『未来にキスを』

 最近、2ちゃんに投下した短編(中編?)をふたつ続けてココとピクシヴへ掲載します(後者は18禁版になる予定)。
 年末以来のスランプを跳ねのけるべく四苦八苦しつつ書いてはみたものの、執筆時から薄々感じてはいたのですが……最近マンネリ?
 引き出し増やすべく、色々考えないといけませんね。

 まずは、立場交換スレに投下した方から。ちなみに、2作ともここに掲載している「泳げ! チハヤちゃん」「スクールガールラプソディ」その他と同じ世界観のお話。ほかにも、このブログ(及び拙作)読者なら、ニヤリとする単語が散りばめられているかも?


未来にキスを

 長かった冬も終わり、そろそろ寒さを和らいで春の足音が着実に聞こえてくる3月半ばの、とある日曜の朝。
 両親が海外赴任中の霧島家では、高校生の兄・斗至(とうじ)が台所で朝食の片付けをし、小学生の妹・未来(みき)はリビングでアニメ『ふたりはアルキャロ』を観ていた。
 小学生とは言えすでに6年生で、春から中学校に進学する年頃の娘にしては少々子供っぽい番組選択だが、未来は昔からこの種の「魔法少女アニメ」大好きなのだ。

 ──ピンポーン!

 来客だろうか、玄関のチャイムを鳴らすという音が聞こえてきたのだが、番組が佳境に入り真剣な顔でテレビに見入っている未来は気づかない。
 妹に甘い斗至は、「しかたないな~」と苦笑いしつつ玄関に向かい、リビングに戻って来た時はかなり大きめの段ボール箱を抱えていた。
 「おい、未来、中学の制服が届いたみたいだぞ」
 「え、ホント!?」
 ちょうど今週の回が終わり、番組がエンディングに入っていたらしく、未来は嬉しそうな顔で兄の方に寄って来た。
 ワクワクした様子を隠しきれずに未来が箱を開けると、確かにそこには4月から未来が通うことになっている涼南女学院中等部の制服が、綺麗に畳まれて入っていた。

 「わぁ~♪」
 気遅れしたかのように、恐る恐る箱から制服を取り出して広げる未来。
 明治時代に創設された女学校にまで歴史を遡れる涼南女学院の制服は、その伝統もあってか、藤色の上着と臙脂色のスカートと言う、どこか明治大正の女学生を連想させる色彩を採用している。
 もっとも、流石にこのご時世に着物&袴と言うわけではなく、形としては比較的オーソドックスなブレザー&スカートだ。
 ただ、上着丈が短めで、対象的にスカート丈はやや長めかつハイウェストで腰の後ろに大きめのリボンを結ぶ形状になっている点や、制靴がローファーではなく編み上げブーツな点などは、やはりかつての海老茶式部を意識しているのだろう。

 「ねぇ、お兄ちゃん……」
 上目遣いで何かをねだるような視線を向ける妹の表情に、斗至は苦笑する。
 「あー、ハイハイ。着てみてもいいけど、汚さないようにな」
 「はーい♪」
 嬉しそうに制服一式の入った箱を抱えると、未来は二階の自室へと姿を消した。
 このあとの展開を予想している斗至は、手早く洗い物を済ませると、時間潰しのためにインスタントコーヒーを入れ、それを飲みながらリビングでしばし待つ。

 案に違わず、しばらくすると二階からトントントンと未来が降りて来る足音が聞こえた。
 「じゃーーん! 見て見て、お兄ちゃん!!」
 満面の笑みを浮かべてリビングに入って来た制服姿の未来を見て、斗至は「へぇ」と軽く目を見張った。
 涼女の制服は色彩的にはやや地味だが、デザイン自体はトラッドかつ洗練されている。
 そのブレザー(+白ブラウス)&スカートに加えて、足に白いニーソックスを履き、さらに新品のショートブーツまで身に着けて、ちょっと気取った立ち方をしてみせる未来の姿は、兄の欲目をさし引いても、なかなかサマになっていた。
 元々、性格の子供っぽさに反し、未来の身長自体は156センチと同年代の平均を大きく上回っているのだ。こんな風に女学院の制服を着て澄ましていれば、中学生どころか高校生と言っても通用するかもしれない。
 本人もそれがわかっているのか、わざわざいつものツーサイドアップにしている髪のリボンを解き、真紅のカチューシャで前髪を整えている。唇が艶々してるのは、色つきリップでも塗ったのだろうか。

 「お兄ちゃん、どうかな?」
 「えー、あー、うん、いいんじゃないか。なかなか可愛いと思うぞ」
 とりあえず、正直に思うところを口にした斗至だったが、未来はいささか不満そうだ。
 「え~~、「かわいい」のォ? ミキとしては「きれい」ってほめてほしかったんだけど……」
 「あはは、バーカ、未来にはまだ早いって。ま、心配しなくても、中学高校と涼女にいれば、自然に極上の大和撫子になれるさ。あそこは生粋のお嬢様学校らしいしな」
 「そうかな……そうなれるといいな」
 どこか遠いところを見るような憧憬の目付きになった未来の頭を、斗至は優しく撫でてやる。
 「もちろんだ。未来なら、きっとスッゴイ美少女になれるぞ。兄ちゃんが保証する」
 「エヘヘ~♪ うん、ありがと、お兄ちゃん」
 兄に抱きつくようにして猫みたいにゴロゴロと甘える妹。
 それだけ見れば、今時珍しい程の仲の良い兄妹の、心温まる光景と言えるだろう。

 しかし──。
 上機嫌な未来が着替えるために部屋に戻ったところで、斗至は冷めたコーヒーを飲み干しながら、本日三度目の微苦笑を片頬に浮かべた。
 「それにしても、あの人もスッカリ「未来」に馴染んだな……」
 斗至の瞳の奥には、先程までの妹への愛情溢れる視線とはどこか異なる、まるで面白がるような色が微かに見て取れた。

 そして、同じ頃。未来と呼ばれた娘は、二階の部屋で「アルキャロ」の主題歌を口ずさみつつ制服を脱ぎ、先程までと同じピンクのトレーナーと赤いサージのジャンパスカートという部屋着に着替えていた。
 カチューシャを外し、ドレッサーの前で髪をお気に入りのリボンで結ぼう……としたトコロで、はたと我に返る。

 「──うわ……ヤバい。また、ボク、完全に「未来ちゃん」になりきってたよ……」
 一転落ち込んだ調子で不思議な事を口走りながらも、その手は休まず、両耳の上の髪をリボンでまとめる。
 いかにもこの年頃の女の子らしい、可愛らしい髪型にまとまっていたが、当の本人はそれどころではないようだ。
 「うぅ……いくら神様の影響だからって、気をつけないと。こんなんじゃ、ボク、心の中まで「12歳の女の子」に染まっちゃうよォ」

 「未来」が口走っている「神様」云々は、別段何かの妄想とか厨二病とかの類いではない。
 まごうことなく、ソレは存在するのだ。

 なぜならば。
 この、やや背は高めで多少大人びてはいるが、誰からも愛らしい女の子にしか見られない「少女」は、本当のところは「少女」どころか女性ですらなく、すでに高校も卒業して久しい20歳前の男性に他ならないのだから。

 * * * 

 現在「12歳の女子小学生・未来」として霧島家で暮らしている人物は、元々この家の親せき筋に当たる青年だった。
 名は、桝田聖孝(ますだ・きよたか)。霧島兄妹から見て、母方の従兄にあたり、また斗至にとっては同じ高校の2学年先輩でもある。
 大学受験に失敗した聖孝は、一浪したのち結局大学進学をあきらめ、昨年の4月から専門学校に通うようになっていた。

 一方、大手商事会社に勤める霧島兄妹の両親は、同じ年の7月からふたりを残して海外の支社へ赴任することになった。
 何かと肩身の狭い実家を出た聖孝のアパートが霧島家と目と鼻の先ということもあって、霧島夫妻は甥に「時々でいいから息子たちの面倒をみてやってくれ」と頼み、聖孝も快く引き受けた……までは良かったのだが。

 実際のところは、これまで家事もバイトもロクにしたことがない温室育ちの彼の方が、しっかり者の霧島家の兄妹に世話になってる事の方がむしろ圧倒的に多かったのだ。
 何しろ、月末の仕送り前、金欠になると、しょっちゅうこの家にご飯をタカりに来ていたくらいだ。
 無論、長いつきあいの霧島兄妹は心得ていて、今更その程度のヘッポコっぷりで見放すようなことはなかった──まぁ、代わりに年上の従兄としての威厳も皆無だったが。彼の童顔と160センチにも届かぬ背の低さも、その傾向に拍車をかけていた

 * * * 

 ところが、年の瀬も押し迫った12月の半ば。しばらく霧島家に顔を出さなかった聖孝が、蒼い顔をしてふたりに泣きついてきたのだ。
 「ど、どうしよう!? トウジくん、ミキちゃん……」
 聞けば、年明けの1月末に1年間の授業の成果として作品を提出しなければいけないのだが、それがまったく上手くいく自信がないのだと言う。

 聖孝は現在、専門学校の中のCGイラスト科(コース)に通っている。
 元々マンガやアニメが好きで、また、好きなマンガの絵を模写をすることが趣味だったからCGコースを選んだのだが、さすがに高卒向け専門学校は、その程度で通用するほど甘いレベルではなかったのだ。
 しかも、小心者の割に要領が悪く流されやすい聖孝は、同じ専門学校に入った高校時代の悪友たちに引きずられ、専門学校生としてもあまり勤勉な学生とは言えなかった。
 仮に趣味に邁進するならするで、同人活動などに精を出しているならまだ救いもあるのだが、そういうワケでもなく、ただ漫然と日々を過ごすのみ。
 不幸中の幸いと言うべきか、秋の学園祭が終わった頃には悪友の大半が専門学校に見切りをつけて辞めていったため、聖孝も11月半ばからは(比較的)マジメに授業を受けるようになっていたのだが、さすがに少し遅すぎた。

 「──って、俺達に言われてもなぁ」
 「だいたい、それってキヨちゃんの自業自得でしょ」
 年下のイトコ達は、至極冷静な反応を返す。
 高校で後輩だった斗至はもちろん、まだ小学生の未来にまで、いい歳した男が「ちゃん付け」で呼ばれているあたりに、聖孝の霧島家におけるヒエラルキーの低さが窺える。
 もっとも、この場合、まんざら聖孝だけに原因があるわけでもなかったが。
 一言で言うなら、霧島未来という少女は「早熟な秀才」だった。
 小学校1、2年の頃からその片鱗は垣間見えたが、年を経るごとにその傾向は進み、いまでは12歳とは思えぬ大人びた精神年齢と容貌を備えるに至っている。頭の回転もよく、初対面の人間は、未来を見たら大抵は16、7歳と判断するだろう。
 身長も155センチと、これまた高校生レベル。もっとも、その体格の割に未だ初潮を迎えていないせいか、体型自体は女らしい丸みにやや欠けるが、そのあたりは個人差と言えるレベルだろう。

 「わ、わかってるよぉ。でも……今回だけは、ホントにマズいんだ。
 ねぇ、ミキちゃん、助けてくれないかなぁ」
 聖孝が未来にこうして頭を下げているのは、未来もまた絵を描くの才能を持っていたからだ。それも、間違いなく聖孝より数段上だろう。
 現に、某イラストコミュニティサイトに「FutureFog」という名前で何十枚もCGを投稿し、すでにそれなりのファンがいるくらいなのだから。
 つまり、このヘタレ男は、よりによって小学生の従妹に課題の絵を描いてもらおうとしているらしい。

 「おいおい、キヨちゃん。そういうイカサマは感心しないぞ」
 「同感。一応、わたしにも絵を描くものとしての自分の作品にプライドはあるからね~」
 慣れていることもあり、聖孝の泣き落としにも動じない霧島兄妹。
 ガックリとうなだれる聖孝に、シャレのつもりか斗至は、ひとつの木彫りの像を手渡した。
 「ホイよ。これ、父さんたちが送って来たお土産。なんでも、とある部族に伝わる「願い事がかなう神像」らしいから、キヨちゃん神頼みでもしてみたらどうだ?」

 その後、3人で夕飯を食べたあと、とりあえず未来の部屋でCG作成のコツなどを教わりながら聖孝はぼやいた。
 「ミキちゃんは、まだ小学生なのにスゴいよなぁ。可愛いし、頭もいいし、絵の才能だってあるし。はぁ~、僕もできたら小学生からやり直したいよ」
 「ふーん、そうなの? わたしは、逆に早く大人になりたいけどなぁ。自分が「イラスト系専門学校生の男子」なんて今のキヨちゃんの立場だったら、やってみたいコトも色々あるし」
 早熟でやや男勝りな気質の未来にとっては、幼稚な周囲の女児達に合わせる方が気苦労なのだろう。
 「ま、隣りの芝は青いってこった。けど、まぁ、確かにキヨちゃんは女の子に生まれて──ついでに俺達より年下だったほうが良かったかもな」
 同席していた斗至は、カカカと笑いつつ、休憩のためお茶でも淹れようと、未来の部屋を出ていく。
 「うぅ~ヒドいや、トウジくん」
 従弟のからかいに抗議ししつつ、自分でも内心「でも、確かに、否定できないかも」とコッソリ頷いてしまう聖孝。

 と、その時だった。
 先程聖孝が受け取って、ひとまず机の端に置いていた木彫りの神像が、突然眩い光を放ち始めたのだ!
 「えっ……」
 「な、なんなの、コレぇ~??」
 未来と聖孝が驚きつつ見守る中、光はますます強まり、程なくふたりの姿もその中に飲み込まれていった。

 * * * 

 部屋に戻って来た斗至に揺さぶられて意識を取り戻したふたりは、互いの格好を見て死ぬほど驚いた。

 聖孝は、黒のレースのキャミソールの上にピンクのキャミを重ね、上にデニムのショートジャケットを羽織り、ボトムは膝丈の黒いスパッツ&ボーダー柄のハイソックスという、「ち
ょっと活発な女の子」風の服装。
 対して未来は、赤とオレンジのチェック柄のシャツにグレイのセーター、下は紺色のチノパンという、典型的な「流行に疎い青年」的なファッション。
 そう、言うまでもなく、先程までの互いの服を着ていたのだ!
 斗至が戻ってくるまでおよそ3分弱。常識的に考えて、どちらかが他方の服を上から下まで(確認したところショーツなどの下着も入れ替わっていた)脱がせて自分が着たうえ、相手を自分の服に着替えさせるのは、まず不可能だ。

 さらに、未来にとっては実の兄、聖孝にとっては従弟であるはずの斗至の言葉が、ふたりの混乱に拍車をかける。
 霧島兄妹の母と聖孝の母は双子の姉妹で、どちらかと言うと母親似の聖孝は、同じく母親似の未来と顔だけ見れば確かに兄妹っぽいが、それでも男女や年齢の差異から、いくら服装が違っても見間違えるはずはない。
 それなのに斗至は、今の服装に応じた名前でふたりに呼び掛けてきたのだ。

 ──結局、それから数時間にわたり、3人で色々話しあった結果、どうやら他の人間には、聖孝が未来に、未来が聖孝に見えるらしいという結論に達した。
 あの不思議な光の発生から考えて、この怪奇現象を引き起こしたのは、たぶんあの木彫りの神像なのだろう。
 「まさか、本当に不思議な力があるなんて、ね」
 実例を目にしても信じ難いが、聖孝と未来が冗談半分で口にした願望を、おそらく彫像が願い事と判断し、「ふたりの立場を入れ替える」形で叶えてしまったと考えるほかないだろう。
 そして、くだんの神像はと言えば、力を使い果たした代償なのか、すでにサラサラと細かい木屑に崩れてしまっていた。
 「どどど、どーしよう、ミキちゃん!?」
 「落ち着いて、キヨちゃん。兄さん、父さん達に連絡して、コレと同じ彫像を、もう一度手に入れられないか聞いてみてくれる?」
 狼狽える聖孝を尻目に、冷静に判断する未来を見ていると、本当にどっちが年上がわかったものじゃなかった。

 わざわざ国際電話して、適当に誤魔化しつつ、斗至が父から聞き出したところ、以下のような事実が判明した。

 (1)彫像は貴重品だが、唯一の品というワケではなく、再入手はおそらく可能
 (2)ただし、相手が住所不定の現地交易商人なので、手に入れるまでしばらく時間がかかる

 あの神像が「本物」である以上、再度願い事をすれば元に戻ることはできるだろうが、当面は今の状態のままで日常生活を乗り切るしかあるまい。
 仕方なくふたりは、斗至の助けを借りつつ、聖孝は「霧島未来」、未来は「桝田聖孝」としてしばらく暮らすことになったのだ。

 完全に意気消沈した「未来」を尻目に、好奇心旺盛な「聖孝」は斗至とともに色々実験し、いくつか面白い事実を発見していた。

 たとえば、「聖孝」達本人が、肉眼や鏡などに映る像を視認すると、自分&相手の身体は何も変わってないように見える。反面、斗至も含めた他の人には、それぞれ「聖孝」「未来」に見えるのは、すでに述べた通り。
 しかし、斗至がデジカメやビデオなどで撮影した「画像」は、未来たちにも今の「立場」に応じた姿に見えるのだ。
 ちなみに声に関しても同様で、本人達の耳には、これまでと同じ自分の声に聞こえているが、テレコなどを使うと、現状の立場にふさわしい声が録音されていた。

 実は、これ「因果」に干渉する魔法や奇跡には比較的ポピュラーな現象で、この「術」が被術者以外の人々の「認識」に働きかけているからこそ起こる「ズレ」なのだ。
 しかし一方で観測者の認識が物理的に「記録」されると、逆に「因果」の方にも歪みが及んでしまう。
 さらに言うと、何度も繰り返し「記録」されると、少しずつ本体にも歪みの影響が出るのだが……。
 無論、3人がその原理に気づくはずもなかった。

 * * * 

 「聖孝」の立場になった未来は、如才ない彼女(今は「彼」だが)らしく、「専門学校生に通う男性」としての毎日に、さしたる問題もなく適応していた。
 授業も予習したうえで真剣に受講しているし、他の学生とも適度なコミュニケーションをとっているため、周囲には「桝田君、以前より真面目で明るくなったね」と評判がいいくらいだ。
 ここまで生活態度が変わると、普通なら不審に思う者が出てきそうなものだが、そもそも「本物」は、同じ高校出身の悪友達以外とは殆どつきあいがなかったため、あまり深くキャラを知られていなかったことも、コレに関してはプラスに働いたのだろう。
 「聖孝」自身にとっても、これまで我流で描いてきたCGイラストの技法を正式に学校で学べるというのは、それなりに有難い話だった。

 また、こちらの「聖孝」は自立心旺盛で、「本物」と違って料理・掃除その他の家事も一通りこなせるため、プライベートでの生活の方も、まったく問題なかった。
 もっとも、そのせいで、本来の未来として生活していた頃は、世話好きでややシスコンな面がある兄の斗至からは「最近、妹が甘えてくれない……」と落胆されていたのだから、なかなか難儀な話だ

 例の学校の課題についても、結局「聖孝」が描くことになった。
 「ちょっと複雑だけど……ま、仕方ないよね」
 元の立場に戻れるのが1週間後か、1月後か、それとも1年後かわからない以上、「聖孝」としても、専門学校を落第や退学にはなりたくない。
 教科書を読み返したり講師にアドバイスを求めてまで課題の仕上げに精を出した結果、「聖孝」の提出したイラストは、年度末の採点で担当講師のみならず学校全体から惜しみない称賛を贈られることとなった。
 ──さらに後日、専門学校のHP上で「優秀な生徒の制作物の一例」としてアップされたその絵が、とあるゲーム制作会社の目に止まり、「イラストレイター・桝田聖孝(FutureFog)」のプロデビューのキッカケになったりするのだから、人生何が起こるかわからないものだ。

 一方、本来の未来に比べて要領の悪い「未来(=聖孝)」の方は、慣れない女子小学生としての毎日に四苦八苦していた──と言うワケでもなく。
 そこそこ楽しく日々を過ごしていた。

 「ね、ねぇ、トウジくぅん、ホントにこれ着ないと……ダメ?」
 「初登校」の朝、もぢもぢしながら「未来」は「兄」に尋ねる。

 赤いセーラー襟の付いたベィビィピンクのブラウスの上に、オフホワイトのふわふわしたカシミアのカーディガンを羽織り、下は襟と同色の思い切り丈の短いプリーツスカートとレースの縁飾りのついた白いハイソックス。
 可憐な女児服をまとい、やや長めのオカッパにした髪に真っ赤なリボンまで結んだその格好は、小六にしては少し背は高いが、どこから見ても「可愛らしい女の子」そのものだ。
 実のところ、仮に立場交換の術が働いていなかったとしても、余程の眼力の持ち主でない限り、このコが本当は20歳の誕生日を目前に控えた男性だとは気付けないだろう。

 「当り前だろ。今のお前は、お前さん達ふたり以外の誰が見ても、小学6年生の女の子、「霧島未来」にしか見えないんだからな。だから、今後俺のことは「お兄ちゃん」と呼ぶように」
 「うぅ、わかったよ……お兄ちゃん」
 「未来」は恥ずかしげに俯いた。
 「うんうん、女の子は素直なのが一番だ。かわういぞ、未来」
 満足げに頷く斗至。昨年くらいから、本物の未来は呼び方を「お兄ちゃん」から「兄さん」に変えていたので、内心少し寂しかったらしい。
 「ほ、ホントに? ヘンじゃない??」
 「ああ、もちろん。それと……」

 ──ピラリ

 「キャア!」
 真面目な顔してスカートを摘み上げられた「未来」は、思わず悲鳴をあげて後ずさる。
 自分でも意外だったが、スカートをまくられるのがこんなに恥ずかしい事だとは、思ってもみなかったのだ。
 「な、な、な……何すんだよ~!?」
 思わず詰問の声もどもってしまう。
 「いや、ちゃんと女物のパンツを履いてるか確認。俺の取り越し苦労だったようだが」
 「お兄ちゃんのバカァ! そんなの、口で聞けばいいでしょ!」
 「それもそうか。じゃあ、未来、ブラジャーはちゃんと着けてるか?」
 ナチュラルにセクハラ発言をかます斗至。いや、「女の子として小学校に行く以上、下着も女物にしないとな」という(本人的には)至極筋の通った思考からきた言葉なのだが。
 「し、してる、よ……すんごく恥ずかしかったけど」
 蚊の鳴くような声でそう答えると、真っ赤になった「未来」は、赤いランドセルを背負い、黒のエナメルシューズを履いて、パタパタと家から出て行った。

 「ふむ、行ったか……ま、あの調子ならそうそうボロは出ないだろ」
 ちなみに、今日の「未来」の服のコーディネート主は斗至だ。
 ここ最近の「本物」は、ガーリーでフェミニンな格好をあまり好まなかったので、「可愛い妹」の姿を見たくてたまらないシスコン兄としては、いささか物足りなかったらしい。
 「未来」──立場交換した聖孝が女の子生活に不慣れなのをいいことに、実は密かに自分の思い描く「理想の妹」を演じさせよう(そしてそれを見て幸せな気分を満喫しよう)などと、目論んでいたりするのだ。

 「しかし、事前に予想していた以上の逸材だな、キヨちゃん……いや、「未来」は」
 大層いぢり甲斐があるなぁなどと、笑顔で腹黒いことを考える斗至。
 そして、斗至の「妹」という立場になったうえに、あまり意志の強くない「未来」は、当然のことながら彼の「計画」に逆らえず、結局、その後もクリスマス(サンタ仕様のミニスカワンピ)やお正月(もちろん振袖)など、事あるごとにいぢられまくるのだった。
 もっとも、慣れたのか開き直ったのか、それとも「染まった」のか、途中からあまり抵抗を示さなくなったが。

 さて、霧島家(いえ)では、そんな風に斗至(あに)のオモチャ(着せ替え人形的な意味で)にされがちな「未来」だが、小学校に関しては、意外なほど自然に女の子の輪に溶け込んでいた。

 元来優秀なコミュ力を持つ未来(本物)だが、クラスメイトの小六女子たちとは、どうもノリが合わなかったらしく、「ミキちゃんって、可愛いし頭もいいけど、ちょっとコワいかも」という評価を得ていた。
 未来本人もお子様と慣れ合う気がなかったので、その気持ちが出て自然と浮いていたのだ。

 それが、威厳とか落ち着きが激減した反面、突然「年相応」に見えるようになった「未来」が現れたことで、クラスの女子連の印象は俄然良い方に傾いた。
 「未来」自身も、自分に小六女子としての知識その他が絶望的に足りていないことは自覚していたので、クラスメイト達とできるだけ会話や相談をして女子力をアップさせ、結果クラス(の女子の輪)に違和感ないくらいに馴染むことができたのだ。
 慣れ過ぎて、時々自分の本来の立場を忘れる程になったのは、良かったのか悪かったのか微妙なトコロだが。

 さらに言えば、あの神像のかけた術自体に、被術者を積極的に今の立場に馴染ませる傾向があるのだが──さすがに3人ともそこまでは気づいていないようだった。

 * * * 

 さて、いまだ継続期間未定とは言え、とりあえず順調に見えたふたりの「立場交換ライフ」だったが、始まって2ヵ月あまりが過ぎた頃、大きな問題が発生する。
 年が明け、3学期が始まってしばらく経った頃、「未来」は私立中学の入学試験をいくつか受けたのだが、その中の本命──本物の未来が進学するつもりだった第一志望の星河丘学園中等部に落ちてしまったのだ。

 滑り止めの涼南女学院には受かっていたものの、まさかの失態に、「未来」は顔面蒼白、対して「聖孝」は怒り心頭といった状態。慌てて斗至がとりなしたものの、「聖孝」は「星校以外には通うつもりがない」と宣言した。
 「こうなったら仕方ない。ミキちゃん、君が責任をもって中学3年間、涼女に通うんだ。いいね?」
 すっかり板についた男言葉で「聖孝」にキツく命じられた「従妹」の「未来」には、首をブンブンと縦に振るしか選択肢は残されていなかった。

 (おやおや、コリャ、おもしろいコトになったな。ま、いっか。あの後、父さんから例の彫像を手に入れたって話も来ないし)
 ……などと斗至もお気楽に考えている。兄として、それでいいのだろうか? いや、彼の妹愛魂(シスコンスピリット)は今の「未来」でも十二分に満たされているようだが。

 ともあれ、そんな紆余曲折を経て、物語は冒頭の場面へと続くワケである。

 * * * 

 「未来」の元に涼南女学院中等部の制服が届いた日曜の翌月曜日、彼女の所属する6年A組では、卒業に向けて皆で並んで記念写真を撮ることになっていた。
 そのことは先週先生から告知があったので、クラスの女子の大半が、よそ行きモードでかなりオシャレしている。

 その点は、もちろん「未来」も例外ではない。今日は、藍色と白のエプロンドレスに白タイツ、頭にヘッドドレスという、どことなくメイドさんを連想させる服装だ。
 もっとも、長袖ワンピースは上質なベルベット地で、エプロンもヒラヒラと装飾性優先のデザインなので、メイド服と言うには少々華美過ぎる。あるいは「不思議の国のアリス」ファッションと言うべきかもしれない。

 本来、この服は、未来の母が娘の誕生日プレゼントとして贈ったものなのだが、本物の未来は、義理で一度袖を通しただけでタンスの奥にしまい込んでいた。
 それを、昨晩ワザワザ引っ張り出して来たのは斗至だが、「未来」の方もひと目見た瞬間から「素敵!」と瞳をキラキラさせ、喜んで着て行くと決めていた──「12歳の女の子に染まらないよう気をつける」のではなかったのだろうか?
 登校すると「アリスちっく未来」はクラスの娘達にも「可愛い~♪」と大好評で、「未来」は謙遜しつつも、誇らしい気持ちでいっぱいだった──いや、だから、それでいいのか?

 ともあれ、一時間目のLHRの時間に無事に撮影は終わり、クラスの集合写真の中央付近に可愛らしいエプロンドレスを着た未来の姿が記録されたワケだが……おそらく、それが引き金になったのだろう。
 これまでの「彼女」に蓄積された「因果の歪み」が、ついに表面化することとなった。

 2時間目、教室で授業を受けている「未来」は、先程までとうって変わって身体に不調を感じていた。
(休み明けなのになんだか、頭がボーっとする…やだ、風邪かなぁ?)
 そう意識すると、身体の芯に鈍い痛みがある気もしてくる。
 「ミキちゃん、大丈夫? なんか辛そうだけど……」
 隣席に座る女友達の千種が呼びかけてくるが、返事をするのさえ億劫だった。
 「うーん……ちょっと気持ち悪いかも」
 「どしたの、ボーっとして? もしかして寝不足?」
 反対側の席の委員長のしずるも心配げに囁く。
 「ううん、さっきまでは、何ともなかったんだけど……体育館、寒かったからかなぁ」

 ──ズクン!

 ついに下腹部に鈍い痛みを自覚する。
 「う……」
 顔をしかめたところで事態を把握したのだろう、しずるが先生に呼びかけてくれた。
 「蒼井せんせー! 霧島さんが気分が悪いそうでーす!」
 
 担任の女教師に教室を連れ出されて保健室に向かう途中で、耐えきれなくなった「未来」はトイレに立ち寄らせてもらったのだが……。

 すでに、女子トイレで用を足すことには何の抵抗もなくなっている。
 「未来」は個室に入ると、へたり込むように便器に座った。
 タイツと一緒にショーツをずり下ろしたものの、なぜか下半身に違和感を感じる。
 下の方が、何かぬるつくような……。
 (やだ、もしかして、ちょっと漏れちゃったのかな!?)
 気になって脱いだショーツの中を見てみると、クロッチ部分が赤く染まっていた。
 「い、ぃゃあああぁぁぁーーーーっ!!!」
 トイレの中から響き渡る甲高い悲鳴に、慌てて外で待っていた担任が駆けつけて来たことは言うまでもない。

 賢明な読者諸氏なら、おおかた予想がつくだろう。
 結論から言うと、その日、「未来」は、生まれて初めての月経──いわゆる「初潮」を体験することになったのだ。

 断わっておくが、「未来」の身体がいきなり女性に変化したワケではない。
 少なくとも「未来」自身の認識では、視覚的にも触覚的にも、依然として陰茎があり、膣は無い。
 ここ数ヵ月の生活習慣からか、身体全体から多少筋肉が落ち、幾分肌が白くなったような気はするが、それでも生物的には「♂」以外の何者でもないのだ。
 それなのに、何もないはずのソコ──肛門と睾丸の付け根のちょうど中間にあたる会陰(えいん)と呼ばれる場所からは、じくじくと血が滲み出しており、それと同調するように下腹部に鈍い疼痛が居座っている。

 幸いと言うべきか、担任の蒼井三葉は、年上の女性であると同時に小学校高学年の受け持ちと言う商売柄、「初めて女の子の日を迎えた女生徒」への対処は慣れていた。
 てきぱきと「未来」の汚れを処理すると、保健室から持って来たナプキンをあてがい、同じく備品の生理用ショーツを履かせて衣服を整えてから、「未来」の身体を抱き上げて保健室のベッドまで運ぶ。
 普段なら、よりによって妙齢の女性にお姫様抱っこされて運ばれるという行為は、羞恥心から拒んだかもしれないが、今の「未来」はそれどころではなかった。
 (ど、どうして? なんで??)
 女しか生涯味わうはずのない経験──生理。それを経験したことで、「彼女」はすっかり混乱していたのだ。

 その日は、養護教諭の勧めもあって「未来」は鎮痛剤を飲み、4時間目までずっと保健室のベッドで眠っていた。
 昼休みには、クラスでも比較的仲が良い、しずる・千種・マキの三人組が、お見舞いがてら給食を持って来てくれたが、薬を飲んでいても痛みは完全には収まっておらず、あまり食べることはできなかった。
 「初めての時ってツラいのよね」
 すでに「経験者」であるしずるは、「未来」の苦痛が理解できるからか、「彼女」に非常に同情的だ。「まだ来てない」ふたりと一緒に、「未来」も委員長のありがたい経験談と豆知識を神妙な顔をして拝聴することになったのだった。

 「男性の身体なのに生理を迎える」という、世にも奇妙な(あるいは希少な?)経験をしてしまった「未来」。
 無自覚ながら急速に形成されつつある「乙女心」(?)から、「お兄ちゃん」である斗至には内緒にしておきたかったのだが……学校から自宅に連絡があったのだろう。その日の夕飯の献立がお赤飯だったため真っ赤になり、兄を大いに萌えさせたことを付け加えておこう。

 なお、この日の翌朝、「聖孝」の立場になっている未来の方も初めての夢精を経験し、布団の中で慌てるハメになる。
 歳よりやや早熟とは言え、陰茎も睾丸もない肉体年齢12歳の女子が、朝起きると栗の花の匂いがする白濁液で股間を漏らしていたのだから、その心境は推して知るべし。
 ただ、「本物」よりも数段肝が据わっている「聖孝」は、恥を忍んで斗至に電話し、何とか無事に処理できた模様。
 その後も、斗至のアドバイスに従い、週に1度くらいのペースで「自己処理」するようになったので、それ以来、粗相はしていないようだ。
 反面、某画像SNSで、「FutureFog」の描く女の子のイラストの露出度が上がってエッチくなったと一部で評判になるのだが……まぁ、それくらいは大目に見るべきだろう。

 * * * 

 初潮が来た日の一週間後、「未来」は桜庭小学校の卒業式を迎えていた。
 もちろん、生理はとっくに終わり、体調は万全だ。

 この日の「未来」は、そのまま中学校の入学式に出席しても違和感なさそうな、紺色のブレザースーツを着ていた。同色のボックスプリーツのスカートと、足元の焦げ茶色のローファーもそれっぽい。
 ただ、ブレザーの下に着たブラウスは、つるりとしたポリエステル製でフリルなどの飾りが多いし、胸元を飾るスカーフのデザインなども考え合わせると、むしろ「小さなスチュワーデスさん」と言うべきかもしれないが。

 神妙な顔で席に座り、卒業式の進行を見守る「未来」。
 そしてついに、卒業式のキモとも言うべき「卒業証書授与」の時が来た。

 「6年A組・出席番号6番──霧島未来さん」
 「ハイッ!」
 その名前が呼ばれた時、「彼女」は半ば反射的に返事をしていた。
 「霧島未来」として過ごすようになってはや3ヵ月あまり。
 一度は「桝田聖孝としての自分」を保つため、「霧島未来という立場」に流されないよう決意したはずの「彼女」だが、直後の初潮騒動で、すっかり出鼻をくじかれたようで、もはや「未来」でいることに何ら疑問を抱かぬようになりつつあったのだ。

 スカートの裾を乱さぬように静々と壇上に上がると、礼儀正しく頭を下げて、校長先生から卒業証書を受け取り、客席に向かっても一礼してから、壇を下りて席に戻る。
 それでも、席に座り、改めて証書に記された「霧島未来」の文字を見ると、微妙な違和感、あるいは座りの悪さを感じずにはいられなかった。
 (とうとう、アタシが「未来」として卒業証書を受け取っちゃった……これで良かったのかな?)
 普通なら、一生に一度の晴れ舞台であるはずの小学校の卒業式。
 それを「彼」の方は一度も経験することなく……そして、「彼女」は二度経験したことになる。
 とは言え、現状では他にやり方がなかったことも事実だろう。
 いや、そう思うことで、「未来」は無意識に自分の行為を正当化していたのだ。

 やがて、式典は佳境を迎え、卒業生一同が定番の「仰げば尊し」を歌う場面を迎えると、歌詞を口にする「未来」の胸にも、いつの間にか熱いものがこみ上げてくる。
 (やだ、嘘……なんで?)

 2学期の終わりと3学期だけしかこの学校に通っていないはずの「未来」。
 それなのに、秋の文化祭や運動会、夏の林間学校やプール開き、春の遠足と言った知るはずのない行事の「記憶」が、脳裏に浮かんで来るのだ。
 それどころか、未来が5年生でクラブ活動に選んだ家庭科部でのメンバーとの思い出や、1年生としてこの学校に入学した時のことさえ、今なら思い出せるような気がする。

 (嗚呼、アタシ、今日、この学校を卒業するんだ……)
 あるいは、それは場の雰囲気に流されやすい「彼女」の脳が即興で捏造した偽物の「過去」なのかもしれない。
 それでも、今、「彼女」の両目から流れる涙の熱さと胸を満たす感慨だけは、まぎれもなく本物(しんじつ)だった。

 式のあと、クラスメイトの何人かに別れを告げた後、「未来」は校門前で待ってくれていた「兄」の元へと駆け寄る。
 「おにぃちゃーーん!」
 人目も気にせず、抱きつき、斗至の広い胸元に顔を埋める「未来」。
 「妹」の胸の内をおおよそ理解できたのか、斗至は優しくその頭を撫でてやるのだった。

 * * * 

 そして桜舞い散る四月。
 真新しい制服に身を包んで、新たな学校へと彼女は向かう。
 (ついにアタシも今日から中学生になるんだ……友達、たくさんできるといいな)
 外見は元より、その仕草も思考内容も、ごくありふれた(強いて言うなら、ややウブで結構可愛い)女子中学生そのものだ。

 立場が入れ替わって早4ヵ月。
 その間、「小六の女の子」としてはごく当り前の──けれど、本来の立場では一生知らないままだったであろう、あまりに印象的な出来事を沢山経験した結果、ミキにとって元の「男子専門学校生」と言う身分は、あまりに遠いものとなっていた。

 霧島家の両親から、例の彫像に関する連絡はまだない。
 もっとも、仮にすぐ彫像が手に入ったとしても、「聖孝」との約束で、少なくとも中学校の3年間は、このまま「霧島未来」として過ごさねばならないのだが。

 いや。
 3年後、その時を迎えたとして、果たして自分は元の桝田聖孝の立場に戻れるのだろうか?
 ──あるいは、戻りたいと思うだろうか?

 「あ、かすりちゃんだ。ヤッホー!!」
 ゾクリと背筋を震わせる恐ろしい、けれど甘美な妄想を振り払い、ミキは、同じく涼女の制服をまとった小学校時代の顔見知りの元へと駆けていくのだった。
 遠くない未来、その「妄想」が現実のもとのなるとも知らず。

-Happy End?-
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KCA節ですね(^∇^)

ミキちゃんはまだ少し悩んでいるようですが、今の生活も気に入っているみたいですし、それはそれで幸せなのかも。
でも数年後その悩みが解決する時、ミキは本当の自分になるんでしょうね。

でも女の子になる男子って良いですよね(*^ω^*)
こう言うお話しを書かせたらやっぱりKCAさんは天下逸品です(≧∇≦)b
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KCA(嵐山之鬼子)

Author:KCA(嵐山之鬼子)
Pixiv、なろう、カクヨムなど色々書いてます。感想などもらえると大変うれしいです。
mail:kcrcm@tkm.att.ne.jp

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