、ウッカリしてて」
 とりあえず謝りながら、相手に手を貸そうと近寄ったのだが、そこで僕は信じ難いものを目にすることになる。
 それは「黒のブラウスとミニスカートを着た、パッと見はちょっと女の子っぽく見える少年」──つまり、「僕」自身が「きゅぅ~~」と目を回して気絶してたんだ!

 「へ!?」
 流石に、すぐには理解できなかった。
 Who is him? アナタハ、ダレデスカぁ?
 クローン? 分身? 生き別れの双子の弟?

 (あ~そ~言えば、世の中にはよく似た顔の人が3人はいるってゆーし……ってェ、んなワケあるかい!」
 自分でノリツッコミしたおかげで、何とか自失状態から復帰する。
 それと同時に、空中にツッコミを入れる動作をしたせいか、自分の体の異状にも気が付いた。

 まず着ている服が違う。いつの間にか、黒の長袖ブラウスとは対称的な白のノースリーブを着ているようだ。
 それに加えて、右手の裏拳でツッコんだせいか、プルンと何か柔らかいモノが自分の胸で揺れているのを感じる。

 「えーと、以上の事から考えて……」
 嫌な予感が拭えなかったものの、僕は今出たばかりの部屋に駆け込み、例の姿見の前に戻って来た。
 「あ~、やっぱりぃ」
 そこには、Fカップはありそうな巨乳をゆさゆさと揺らしながら、情けない表情をした金髪の美人さんが映っていた。
 白い袖なしブラウスと、アダルトな印象の黒いタイトスカート。その下にから覗くむっちりした脚には艶めかしベージュのストッキングとハイヒールを履いている。
 「まぁ、こういう時のお約束だしな」
 したり顔で、鏡の中の美女(つまり自分)が自分の胸に手を当てて揉んでみる。
 「あン……いやん♪」
 乳房を揉まれる未知の感覚と、掌で柔らかな肉の柔らかさを堪能する感触が、同時に感じられた。
 「ってことは、コッチも……」
 スカート越しに股間をまさぐってみる。
 言うまでもなく、マイサンはどこかへ消えて、魅惑のデルタ地帯が広がっていた。

 ──もうおわかりだと思うが、僕はこの体の持ち主の女性と意識が入れ替わってしまったのだ!

 「ということは、僕の身体に、この金髪さん(以下、セイラさんと仮称)の意識が入っているのかな?」
 僕は、中味がセイラさん(仮)であると思われる「僕」の身体を揺さぶったり、頬をペチペチしてみたが、一向に意識を取り戻す気配はない。
 「困ったなぁ。せっかく出会えた人だから、この状況のコトとか相談してみたかったんだけど」
 そのまま自分の身体を廊下(?)に転がしておくのもヤな感じなので、仕方なく僕は「僕」を部屋の中に引きずり込んだ。

 さして大柄とは言えない僕の身体だけど、それでも意識のない人の身体をさっきのベッドまで運ぶのは、女の細腕ではちょっとした重労働だった。
 いや、重さだけの問題なら、せいぜい60キロ程度だろうし、それほど大変でもなかったんだろうけど、その……今の服装が、ね。
 お尻をピッチリ締めつけるタイトスカートの感触にはどうも慣れないし、足元がハイヒールなのも、歩きにくいことこのうえない。

 それでも、どうにかこうにか「僕」の身体をベッドの上に引っ張り上げて、ようやく僕はひと息ついた。
 「はぁ~、女の人の身体って、つくづく体力ないんだなぁ」
 このまま「僕」が目覚めるのを待っててもラチがあきそうにないし、今はこの姿でココの探索を続けるしかなさそうだ。

 ベッドに腰かけたまま溜め息をつくと、依然として気を失ったままの「僕」の顔が目に入った。
 「平和そーな顔して、のんきに眠りくさってェ」
 なんだか腹立たしくなってきたボクは、魔がさしたのだろうか、気が付くと「僕」の身体をうつ伏せにすると、黒いミニスカートをまくり上げていた。
 「う……!」
 女装してるうえに、色白で体毛も薄いタチのせいか、なんか……無性にエロい。
 思わず、それが本来の自分の身体だということも忘れて、尻を撫で回してしまった。
 やばい、このスベスベした肌触りと適度な弾力感。何かに目覚めそう──ってか、自分相手に欲情するとか、どんだけ~?

 それでも僕は、本能の赴くままに縞パンを引きずり下ろす手を止められなかった。
 「あ、やっぱりツイてる……って当り前か」
 むしろ、いきなり無くなってる方が問題だろう。
 見慣れたブツを目にして、少しだけ理性を取り戻したものの、逆に主に下腹部の奥でモヤモヤする思いに、我を見失った僕は……

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 <*分岐ポイント1>
 ●欲情する →(アナザーEND1へ)
 ○カンチョーする →(このまま下へ)

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 なんとなく両手を組み、2本の人差し指を突き出す。
 「せーの……てんちゅー!」

 ──ブスッ!!

 細い白魚のような指が、目の前の何者の侵入も許したことのない孔へと狙い過たず突き込まれる。
 「……ァッー!!」
 一瞬だけ、「僕」が目を覚まして、言葉にならない絶叫を漏らしたように思ったけど、結局意識を取り戻すことはなかった……って言うか、完全に白目を剥いてる!?
 第一、ノリでヤッちゃったけど、そもそもコレ、本来僕の身体じゃん。
 「──痔にならないといいなぁ」
 あるいは違う世界に目覚めるとか。
 「ま、まぁ、元に戻れるとも限らないしな、ハッハッハッ!」
 誤魔化すように笑うと、僕はそそくさと部屋を出た。

 大人げなくKAN-CHOUかましてしまった自分の両手をチラりと見る。
 「……できれば、手を洗いたいところだけど」
 洗面所か台所でもないかと建物の中をウロウロ歩き回ってみたところ、なぜか風呂場を見つけてしまった。
 「そうかー、風呂場に来たならお風呂に入るのが礼儀だよね」
 うんうん、仕方ない仕方ないと頷きながら、僕は服を脱ぎ始める。
 え? 「そんな呑気に構えてていいのか?」
 ──バッカモーーン! キミには失望した。帰れ!
 男女入れ替わり展開で、男が女、それも若くてビチビチした美人になった以上、その魅力を自分の目で確かめてみたいと思うことになんの不思議があろうか、いやあるまい(反語)。

 とは言え、女性の服装にまだ慣れてない僕としては、悪戦苦闘するハメになった。
 いや、ブラウスとかスカートはいいんだけど、ブラジャーがさ。おまけに、こんなおっきなオッパイぶら下げてるから、窮屈で……。まぁ、四苦八苦しながら、なんとか外せたんだけどね。

 「フンフン、フフンフンフン、フ~ン♪」
 風呂場の鏡に今の自分の姿を写し、さらにはお浴槽の中で「マッサージ」と称してあちこち揉んだり撫で回したりして、思い切り女体を堪能してから、僕は手早く身体を拭いて、もとの衣服を身に着け、探索を再開した。
 それにしても、脱ぐ時はあれほど手間取ったのに、着る方が楽だなんて、なんかヘンなの。
 ん? そう言えば、最初は真っ直ぐ立つのさえ難儀したハイヒールも、今は特に問題なく歩けてるし……。
 もしかして……僕、今の身体に馴染んで慣れてきてる?

 「いやぁ、困ったなぁ。なんとかして元にもどらないと(棒読み)」
 ──ええ、もちろん建前ですとも。こぉんなとびっきりの美人になれたのに、冴えない(まぁ、見ようによっては「可愛い」と言えるかもしれないけど、男が可愛くてもねぇ)元の自分に戻りたいと思うワケがない!
 いや、恋人とか好きな女性とかがいれば、また話は別なんだろうけどね。

 で、さらに建物内をいろいろ歩き回ってみたところで、再びビンゴ!
 1メートル半四方の小部屋に、白い陶器製の見覚えのある物体……ええ、もちろん、ココはWC、トイレット、厠、御手洗です。
 「あぁっ! この部屋に入った途端、なぜか急に堪えきれない尿意が!!」
 スカートをめくってショーツを下ろし、いそいそと洋式便器に腰かけると、そのまま用を足す。

 ──ジョロ、ジョロジョロ……

 男の時とはまるで異なる、股間を尿が滴り落ちて行く感覚に、不思議な感動を覚える。
 (そーかー、これが女の人のおしっこする感じなんだぁ)
 正直、先程のお風呂以上に違和感があるけど、これもまぁ、慣れるしかないんだろうな。
 うろ覚えの知識ながら紙で股間を拭いてスッキリさせてから、僕は服装を直して、トイレを出たのだった。

 とりあえず、手当たり次第に建物の扉を開けていったところ、そのうちのひとつが外に通じるドアだったみたい。僕はいきなり道路へ出ていた。
 どうやら、こちらは正規の玄関じゃなく、通りに面した裏口らしい。いや、それはいいんだけど……鼻先30センチくらいのところを、大型のダンプカーが凄いスピードで通り過ぎて行ってマジでビビったよ。
 さっきの建物では結局最初の(今僕と入れ替わっている)女性にしか会わなかったので、話のできそうな人を捜して、僕は通りを歩き始めた。

 それにしても……いったいここはどこなんだろう?
 薄暗い光景に不審を覚えて上を見上げてみると、どうやらここは屋外ってワケじゃないらしい。5、6メートル程上にコンクリートらしき天井が見えるし。
 (どこかの地下街の一角ってところかなぁ)
 とは言え、その天井に蛍光灯などの照明器具類が見当たらないのが変だ。なのに、ぼうっと壁自体が薄暗く光ってるせいで、本が読めるほどじゃないけど、おおよその視界は確保できてるし。
 ふと、「異世界」と言う単語が脳裏をよぎり、僕はブルッと背筋を震わせた。
 (な、なにを馬鹿なことを……)
 ふるふると頭を横に振って、そんな妄想を振り切る。

 少し歩いたところで道端に何かのお店らしき建物を発見した。煉瓦造りのしっかりした、けれどかなり古そうな大きな建物だ。空けはなしのドアから足を踏み入れると、中にもさらに扉があり、その脇の看板には「アンティークショップ ヤマダ」と書かれていた。
 「ぷっ……や、山田って……アンティークショップなのに」
 いや、別段全国の山田さんにケンカを売るつもりはない。ただ、店名に山田という響きを活かすなら、横文字じゃなくて「古物商」とかそれらしい言い回しがあると思っただけ。

 内扉を開けて中に入ろうとしたんだけど、なぜかビクともしない。というか、扉そのものから、絶対的な拒絶の雰囲気が感じられる。
 「な、なぜだ……これじゃあ商売やってる意味ないだろ!?」
 僕は呻いたものの、そのプレッシャーには勝てそうにない。仕方なく、そのまま入口から出て、別のところを探しに行こうとしたんだけど……。

 ──ドーン!

 うっかりしていた僕は、気がつくと、凄いスピードで走って来た大型トラックに跳ね飛ばされた。目測で10メートルは軽く吹っ飛び、細い手足がありえない方向にねじれ、さらには首も180度後ろを向いている。

 (あ、コレは、死んだな)
 疑いようもない自分の「死」が、妙にアッサリ納得できた……が!
 目の前に自分の(正確にはセイラさん(仮)の、だが)身体があって、なおかつココに自分(の意識)があるってことは……。

 どうやら僕は、幽霊──俗に「浮遊霊」と呼ばれるような「存在」になってしまったらしい。
(うーむ……これは、セイラさん(仮)に申し訳ないことをしちゃったなぁ)
 とは言え、元に戻る方策は皆目見当もつかなかったのだし、代わりにそれなりに健康優良(?)な僕の身体を差し上げるのでご勘弁いただきたい。

 (お化けにゃ学校も~試験もなんにもないっ、と)
 とりあえず死神なり天使なりのお迎えも来る気配はなかったので、有名なあの歌を口ずさみつつ、僕は周囲の探索を続けることにした。
 幽霊状態だから、これ以上死ぬ心配はない。浮遊も壁抜けもOKだし、探索には最適だネ! ……と、馬鹿なことを考えていたら、ふと先程の「開かずの扉」のことを思い出した。

 (おお、やっぱり)
 例のATフィールドまがいのプレッシャーは、生者にしか影響を及ぼさないものらしい。
 僕はアッサリとドアを「抜けて」、ついに「アンティークショップ ヤマダ」の店内に侵入することに成功したのだ!

 「おや、幽霊とはまた珍しいお客さんだね」
 店内をキョロキョロ見回していた僕は、いきなり声をかけられてビクッと飛びあがった。
 振り返ると、カウンターで暇そうに頬杖ついていた店主と思しき30過ぎくらいの背の高い男性と視線が合う。

 (えっと……僕のこと、見えてます?)
 「ああ、もちろん。ウチで扱う商品の中には、呪われてたり、悪霊が取り憑いてたりと言ったいわくつきの代物もあるからね。幽霊くらい見えないとこの商売やってけないのさ」
 し、知らなかった……古物商って、案外ハードな仕事だったんだなぁ。
 「とは言え、アンタからは別段邪気も感じないし、無害な浮遊霊ってトコだろ?」
 (はぁ、確かに祟ったり悪さをする気はありませんけど……)
 「だったら、店ん中覗くくらいは構わないさ。それで気に入ったものがあったら買ってくれればいい」
 今の僕に支払い能力はないし、そもそも物が持てないと思うんだが、せっかくなのでお言葉に甘えよう。僕は、ちょっとした展覧会並に広いアンティークショップの中を、スイーーッと気ままに見て回った。

 店の中は、いくつかの部屋に分かれて雑多なものが置かれていた。
 古びた家具だとか、武者鎧だとか、ヤバげな日本刀だとか、額縁に入った油絵だとかの、いかにもアンティークショップにありそうなものに混じって、ときどきヘンな物も置いてある。
 古い食器や机はいい。西洋剣もそれっぽい。この際、古雑誌も「古本」のバリエーションとして許そう。明らかに着用済みの下着(昔の女の人が履いてたドロワーズとかシミーズっぽいの)も、ある意味骨董品としての価値があるのかもしれない。
 どう見ても素人が日曜大工で作ったっぽい本棚とかも、値段によっては売れないことはないだろう。アンティークショップと言うよりリサイクルショップっぽいけど。
 でも……工事現場で杭打つのに使ってそうなデカいトンカチなんて、絶対需要ないだろ!?

 (ここの店主の仕入れ方針はどうなってるんだろう……)
 そう思い始めたところで、僕はひと回りして最後の部屋まで来ていた。おそらくは位置的に正面のドアの向こうが、カウンターのある店の入口になってるはず。
 けど、そこに展示されているあるモノを見た時、僕は一目で心を奪われてしまった。

 それは、壁に斜めに立て掛けられた棺のようなものに安置された、精巧に作られた等身大の人形だった。
 正確には、身長150センチ足らずの、深緑色のゴスロリドレスを着たローティーンの少女を模したアンティークドールだ。
 ただ、その造形には、この種の人形にありがちなデフォルメが一切されていないので、まるで本物の少女が棺の中で眠っているだけのようにも思えた。
 もっとも、かなり上手く染めても、こんな綺麗な菫色の髪にはならないだろうけど。

 (ん!? ひょっとして……)
 もしかしたら、この人形に取り憑けば、今の僕も実体を持てるんじゃないだろうか?
 試しに、その人形に自分の霊体(?)を重ねてみると、呆気ないほど簡単に中に入り込めた。
 僅かな違和感を感じたのち、徐々に身体が馴染み、視界が一瞬ブレたかと思うと、すぐに回復する。
 「成功、かな?」
 呟いた声は、か細い女の子のものだったけど、確かに「音」として僕の口から発せられていた。
 僕はゆっくりと棺桶のようなディスプレイ台から立ち上がり、ドレスの裾を揺らしながら店の入り口に向かって歩き始めた。

 「おや、もしかしてさっきの幽霊さんかい? 何とも可愛らしい姿になったもんだね」
 売り物の人形が自分で歩き出したと言うのに、店主はほとんど驚いた様子も見せない。
 「オーナーさん、この人形って……」
 「ああ、それか。いやぁ、昔なんちゃらメイデンとかいう有名な人形の試作品として作られたらしいんだけどさ、肝心の核になるローザなんとかって代物が制作当時は用意できなかったらしく、結局未完成のまま放棄されたのが、流れ流れてウチの店まで来たんだよ」
 ちょ……ロー●ンさん、何やってんの!?
 でも、そう聞かされると、このドレスの趣味にも納得だ。水銀●と翠●石の服を足して、スカートをやや短めにしたようなデザインだし。

 「試作品だけあって、正式タイプよりオーバースペックな部分も多いらしいよ。その証拠に、外見だけ見たら完全に人間と見分けがつかないだろ?」
 言われてみれば確かに。七部袖の端から覗く肘も、スカートをたくしあげて見える膝も、球体関節じゃなく普通の女の子の肌に見えるし。
 動かしても肩とかお腹とかに違和感はないから、そっちも普通の人間っぽくなってるんじゃないかな。スゲーぜ、ロ●ゼンさん!!
 それに、もし僕の魂がメイデンのローザミステ●カの代わりをしてるのだとしたら、この体なら飲食とか睡眠も可能かもしれない。肉体を喪った僕にとっては、最高に近い憑り代と言えるだろう。

 「お客さん、その人形(からだ)が気に入ったのかい? でも、一応売り物だから、無料で持って行ってもらっちゃあ困るんだけど……」
 う! そりゃあそうだ。そんな言われのある代物ならなおさら高価だろうし。
 「そのぅ、お金は……」
 「はは、わかってるって。幽霊がお金持ってるわけないものな。うーん、それなら、お嬢ちゃんには身体で──って言っても、イヤラシイ意味じゃなく、ここで働いて返してもらおうか」
 つまり、この店の店員、看板娘になれってこと?
 「その通り。まぁ、無理にとは言わないけど、天引き分を除けば、ちゃんと給料も払うし、三食&部屋付きだよ」
 うーむ、確かに魅力的な提案だ。
 でも、なぜだろう。心のどこかで「先に進め!」という声が聞こえるような気がする。

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 <*分岐ポイント2*>
 ○店で働いて返す →(アナザーEND2へ)
 ●断わる →(このまま下へ)

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 「うーん、そうか。じゃあ仕方ない。ひとつ仕事を引き受けてもらおう」
 「仕事、ですか?」
 「ああ。実はさ、この店、かなり前、オヤジが生きてた頃に改装したんだけど、改装以前は店内に上の階層に続く階段があったらしいんだよね。けど、オヤジが改装後の図面引く時にヘマして、階段を壁で囲んじゃったみたいなんだ。
 そろそろ新たな仕入れ先を開拓したいから上に行きたいんだけど、お嬢ちゃん、何とか算段つけてくんないかい? それが出来たら、人形代はチャラにしたげるよ」
 何と言うRPG的クエスト! しかし、ゲームとかだと、先に進むには隠し扉とかを見つけるのがお約束だよね。
 「わかりました。やってみます」

 ──と安請け合いしてから30分余りで、見つけちゃいましたよ。いかにもな「壁の脆くなってる所」を。軽くコンコンと叩いてみると、音からしてやはり壁の向こうは空洞っぽい。

 一応店主の許可を得たうえで、売り物(?)のハンマーを持ちだす。こんな小柄な体で持てるのかとも思ったが、確かに重いがこのハンマー、意外と取り回しは悪くない。
 「ははは、まぁ、初心者御用達のユクモ●木槌だからね!」
 店主がサムズアップして歯をキラリと光らせたが無視。僕はどちらかと言えば大剣派なのだ。
 ショボン(´・ω・`)とする店主を尻目に、「往生せぇや!」と壁に思い切りハンマーを叩きつけたら、たった2撃で崩れて向こうの空間が見えた。

 「おぉ、これだコレ。おかげで上の階に行けるよ。お嬢ちゃん、ありがとな!」
 いや、こんなナリしてますけど、僕はお嬢ちゃんじゃない……って言う暇もなく店主は壁の向こうの隠し階段(?)を駆けあがって行った。
 あとに残された僕は「ポカ~ン」状態だ。
 ──て言うか、「上の階」ってナニ?

 「とは言え、ここに留まっていても仕方ないか……」
 好奇心に負けて、僕も上の階とやらに行ってみることにする。
 用心のために、店内で見かけた刀を無料レンタル(つまり無断借用)しようかとも思ったんだけど、いかにも禍々しい気配を放ってたんで遠慮することに。
 なんか、手にしたらやたらと人を斬りたくなりそうだし。
 代わりに、さっきのハンマーを担いでいくことにした。コッチは正式に店主に借りる許可を得てるもんね。期限は決めてないし。

 2階(いや、本当は何階か知らないけど)は、1階(仮)とはうって変わって薄暗く、壁も打ちっぱなしのコンクリで床には埃が積り、まるで本物のダンジョンのように見えた。
 ──「まるで」? いや、むしろこれはダンジョンそのものだ。
 そう言えば、そもそもこの建物は何なのか。真っ先に店主に聞いておけばよかったと思い至ったものの、後の祭りだ。
 仕方なく僕は、極力警戒しながら2階を歩き出したんだけど……。

 『スライム注意!』
 ……いや、さすがにこの立て看板はどうかと思う。これじゃ、まるっきり「WIZ」だ。
 もっとも、「Wizardry」のスライムは基本的に雑魚(まぁ、フラックスみたく、べらぼうにHPが高いヤツもいるけど)なんだが、現実にスライムがいたら結構厄介だって、TRPGの本で読んだな。
 なにしろそのゲル状の身体には物理的な武器の効果が薄い。溶解液を出すタイプなら、武器や防具が損傷する可能性も高いし、知能が低いということは逆に恐怖を感じないから、逃走もしない。
 今、僕が持ってるのは、ダメージは大きいけどスピードは遅そうなハンマーだけ。鈍器無効化能力の高そうなスライムとの相性は最悪だ。

 とりあえず、細心の注意を払って──例の看板からできる限り離れるようにして探索を進めたところ、「コノサキキケン」という立て看板&扉と、3つに分かれた通路を見つけた。
 立て看板の方は保留。明らかにトラップだし。
 通路の方は床に「3つの道のうちひとつだけアタリ」と書いてあった。
 「確率は3分の1かぁ」
 ほかに手掛かりもないので、とりあえず勘で真ん中の道を選んだら…ビンゴ! 大当たりだったようだ。
 途中で何度かクラッとくる感覚があったので、周囲をよく見てみると、どうやら「WIZ」でおなじみの回転床が仕掛けられていたらしい。

 その地点で注意深く方向転換して、ついに明るい光の差す扉の前まで来たんだけど……。
 「コレもお約束ってヤツですか、司令?」
 司令って誰さー!? と自分で自分にツッコミを入れつつ、僕は冷や汗を流しながら目の前の巨体を見つめる。
 それは、身の丈3メートルは下らない黒い人型の化け物。
 「オーガか、あるいはトロウルかな?」
 とは言え、ムー●ン谷でコメディくり広げている愉快なヤツらと違って、目の前の巨人はすこぶる凶暴だ。
 なにせ、出会い頭に手にした巨大な棍棒を叩きつけて来たのだから。

 「この身体でなかったら、即死だった……」
 人並み程度の反射神経しか持たなかった僕の本来の身体に比べて、某ローゼ●さん作と思しきこの人形の体は、すこぶる身軽に動ける。おかげで、間一髪、相手の攻撃をかわすことができたのだ。
 「ともあれ……ココが正念場だよな!」
 ボス戦に勝てば、新しい展開が開けるものと相場が決まっている。
 僕は、背負ったハンマー「ユ●モノ木槌」の両手で構えると、巨人と戦う覚悟を決めるのだった。

 はたから見れば、戦いは僕が優勢に見えたかもしれないが、実際は薄氷を踏むような思いで僕はハンマーをぶん回し続けていた。
 なにせ、さっきから4、5回、渾身の力でハンマー攻撃を当てたのに、相手は(多少は痛そうだが)まだまだ元気なのだ。
 反面、この華奢な体で敵の攻撃を受ければ、下手すれば一撃で致命傷になりかねない。

 その危惧は当たって……。
 「かはっ……!!」
 ついに巨人の拳の直撃をくらった僕は、壁際まではじきとばされてしまった。
 「ちくしょー、ココまでなのか?」
 たった一度の攻撃で、体中がギシギシ言ってる。フラつく意識を強引に取り戻し、立ち上がろうとしたところで、ドレスのスカートの隠しポケットらしき場所から、何かが落ちた。

 「? これは……」
 「DRINK ME!」と書いたラベルの貼られた小瓶は……もしかして回復薬とか?
 まぁ、本家「不思議の国」みたく体が大きくなったり縮んだりする公算もなきにしもあらずだけど、それならそれで状況を打破するチャンスだろう。
 僕は思い切って瓶の中味を飲み干す──と、いきなり体中に力が湧いてくるのを感じる。
 「これは……秘薬か!?」
 一瞬にして健康体、いやそれ以上のコンディションになった僕は、すばやくハンマーを振りかざすと、オーガもどきの元へと走り込む。
 「体が軽い! こんな幸せな気分で……おっと、自重自重」
 アレは死亡フラグだからな~。
 それでも、数分後、有無を言わせぬ強引な攻めで、僕は巨人をグチャグチャの肉塊に変えることに成功した。
 「へ、へへへ、やったぜ、オッチャン……」
 オッチャンって誰だよ!? と律儀に自分にツッコミつつ、僕は目の前の扉を開け……。




 ハッと目が覚めると、そこは見慣れた自分の部屋だった。
 慌てて自分の体を見下ろしてみたが、ちゃんと男に戻っている。
 ま、まぁ、夢の話なんだから、当然だよな。
 「僕」は、夢の残滓を振り払いつつ、朝の支度のためにベッドから起きて洗面所に向かう。
 ヒゲは……元々薄いほうだし、まだほとんど伸びてないからいいか。
 適当に顔を洗い、同じく適当に制服に着替えて、朝食を詰め込んだのち、時計を見るとヤバい時間だったので、急いで学校へと向かう。

 だから、僕は気付かなかったのだ。
 僕の体が以前よりずっと色白になっていたことに。
 身長も昨日より3センチばかり縮んでいたことに。
 なぜか高校の制服に着替えて卒業したはずの母校に向かっていることに。
 そして……自分のことを「俺」ではなく「僕」と呼んでいることに。


To Be Continue?


#ここまでが、原作「夜の夢」第1弾、「一ノ夜」のSS化です。
#ちなみに、以下は文中に現れる分岐の結末の概要。詳しく書くとX指定になっちゃうので、ダイジェストでお届けします。そのうちキチンと文章化してPIXIVに載せるつもりですが……。


───────────────
アナザーエンド1
 体の奥底で蠢く情欲につき動かされた僕は、目の前の「僕」の体を再度仰向けにして、股間のモノをその白魚のような指で弄ぶ。少しずつ大きくなってきたソレを口にくわえて奉仕する僕。完全に充血した頃合いに、騎乗位でソレを胎内へと迎え入れる。激しく腰を振る僕は、すっかり女の快楽の虜に。いつしか意識を取り戻した「僕」に組み敷かれ、そのまま交わり続ける僕は、女として抱かれる悦びに心も身体も満たされていくのだった。


アナザーエンド2
 アンティークショップの店員になった僕。愛くるしい容姿と真面目な働きぶりで、すぐに常連客から大人気に。そうこうしている内に、女の子としての体と暮らしにも馴染み、いつの間にか恋人(実は僕の体の元セイラさん)もできる。
 娘か妹のように可愛がってくれる店主に見送られて、今日は「彼」との初デートだ。お給料を貯めて買った涼しげな白いワンピース(と密かに勝負下着)を着て、胸を弾ませながら、「あたし」は彼との待ち合わせ場所へと出かけるのだった。
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