『母の肢体、娘の身体』後編
予定調和、と言われてしまうと反論できないのですが……。
※18禁エロあり版はPIXIVの小説ページの方に投下しました。冒頭並びに終盤部のHシーンの正式版が見たい方は、そちらをご閲覧ください。
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『母の肢体、娘の身体』後編
[Interlude.とある男子高校生の日記]
9月○日
親父がまた妙なモノをお土産に買ってきた。
いわく、「ある南方の部族で崇められている、願い事の叶う神像」なんだと。
ウチの家には、このテのけったいな代物がたくさん転がっている。無論、大半……というかほぼ100パーセント眉唾物だ。
しかも、タチが悪いことに、親父もソレ(偽物)であることをわかってて、面白がって買って来てるフシがあるから、余計に始末が悪い。
まぁ、それとてあくまで道楽の範囲だし、家計に悪影響がない限り、一介の扶養家族としては文句を言えた義理じゃねぇんだが。
「しっかし、願い事が叶う、ねぇ……」
500ミリペットボトルよりひと回り程大きい木彫りの像からは、確かに神像と言われて納得できる「威厳」みたいなものが、そこはかとなく感じられたけど……まさかなぁ。
「えーと……美人で優しくて俺にベタ惚れの彼女ができますよーに」
パンパンと柏手なんぞ打ってみる。
俺の友人連中の中には、幼馴染の絵美のコトを俺の彼女、少なくともその手前だと思ってるヤツもいるが、俺に言わせたらソイツはヒデェ誤解だ。
まぁ、顔がそれなりにいいことは認めよう。なんたって由紀乃さんの娘だからな。スタイルも決して悪くはない。客観的に見て、性格もビッチとか性悪だとか形容される程ヒドくはないだろう。
だが、俺にとってアイツは「横暴で口うるさい姉貴分」そのものだ。
自分のことを棚に上げて俺をこき下ろしたり、反対に腐れ縁を頼りに厄介事を持ち込んできたりするアイツのことを、俺は生物学的に「雌/female」であるとは認めても、「女の子」、ましてや恋愛対象だなんて断じて認める気はない。
俺にとって、理想の「恋人」のタイプと言うのはヤツとは正反対、そう、たとえば由紀乃さんみたいな女性のことを言うのだ。
清楚で淑やか、控えめながら、いつも笑顔を絶やさず、けなげで家庭的。さらに、俺と同い年の娘がいるとは思えないほど、若々しくてスタイルも抜群。
ああいう女性を嫁さんにもらえた男は幸せだろう、くそっ、モゲロ……いえ、嘘です。おじさんには、小さい頃、留守がちな親父に代わってキャッチボールとか色々遊んでもらった恩があるし。
しかし、いくら不可抗力とは言え、事故で死んで由紀乃さんを悲しませた罪はやっぱり重いと思うがな。
お葬式の時、陰で泣いてる由紀乃さんに「おばさん、泣かないで。だいじょうぶ、ぼくが、おじさんのかわりにだんなさんになってあげるから」とか言ったのも、幼き日の黒歴史(いいおもいで)だ。
ま、まぁ、そんなマセガキのことはさておき。
贅沢を言っている自覚はあるが、俺としては「恋人」の理想モデルは由紀乃さんをベースに想像せざるを得ない。むしろ、そんな「理想」を追い求めるがゆえに、俺に恋人ができないのかも!?
──はい、ゴメンなさい。調子に乗りました。
ま、とりあえず、ダメ元で願い事はしてみたものの、やっぱり御利益らしきものはなかったワケだ。
外見も渋くてそれなりに立派だから、インテリアとしての価値はあるんだろうが、生憎ウチの家もいい加減こんなモノ飾るスペースも無くなって来たしなぁ。
ふむ。そういや、絵美ん家のお土産にって、現地のチョコレートを預かってるんだが……代わりにコッチを渡しておくか。チョコは食っちまえばかさばらねーしな。
9月■日
うーーむ、夕方来た絵美と由紀乃さん、なんか様子がヘンだったなぁ。
何か悪いモンでも食べたのか? いや、由紀乃さんが食卓を預かってる限り、あの家でソレはないか。
微妙に気になるが、そろそろ遅いし、明日は月曜だ。今夜はサッサと寝て、明日学校行ったらそれとなく確かめてみっか。
9月△日
今、俺は、珍しいことに絵美の奴とふたりで学食に隣接したカフェテラスで昼飯を食ってるワケだが……。
「あの……どうかしましたか、政紀くん?」
目の前に、コテンと首を左に15度傾けながら遠慮がちに聞いてくるツインテールの美少女がいた! 何、この可愛いイキモノ!? ってか、誰??
「や、何でもない。気にすんな、絵美」
無論、この目の前の女性は他ならぬ絵美だったりする。正直、180度昨日までと印象が異なるが。
「はぁ、政紀くんが、そう言うのでしたら……」
言葉を濁して食事を再開する「絵美」。その手つきは、300円のAランチを前にしながら、まるでフランス料理のコースでも食べているかのように優雅だ。
こうやって大人しくしてるのを見ると、コイツがいかにレベルの高い美少女か今更ながらにわかるなぁ。いつもは、そのガサツさと騒々しさでそれが3割程度に抑えられてるけど。
「はぁ~」
「??」
「あー、気にしないで食事を続けてくれ。単なる思春期の少年のごくありふれた悩みだから」
「ふふっ、ヘンなマサくん」
クスクスと口元を抑えつつ上品に笑う絵美。
「「マサくん」、か。お前にそう呼ばれるのも久しぶりだな」
小さい頃の俺は、由紀乃さんにはそう呼ばれてて、絵美もそれを真似して「マサくん」って呼んでたんだよな。
でも、小学4年生くらいの時に、「照れくさいし、子供っぽいから止めてくれ」と言って、上原母娘には、そう呼ぶのは止めてもらったんだっけ。
「あ……ごめんなさい。嫌だった?」
「いや、別に。むしろちょっと懐かしかったかな」
申し訳なさそうにこちらを見る絵美に、そう答えたのは、あながち嘘じゃない。まぁ、上目使いな絵美の表情に不覚にも萌えたってのも理由だけど。
そうなんだよ! 今日の絵美は言動とか表情の端々がすごく女らしいんだよ!
いや、今までだって男勝りって言うほどじゃなかったんだけど、割合ラフで適当で、しかも俺には一段と遠慮がなかった。
それが、今日は真逆で、全体にお淑やかなのはもちろん、特に俺に対しては気を使ってくれてる感じがする。かと言って、俺をからかうために演技してるってワケでもなさそうだ。
一体全体どういう風の吹きまわしだ? 悪いモンでも食べたのか? 親父の海外土産は、スタッフ(主に俺)が美味しく戴いたはずだし……。
──ん? 待てよ……。
こないだ俺、例の神像をコイツに渡す前に、「美人で優しくて俺に惚れてる彼女が欲しい」とか、冗談半分に願ったよな。まさか、その願いが受理されてた、とか?
願い事成就のシステムが神様的にどうなってるかは知らんが、叶える方だって使う神通力とかそういうのは少ない方が楽に決まってる。
さて、俺が願った条件にピッタリの女の子をどこかから見つけて来て、俺に近づけて惚れさせるのと、すでに俺の近くにいる娘の性格をチョチョイっていじるのとでは、どちらが簡単か?
無論、後者に決まってる。
と言うことは、まさか俺の願い事のせいで、絵美の奴、性格をねじ曲げられちまったんだろうか!? さすがにそれは寝ざめが悪すぎる!
「大丈恋人ですか、マサくん? 冷や汗で顔がビッショリですよ?」
心配げに俺の身を案じながら、ハンカチで汗を拭ってくれる絵美。
……訂正。「ねじ曲げられた」というより「すごく良くなった」と解しておこう、ウン。
しかし、もしそうだとすると、この絵美が俺の恋人にできるってことだけど……。
顔立ちは、初恋の人・由紀乃さん譲りで正直好みのタイプではある。
体型とかも、巨乳とかグラマーとまでは言えないが、高一にしては上出来だろう。
俺とは長い付き合いで、阿吽の呼吸と言うか、いろいろ互いにわかっている部分は多い。親愛の情と言う点で言えば、俺にとって親父に次いで親しく、また大事なのが絵美と由紀乃さんなのも間違いはない。
そして、最大の障害だった性格が、見ての通り改善されたワケだ。
──あれ? もしかして、これって俺と絵美が恋人になるためのフラグ立ってる?
「あ、あの……どうしたんですか? そんなに熱心にわたしの顔を見つめて」
ちょっと照れたような笑顔を浮かべる絵美。俺は、そんな彼女を久しぶりに「女の子」として意識しているのを感じて、胸が高鳴っていた。
9月□日
あれ以来、コッソリ絵美の様子に注目してたんだが、明らかにおかしい!
いや、客観的に見れば全然おかしくはない。むしろ、「落ち着いて女らしくなった」と見られること請け合いだ。
アイツはその明るく気さくな性格で友達も多かったが、逆にその馴れ馴れしさやノリの良さ(というかバカさ)から、敬遠しているヤツも多かった。
ところが、あの日以来、絵美が、その気さくさは元のままに、女らしいしっとりした落ち着きと、控えめなしおらしさと思いやりを身に付けたものだから、男女問わず人気が急上昇中だ。
けど、その真相(らしきもの)に気づいている俺としては複雑だった。
そりゃ、幼馴染がイイ女になったのは嬉しいさ。俺のことを色々気にかけて、ウザくない程度にさりげなく世話を焼いてくれるのも、有難いとは思っている。
ただ、それが、俺が軽率に神頼みしちまった結果だと思う、なぁ。
しかし、そうは言っても、俺自身、日が経つにつれ、絵美への「想い」が大きくなっているのを感じる。
いや、だって仕方ないだろ!? 自分の好みにドンピシャの女の子が幼馴染で、朝は起こしに来てくれて、時々一緒に帰ったり、ふたりで喫茶店に入ったりって、「それなんてエロゲ?」って毎日なんだぞ!
──ふぅ、日記で誰に言い訳してんだ、俺は。
実際のところ、俺が「新しい絵美」に惚れているのは事実だし、絵美の方も俺のことを強く意識しているとは思う。
ただ、向こうのソレが外部から強制的に刷り込まれた気持ちかもしれないと思うと、その気持ちに付け込んでいいものか、迷うワケだ。
ええい、ひとりで考えていてもラチはあかねぇ。
明日、男らしく、絵美に交際申し込んでみっか!
9月●日
放課後の屋上で、男らしく絵美に「好きだ、つきあってくれ!」と打ち明けた。
けど、意外なことに、絵美のヤツは「少し考えさせて」即答はしなかった。
「好きだ」と言った時のうれしそうな表情からして、俺のことを嫌いってワケじゃなさそうなんだが……何か障害があるのか?
うーむ。月並みだが、親が男女交際に厳しい、とか?
ウチの親父に関しては、放任主義だから問題ない。由紀乃さんも、俺を息子同然に可愛がってくれてると思うんだが。
待てよ、そう言えば、この間アイツん家に遊びに行った時、微妙に素っ気なかった気も。
息子としては甘やかしてくれても、娘の婿候補(こいびと)としては失格とか?
……やべぇ、そう考えると、確かに俺、あの人の前では男として誇れるようなコトはあんまりしてない気がするぞ。なんか微妙に鬱になってきた。
9月X日
告白から土日を挟んだ月曜、俺は絵美から呼び出しを受けた。
ロクでもない考えに行きついてた俺は、まさか笑顔とともに抱きつかれるとは思わなかったな。
当然、返事は「YES」。やったぜ!!
調子に乗って、初めてのキスまでしちまったけど、絵美は顔を赤くしながらも怒らず、素直に俺に委ねてくれた。
うーん、絵美の唇、やーらかくてあったかかったなぁ……デヘヘヘ。
おっと、こんな下品な笑いを漏らしてちゃいかんな。紳士は常に優雅たれ!
10月1日
今日、俺はついに大人の階段を一歩上がった!
ふぅ~、初めてだから緊張したけど、全然たいしたコトなかったな。
……嘘です。世界観変わるほど気持ちよかったです。
これは、人類にとってはささやかな一歩かもしれんが、俺個人にとっては大きな一歩だ!
10月×日
あ、ありのまま、今起こったことを話すぜ!
「親父と由紀乃さんが一緒にいるところを見計らって、
俺達がつきあっているという交際宣言をしようとしたら、
先手をとって親父と由紀乃さんが来月結婚するつもりだと教えられた」!
何を言ってるのか、さっぱりワケわかんねーヨ!
[LAST SCENE.結末]
*SIDE:F(female)*
あの日、ママと……いいえ、「娘」と約束を交わした日から、今日にいたるまでの日々の事を、あたしは振り返っていた。
「あれから一カ月しか経ってないってのに、あたしも「絵美」も、今の立場にすっかり馴染んじゃったわねぇ」
元はと言えば自分達から(多少形は違えど)望んだ事だったせいか、あたし達はそもそも最初から、互いの立場を入れ替えて、あたしが「由紀乃」、彼女が「絵美」として暮らす事に、さほど抵抗感はなかったのだ。
そして、首から下がすげ替わっているという状況のおかげか、極めてスムーズにその状況に対応することができた。
それは身体的な動作やスキルだけに留まらない。
あの「約束」を交わした夜から、しばらくして気付いたんだけど、たとえば、あたしが「今日の料理は何にしようかな」と考えただけで、いつの間にか、適切なメニューとレシピが何件か頭に浮かんでくるようになってたわ。それこそ熟練の主婦さながらに。
それは「娘」も同様みたいで、他校との交流試合で、会ったことないはずの相手校の選手と、気がつけば普通に談笑していたらしい。
そう、知識的な面についても、どうやらあたし達は、現在の立場にふさわしいものを備えつつあるみたい。
まぁ、そうでなきゃ、あたしが会社の書類処理とかあんなスムーズ出来るわけないのよね、確かに。
おかげで、公的な、って言い方はちょっとヘンだけど、ふたりとも仕事とか学校とかではまったく不自由することはないのはラッキーよね。
プライベートでは……まぁ、「絵美」と政紀の方は、先ほど見た通りよ。
ま、若い男女が恋仲になったら、いずれ行きつく所まで行くのも、まぁ仕方ないか……って、これじゃ、あたし、すっかり「お母さん」ねぇ。
え? あたし? あたしはねぇ……。
──Prrrrrrrrrrr!
あら、誰かしら。あたしはバッグの中からケータイを取り出した。
「やぁ、由紀乃くん」
「泰男さん!? 日本に帰ってらしたんですか?」
予定では今日の夜、バンコクから帰って来られるはずなんだけど。
「ああ、ついさっきね。それで、よかったら今から食事でもと思ったんだが、どうだろう? 絵美ちゃんと、もしいたらウチのドラ息子も交えて」
「あ、はい、あたしは構わないんですけど……」
チラと2階の方に目を走らせる。
「あの子達は、どうやら「取り込み中」みたいですよ」
「! そうか。いや、まさかそこまで二人の仲がススんでいるとは」
さすがは泰男さん、あたしが言外に匂わせた意味を正確に把握してくれたみたい。
「それじゃあ、由紀乃さんだけでもどうかな?」
「ええ、喜んで……待ち合わせは、いつもの店でいいのかしら?」
子供達がよろしくやってるなら、大人だってそれ相応に楽しませてもらっても、罰は当たらないわよね♪
ホテルの窓からは、満月より少しだけ痩せた月の光が差し込んでいる。いわゆる十六夜というやつだ。
長年憧れた愛しい男性と、初めて身体を重ねるのには、悪くない夜だった。
泰男は「由紀乃」を抱きしめ、彼女の唇にそっと自分のそれを重ねてくれた。
唇から蕩けていくような感覚の中、自分の唇が微かに震えていることに、「由紀乃」は気づいた。
いかに、この「身体」自体は経験済みとは言え、やはり受け入れる絵美の意識としては、たとえ愛する男が相手とはいえ、未知なる体験に僅かにおびえているのかもしれない。
細かい事情など知らないはずだが、それでも泰男は、愛しい女性の恐怖を理解し、口付けを繰り返しながら、彼女の髪や背中を優しく撫でてくれた。
それだけで、「由紀乃」は自分の中の僅かな恐怖が陽光の元の氷柱のように溶け薄れていくのを感じる。
恐怖から解放された「由紀乃」は、自分の気持ちに正直に行動する。
すなわち、自分からも彼に触れたいと思ったのだ。
その感情に従い、自ら泰男の頬に手を伸ばして触れ、頭を抱き寄せて激しい口付けを求めていく。
「ん……ぁふぅ………」
「由紀乃」は官能的な声を漏らしつつ、彼の背中に両腕を回した。
情熱的なキスと抱擁の後、「由紀乃」の豊満な肢体は、白い敷布の敷かれたダブルベッドの上へと押し倒された。
泰男が唇を離し、彼女の顔を覗き込む。
彼に見つめられた「由紀乃」は、無性に恥ずかしくなり、少しだけ目を逸らした。
その「由紀乃」をあえて自分の方を向かせようとはせず、泰男の大きな手が彼女の髪を優しく撫でた。
「由紀乃くん、もしかして、照れてるのかな?」
「……いい男は、女に恥をかかせないものだと思いますけど?」
「おっと、こりゃ失礼。でも、そんな風にスネてる顔も可愛いよ」
泰男は心底愛おしそうに、「由紀乃」の柔らかな髪を弄んだ。
髪に触れられているだけなのに、それがたまらなく気持ち良かった。
「由紀乃」は瞳をトロンとさせて彼を見上げた。
「もっと……」
「うん?」
「もっと……色々して、欲しいの」
「由紀乃」の艶っぽい懇願により、泰男の瞳の中でも男の欲望がたぎり始める。
「もちろん……色々してあげよう」
男の唇は、そのまま「由紀乃」の白い首筋に吸い付く。
あたかも、動物がマーキングするかのように、泰男は何度も何度も「由紀乃」の首筋に赤い痕を残していった。
そこには、日頃の紳士めいた礼儀正しさはなく、ただ愛する女を求める男の姿だけがあった。
「あ……あぁ……!」
「可愛いよ……由紀乃くん……」
……
…………
………………
その夜、「由紀乃」は、己が内を満たす愛しい男の熱にうっとりと陶酔しながら、眠りについたのだった。
*SIDE:G(girl)*
わたし達が、互いの首から下とその立場を交換してから、およそ1年あまりの時が流れました。
その間に、本当に色々なことがありました。
中でも、一番の変化は、木下のおじさまと母さんが結婚して、わたしとマサくんが義理の兄妹になったことでしょうか。
マサくんとわたしは、恋人であると同時に義理の兄妹でもあると言う、どこぞの少女マンガみたいな関係になってしまいました。
当初はちょっと戸惑いましたけど、「お兄ちゃん」と言う響きに何か感じ入るところがあったのか、マサくんは以前以上に優しくしてくれますし、これはこれで悪くありません。
(わたしは「兄さん」と呼んでるんですけど、「それはそれで!」とサムズアップされちゃいました)
日本の民法では、別段義理の兄妹だって結婚できますし。
現在は、借家であったウチを引き払い、4人一緒に木下家に住んでいます。
ただし、わたしだけは未だに「木下」姓ではなく「上原」姓を名乗っているんですけどね。
(まぁ、どの道遠からずわたしも「木下」姓になることは間違いないのでしょうが)
いずれにせよ、わたし達は家族として、そしてふた組のカップルとして、至極幸せで充実した毎日を送っています。
そう言えば、つい先日、おじさま……いえ、義父(とう)さんが、律儀にも例の神像を出張先で見つけて来てくれました。
その晩、わたしと母さんはどうやら同じ夢を見たようです。
夢の中で、あの彫像とよく似た姿の自称・神様に、「元に戻るか?」と質問されましたけど、わたし達はほとんど即答で「NO」と答えました。
て言うか、今更戻されても、むしろ困ります。
いえ、そういう消極的な理由よりも何よりも、わたし達は現在の互いの立場やパートナーをこよなく愛しているのですから。
そう答えると、神様(自称)は、ニコリと微笑まれ、「それでは、別のプレゼントを差し上げよう」と言い残して、昇天していきました。
朝目を覚ますと、案の定、あの彫像は砕けており、1年前と同様、ほどなく木屑になって散りました。
あ、そうそう。神様の言う「プレゼント」については、しばらくして判明したのですが……。
「それで、母さん、どっちだったんですか?」
「女の子ですって。ニューヨークにいるあの人も喜んでたわ」
「ヒャッホー! ふたりめの妹、ゲットだぜ!」
「もぅ、兄さん、はしゃぎ過ぎですよ~」
-fin-
[Interlude.とある男子高校生の日記]
9月○日
親父がまた妙なモノをお土産に買ってきた。
いわく、「ある南方の部族で崇められている、願い事の叶う神像」なんだと。
ウチの家には、このテのけったいな代物がたくさん転がっている。無論、大半……というかほぼ100パーセント眉唾物だ。
しかも、タチが悪いことに、親父もソレ(偽物)であることをわかってて、面白がって買って来てるフシがあるから、余計に始末が悪い。
まぁ、それとてあくまで道楽の範囲だし、家計に悪影響がない限り、一介の扶養家族としては文句を言えた義理じゃねぇんだが。
「しっかし、願い事が叶う、ねぇ……」
500ミリペットボトルよりひと回り程大きい木彫りの像からは、確かに神像と言われて納得できる「威厳」みたいなものが、そこはかとなく感じられたけど……まさかなぁ。
「えーと……美人で優しくて俺にベタ惚れの彼女ができますよーに」
パンパンと柏手なんぞ打ってみる。
俺の友人連中の中には、幼馴染の絵美のコトを俺の彼女、少なくともその手前だと思ってるヤツもいるが、俺に言わせたらソイツはヒデェ誤解だ。
まぁ、顔がそれなりにいいことは認めよう。なんたって由紀乃さんの娘だからな。スタイルも決して悪くはない。客観的に見て、性格もビッチとか性悪だとか形容される程ヒドくはないだろう。
だが、俺にとってアイツは「横暴で口うるさい姉貴分」そのものだ。
自分のことを棚に上げて俺をこき下ろしたり、反対に腐れ縁を頼りに厄介事を持ち込んできたりするアイツのことを、俺は生物学的に「雌/female」であるとは認めても、「女の子」、ましてや恋愛対象だなんて断じて認める気はない。
俺にとって、理想の「恋人」のタイプと言うのはヤツとは正反対、そう、たとえば由紀乃さんみたいな女性のことを言うのだ。
清楚で淑やか、控えめながら、いつも笑顔を絶やさず、けなげで家庭的。さらに、俺と同い年の娘がいるとは思えないほど、若々しくてスタイルも抜群。
ああいう女性を嫁さんにもらえた男は幸せだろう、くそっ、モゲロ……いえ、嘘です。おじさんには、小さい頃、留守がちな親父に代わってキャッチボールとか色々遊んでもらった恩があるし。
しかし、いくら不可抗力とは言え、事故で死んで由紀乃さんを悲しませた罪はやっぱり重いと思うがな。
お葬式の時、陰で泣いてる由紀乃さんに「おばさん、泣かないで。だいじょうぶ、ぼくが、おじさんのかわりにだんなさんになってあげるから」とか言ったのも、幼き日の黒歴史(いいおもいで)だ。
ま、まぁ、そんなマセガキのことはさておき。
贅沢を言っている自覚はあるが、俺としては「恋人」の理想モデルは由紀乃さんをベースに想像せざるを得ない。むしろ、そんな「理想」を追い求めるがゆえに、俺に恋人ができないのかも!?
──はい、ゴメンなさい。調子に乗りました。
ま、とりあえず、ダメ元で願い事はしてみたものの、やっぱり御利益らしきものはなかったワケだ。
外見も渋くてそれなりに立派だから、インテリアとしての価値はあるんだろうが、生憎ウチの家もいい加減こんなモノ飾るスペースも無くなって来たしなぁ。
ふむ。そういや、絵美ん家のお土産にって、現地のチョコレートを預かってるんだが……代わりにコッチを渡しておくか。チョコは食っちまえばかさばらねーしな。
9月■日
うーーむ、夕方来た絵美と由紀乃さん、なんか様子がヘンだったなぁ。
何か悪いモンでも食べたのか? いや、由紀乃さんが食卓を預かってる限り、あの家でソレはないか。
微妙に気になるが、そろそろ遅いし、明日は月曜だ。今夜はサッサと寝て、明日学校行ったらそれとなく確かめてみっか。
9月△日
今、俺は、珍しいことに絵美の奴とふたりで学食に隣接したカフェテラスで昼飯を食ってるワケだが……。
「あの……どうかしましたか、政紀くん?」
目の前に、コテンと首を左に15度傾けながら遠慮がちに聞いてくるツインテールの美少女がいた! 何、この可愛いイキモノ!? ってか、誰??
「や、何でもない。気にすんな、絵美」
無論、この目の前の女性は他ならぬ絵美だったりする。正直、180度昨日までと印象が異なるが。
「はぁ、政紀くんが、そう言うのでしたら……」
言葉を濁して食事を再開する「絵美」。その手つきは、300円のAランチを前にしながら、まるでフランス料理のコースでも食べているかのように優雅だ。
こうやって大人しくしてるのを見ると、コイツがいかにレベルの高い美少女か今更ながらにわかるなぁ。いつもは、そのガサツさと騒々しさでそれが3割程度に抑えられてるけど。
「はぁ~」
「??」
「あー、気にしないで食事を続けてくれ。単なる思春期の少年のごくありふれた悩みだから」
「ふふっ、ヘンなマサくん」
クスクスと口元を抑えつつ上品に笑う絵美。
「「マサくん」、か。お前にそう呼ばれるのも久しぶりだな」
小さい頃の俺は、由紀乃さんにはそう呼ばれてて、絵美もそれを真似して「マサくん」って呼んでたんだよな。
でも、小学4年生くらいの時に、「照れくさいし、子供っぽいから止めてくれ」と言って、上原母娘には、そう呼ぶのは止めてもらったんだっけ。
「あ……ごめんなさい。嫌だった?」
「いや、別に。むしろちょっと懐かしかったかな」
申し訳なさそうにこちらを見る絵美に、そう答えたのは、あながち嘘じゃない。まぁ、上目使いな絵美の表情に不覚にも萌えたってのも理由だけど。
そうなんだよ! 今日の絵美は言動とか表情の端々がすごく女らしいんだよ!
いや、今までだって男勝りって言うほどじゃなかったんだけど、割合ラフで適当で、しかも俺には一段と遠慮がなかった。
それが、今日は真逆で、全体にお淑やかなのはもちろん、特に俺に対しては気を使ってくれてる感じがする。かと言って、俺をからかうために演技してるってワケでもなさそうだ。
一体全体どういう風の吹きまわしだ? 悪いモンでも食べたのか? 親父の海外土産は、スタッフ(主に俺)が美味しく戴いたはずだし……。
──ん? 待てよ……。
こないだ俺、例の神像をコイツに渡す前に、「美人で優しくて俺に惚れてる彼女が欲しい」とか、冗談半分に願ったよな。まさか、その願いが受理されてた、とか?
願い事成就のシステムが神様的にどうなってるかは知らんが、叶える方だって使う神通力とかそういうのは少ない方が楽に決まってる。
さて、俺が願った条件にピッタリの女の子をどこかから見つけて来て、俺に近づけて惚れさせるのと、すでに俺の近くにいる娘の性格をチョチョイっていじるのとでは、どちらが簡単か?
無論、後者に決まってる。
と言うことは、まさか俺の願い事のせいで、絵美の奴、性格をねじ曲げられちまったんだろうか!? さすがにそれは寝ざめが悪すぎる!
「大丈恋人ですか、マサくん? 冷や汗で顔がビッショリですよ?」
心配げに俺の身を案じながら、ハンカチで汗を拭ってくれる絵美。
……訂正。「ねじ曲げられた」というより「すごく良くなった」と解しておこう、ウン。
しかし、もしそうだとすると、この絵美が俺の恋人にできるってことだけど……。
顔立ちは、初恋の人・由紀乃さん譲りで正直好みのタイプではある。
体型とかも、巨乳とかグラマーとまでは言えないが、高一にしては上出来だろう。
俺とは長い付き合いで、阿吽の呼吸と言うか、いろいろ互いにわかっている部分は多い。親愛の情と言う点で言えば、俺にとって親父に次いで親しく、また大事なのが絵美と由紀乃さんなのも間違いはない。
そして、最大の障害だった性格が、見ての通り改善されたワケだ。
──あれ? もしかして、これって俺と絵美が恋人になるためのフラグ立ってる?
「あ、あの……どうしたんですか? そんなに熱心にわたしの顔を見つめて」
ちょっと照れたような笑顔を浮かべる絵美。俺は、そんな彼女を久しぶりに「女の子」として意識しているのを感じて、胸が高鳴っていた。
9月□日
あれ以来、コッソリ絵美の様子に注目してたんだが、明らかにおかしい!
いや、客観的に見れば全然おかしくはない。むしろ、「落ち着いて女らしくなった」と見られること請け合いだ。
アイツはその明るく気さくな性格で友達も多かったが、逆にその馴れ馴れしさやノリの良さ(というかバカさ)から、敬遠しているヤツも多かった。
ところが、あの日以来、絵美が、その気さくさは元のままに、女らしいしっとりした落ち着きと、控えめなしおらしさと思いやりを身に付けたものだから、男女問わず人気が急上昇中だ。
けど、その真相(らしきもの)に気づいている俺としては複雑だった。
そりゃ、幼馴染がイイ女になったのは嬉しいさ。俺のことを色々気にかけて、ウザくない程度にさりげなく世話を焼いてくれるのも、有難いとは思っている。
ただ、それが、俺が軽率に神頼みしちまった結果だと思う、なぁ。
しかし、そうは言っても、俺自身、日が経つにつれ、絵美への「想い」が大きくなっているのを感じる。
いや、だって仕方ないだろ!? 自分の好みにドンピシャの女の子が幼馴染で、朝は起こしに来てくれて、時々一緒に帰ったり、ふたりで喫茶店に入ったりって、「それなんてエロゲ?」って毎日なんだぞ!
──ふぅ、日記で誰に言い訳してんだ、俺は。
実際のところ、俺が「新しい絵美」に惚れているのは事実だし、絵美の方も俺のことを強く意識しているとは思う。
ただ、向こうのソレが外部から強制的に刷り込まれた気持ちかもしれないと思うと、その気持ちに付け込んでいいものか、迷うワケだ。
ええい、ひとりで考えていてもラチはあかねぇ。
明日、男らしく、絵美に交際申し込んでみっか!
9月●日
放課後の屋上で、男らしく絵美に「好きだ、つきあってくれ!」と打ち明けた。
けど、意外なことに、絵美のヤツは「少し考えさせて」即答はしなかった。
「好きだ」と言った時のうれしそうな表情からして、俺のことを嫌いってワケじゃなさそうなんだが……何か障害があるのか?
うーむ。月並みだが、親が男女交際に厳しい、とか?
ウチの親父に関しては、放任主義だから問題ない。由紀乃さんも、俺を息子同然に可愛がってくれてると思うんだが。
待てよ、そう言えば、この間アイツん家に遊びに行った時、微妙に素っ気なかった気も。
息子としては甘やかしてくれても、娘の婿候補(こいびと)としては失格とか?
……やべぇ、そう考えると、確かに俺、あの人の前では男として誇れるようなコトはあんまりしてない気がするぞ。なんか微妙に鬱になってきた。
9月X日
告白から土日を挟んだ月曜、俺は絵美から呼び出しを受けた。
ロクでもない考えに行きついてた俺は、まさか笑顔とともに抱きつかれるとは思わなかったな。
当然、返事は「YES」。やったぜ!!
調子に乗って、初めてのキスまでしちまったけど、絵美は顔を赤くしながらも怒らず、素直に俺に委ねてくれた。
うーん、絵美の唇、やーらかくてあったかかったなぁ……デヘヘヘ。
おっと、こんな下品な笑いを漏らしてちゃいかんな。紳士は常に優雅たれ!
10月1日
今日、俺はついに大人の階段を一歩上がった!
ふぅ~、初めてだから緊張したけど、全然たいしたコトなかったな。
……嘘です。世界観変わるほど気持ちよかったです。
これは、人類にとってはささやかな一歩かもしれんが、俺個人にとっては大きな一歩だ!
10月×日
あ、ありのまま、今起こったことを話すぜ!
「親父と由紀乃さんが一緒にいるところを見計らって、
俺達がつきあっているという交際宣言をしようとしたら、
先手をとって親父と由紀乃さんが来月結婚するつもりだと教えられた」!
何を言ってるのか、さっぱりワケわかんねーヨ!
[LAST SCENE.結末]
*SIDE:F(female)*
あの日、ママと……いいえ、「娘」と約束を交わした日から、今日にいたるまでの日々の事を、あたしは振り返っていた。
「あれから一カ月しか経ってないってのに、あたしも「絵美」も、今の立場にすっかり馴染んじゃったわねぇ」
元はと言えば自分達から(多少形は違えど)望んだ事だったせいか、あたし達はそもそも最初から、互いの立場を入れ替えて、あたしが「由紀乃」、彼女が「絵美」として暮らす事に、さほど抵抗感はなかったのだ。
そして、首から下がすげ替わっているという状況のおかげか、極めてスムーズにその状況に対応することができた。
それは身体的な動作やスキルだけに留まらない。
あの「約束」を交わした夜から、しばらくして気付いたんだけど、たとえば、あたしが「今日の料理は何にしようかな」と考えただけで、いつの間にか、適切なメニューとレシピが何件か頭に浮かんでくるようになってたわ。それこそ熟練の主婦さながらに。
それは「娘」も同様みたいで、他校との交流試合で、会ったことないはずの相手校の選手と、気がつけば普通に談笑していたらしい。
そう、知識的な面についても、どうやらあたし達は、現在の立場にふさわしいものを備えつつあるみたい。
まぁ、そうでなきゃ、あたしが会社の書類処理とかあんなスムーズ出来るわけないのよね、確かに。
おかげで、公的な、って言い方はちょっとヘンだけど、ふたりとも仕事とか学校とかではまったく不自由することはないのはラッキーよね。
プライベートでは……まぁ、「絵美」と政紀の方は、先ほど見た通りよ。
ま、若い男女が恋仲になったら、いずれ行きつく所まで行くのも、まぁ仕方ないか……って、これじゃ、あたし、すっかり「お母さん」ねぇ。
え? あたし? あたしはねぇ……。
──Prrrrrrrrrrr!
あら、誰かしら。あたしはバッグの中からケータイを取り出した。
「やぁ、由紀乃くん」
「泰男さん!? 日本に帰ってらしたんですか?」
予定では今日の夜、バンコクから帰って来られるはずなんだけど。
「ああ、ついさっきね。それで、よかったら今から食事でもと思ったんだが、どうだろう? 絵美ちゃんと、もしいたらウチのドラ息子も交えて」
「あ、はい、あたしは構わないんですけど……」
チラと2階の方に目を走らせる。
「あの子達は、どうやら「取り込み中」みたいですよ」
「! そうか。いや、まさかそこまで二人の仲がススんでいるとは」
さすがは泰男さん、あたしが言外に匂わせた意味を正確に把握してくれたみたい。
「それじゃあ、由紀乃さんだけでもどうかな?」
「ええ、喜んで……待ち合わせは、いつもの店でいいのかしら?」
子供達がよろしくやってるなら、大人だってそれ相応に楽しませてもらっても、罰は当たらないわよね♪
ホテルの窓からは、満月より少しだけ痩せた月の光が差し込んでいる。いわゆる十六夜というやつだ。
長年憧れた愛しい男性と、初めて身体を重ねるのには、悪くない夜だった。
泰男は「由紀乃」を抱きしめ、彼女の唇にそっと自分のそれを重ねてくれた。
唇から蕩けていくような感覚の中、自分の唇が微かに震えていることに、「由紀乃」は気づいた。
いかに、この「身体」自体は経験済みとは言え、やはり受け入れる絵美の意識としては、たとえ愛する男が相手とはいえ、未知なる体験に僅かにおびえているのかもしれない。
細かい事情など知らないはずだが、それでも泰男は、愛しい女性の恐怖を理解し、口付けを繰り返しながら、彼女の髪や背中を優しく撫でてくれた。
それだけで、「由紀乃」は自分の中の僅かな恐怖が陽光の元の氷柱のように溶け薄れていくのを感じる。
恐怖から解放された「由紀乃」は、自分の気持ちに正直に行動する。
すなわち、自分からも彼に触れたいと思ったのだ。
その感情に従い、自ら泰男の頬に手を伸ばして触れ、頭を抱き寄せて激しい口付けを求めていく。
「ん……ぁふぅ………」
「由紀乃」は官能的な声を漏らしつつ、彼の背中に両腕を回した。
情熱的なキスと抱擁の後、「由紀乃」の豊満な肢体は、白い敷布の敷かれたダブルベッドの上へと押し倒された。
泰男が唇を離し、彼女の顔を覗き込む。
彼に見つめられた「由紀乃」は、無性に恥ずかしくなり、少しだけ目を逸らした。
その「由紀乃」をあえて自分の方を向かせようとはせず、泰男の大きな手が彼女の髪を優しく撫でた。
「由紀乃くん、もしかして、照れてるのかな?」
「……いい男は、女に恥をかかせないものだと思いますけど?」
「おっと、こりゃ失礼。でも、そんな風にスネてる顔も可愛いよ」
泰男は心底愛おしそうに、「由紀乃」の柔らかな髪を弄んだ。
髪に触れられているだけなのに、それがたまらなく気持ち良かった。
「由紀乃」は瞳をトロンとさせて彼を見上げた。
「もっと……」
「うん?」
「もっと……色々して、欲しいの」
「由紀乃」の艶っぽい懇願により、泰男の瞳の中でも男の欲望がたぎり始める。
「もちろん……色々してあげよう」
男の唇は、そのまま「由紀乃」の白い首筋に吸い付く。
あたかも、動物がマーキングするかのように、泰男は何度も何度も「由紀乃」の首筋に赤い痕を残していった。
そこには、日頃の紳士めいた礼儀正しさはなく、ただ愛する女を求める男の姿だけがあった。
「あ……あぁ……!」
「可愛いよ……由紀乃くん……」
……
…………
………………
その夜、「由紀乃」は、己が内を満たす愛しい男の熱にうっとりと陶酔しながら、眠りについたのだった。
*SIDE:G(girl)*
わたし達が、互いの首から下とその立場を交換してから、およそ1年あまりの時が流れました。
その間に、本当に色々なことがありました。
中でも、一番の変化は、木下のおじさまと母さんが結婚して、わたしとマサくんが義理の兄妹になったことでしょうか。
マサくんとわたしは、恋人であると同時に義理の兄妹でもあると言う、どこぞの少女マンガみたいな関係になってしまいました。
当初はちょっと戸惑いましたけど、「お兄ちゃん」と言う響きに何か感じ入るところがあったのか、マサくんは以前以上に優しくしてくれますし、これはこれで悪くありません。
(わたしは「兄さん」と呼んでるんですけど、「それはそれで!」とサムズアップされちゃいました)
日本の民法では、別段義理の兄妹だって結婚できますし。
現在は、借家であったウチを引き払い、4人一緒に木下家に住んでいます。
ただし、わたしだけは未だに「木下」姓ではなく「上原」姓を名乗っているんですけどね。
(まぁ、どの道遠からずわたしも「木下」姓になることは間違いないのでしょうが)
いずれにせよ、わたし達は家族として、そしてふた組のカップルとして、至極幸せで充実した毎日を送っています。
そう言えば、つい先日、おじさま……いえ、義父(とう)さんが、律儀にも例の神像を出張先で見つけて来てくれました。
その晩、わたしと母さんはどうやら同じ夢を見たようです。
夢の中で、あの彫像とよく似た姿の自称・神様に、「元に戻るか?」と質問されましたけど、わたし達はほとんど即答で「NO」と答えました。
て言うか、今更戻されても、むしろ困ります。
いえ、そういう消極的な理由よりも何よりも、わたし達は現在の互いの立場やパートナーをこよなく愛しているのですから。
そう答えると、神様(自称)は、ニコリと微笑まれ、「それでは、別のプレゼントを差し上げよう」と言い残して、昇天していきました。
朝目を覚ますと、案の定、あの彫像は砕けており、1年前と同様、ほどなく木屑になって散りました。
あ、そうそう。神様の言う「プレゼント」については、しばらくして判明したのですが……。
「それで、母さん、どっちだったんですか?」
「女の子ですって。ニューヨークにいるあの人も喜んでたわ」
「ヒャッホー! ふたりめの妹、ゲットだぜ!」
「もぅ、兄さん、はしゃぎ過ぎですよ~」
-fin-
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