『おればか~俺のババァがこんなに可愛いはずがないッ!~』2・3

続いて2、3話も投下。
明日には4&5話も掲載します。

おればか』2
其の弐)若作りってレベルじゃねーぞ!

 「…………ハッ!」
 あの、「衝撃の告白」の後、どうやら俺は、しばらく意識がフリーズしたまま身体だけが黙々と動いていたらしい。
 気がついたら、家の中に入り、座敷のちゃぶ台前にあぐらをかいて座っていた。
 「んー? タカ坊、どないしたん?」
 で、すぐ目の前には、ノゾミちゃん──もとい、希ばぁちゃんが、俺の顔を覗き込んでいるワケで……。
 「ひゃい! い、いや何でもない何でもない」
 一瞬奇声を発したものの、すぐに俺は平静を装った。
 「そうか~? せやったらエエんやけど……」
 冷たい麦茶の入ったグラスを、お盆から俺と自分の前に置いて、希ばぁちゃんもちゃぶ台の前にキチンと正座して座る。
 「ほんま、今日は暑いなぁ」
 そう言いながらサラリと扇風機の風に髪をなびかせる様子は、やっぱりどこからど見ても、俺より3、4歳年下の美少女にしか見えない。
 しかも、いつの間にか、希ばぁちゃんは先ほどまでの白いワンピースから、紺色の浴衣に着替えている。
 「あぁ、コレか? 余所行きのときは、ワンピースとかの洋装は動きやすいし便利やけど、やっぱり家にいる時は、和服の方が落ち着くしな」
 「なにせ古い人間やさかい」と言って口元を袂で押さえてコロコロと微笑う彼女は、やっぱりどこからどう見ても、ようやく中学に上がったくらいのロリータフェイス&ボイスなワケで……。
 「ゴクッ……」
 そんな「美少女」とふたりきりで家の中にいる(しかも、すぐ隣に座っている)となると、童貞男子高校生としては、よからぬ妄想が湧いてくるのも無理ないコトなのデスよ。

 「ドゥ・ユー・アンダスタン?」
 「何や、タカ坊、いきなり? ウチ、あんまり英語には詳しいないんよ」
 眼の前のきょとんとした顔に癒されつつ、雑念をふり払う。
 「あ~、その……今更なんだけど、本当に、希ちゃんが「東原のばーちゃん」でいいの?」
 「うん、そうや。まぁ、タカ坊と顔合わせるのんは、十二、三年ぶりやし、お互いわからんでもしょうがないよ」
 イヤ、そういうレベルの問題じゃねぇから!
 そもそも、俺の記憶にある「東原のばーちゃん」と言えば……言えば……アレ?
 前に言ったとおり、「東原のじーちゃん」に関しては、俺は色々世話になったし、よく覚えている。そのじーちゃんの家に一度だけ遊びに行った時の記憶を掘り起こすとだな……。

 あれは、確か俺が幼稚園の年長組になったかどうかという年頃だったはず。当時は、ここ数年以上にハッスル爺ぃだったじーちゃんに、山で「修行」と称していろいろシゴかれたんだよな。
 とは言え、町育ちの俺には物珍しくてあまり苦にならなかったから、夢中になってじーちゃんの「修行」につきあってて……でも、やっぱり幼児の体力では限界があって、疲れてブッ倒れていたところを、優しいお姉さんが介抱してくれて……。
 ──アレ?
 今の記憶(トコロ)、もう一遍、スローで!

 脳内の「記憶の走馬灯」を巻き戻して、今度は注意深く細部にわたってイメージを検証してみる。
 ヘロヘロになって、じーちゃんに背負われてじーちゃん家に帰って来た俺を、客間に敷いた布団に寝かせて、傍で優しくうちわで扇いでくれる女性。
 たぶん、当時の俺から見たら、年上のお姉さんだったその人の顔は……。
 改めて、今目の前でグラスに口をつける「少女」の顔を見つめる。麦茶をコクコクと白い綺麗な喉が嚥下する様が、(二重の意味で)年齢に似合わず妙に色っぽい……じゃなくて!
 「そっくりだ……」
 「ん? ようやく思い出してくれたん?」
 グラスを片手に嬉しそうに笑う「浴衣美少女」と、思い出の中の「お姉さん」の顔は……完全に一致!!
 ジーザス! 童顔とか若作りってェ、レベルじゃねーぞ!
 ──そして、じーちゃん、アンタには世話になったけど、敢えて言わせてもらう。もげろ!!

-つづく-

─────────────────────────
おればか』3
其の参)事実はラノベ並みに奇ナリ

 再び判明した「衝撃の事実」にショックを受け、それでもとりあえず希…ばぁちゃんとの会話を無難に(けれど上の空で)こなしていたところ、幸いなコトに母さんが出先から帰って来てくれた。
 「ただいまー……あ! お母さん、もう着いてたのね」
 「こんにちは~香苗ちゃん。うん、タカ坊に駅まで迎えに来てもろぅたんよ」
 「ほぅ、お駄賃をガメないだけの分別はあったようだね。よし、偉い偉い」
 と、俺の頭をグリグリ撫でてくる長身の女性が、俺の母さんだ。37歳という実年齢よりは多少は若く見えるかもしれないが、それにしたって十分常識の範囲内で、ごく普通のオバさんである。
 いや、「普通」よりは、少なからずタフで豪快ではあるか。
 元実業団バレーの選手で、下手な同年代の男性より腕力も度胸もあって、ご近所でも(色んな意味で)頼りにされてる。現に、空き巣と引ったくりを2回ほど現行犯で捕まえたこともあるくらいだしな。
 ちなみに、父さんは対照的に小柄で細身なインテリっぽいタイプ……つーか、大学教授なんだから、実際にインテリそのものなんだが。
 このパワフリャ女な母さんが、少女めいた(と言うか美少女そのものな)外見のばぁちゃんの娘だってのは、まったくもって納得ができねー!」
 「何、バカなこと、大声でわめいてるんだい、この子は!」パカンッ!!
 「イテッ!」
 どうやら、途中から声に出してたらしい。にしても、母さん、おたまで息子の頭殴るのは勘弁してくれ。

 「で、本当のトコロ、どうなのさ?」
 この際なので、開き直って聞いてみる。
 そもそも、希…ばぁちゃんの場合、まともに妊娠・出産できるのかさえ、危ぶまれる状態だろ? いや、物の本とかでは「10歳の女児が出産」とかいうケースもあるから、絶対不可能とは言わんが。
 「「…………」」
 母さんはばぁちゃんと一瞬顔を見合わせたのち、まじめな口ぶりで話し始めた。
 「ふぅ……孝之の疑問ももっともか。お前もそろそろ分別のつく年頃だから教えるけど、確かに希おばぁちゃんは、母さんの実の母親じゃないわ」
 ! やっぱり。
 謎はすべて解けた!!
 「あ、だけど勘違いするんじゃないよ。忠孝おじぃちゃんが後年迎えた後妻とか幼な妻とかって言うんじゃなくて、あたしは確かに今目の前にいるこの人に育てられたんだからね」
 へ?
 「うん、そうや。香苗ちゃんも珠江ちゃんも大切なウチの娘やぇ」
 ちなみに香苗は母さん、珠江は叔母さんの名前だ。
 そこから始まった母さんと希ばぁちゃんの話は、正直眉に唾つけたくなるような「お伽話」だった。

 なんでも、希ばぁちゃんと3つ違いのお姉さんは、その昔……10歳くらいの頃から、実家である神社の巫女さんをしていたらしい。
 もっとも、この神社の祭神は豊穣神とか縁結びとかの類いではなく、どちらかというと祟り神を祀って、害を為さないようにするためのものだったんだとか。
 で、言うならば、希ばぁちゃんの家系は、その神様のご機嫌取りをするためのイケニエ……というかご機嫌とりのタイコ持ち? ま、何にせよ、そんな役回りを担ってたんだそうな。
 とは言え、そんな家風に反抗する者はやっぱり一族にもいるワケで……それが、希ばぁちゃんの代では、お姉さんの舞衣(まい)さんだった。
 家族とケンカした舞衣さんは、恋人の少年と手に手をとって駆け落ち。怒った氏神様は彼女達に神罰を与えようとしたのだが、それを希ばぁちゃんが必死に懇願して止めたらしい。
 神様は怒りの矛先を希ばぁちゃんへと変えて、とある呪いを掛けた。
 当時満13歳になったばかりの少女・希に、「14歳になったら死ぬ」と言う呪いを。
 「の、呪いって……えっと、希ばぁちゃん、いくつだっけ?」
 「たしか再来月の誕生日で還暦を迎えるはずやけど?」
 てことは……逆算すると1950年生まれか。リッパに昭和、しかも戦後生まれじゃねーか!
 「江戸時代、せめて明治大正の頃ならともかく、このご時世に、神様の呪いて……」
 そりゃ、悪霊とか妖怪とかを退治する専門家がいると聞いたことくらいはあるけど、それにしたって、「神様の祟り」はねーよなぁ。
 「そんなコト言うたらアカンえ、タカ坊。神様も仏様も、実際いてはるんやから」
 いくら元本職の巫女さんの話でも、さすがに鵜呑みにはしづらいんだが……まぁ、いい。
 「でも、希ばぁちゃん、こうしてピンピン&ツヤツヤして生きてるじゃん」
 「それがなぁ……」
 さすがに祟り神のやつあたりを哀れに思ったのか、その神様の眷族の下級神が別の呪いをかけてくれたのだ。すなわち……。
 「年を取らなくなるって呪いだろ?」
 「ひゃあ、よぅわかったなぁ、タカ坊」
 ま、「時限性の死」に対して、「時を止める」ってのはお約束の対抗手段だからな。
 実際、その「年を取らない呪い」のおかげで、「14歳になったら死ぬ」呪いは事実上無効化されたらしい。
 で、10年後、ほかにも色々やらかしたその神社の祟り神は、素行不良な神を現世で取り締まる役目を負った、とある夫婦武神の働きによって強制封印された。
 その結果、神社は崩壊。希ばぁちゃんは無職となり、こっそり交際を続けていた幼馴染である忠孝じいちゃんのもとに晴れて永久就職することになったんだそうな。
 そこまでの流れだけ見れば、立派にハッピーエンドにつながる話なワケだが……困ったことに、希ばぁちゃんにかけられた、「年を取らない呪い」がどうやっても解除できなかった。
 「永智蟲媛(ながちむしひめ)様も、いろいろ試してくれはったんやけどなぁ」
 元々名のある武人から昇神した夫神は頼りにならず、妻神のほうも術を得意とするとはいえ、戦闘に特化してるだけあってこのテの呪詛の類は専門外だったらしい。
 それでも、どうにかこうにか「14歳になったら死ぬ」方は解呪したのだが、そこでタイムアウト。夫婦神は、次の任地へと向かうことになったのだとか。
 「──まぁ、そんなワケで、ウチはこの歳になってもこないな姿しとるんや」
 「なんだよ、神様、無責任だなぁ」
 「そんなコト言うもんやないよ。もともと、あのお二方に責任はないんやし」
 そりゃ、理屈の上では確かにそうだ。警察官は犯人を捕まえるのが仕事で、被害者の救済までは義務じゃないだろうし。
 だが、その犯人による被害を今も受け続けている当人を目の前にすると、やはり「何とかしろよ!」と思ってしまうのも仕方ないだろう。

 「あれ? でも、そしたら母さんの生みの親でないって話は……?」
 「そこからはあたしが話すかね。簡単に言ったら、あたしら姉妹は、希母さんから見たら本来は姪っ子ってことになるのさ」
 ! ああ、駆け落ちして厄介事を押しつけた大伯母さんの……。
 「そういう事。あたしが6歳の時に、生みの母親である舞衣母さん達が事故で亡くなって、希母さん達の家に引き取られたんだよ」
 OK、理解した。つまり、血縁的には、その舞衣とか言う大伯母さんが、本来俺から見て祖母で、逆に希ばぁちゃんが正確には大叔母なワケね。
 トンデモ話の真偽自体はともかく、常識的な社会関係については十分納得したざんすよ。
 「まぁ、そうなんやけど……ウチは、それでもタカ坊のおばぁちゃんのつもりなんよ?」
 ぐはっ! 希ちゃん、そのちょっと拗ねたような表情で口尖がらせて俺の方見るのは反則……。
 俺は、血反吐を吐いて床に倒れ込みたい気持ちを押さえつけて、「ソ、ソレジャアネ、コンゴトモヨロシク」と片言で言い残して、自室に逃げ出すのが精一杯だった。
 クソッ! さすがは元巫女・大和撫子・京都弁という強力な萌え属性の持ち主だ。萌えころ(が)されるかと思ったゼ!

 「なぁ、香苗ちゃん、ウチ、タカ坊に嫌われるようなことしたんやろか?」
 「んーーーと……ま、別に気にすることないわよ、母さん。男の子はね、年頃になると色々あるから」
 微かにそんな会話が聞こえたような気がするが……反論するだけの気力は俺には残っていなかった。

-つづく-
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