『奥様はランゴスタ』その2(下)

その2の上のつづきです。


『奥様はランゴスタ』その2(下)

 「そこまでおっしゃるなら、勝負です!」
 再び妾に、ビシッと人差し指をつきつけるヒルデガルド殿。
 ……どうでもよいが、貴族のご令嬢が人を指差すのは、あまり礼儀に叶った行為だとは思えぬが。
 「こ、これは、様式美と言うものです。あ、貴女に勝負を申し込みますわ」
 真っ赤になりながら、ヒルデガルド嬢は言葉を紡ぐ。
 「まずは料理! お兄様の妻を自称するなら、せめてアイルーシェフの3つ星クラスの料理は作っていただかないと……」
 いや、自称と言うか、ちゃんとこの村で公式に認められた夫婦なんじゃが……まぁ、よいわ。ちょうど昼飯時でもあることじゃしのぅ。
 妾は、保管庫の中を確認して、今日の昼餉に何を作るか思案する。
 肉類はプリンセスポークがあるか。魚介類は女王エビとスパイクフグ……フグは今晩鍋にでもするかの。ロイヤルチーズとチリチーズ、西国パセリとレアオニオン。黄金米があるが、これも夕餉向きじゃな。
 うむ、折角昨日焼いたマスターベーグルもあることじゃし、昼は軽めにベーグルサンドでも作るかのぅ。
 ベーグルを保管庫から出し、軽くパニーズ酒を霧吹きしたのち天日の当たる場所に置く。これで、焼きたて同様……とは言わぬが、相応にふっくらするはずじゃ。
 プリンセスポークは西国パセリのみじん切りと一緒にクレイジーソルトを振ってソテーし、女王エビは薄く切って衣をつけ、フリッター状にカラリと揚げる。
 それぞれを半分に切ったベーグルに載せ、いっしょに清水にさらしたレアオニオンのスライスも載せる。ポークの方にはチリチーズ、エビのほうにはロイヤルチーズを粉末状にして振りかけ、もう半分のベーグルで挟めば完成じゃ。
 箸休め(いや、ベーグルは手掴みで食べるものじゃが)には、炎熱マンゴーの甘漬けを添えておくかの。飲み物は氷樹リンゴの絞りたてジュースでよかろう。
 「お、ウチでサンドイッチってのは珍しいな、ラン」
 確かに、昼は軽く済ませるときでも、おにぎりなどの米飯が多いですからの。我が君がパン食の方がお好きなら、献立を考えまするが……。
 「あ~、大丈夫。ランは何作っても美味いからな。別に今のままでいいさ」
 お誉め頂くのは光栄ですが、我が君、妹御がニラんでおられますぞえ。
 「ふ、ふん! こんなベーグルサンド如きが、到底わたくしの口に合うとは……」
 などと言いつつも、やはり食べ盛り育ち盛りのお年頃故か、ヒルデガルド殿の視線はベーグルを盛った皿に固定されておるのがわかる。
 「我が君のお口に合えばよろしいのですが。よろしければヒルデガルド殿も、食べてみてたもれ」
 内心クスリと笑いながらも、そんな気配は見せぬよう、努めて自然に昼餉を勧める。
 「そこまで勧められて口をつけないのも、礼儀に反しますわね。それでは……」「いただきまーーーす」「あぁっ、お兄様、それわたくしが目をつけていた……」
 「ホホホ……、たーんとあります故、ケンカなさりますな」
 いつもの我が君と差し向かいでの食事も楽しいが、こういう風に何人かで食卓を囲むのも、悪くないものじゃのぅ。

 幸いお二方ともお口に合ったと見えて、半時間後、大皿に山盛り作ってあった2種類のベーグルサンドは、余すところなく空になっておった。
 「ごちそうさん。ぃやぁ、たまにはサンドイッチも悪くないな」
 「確かに、素材の味を活かしつつ、独自の工夫と気配りが感じられましたわね」
 「ご満足いただけたようで幸いじゃ。食後のお茶はいかがかえ? 昼のメニューに合わせて、長寿ジャム入りの紅茶をいれてみたのじゃが」
 「いただきますわ」
 「ああ、俺にもくれ、ラン」
 ほんのりと甘いジャムのフレーバーが混じった紅茶の香りが居間に広がり、まったりとした空気が流れる。
 「(ハッ! 何やってますの、わたくしは!! でも、美味しかったのは事実ですし……)
 コホン……ま、まぁ料理の腕前は合格と認めて差し上げてもよろしくてよ。
 でも、妻の勤めは料理だけではありませんわ。お掃除やお洗濯も……」
 ツツーーーーッと棚の上に指を滑らせるヒルデガルド殿。何やら、読み本などで出てくる鬼姑みたいじゃのぅ。
 もっとも、毎日キチンと掃除しておるうえ、忙しいときにはアイルーのシズカが補佐してくれているので、とくに埃など溜まっていようはずもないが。無論、洗濯物も同様よ。
 そうそう、シズカと言えば、彼女は妾たちの内輪の話と見て、別室(台所横にしつらえた彼女用の小部屋)に引っ込んでいてくれるようじゃな。
 「じゃ、じゃあお裁縫は……」
 無言で、妾たちが尻の下に強いている薄いクッション──ザブトンと、部屋の出入り口にかかったノレンを指差す。
 「ウソ……もしかして、これ、みんなランさんのお手製ですの? 刺繍も!?」
 「うむ。最近は狩人仕事でなかなか暇がなく、あまり数が作れないのが口惜しいが。最後に縫ったのは何でしたかのぅ」
 「アレだろ、ラン。こないだ作ってくれたユカタとか言う俺のバスローブじゃねぇか?」
 「おお、そうでありましたな。久方振りの和裁ゆえ、少々気合いが入ったものをと思ぅて、我が君用に腕を振るったのじゃった」
 うむ。白無地に藍色でトンボの模様を散らし、背中に大きく”狩魂”と言う縫い取りを入れた漢らしい代物じゃ。妾としても、なかなかの力作じゃと満足しておる。

 「……よ、よろしいでしょう。貴女が家事に秀でた方であることは、不本意ですが、認めますわ」
 (我が君、我が君……何故、ヒルデガルド殿は、あれほど口元をピクピクさせておるのかの?)」
 (ん? ああ、ヒルダのヤツは家事関連がどうにも苦手でな。努力家だから、「淑女のたしなみ」と称して一生懸命練習したんで、かろうじて人並みに近いレベルのことはできるんだが、"上手い"とはお世辞にも言えん)
 (……すると、先ほどのは少々嫌味な返答でしたかな。あいすみませぬ)
 (なぁに、ちょっとばかし思慮と我慢の足りないコイツには、いい薬だ)
 我が君、実の兄がそのようなヒドいことを……まぁ、否定もできませぬが。
 「今時の良き妻としては、子供の教育のためにも、教養が必要でしてよ」
 む、それは確かに一理あるかの。妾と我が君のあいだに、もし万が一子供が生まれたならば、その子は、強く優しく健やかに、そして賢く育てたいとは、妾も思う故。
 しかし、その分野は妾には少々分が悪いのぅ。何せ、ほんの半年ほど前までは、一介の羽虫でしかなかったわけじゃて。
 「そう、お兄様の妻を名乗られるなら、この本棚にある『学問ノ進歩』くらいは、読破していただかないと……」
 「あ、それは妾のじゃ」
 「へ!? これ、お兄様のものではなくて?」
 「おいおい、ヒルダ。俺の勉強嫌いは知ってるだろーが」
 我が君、そこは決して自慢げに言うところではありませぬぞ?
 「も、もしかして、この『我想我在』や『自然哲学ノ諸説定理』も?」
 「うむ。本屋と言うもののないこの村では、手に入れるのになかなか苦労したぞえ」
 養父の家にいたころ字を覚えて以来、読書は妾の密かな楽しみ、唯一の趣味と言えるものじゃったからな。養父が晴耕雨読を旨とする農夫にしては珍しい数寄者だったのを幸いに、その蔵書を何冊も読ませていただいたものよ。
 こうして人の身になって以来、我が君が妾がまだ参加できぬ上級クエストで家を空けられるときなどに暇をつぶすため、かつて愛読していたこれらの本を手に入れておいたのじゃ。
 「ちなみに、その下の段にある『ロジカル・ワード』とか『ウーマン・ユニバーシティ』も、ランのだからな」
 「うむ。本当は東方語の原典が欲しかったのじゃが、なかなか高くてのぅ」
 古典だけあって、いまの時勢には少々合わぬ部分も多いが、なかなか興味深かったぞえ。
 「! もしかして、貴女、東方語の読み書きができますの?」
 「まぁ、ほんのたしなみ程度じゃが」 
 「…………」
 おや、ヒルデガルド殿、どうかなされたのかえ? フルフルと肩を震わせて……。
 「――納得できませんわーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
 !! た、魂消た。いきなり至近距離で叫び出すのは止めてたもれ。 
 「美人で胸が大きくて、温厚で淑やかで礼儀正しくて、料理を始めとする家事一般が得意で、さらに教養あるバイリンガル!! どんだけ完璧超人ですの? 貴女、本当は、タカラミユキとかノギザカハルカって言うのではありません!?」
 ガクガクガク!
 ひ、ヒルデガルド殿、胸ぐらをつかんで揺さぶるのは、堪忍してたも……。
 「で、おまけにお兄様のお仕事を自らサポートする狩人としても優秀!? テンドーソーシ? それともネプチューンマンですか、貴女は!」
 よ、よくわからぬが、おっしゃりたいことは……なんとなく伝わった、ので……放し、て…………ガクッ

   *    *    *

 「明日の朝一番で、ヒルダも連れて砂漠に行くぞ」
 妾が気を失っておる内に、いかなる会話が兄と妹の間でなされたのかは分からぬが、目が覚めたら、すっかりそういう話が出来上がっておった。
 「アイツ、ランのハンターとしての腕前も見たいらしい。その上で、俺を託すに足るかどうか判断するそうだ」
 我が君が、いつになくニヤニヤと人の悪い笑顔を浮かべておられるのが気にかかるのぅ。
 「はぁ、それは構いませぬが……もしかして、妾とヒルデガルド殿が勝負すると言う話になったのではありませぬか?」
 「おっ、鋭いな」
 ……まぁ、"勝負"と言われるわりに、先程までは妾が一方的に判定されておりましたからのぅ。そろそろ、言い出す頃合いではないか、と。
 「村長に無理言って、単身用のカニ2匹狩りの依頼を回してもらったぜ。あいつも一応弓が使えるし、ガンナーとしてどちらが先にダイミョウザザミを倒せるか、尋常に勝負だとさ」
 盾蟹、ですかえ? よりにもよって、射ち手の天敵ではありませぬか……。
 「どちらかが倒した時点で勝負は終了。あるいは、どっちかが気絶してキャンプに運ばれた時点でも終了。当然、その場合は倒れた方の負けになる。ちなみに、負けた方が、勝った方の言うことを何でもひとつ聞くらしい」
 まあ、盾蟹が相手の場合、水ブレスで気絶しても死亡に至るようなことは滅多になかろう。その点では、火傷する恐れのあるイャンクックやババコンガなどを相手にするよりはいくらか安全じゃが……。
 「ああ、それと情報屋のヤツにも助っ人頼んだ。俺とヤツが盾武器持って、ヒルダとランの護衛に回るから安心しな」
 ふむ、それは大いに助かりますのぅ。
 「ただし、俺たちは原則的に攻撃はしないでガードするのみだ。それと、公正を期するために、俺がヒルダにつくぞ」
 確かにそのくらいのハンデは必要よな。我が君の友人の情報屋殿とは何度か顔を合わせたことがあるし、妾も4人狩りでガンランサーとともに戦ぅた経験が1度ある。何とかなるじゃろう。
 ヒルデガルド殿は、村の宿屋(酒場の2階じゃ)に部屋をとったらしく、既にそちらに戻られたとか。せっかく、フグ鍋を皆でつつこうと思ぅたのに、残念じゃのう。
 せっかくなので、シズカも呼んで、その晩は3人(ふたりと1匹?)でスパイクフグのチリ鍋に舌鼓をうった。
 それにしても、明日は"勝負"か……このような気持ちで狩りに臨みとうはなかったのぅ。

   *    *    *

 翌朝。いまだ朝もやの立ちこめる村の入り口に、我が君と妾、そしてヒルデガルド殿と我が君の友人である情報屋氏が立っておった。
 初顔合わせになるヒルデガルド殿と情報屋氏が挨拶をしている。
 幸い、ヒルデガルド殿も一晩寝て頭が冷えたのか、貴族の令嬢らしい慇懃さを取り戻しておるようじゃ。
 「おいおい、一応、オレにもカシムって名前があるんだが?」
 ――申し訳ありませぬ情報屋氏。以後は、"カシム殿"と呼称させていただきます故。
 「それにしても、またオモシロイこと考えついたナ、マック。まぁ、久々に暴れられるから、オレは別にいいけどヨ」
 情報屋…もといカシム殿は、どことなく嬉しそうだ。元はバリバリの狩人として、我が君ともときどき組むほどの手練れであったと言うから、血が騒ぐのかもしれぬ。なれど……。
 「何言ってやがる。今日の主役は、ランとヒルダだぞ。俺たち野郎どもは、こいつらを守るために盾でガード一直線だ」
 「……まぢ?」
 「ああ、マジだ。ホレ、強走薬5つ。カニと対峙したら飲んどけよ」
 うむ。そのために我が君はグラビド装備でガード性能を上げておるのじゃからな。
 「ぐぁっ……スタミナ回復目的の攻撃もさせんつもりかヨ」
 ガックリ肩を落しながら、我が君から強走薬を受け取るカシム殿。
 我が君は鋼氷槍・改、カシム殿はシザーガンランスという、なかなか強力な武器を装備しておるのに、それを振るえぬとは気の毒じゃが、今回ばかりは致し方ない。
 ん? 我が君は片手剣使いではないかとな?
 確かにその通りじゃが、ホレ、砂漠や火山で採れる"さびた棒状の塊"があるじゃろ?
 アレをそのまま売ってしまうのは惜しいと鍛冶屋で鍛えたところ、一発で見事に当たりを引き当てたのじゃ。そのクセ、"さびた小さな塊"からは何度鍛えても封龍剣を作れぬのじゃから、因果なものじゃて。
 落胆するカシム殿を気の毒そうに眺めていると、遠慮がちにヒルデガルド殿が妾を突ついた。
 「その……何ですの、あの薬は? 今朝方、私もお兄様にひとつ似たものを渡されたのですけれど」
 「ん? おお、あれは"強走薬"と言うてな。あれを飲めば一定期間スタミナ切れを気にせず、全力で行動できるのじゃ」
 まだ不要領な顔をしているヒルデガルド殿に対し、盾で巨大なモンスターの攻撃を受け止めると言う行動は、見た目よりはるかにスタミナを消耗するでな……と付け加える。
 「ヒルデガルド殿が手にしておるのは強走薬グレートと言うて、より効果時間の長いものよ。弓使いもスタミナは重要故、ここぞと言う場面で使うがよろしかろう。そうそう、こちらは回復薬グレートじゃ、ケガしたらお使いなされ」
 「わ、わかってますわ…………その、(あ、ありがとう)」
 何やら後ろを向いてゴニョゴニョ呟いておられたが、妾は敢えて聞き流したフリをした。
 ご自分では認めぬであろうが、我が君の妹御は、なかなかに可愛らしい性格をされているようじゃ。ホホホ……。

   *    *    *

 どう見ても水棲生物には不釣り合いな砂漠の真ん中で、巨大な盾蟹がハサミをふりかざして妾に迫ってくる。
 じゃが、むざむざ接触されるのを待つほど妾はお人好しではないし、それに……。
 「どっせいーーーい!」 ガキン!!
 間に走り込んだカシム殿が、盾を構えてダイミョウザザミの突進を受け止めてくださる。
 1年ほどまえに片目を潰して引退したとはいえ、まだまだ狩人としての腕は鈍ってはいないようじゃな。
 その隙に、妾はピンクフリルパラソルの銃爪を引く。
 ──ギュンギュンギュン……。
 わずかに閃光の軌跡を残しながら放たれた電撃弾が、3連続して盾蟹のハサミを抉る。

 しかし、我が君ではないが、洒落と酔狂で作った武器も、意外な場面で役に立つのぅ。妾は、手にしたどう見ても桃色の傘にしか見えない軽弩をしげしげと見つめた。
 普段はもっと強力な軽弩を使っておるのじゃが、ヒルデガルド殿が持って来た弓はハンターボウⅣじゃった。公平を期すために手持ちの中で攻撃力が釣り合いそうなものを見繕ったのじゃが、これしかなかったのでな。
 もっとも、珍奇な見かけに反して、思ったより高性能じゃったのは幸いじゃが……。
 「おーい、ランさん、そろそろカニのヤツ逃げそうだぜ」
 ふむ。大分傷つけたことではあるし、9番エリアに眠りに行ったと見るべきかの。
 「カシム殿、頼みがあるのじゃが……」

   *    *    *

 妾とカシム殿が駆けつけたとき、案の定と言うべきか、我が君と妹御は1番エリアで苦戦されておった。
 いや、さすがに我が君の方は、まがりなりにも上位狩人の資格者。普段滅多に使わぬランスを手にしているとは言え、ほぼ完璧に盾蟹の攻撃をがっちりガードされておる。ガード性能強化のスキルもあることゆえ、あれではほとんどダメージはなかろう。
 しかし、ヒルデガルド殿はかなりボロボロじゃが……ああ、自分の撃った矢で傷ついておられるのか、あれは。
 「ヒルデガルド殿、盾蟹がハサミを立ててガードしたら、ガンナーの攻撃は一切通じず、逆に跳ね返されまする! そういう時は、攻撃を控えるか、あるいは……」
 妾は、ポーチから音爆弾を取り出し、盾蟹に向かって投げつける。
 「いまじゃ! しばらくダイミョウザザミは失神しておる故!」
 「は、ハイッ!」
 キリキリと引き絞られた弓から放たれた矢が、正確に盾蟹めの眼球に突き刺さる。
 うむ。流石、王宮正規の弓術の免許皆伝と言うだけはあるの。
 その痛みのためか、蟹めもどうにか意識を取り戻したらしい。生憎じゃが、妾の義妹(いもうと)をこれ以上は傷つけさせぬぞえ。
 「ヒルデガルド殿、麻痺ビンはまだ残っておるかえ?」
 「え、ええ、あと4、5個ですが……」
 なに、それなら妾の麻痺弾と合わせればすぐじゃ。
 「ラン、俺たちも手伝おうか?」
 「有り難い申し出なれど、お気遣いは無用じゃ、我が君! 此所は妾とヒルデガルド殿の戦場(いくさば)。殿方は黙って見護りくだされ!!」
 妾とヒルデガルド殿の麻痺攻撃によって、再び動けなくなる盾蟹。
 ふたりがかりの猛攻によって、ダイミョウザザミが沈んだのは、それから間もなくのことじゃった。

 「それにしても、随分早かったんだな、ラン、カシム」
 ダイミョウザザミから素材を剥ぎ取りつつ、今さらながら我が君が感心した声をあげられた。
 「完敗、ですわね。わたくし……」
 うなだれ、どっぷり落ち込んでいるヒルデガルド殿。
 「あ~、そのことじゃがな、我が君……」
 さすがに妾も言葉を続けるのを躊躇う。
 「此度の勝負、妾の反則負けじゃ」
 弾かれたように、妾の方を見るヒルデガルド殿。
 「なぜですの? 確かに最後の戦いで貴女は手を出されましたが、それだってわたくしに有利になりこそすれ、何ら不利をもたらしたわけではありませんわ!」
 ふむ。素直に敗北を認めるお積もりだったようじゃの。いやいや、なかなかに潔い。
 「いや、そうではなくてな……妾たちは盾蟹を"倒して"はおらぬのだ」
 「うん。痛めつけたあと、ついいつものノリで捕獲しちゃったんだよなー」
 アハハーと、カシム殿も調子を合せてくださった。
 「な、なんですってーーーーー!!」

   *    *    *

 そして翌日の午後。ヒルデガルド殿が王都に帰られるので、我が君とふたりで村の入り口まで見送りに来たところじゃ。
 「いろいろとお世話になりました……」
 馬車の前で、しおらしく頭を下げるヒルデガルド殿を、温かい目で見つめる我が君と妾。
 「うんうん、ヒルダも元気でな。それと、そろそろ恋人のひとりやふたり見つけろよ」
 「大きなお世話ですわ、お兄様」
 「この季節はランポス共が騒ぎ始める時期故、お気をつけて行かれよ」
 「ご忠告痛み入ります……か、勘違いしてないでください! わたくしは、純粋にそのアドバイスに対してお礼を言っただけですわ。貴女のことを100パーセント認めたわけではありませんのよ!!」
 (ツンデレだ) (うむ、この上なくツンデレじゃな)
 ひそひそ囁き合う妾たちを、むぅ~と言う視線でニラみつけるヒルデガルド殿。
 「――そう言えば、狩り勝負の勝者の願い事を、まだ伺っておりませんでしたわね」
 「いや、あの勝負は妾の反則負けじゃ。百歩譲っても引き分けじゃろう?」
 「単純に手を抜いて負けるのは、狩人としての誇りが許さないし、わたくしにも気づかれる。それで、ごく無理のない捕獲という形をとった……そうわたくしは見ているのですけど」
 まぁ、これだけ聡明な女性なら、それくらい見抜かれるかも、と思ぅてはいたがな。
 「ふむ。そうまで仰しゃるなら、ひとつだけよろしいか?」
 「ええ、何なりと……」
 何やら覚悟を決めておるヒルデガルド殿には悪いのじゃが……。
 「どうしても嫌ならばよいのじゃが……そなたさえよければ、妾のことを"義姉(あね)"と呼んではもらえぬかえ?」
 「へ? そ、そんなことでよろしいんですの?」
 「そんなこと、ではないぞえ。旦那様の妹君にそう呼んでもらえるのは、このうえなく嬉しいことであろ?」
 悪女顔だと言われる妾じゃが、できるだけ他意のない笑顔で彼女に微笑みかける。
 「! ば、バカじゃありませんの! わたくし、これでも伯爵家の娘ですのよ? お望みなら、どんなドレスや贅沢品でも手に入りますのに……」
 「そのようなものより、お主に"姉"と認められる方が、千倍もの価値があるわ」
 しばし無言で対峙する。
 「まったく、付き合ってられませんわ!」
 ヒルデガルド殿は身を翻し、馬車に乗り込まれる。
 やれやれ、嫌われてしもうたようじゃの。
 「――そうそう、わたくしのこと、家族や親しい者は、ヒルダと呼びますの。つぎからは、そう呼んで下さいまし、お姉様」
 えっ!?
 妾が聞き返す前に、馬車が走り出し、たちまち砂塵の向こうに消える。
 多少の無作法は承知で、妾は遠くなる馬車に向かって、大声で呼びかけた。
 「おーーーーい、また……必ずまた、遊びに来なされ、ヒルダ!!」

<FIN> 

以上。新キャラたるヒルダお目見えの回でした。
以下は、本シリーズを書く際に考えていたキャラクターのイメージ。
書いてるうちに微妙にズレてはきてますが。

・マック
 キャラクターのモチーフは「5歳年食った横島忠夫」。煩悩魔人ではありますが、同時にヘタレ。ただし、愛する人ができたら一途です(ルシオラとの恋人時のイメージ)。
 美形と言うほどではないものの、そこそこ見られる顔だち。ただし、言動があけすけなので、女性にはモテないタイプ。体格は中肉中背といったところ。

・ラン
 モチーフは「可愛い悪女」。ダイン(マップス)だのディーバ(エルハザード)だのいろいろイメージキャラはありましたが、いまとなっては「サモンナイト3」の鬼姫ミスミ様がいちばん近い気がします。角を取って髪の色を変えたらピッタリかも。マックが第1作で言ってた男の夢「美人でお淑やかで料理が上手い嫁」ってヤツを、何気に体現してます。

・ヒルデガルド
 イメージ的には、「アルトネリコ2」のクローシェが近いかも。あるいは「シャイニング・ウィンド」のクララクラン? 胸は貧乳気味ですが。当初はもっとブラコンの予定でしたが、この程度に収まりました。
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