『ランゴスタ奥様劇場』2

これを書いたころ確かP2Gを始めているはず。ウロ覚えですが。


『ランゴスタ奥様劇場』
その弐


 5人で鍋を囲んだ日の次の夜の話。

 「くっ……イ…イクぞ………!」
 「ああっ、キて、キてたもれ……あっ、あっ、あっ……ああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 いつもの"夫婦の営み"のあと、抱き合ったまま荒い昂ぶりが収まるのを待ち、ようやく呼吸と心拍が平静に近づいたところで、名残惜しげに抱擁を解き、布団の中に並んで横たわる。
 「のぅ、旦那様……」
 ランが、あおむけになったマックの胸に擦り寄り、ふと思いついた疑問を投げかけた。
 「昨夜の晩餐での旦那様の字名(あざな)の話じゃが……もしかして、あれは嘘ではないかえ?」
 「……はぁ? えらく唐突だな。何か気になることでもあったか?」
 「最初、カシム殿が理由とやらを話そうとされた時、旦那様はエラく慌てていらした。それなのに、いざカシム殿が話し始めると、それほど嫌な顔をされていなかったからのぅ」
 己れの腕の中で上目使いに見上げてくる妻の顔をしげしげと眺めたのち、マックは溜め息を漏らした。
 「……ふぅ~、言葉にしなくても表情でわかる仲ってのも、良し悪しだな」
 「されば……?」
 「しゃあねぇ。話してやるけど、ほかの奴らには内緒だぞ?」
 とくにヒルダにはな、と念を押してからマックは真相を語り始めた。

 「とは言っても、アレはアレで嘘ってわけじゃない。ただ、それ以外にも理由があるってだけだ。
 俺が元貴族のボンボンで、半ば家出したような状態でハンターになったってことは、知ってるよな?」
 「うむ、ヒルダより、聞き及んでおりまする」
 「実家にいたころは剣の腕には多少自信はあったんだ。親父がその辺りはけっこう厳しい人でな。貴族の次男坊とあっては、学業か武術のいずれかが優れていなければ、この先身を立てていくのは難しかろう、ってな」
 勉強嫌いの落ちこぼれは、必然的に剣の鍛錬にのめり込んだのだ、と自嘲する。
 「とは言え、所詮は実戦も知らないお坊ちゃん剣技だ。それに右も左もわからぬハンター稼業に足を踏み入れたら、剣以外にも覚えないといけないことは沢山あるしな」
 かつての自分は、例の年上美人と結婚した後輩ハンター以上の三流狩人だったなぁ~と、遠い目をする。
 「ハンターになってひと月ぐらいしたころは、クエストの成功率が半分を切っててな。さすがに自信喪失して王都に帰ることも頭を横切るようになったさ」

 そんな時、マックにこの稼業のイロハを叩き込んでくれた年配の狩人がいたのだと言う。
 すでに老人と言っても差し支えない年齢にも関わらず、ウォーバッシュと呼ばれる巨大な鉄槌を豪快に振り回すベテランハンターだった。
 「その人と組むようになって以来、当然っちゃあ当然だが、請ける仕事はことごとく成功でな」
 彼にとっては有り難い話であるはずなのに、マックは徐々に引け目を感じるようになってしまったのだ。
 「まぁ、それほどの古強者にとっちゃ、俺のような下位ハンターの受けられる仕事なんて、まさに朝飯前だったんだろうが」
 身に着けた装備の質は、もちろん違う。
 しかしそれ以上に、狩りを積み重ねた経験と、そこから得られた知識が段違いだ。
 「でも、その時の俺には、そんなことがわからなくてな」
 その人がいともたやすく数々のモンスターを屠れるのは、手にした武器が強いからだとばかり思いこんだ。
 ようやくドスバイトダガー改を作ったばかりの彼は、つい酒場でそのことを愚痴ってしまったらしい。
 彼の戯言を耳にした老ハンターは、黙ってマックを鍛冶屋に連れていき、彼の目の前でアサシンカリンガを作らせた。その場で買ったハンターシリーズを防具に身に着け、新品のアサシンカリンガを手に彼を連れ、怪鳥狩りのクエストに挑んだのだ。
 「単身向けならともかく集団狩り向けの強めのイャンクックだぜ? それを俺には何もさせずに、制限時間いっぱいどころか半分も残してひとりで倒しちまいやがった」
 回復薬を使い切り、ボロボロになりながらも、倒した怪鳥を背に、ニカッと笑った老狩人の笑顔は、強烈な印象をマックに残した。
 「『敵を知り己れ知れば、百戦危うからず』」
 「東方の軍略家ソンシの教えですな?」
 「らしいな。『全てのハンターの基本は、己れの武器の特性と、モンスターの特性を知ることよ。さらに狩り場の地形を利用し、適切な戦法で挑めば、必ず勝てるもんじゃ』って一喝された」

 それ以来、"狩魂王"と呼ばれた老狩人のせめて"片腕"分くらいの働きはできるようになりたいと、マックは彼に熱心に師事するようになった。
 その想いをふと漏らしたことからついた呼び名が"かたうでマック"の起源らしい。
 「まぁ、そうと知って呼ぶ奴も、今では少なくなっちまったがな」
 と、照れ臭そうにマックは締めくくる。
 「なるほど。"人に歴史あり"とは申しますが……よい出会いをなされたのですな」
 優しい色を瞳に浮かべて、自らの夫を両腕できつく抱き締めるラン。
 「おいおい。いつになくベタ甘だな」
 「申し訳ありませぬ。なぜだか旦那様をギュッとしたくなってしまいました故……」

 彼の顔に僅かに浮かんだ郷愁の色を見て、胸が締めつけられたのだ、とは口にしない。
 しかし、言葉にしなくても気持ちは伝わったのだろう。彼女の夫も抱き返してくれる。
 しとねに暖かな空気が流れ、そのほのかな温もりに包まれたまま、ふたりは眠りについたのだった。

 ~FIN~

以上。マックの若気の至りな過去話でした。



<オマケ>
 「ところで我が君。そのお師匠様は、未だご健勝なのですかえ?」
 翌朝、朝食をとりながら、ランはマックに聞いてみた。
 口にしてしまってから、昨晩の夫の様子からすると、すでに引退しているか、あるいは最悪亡くなっているのではと言う懸念も浮かんだのだが……。
 「おぅ、ピンピンしてるぜ」
 どうやら、嫌な予感は外れたらしい。
 「こないだも、単独でラージャン2頭狩りなんて無茶なクエストを軽々とこなしてたな。すでに70歳を越えてるってのに、化けモンだぜ、ありゃ」
 「……本当にその御方は人間なのですかえ? 黒龍や覇竜の化身と聞いても、妾は驚きませぬぞ」
 「いや、違うんじゃないか? ミラもアカムも、ひとりで倒したことあるみたいだし」
 ――この世界でいちばん恐いのは、実は人間かもしれない。
 そう改めて考える元ランゴスタな奥様でした。 
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