『要12歳、職業・女子高生』[承の部]

当面のブログ補完計画(予定)としては、
 「要12歳、職業・女子高生
 「泳げ、チハヤちゃん!
 「スクールガールラプソディ
の3作(「今日からお姉ちゃん」も含めた小学生4部作の残り)を今月中に掲載。
10月から、新連載「それ行け、桜小娘!」にとりかかろうかと思ってます。
その合い間に、二次創作系もポツポツ載せる予定。
とりあえず、「王女様と私」を最後まで載せて、あとは「極楽先生よこし(マ)」の続きに移るべきか。
もしくは、なのは系「おきらくエイミィさん」のリライトに取りかかりますかね。

では、早速「要12歳」の続きです。


要12歳、職業・女子高生』[承の部]

その4/どきどきバスタイム

 ──カッポーーーーン……

 と言う効果音が響くここは、お約束通りに風呂場。ただし、一般家庭の浴室などではなく、星河丘学園女子寮の1階に設置された、温泉風の大浴場である。
 脱衣場から入って右手に5、60人程度は余裕で入れそうな大きな檜製の湯船があり、その隣りには女生徒の美容を考慮してかジェット風呂なども備えられている。
 左手側は洗い場となっていて、同じく50人分のシャワーと蛇口が風呂椅子とともに備えられていた。簡単な仕切りもついているのは、体型その他でコンプレックスを抱く子への配慮だろうか?
 さらにはガラス戸を開けて外(といっても周囲は高めの塀で囲われてはいるが)に出れば、いわゆる露天風呂(日替わりハーブ入り)を堪能できるし、10数人程度が入れる小部屋となったサウナや、水風呂までもある。
 下手なSPAに行くのが馬鹿らしくなるほどの充実ぶりだった。
 ちなみに、クラスメイトの男子によれば、男子寮の方の大浴場は、やや古いこともあってここまで豪華ではなく、昔懐かしい銭湯風の造りなのだとか。
 「まぁ、それはそれで風情があって、おもしろそうだよねぇ~」
 「あ、う、うん。そうだね……」
 歯切れの悪い答えを返す「クラスメイト」の方を見て、目をパチクリさせる長谷部奈津実。
 彼女の隣りで、真っ赤な顔して湯船浸かっているいるのは、クラスメイトであり、寮の隣室の住人であり、さらに(幽霊部員とはいえ)同じクラブに所属している部活仲間でもある、「早川美幸(はやかわ・みゆき)」のはずなのだが……。
 「あれ、もしかして、みゆみゆ、ノボセちゃった?」
 風呂の温度はややぬるめに設定されているが、かかり湯もそこそこに、「美幸」は湯船に入ったかと思うと、一番端っこに陣取って以来、ほとんど身動きしていないのだ。湯当たりしてもおかしくない。
 「いや……って言うか、その……」
 言いにくそうに口ごもっている「美幸」の様子に、ようやく「彼女」が何を気にしているか思い当たったようだ。
 「ああ、そうか……そんな心配することないと思うよー、周囲には完全に美幸ちゃんに見えてるみたいだし」

 そう、言うまでもなく、ココにいるミユキは美幸に非ず。実際には、小学六年生の少年で、本物の美幸の従弟にあたる浅倉要(あさくら・かなめ)なのだ。
 もっとも、アヤしげな魔法の絵の効果によって、一週間程前から従姉と「立場」が入れ替わってしまい、周囲には彼が「彼女」に──星河丘学園高等部1年C組の女生徒、早川美幸に見えているのだが。
 「そ、それもあるけど、いいのかなぁ、ボクなんかがココにいて……」
 スポーツ大好き少年な要だが、性格的には「やんちゃ」と言うよりは「優等生」と言う方が近い。
 気が弱い……というほどではないが、なまじ頭がよくて礼儀正しいため、覗きをしているような今の状態に罪悪感を覚えているのだろう。
 「アハハ、ミユキちゃんは真面目だね。こういう事態なんだから、役得って割り切ればいいのに~」
 偶然ミユキの事情を知り、「彼女」の協力者となることを約束した奈津実だが、同時に、その軽くて能天気な性格ゆえか、ミユキをよくからかってくる。
 まぁ、からかうとは言え、周囲へのフォローはしてくれてるし、「女子高生」の生活習慣に疎いミユキに対して色々教えてくれるので、助かってはいるのだが。
 (──美幸お姉ちゃんが苦手にしてたのって、わかる気がするなぁ……)
 決して悪い人ではない、むしろ世話好きでお人好しの部類に入るだろう奈津実だが、あのインドア派で騒がしいのが嫌いな従姉にとっては、構われるのはさぞ苦痛だったろう。
 ミユキの場合は、時に「もっと落ち着きなよ」と感じないではないのだが、奈津実が色々気遣ってくれていることも十分理解しているため、差し伸べられたその手を振りほどこうとは思わなかった。
 そういう意味では、本物の美幸より「彼女」の方が、コミュニケーション能力の高い「大人」だと言えるかもしれない。
 「そりゃ、ボクだって興味ないワケじゃないけどさ……さすがに、この状況だと、万が一バレたら、「しめんそか」でしょ」
 「お、難しい言葉知ってるね~。でも、ミユキちゃん、本来は小六でしょ。なら、銭湯とかで女風呂に入ってもギリギリセーフだと思うよ」
 元々男子の11、2歳という年齢は、かなり成長差が激しい。
 要は、背丈自体は155センチと平均よりやや高めであったが、第二次性徴の兆しはまだ見受けらず、無論声変わりもしていない。陰部に毛も生えていないし、さらに言うなら実は精通自体もまだだったりする。
 たとえば母親などと一緒に女風呂に入っても、笑って許される範囲だろう。
 「それは……そうかもしんないけど」
 とは言え、ビミョーなオトシゴロ。意識するなと言う方が無理ではある。

 しかし、いつまでも湯船の隅に縮こまっていては悪目立ちするし、本当にノボせて倒れるかもしれない。そうなっては、「周囲に怪しまれないように」大浴場まで来たのに本末転倒だ。
 奈津実に促されて、ミユキは渋々湯船を出、無意識に股間と、なぜか胸元をタオルで隠しながら洗い場の隅へと足を運んだ。
 「あ、そうそう。念のため聞くけど、ミユキちゃん、ひとりで髪の毛とか身体洗える?」
 「あ、あたりまえでしょ。そこまで子供扱いしないでください!」
 (一応小声で)それでも憤慨するミユキに、奈津実はチッチッチと立てた人差指を振ってみせる。
 「わたしが言ってるのは、「女の子の洗い方が出来るか」ってことなんだけど?」
 「う……」
 そう言われてしまうと、ミユキとしては、ぐぅの音も出ない。
 一昨年くらいまでは、本物の美幸に誘われて一緒にお風呂に入ってたりもしたが、「イトコのお姉ちゃんの裸」を見るのが気恥ずかしいという気持ちもあって、そんなにじっくり観察したりはしていない。
 何となく「こんな感じだったかなー?」という仕草を実演してみせると、奈津実の評価は「60点。もう少し頑張りましょう」といったところで、いくつか細かい部分を指摘され、直された。
 「お湯で軽く流して、シャンプーして洗って流して、そのあともう一度リンスして流す……って、女の子の洗髪ってめんどくさいんだね」
 言葉通りにたっぷりシャンプーを付けて襟を隠す程度の髪を──奈津実に言われた通り丁寧に──洗っているミユキが嘆息する。
 「あはは、まぁ、みんなヤってることだしね。その面倒を乗り越えてでも、少しでも綺麗になりたいと言うのが、乙女心というヤツだよん。それに、ミユキちゃんは、ショートに近いセミロングだから、まだ楽な方だよ」
 確かにザッと風呂場を見渡してみても、さすがは名門私立の女子高生、背中どころかお尻まで届きそうなロングヘアの娘も何人か見受けられる。あれだけ長いと髪を洗うのはひと苦労だろう。
 目の前の奈津実にしても、普段のサイドポニーをほどくと、背中を覆うくらいの長さはあるのだ。
 「ふぅん……だから、女の人のお風呂って長いんだ」
 慣れない手つきでリンスしながら(ちなみに、シャンプーとリンスは奈津実のものを借りている)、納得したという風にウンウンと頷くミユキ。
 「ミユキちゃんは、家ではカラスの行水?」
 「それって、お風呂が短いことのたとえだっけ? ううん、そうでもないかな。むしろ、お風呂に入る事自体はけっこう好きかも。ただ、家だと、あんまり長く入ってると、待たされたお父さんが、びみょーに不キゲンになるんだよね」
 現在の早川家の習慣では、寝る時間の早い要が一番、次が父親で、色々手間のかかる母親が最後と決まっているのだ。
 「だから、こんな風に広いお風呂にのんびり入れるのは、ちょっとだけうれしいかも」
 大浴場備え付けのボディーシャンプーで身体を優しく洗いながら、笑顔になる。
 「あはは、良かったじゃない。今日はもう遅いからあんまりゆっくりしてられないけど、この寮のお風呂は、夕方6時からならいつでも入れるし、明日からはもっと早めに来てみたら?
 夜、扉の向こうの露天風呂とかに星空を見ながら入るのもロマンチックだし、ハーブの効果でお肌つるつるになれるしね!」
 「そっかー、明日が楽しみだなぁ」
 そんな風に奈津実と会話しているうちに、気づけばミユキは、ここが女風呂だと言うことを忘れ、すっかりリラックスしていた。
 いや、正確には「忘れた」のではなく、「気にならなくなった」と言うべきか。
 最初女風呂に足を踏み入れた時は、自分自身の恥ずかしさを別にしても、見知らぬ外国に迷い込んだ異邦人みたいな、頼りない恐怖感を感じていたのだ。
 ところが、ずっと入っていても特に周囲に異端視されることもなく、奈津実と気楽に雑談し、時にはクラスメイトらしき女の子に挨拶されて会釈を返したりしているうちに、自分が今ここにいることが、ごく自然に思えて来たのだ。
 ──実は、コレ、例の「絵」の効果が一段階進行したからにほかならないのだが、ミユキがその真相に気づくことはなかった。

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閑話/美幸16歳、サッカーしようぜ!

 「浅倉要」と呼ばれる「少年」──実は他人にそう見えているだけで、本当はその従姉である美幸──は、いささか不機嫌だった。
 正確には、つい先ほど、ほんの10分ほど前まで、極めてご機嫌だったのだ。
 鳥魚なんとか言う魔法の絵の効力で、従弟の要と立場を入れ替えて、はや一週間。
 「要」として浅倉夫妻に連れ出された当初こそ焦ったが、昨日早川家に残った「美幸」──本物の要と連絡がついて、元に戻るための予定を決めると、かえって肝が据わった。むしろ、滅多にないチャンスだとさえ、彼女は考えていたのだ。
 この早川美幸という少女、何しろ高校1年生にして、早くもショタコンかつ腐女子の傾向がある。そんな彼女にとって、ひと月近くも「小学6年生の男の子の生活」を体験出来るというのは、考えようによってはこの上ない「ご褒美」だったのだ。
 例えば、家での生活からしても、「男の子」の暮らしは非常に気が楽だった。
 早川家の両親は、娘のヲタク気味な趣味については、それほどうるさくなかった(ただし、歓迎もしていない)が、部屋の掃除や行儀作法といった生活態度そのものには比較的厳しい方で、美幸はしばしば注意されていたのだ。
 美幸はことさらに男勝りとか活発というタイプではないものの、ガサツというかズボラで整理整頓とか上品だとか言うことが苦手なタチだ。
 それなのに「女の子」だからというだけの理由で「キチンとしなさい」と叱られることに、彼女は常々不満を抱いていたのだ。
 しかしながら、浅倉家の「両親」(本来は叔父叔母にあたる人達)は、元々大らかな性格であり、かつ要が男の子であるためか、カナメ(=美幸)の生活態度に関してあまり口うるさいことを言わなかった。

 さらに言えば、着る服についても同様だ。
 女子高生にあるまじく、コスプレ以外のお洒落とかファッションにてんで興味のない美幸は、家にいる時ぐらい夏場はTシャツ1枚と短パンで十分だと思うのだが、早川家の両親、とくに母親は何かと可愛らしい格好をさせようとしてくる。
 「あんなのあたしに似合わないってのにさ! それに比べて、コッチはいいなぁ」
 「要」の部屋でベッドに寝転がりながらマンガを読んでいるカナメの格好は、ショートパンツにタンクトップ(と言うよりランニングシャツ)一枚という軽装だった。
 幸か不幸か美幸の胸は高一女子としては悲しくなる程に慎ましい大きさなので、ブラジャーをしなくてもさほど困らない。
 いや、むしろしない方が締めつけ感がなくて楽だ……とさえ、カナメは思っていた。
 コレが学園の寮とかにいると、まがりなりにも女子高生がノーブラというワケにもいかないのだから、面倒くさい。
 その点、「小六の男の子」である現在のカナメは、誰はばかることなく気楽な格好をしていらる、というワケだ。その解放感は推して知るべし。
 「いっそのこと、アイツをだまくらかして、寒くなる頃までこのままでいようかなぁ」
 冗談交じりに自分勝手なコトを呟くカナメ。

 ところが。
 そんな身勝手なコトを考えていた罰が当たったのか、「彼」は10分後、8月最終日に要の通う小学校に足を運ぶことになった。
 なぜかと言えば、原因はカナメのすぐ横を歩いている少年にある。
 少年の名前は有沢耕平。浅倉要の一番仲の良い親友……らしい。少なくとも、要本人はそう言ってたし、耕平の態度からしても、それは間違いなさそうだ。
 「要、夏休み後半のクラブの練習休んだだろ? 事情があったのは知っているけど、このままだとレギュラー外されるぜ?」
 そう言って、耕平少年は渋るカナメを学校のグラウンドまで連れだしたのだ。

 生粋のインドア派ヲタクのカナメとしては、この炎天下にサッカーの練習だなんて勘弁してほしいのだが、一応本物の要の立場も考慮せざるを得ない。
 少なからずちゃらんぽらんなトコロがある美幸とは言え、自分のことを「姉ちゃん」と慕う従弟の立場を悪くすることはできれば避けたかった。
 (まぁ、間近で小学生男子の健康的なフトモモを存分に観賞できるのを心の支えにしますか)
 そんな邪な妄想で空元気を絞り出すつもりだったカナメなのだが……本人も意外なコトに、小学生FCチームのトレーニングに意外とスムーズについていけていた。
 (まぁ、考えてみれば、なんだかんだ言ってこの子ら小学生だもんねぇ)
 女とは言え、まがりなりにも自分は本来高校生なのだから、さすがに小学生に劣ることはないか……と納得するカナメ。
 そうとわかると俄然練習するのがおもしろくなってくる。4、5年の後輩達が、カナメの華麗なドリブルやシュートに見とれ、尊敬の眼差しで見てくるのも、すこぶる愉快だ。
 ──実のところ、「彼」の考えは少々的を外していた。確かに、小六男子と高一女子なら、体力的には互角か、僅かに高一女子の方が有利だろう。しかしそれは、「平均的な生徒」の話だ。
 学期中はもちろん休み中も頻繁にトレーニングしている12歳の少年と、形だけ運動部に籍は置いているとは言え、実質帰宅部でロクに運動しない16歳の少女を比べれば、間違いなく前者に軍配が上がる。
 それが、なぜこのようなコトになっているかと言えば、もちろんあの絵図の能力(ちから)である。現在の立場を全うできるよう、様々な面で補整がかかるようになっているのだ。
 そんなコトとも露知らず、カナメ本人は「サッカーアニメも結構バカに出来ないなぁ。色々見ててよかったぁ」と脳天気なコトを考えていたりする。
 いくら「キ○プ翼」や「ホイ○スル」、あるいは「イナイレ」などを熱心に見ていたからと言って、ズブの素人がいきなり練習試合でハットトリック決められるようになったら、プロ選手は商売上がったりだろう。
 しかし、完全に勘違いしてフィールドを思う存分駆け巡ったカナメは、すっかりサッカーをプレイすることの魅力に目覚めてしまい、以後真面目に練習に出るようになるのだから、それはそれで結果オーライ、なのかもしれない。
 そして、このコトがふたりの身に起こる「変化」を加速させていくことになるのだが……それについては、現時点ではどちらも「変化」の兆しにすらまだ気づいていなかったのである。

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その5/学校へ行こう!(前編)

 二学期が始まる9月初日。
 校門から連なる石畳の道は、未だ真夏と遜色ない強い日差しに照らされ、道の両脇に立ち並ぶ銀杏並木も青々とした葉を茂らせている。
 それでも、先月半ばまでのようなけだるい倦怠を感じないのは、まだ時間が早いせいか、あるいは密かに忍びよる秋の気配のおかげか。
 校舎までの短い道程には、年若い少女達の笑いさざめく声と軽やかな靴音が満ち満ちていた。
 ここは私立星河丘学園。昭和初期に設立された由緒正しい名門校である。そのモットーは、「自由・平等・公正」。
 とは言っても、昨今のモンスターペアレントが喧しく囀りたがる悪平等や無秩序な放任の類いではなく、「自由とそれに伴う責任を知り、教育を始めとする機会の平等のもとに、公正に競争し切磋琢磨する」という誠に健全な方針を掲げている。
 高等部は原則全寮制だが、学園から徒歩10分圏内に住む者だけは入寮か自宅通学かを選べることになっている。ちなみに中等部は選択制だ。
 「「「おはようございます、お姉様」」」
 「おはようございます、皆さん」
 そこここで交わされる挨拶はあくまで優雅で柔和に。
 制服のリボンを乱さぬよう、スカートの裾は翻さぬよう、歩くのがこの学園の不文律。

 「……てな感じの光景を想像してたんだけど、案外フツーだね」
 朝8時過ぎに部屋を訪ねて来た奈津実と一緒に寮を出たミユキ(要)がそう囁くと、奈津実はケタケタと笑い出した。
 「ミユキちゃん、「マリ見て」の見過ぎだよ~。ふた昔前の少女マンガじゃないんだから。それにそもそもウチの学校は共学だし」
 「そ、そう言えばそうだね」
 とは言え、都内や近隣の人間にとっての「星河丘」のイメージは、やはり「名門校」であり、かつ優秀なお嬢様を輩出しているイメージが強い。
 その証拠……と言うワケでもないのだが、共学化して以降の歴代生徒会役員の7割が女子生徒であり、生徒会長に至っては全員女性だ。クラブ活動などに関しても、個人戦はともかく団体戦では圧倒的に女子の方が成績がよい。
 これでかつては男子校だったと言うのだから、何の冗談だと言いたくなる。男子生徒の質も決して悪いワケではないのだが、それ以上に女子のレベル高い、と評するべきだろう。
 実際に現在進行形で「登校」しているミユキとしては、さほど堅苦しい雰囲気ではなかったコトに正直ホッとしているのだが。
MIYU1
 (画・皐月紫龍さん

 「あれ、長谷部と……そっちは早川か? お前らが朝から一緒にいるなんて、どうした風の吹きまわしだ?」
 背後から驚いたような声をかけられて、慌てて振り向くミユキと奈津実。
 その瞬間、ミユキの目が僅かに大きく見開かれた。
 「あ、富士見くん、はよ~ん」
 そこにいたのは、浅黒く陽焼けしたスポーツ刈りの少年。先方と奈津実の言葉づかいからして、どうやらクラスメイトか、あるいは少なくとも同級生の顔見知りらしい。
 「お、おはよう、ふ、富士見…くん」
 ちょっとつっかえながらも、ミユキも慌てて挨拶をした。
 「オッス。にしても、長谷部はともかく、早川がこんな早くに登校してるのって珍しいな。それに何だか大人しいし……ひょっとして、長谷部、何か早川の弱みでも握って脅してるんじゃないだろうな?」
 「あ、ヒド~い! ミユキちゃんとは夏休み中に仲良くなっただけだモン!」
 心あたりがないでもないミユキは内心ギクリとするが、奈津実が意に介せず抗議してくれたおかげで、ボロは出さずに済んだ。
 「ふーん……ま、何だかんだ言って、お前ら同じクラブだし、寮の部屋も隣り同士なんだろ? 仲良きことは麗しきかな、か」
 富士見少年の方も、本気で疑っていたワケではないのだろう。ニカッと笑うと「じゃ、おっさき~」とひと声かけて早足で校舎に入って行った。
 「えーと、奈津実さん? あの人は……」
 「うん、クラスメイトの富士見輝くん。わたしや美幸ちゃんと席が近いし、ああいう性格だから、男子では割とよくしゃべる方かな」
 「そう、なんだ……」
 考え込むような表情になったミユキを見て、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる奈津実。
 「なになに? 女子高生生活初日から、さっそくひと目惚れフラグ!?」
 「そ、そんなんじゃないよ。あの人、ワタシじゃなくてボクの──「浅倉要」の知り合いなんだ。て言っても、近所のお兄ちゃんで、小学生の時の集団登校とか生徒会で御世話になったってくらいの関係だけど」
 「ふぇ~、そりゃまたスゴい偶然だね。あ、だからこそ、運命的と言えるかも」
 「奈津実さん、飛躍し過ぎだって。ただ、数年前とは言え、お兄さんとして見てた人と同じ教室で机を並べてクラスメイトとして過ごすとなると、フクザツな気分かも……」
 ニヤニヤしていた奈津実も、ミユキのその言葉に表情を真面目なものに戻した。
 「そっかー。でも、さっきも気づいた気配はなかったし、平気じゃない? 普通にしてれば大丈夫だよ、きっと」
 「(その普通が難しいんだけど)う、うん、頑張る」
 「あはは、やっぱりミユキちゃんは、真面目だなぁ。もっと力抜いた方がいいよ、ほら、リラックスリラックス!」
 「ひゃんっ! そんなコト言いながら後ろから抱きついて胸触んないでよ~!!」
 キャイキャイとかしましくじゃれ合いながら玄関で上履きに履き替え、教室を目指すふたりの姿は、その片割れが本当は「小六の男の子」だとは思えぬほど、学園の風景に馴染んで見えたのだった。

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その6/学校へ行こう!(後編)

 奈津実と連れ立って1-Cの教室へと急ぐミユキ。左手首内側の腕時計を見る限り、予鈴まではまだ多少時間があるが、「彼女」にとっては初めての場所なのだから余裕を持って行動しておくにこしたことはない。
 ちなみに、星河丘学園では、ケータイ自体の所持は認められているが、授業時間中は電源を切っておくことになっている。無論、授業中にコッソリいじっているのが教師にバレたら没収で、放課後お説教だ。
 元々要自身まだケータイを持っておらず、美幸のケータイを預かっている状態の今もほとんど触っていないため、ミユキはその校則に特に不自由は感じなかった。
 「到着ぅ~。あ! ミユキちゃん……」
 いつものように窓際の自分の席にカバンを置いた奈津実は、あることを教えようとミユキの方を振り向いたのだが……。
 「ん? 何、奈津実さん?」
 いつも通り、ひとつ前の席にミユキが座ったのを見て、言いかけていた言葉を飲み込み、他愛もない雑談へと切り替える。
 「あ、なんでもないよ。
 (なんだ、美幸ちゃんの席、教えてあげようと思ったけど、本人から聞いてたのかな)
 それよりさぁ……」
 早川美幸の席は、教室の窓際の前から2番目。長谷部奈津実のひとつ前で、今朝がた出会った富士見輝の左隣りだ。
 教室に入ったミユキが迷うことなくその席についたため、てっきりあらかじめ知っていたものと奈津実は思い込んだのだが……実は決してそんなことはない。
 誰に教えられたワケでもなく、ミユキとしては、無意識に「いつもの自分の席」として、そこに座っただけだった。
 そのコトが何を意味するのか──賢明な読者の方々はおおよそ見当はつくだろうが、ここではあえて深く触れないこととする。

 * * * 

 奈津実のフォローを受けつつ、何人かの(美幸の)クラスメイトと軽く朝の挨拶を交わした頃、予鈴が鳴り、教師が来てホームルームが始まった。
 このあたりの感覚は、日本では小学校でも高校でも大差はない。強いて言うなら、要の担任が中年にさしかかった男性だったのに対して、美幸の担任がまだ二十代半ばと思しき若い女性教諭だったことくらいか。
 ベテランの学年主任で、「厳しい先生」として恐れられている小学校での担任に比べて、優しげな笑顔と気さくな口調で話す、こちらの美人先生の方がいいなぁ……というのが、ミユキの正直な感想だ。
 「──注意点はこのくらいかしら。まだまだ暑いけど、今日から二学期が始まるんだし、皆さんも心機一転、頑張ってね!
 それと、ホームルームが終わったら、始業式があるからすぐに大講堂に移動してください。
 じゃあ、日下部さん、号令お願い」
 「はいっ。起立……礼。着席!」
 担任の姫川先生(あとで奈津実に聞いたところ、この学園の卒業生らしい)が出て行ったのとほぼ同時に、生徒達も立ち上がって大講堂への移動を開始する。無論、ミユキもその流れに身を任せた。

 始業式にせよ卒業式にせよ、およそ学校行事に於いて「式」と名がつくものは、学生にとって退屈で苦痛なものと相場が決まっているが、この学園に関して言えばあまりあてはまらないようだ。
 大講堂は、優秀な空調設備のおかげか、沈静成分のあるハーブの匂い付きの涼風で快適な室温が保たれているし、学園長の挨拶も要領良くまとめられ、2分足らずの短さで終わる。
 学園長と交替に壇上に上がった高代という女生徒は、どうやら生徒会長らしいが、遠目にもわかる大人びた美貌と、知性的かつウィットに富んだその語り口は、その場にいた生徒の大半を引き付けるに足るものだった。
 ミユキなどは「やっぱり高校の生徒会長さんともなると格が違うなぁ」とコッソリ感心しているが、これはこの星河丘学園だからこそで、他校ではこれほどの逸材はなかなか見られるものではない。
 もっとも、逆に星河丘ではこのレベルの人材でなければ生徒会長は務まらない、とも言えるが。
 ともあれ、学園祭や体育祭などに2学期の行事に関する連絡と諸注意が、高代会長の口から伝えられたのち、始業式はお開きとなった。

 「このあとは教室に戻るんで…だ、よね?」
 つい丁寧語を使いそうになるのを堪えて、ミユキは隣りの奈津実に小声で聞く。
 「うん、原則的にはそうだけど、始業式と終業式の日の帰りのホームルームはないから、あとは好きにしていいんだよ~。そーだ! ミユキちゃん、せっかくだから、学食のカフェテリアに行ってみよっか」
 言葉としては質問だが、言うが早いが奈津実はミユキの手を引いて歩き始めている。
 ある意味強引ともいえるが、彼女に悪気はなく、むしろ学園に不案内なミユキのことを気遣ってくれていることが分かるので、不愉快な気はしない。
 要の身近にも耕平という同様に世話焼きな友人がいたので、ミユキは奈津実のことが決して嫌いではなかったが……。
 (美幸お姉ちゃんは、たぶん鬱陶しがるだろうなぁ)
 小学生とは言え12歳ともなれば、幼いころから姉同然に慕っている従姉の性質もおよそ理解できる。
 「本物」の早川美幸は、格好よく言えばセンシティブなローンウルフ気質、ブッちゃけて言えば内向的で人づきあいの苦手な性格だった。おまけにインドア派でアニメとマンガ好きであることも、ミユキ──要はしっかり把握している。
 もっとも、さすがに、ショタ趣味な腐女子で、最近コスプレにも手を出し始めたことにまでは気づいていないが……。
 ミユキが苦笑気味にそんなコトを考えていると、すぐに食堂らしき場所に着いた。
 「ここが星河丘(ウチ)の学食……の喫茶コーナー「ミルヒシュトラッセ」だよん」
 「へぇ~。学食って、なんか思ってたよりもリッパなんですね」
 少なくともインテリアなどの雰囲気は、下手なファミレスなぞよりは、ずっと品良くまとまっている。
 「まぁ、ウチは私学だからね。公立だと、こんなに綺麗な所は珍しいと思うよ」
 フンフンと奈津実の説明を聞きつつ、カウンターの上に記されたメニューに目を通していたミユキの目が「キラン!」と光る。
 「あ、ここ、バナナシェーキが、あるんだ! わ、アイスココアとかイチゴオーレも! え、チョコレートパフェまで!?」
 今まで、どちらかと言うと実年齢不相応に落ち着いたイメージだったミユキの浮かれぶりを、おもしろそうに見守る奈津実。
 「おろ、ミユキちゃん、もしかして甘い物好き?」
 「うんっ、大好き! ……って、すいません、はしゃいじゃって」
 ちょっと頬を赤らめる様子が可愛らしい。
 「ううん、いいんじゃないかな。わたしだって好きだし」
 「でも、もうじき中学生になる男が、そういうのって……」
 どうやら友達か誰かに「カッコ悪い」とでも言われたのだろうか。
 (背伸びしてコーヒーが飲みたいお年頃、ってヤツかなぁ)
 奈津実は優しく微笑んだ。
 「うーん、別にイイと思うよ。大人になっても甘党の男の人だっているし。
 それに、ホラ、今はキミが「早川美幸」なんだし。女の子はいくつになっても甘い物が大好きなんだから」
 それと、敬語は禁止ね……と小声で付け加えてウィンクする。
 「! そっか……そうだよね。ボ…ワタシは女子高生なんだし、こういうモノを飲んだりしたって、全然ヘンじゃないよね!」
 天啓を得たような顔つきで満面の笑みを浮かべ、さっそくカウンターへと突貫していくミユキを、奈津実は生暖かく見守ったのだが……。
 「さ、さすがに、バナナシェーキとイチゴオーレ飲みながらチョコパフェとショートケーキを一度に食べるのは、行き過ぎじゃないかなぁ」
 「ふぇ?」
 お約束のようにクリームを付けて顔を挙げたミユキを見つつ、冷や汗をひと筋垂らす奈津実。
 「──ミユキちゃん、そんなに甘いものばっか食べると……太るよ?」
 奈津実のそのひと言に、なぜかこの世の終わりのような衝撃を受けるミユキなのだった。

~つづく~
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