『アウフヘーベン ~対律止揚~』 0

 まさかの旧作投下。ものすごく古くて、たぶん00年か、それ以前に書いたはずのエヴァンゲリオン×アンビヴァレンツなSSです。当時の評判は……どうだったかなぁ。
 ちなみに、「対立」ではなく「対律」なのはワザとです。誤字関連以外、ほとんど手を入れてないので、どうにもアレですが、よろしければ読んでやってください。


アウフヘーベン ~対律止揚~

プロローグ;悲劇の幕開け

 小高い丘の上から、少年は街を眺めていた。
 夕暮れの近い午後の陽光が少年の繊細な容貌をなぞり、金色に染める。
 気持ちのいい風に髪をなぶられながら、彼は背後から何者かが近づいていることを感じとっていた。
 そして、それが誰なのかも……。

 「ケ~イちゃん! やっぱりここにいたのね」
 涼やかな声の主はその言葉と同時に、少年の背中に飛びついて首に手を回してくる。
 肩越しにふりかえりながら、少年は優しく微笑んだ。
 予想どおり、ハシバミ色の瞳をした少女が満面に喜色を浮かべて、彼に抱きついている。

 「よくここにいるってわかったね、レイ」
 「そりゃあ、伊達に幼なじみはやってないからね!!」
 ようやく、少年の首から腕を外して、レイと呼ばれた娘は得意そうに胸を張る。顔立ちや背丈からすると、15、6歳というところだろうが、そういう姿勢をすると、発展途上の胸も結構"女"を意識させ、同年齢の少年にとっては、十分刺激が強かった。ほんの少し顔を赤らめながら視線を逸らす。

 「……ボ、ボクさぁ、ここから見る街の風景が大好きなんだ」
 頬の赤さを誤魔化すように、少年は言葉を紡ぐ。
 「知ってるよ。このサエルーナ全体が見渡せるからでしょ?」
 「うん……」

 ボクの父さんが治める国。父さんと母さんが出会った場所。
 そして、ボクたちが生まれ育った街。

 「大切に……しなくちゃね」

 少年の名はケイン・マルドゥーク。ここ、サエルーナを治めるアンクモルター王のひとり息子-ありていに言って"王子様"と呼ばれる地位にある。
 吹けば飛ぶような小国とはいえ、一国を統治する王族ともなれば、それなりの才能と努力を求められる。その点、ケインは恵まれた天分と性格を持っていたと言えよう。
 優れた知性とそれを嫌味に見せない穏やかな性格。
 控えめに見えながら大事なところではいい加減に妥協しない誠実さ。
 世にあふれる不幸や悲哀を敏感に感じとりながらも、決してそこから目を逸らさない意志の強さ……。

 剣の腕前こそ十人並みだったが、それでも護身には足りるくらいの技術は身につけていたし、魔法、とりわけ治癒や防御を司る法術に関しては、教師役の司祭が目を剥くほどの才を示していた。

 そして……何よりその無防備でちょっとはにかんだような笑顔は、彼を見る者すべてを穏やかな優しい気持ちにさせずにはいられなかった。

 父王は「偏屈王」の異名をとるほど無愛想な性格だから、おそらくこれは、母方の血だろう。今は亡き王妃は「サエルーナの白き聖女」と呼ばれるほど、国民に慕われていたというから……。

 だから、わたしが彼の微笑みを守る。
 レイリア・サダルスード・ルクヴァは幼いころから、そう固く決意していた。

 初めて出会ったのは、ふたりが5才のころ。
 若い王妃が病に倒れ、帰らぬ人となってから1月ほどたったある日。
 ふさぎ込む王子の気晴らしにでもなればと思い、ケインの教育係であったルクヴァ伯爵が同い年の自分の娘を宮廷に連れてきたのである。
 レイの母親は、ケインの母ユイーズの実姉であり、つまりふたりは従姉弟にあたるのだが、それまで一度も顔を合わせたことがなかったのである。

 出会ったその日にふたりの幼子は意気投合する。
 性格や境遇はかなり異なるにも関わらず、妙にひかれるものを互いに感じていたのだ。あるいは血の為せる業なのかもしれない。

 亡き王妃に似てやや病弱なところがあるケインに対し、レイはオテンバと言ってさしつかえないほど活発な女の子だった。
 ケインが剣を習うようになったとき、自分も覚えたいと駄々をこね、一緒に武技を習うことを周囲の大人に認めさせてしまった。
 いまではパイク(長槍)やハルバード(斧槍)に関しては、国でも有数の使い手と認められている。おかげで、サエルーナでは珍しい女騎士の位を得ることもできた。

 ルクヴァ伯令嬢。国王直属の騎士団サエルーナ12人衆の零号騎にして、王子の護衛兼相談役。
 それが現在の彼女の公式な肩書き。そして近いうちに、もうひとつの肩書きが加わるだろうことも、本人たちを含め誰も疑っていなかった。
 すなわち、"ケイン王子の許婚"という肩書きが。

 実際、その愛情表現こそ不器用だったが、国王は愛妻の忘れ形見であるケインを溺愛していた。
 また、息子が、成長するにつれ聖女ユイーズと似てくる少女レイと結ばれることについても、「アレはマザコンだからな」と、珍しくかすかに笑いながら側近に漏らしたものの、特に異議はさし挟まなかった。

 「ボクは、この国のすべてを守りたい。城や街、森や湖。そこに住む人々や動物たち。そこに残された先人たちの遺産……」
 夕暮れに赤く染まる眼下の風景を見つめながら、ケインは歌うように呟く。

 「なーんて、ボクにはちょっと重荷かもね」
 そういって、照れたような、そしてどこかさみしげな笑みを見せる。
 レイは胸の奥がキュンッと熱くなった。

 「大丈夫! きっとできるよ。ケインは大切に思うものすべてを守ってあげて。その代り、あなたは、あなた自身の心と体は、私が命をかけてでも守るから」
 思わず口にしてから、自分がとんでもなく恥ずかしいことを言ってしまったことに気付いて真っ赤になる。

 「う、うん。ありがとう、レイ……」
 ケインも頬を上気させながら、口ごもる。
 決して不快ではない沈黙がふたりの周囲に落ちた。

 その静寂を破ったのは、丘のふもとから聞こえてくる少女の怒鳴り声だった。

 「もうっ、なにやってんのよ、ふたりとも! 晩餐が始まっちゃうじゃない!!」
 「「スピカ!!」」
 ホッとしたような、それでいてどこか残念そうな響きをにじませながら、ふたりの声がハモる。

 「ちょっとレイ! 人を呼びに行った本人が一緒に油売っててどうすんのよ!? それに、バカ王子も、夕飯時にウロチョロしないでよね。まったく手間ばっかりかけるんだから!!」

 彼らより1、2歳年かさに見える少女の名はスピカ・ソウル・ラングレイ。
 レイと同じく12人衆のひとりで、体術とグレイブの扱いに長じている弐号騎だ。
 亜麻色の髪を腰まで伸ばしている(それでも貴族の令嬢としては短いほうの)レイとは対称的に、金色の髪を肩のあたりでバッサリ切り揃えている。
 やや吊り目気味の眼尻とあいまって、非常に勝ち気で活動的な女性に見えた。
 そして、その印象は決して間違いではない。ちょっと機嫌を損ねている今の彼女ときたら、いつもよりその傾向が顕著だったといえるだろう。

 だが、年齢が近いこともあってか、スピカとこのふたりは身分や出自の差を越えて非常に仲が良かった。ときどきお忍びでケインが城を抜け出すときは、レイの他にスピカも「監視のため」という口実でつき従っていることが多い。そのくせ、一番ハメをはずしてワガママぶりを発揮することも多かったが……。
 要するに今回も自分だけ仲間はずれにされたようでおもしろくなかったらしい。

 それにしても、自分の仕えている王のひとつぶ種をパカ王子呼ばわりするとはいい度胸だ。
 もっとも、近衛将軍の父と宮廷錬金術師の母を持つという背景と、彼女自身の才と性格から、そのような無作法も暗黙のうちに認められてはいた。実質上ケインの側近ナンバー2だとみなされているということもある。

 第一王位継承者ゆえ12人衆に初号騎として名を連ねるケインに、このふたりを加えたトリオは、実戦の場に立ったことこそ数回しかないが、若手の騎士のなかでも贔屓目なしに最強のユニットだと言われていた。
 スピカが切り込みと撹乱、レイがケインの護衛とスピカのサポートを担当し、後方からケインが法術でふたりをバックアップ、隙を見ては攻撃魔術を的確に叩き込むという戦法で、熟練兵でも難しい赤竜退治と邪教徒掃討という任務を果たしているのである。

 これまで、人柄はいいがやや頼りないと思われていたケイン王子の世評を上げるのに、この2回のミッションは大いに役だったし、それに付随してレイとスピカへの評価も総じて高まった。
 もちろん、レイとしては自分の世評などより、ケインが男を上げたことのほうが何倍も嬉しかったのだが。

 「ちょっと、レイ! 何ボーッとしてんのよ。置いてくわよ」
 つい物思いにふけっていたらしい。スピカが怪訝そうな顔をしてレイの顔を覗きこんでくる。ニッコリと微笑んで「いま行くわ」と返事をすると、一瞬安心したような表情を浮かべたスピカは、クルリと身を翻し、城へ向かって駆け出す。
 「ほーら、バカ王子にレイ、さっさと来なさいよォ!」

 (スピカ……照れてる?)
スッと笑いが漏れるのをかみ殺しながら、レイはケインに手を差し伸べた。
 「じゃあ行きましょ、食べ物の恨みは恐ろしいって言うし」
 「プッ、そ、そうだね」
 どうやらケインもスピカの真意に気づいていたようだ。
 スピカが消えた方向へと丘を下り始めるふたり。

 「ねえ……また、ここで夕陽を見ようよ、レイ。今度はスピカも誘ってさ」
 名残惜しそうに夕焼けの残滓に目をやりながら、ケインがポツリと漏らす。
 「ええ、きっと」

 「じゃあ……約束だよ、レイ」
 そう言ってケインは、レイの大好きなあのこぼれんばかりの極上の笑顔を見せてくれた。

 * * * 

 「約束だよ、レイ」

 約束……幼いころから何度となく交わされ、一度たりとて破られたことのなかった神聖な誓い。

 「やくそくだよ、レイ」

 3人で一緒に夕陽を見ること。
 あなたの伴侶として生涯あなたを支えていこうと誓ったこと。
 わたしの命に代えてもあなたを守ると心に決めたこと。

 「ヤクソクダヨ、れい……」

 ──それなのに、どうして守れなかったのか。

 「昨晩、王子が誘拐された。おそらくは邪教集団ゼーレの残党の手によるものだろう。現在王子は奴等の根城、廃神殿に囚われているものと思われる」
 朝一番に国王の執務室に呼ばれたレイは、いつもどおり机に肘をつき両手を組み合わせた姿勢の国王から、その言葉を淡々と告げられたとき、一瞬不覚にも内容が理解できなかった。

 「ケイン……誘拐って……」
 クニャリ…とレイの視界が歪む。

 「レイリア・サダルスード・ルクヴァ!!」
 国王の一喝で、自分を取り戻すレイ。

 「──アイツを助けてやってくれるな?」
 「ハイ、一命に代えましても!!」
 敬礼もそこそこに執務室を飛び出すレイ。

 どうしてどうしてどうしてどうして……
 ドウシテ ケインガ?

 頭のなかではそんな言葉がぐるぐる回っていたが、懸命に心を落ち着け、王子救出隊の編成を急ぐ。
 スピカはもちろん、12人衆でもケインと比較的仲がよい「闘神」マルスと「弓聖」ソードが配下の兵士ごと救出作戦に加わってくれることになった。
 短刀から両手剣まで刀剣類の扱いならなんでもござれで、オマケに無手での戦いにも長けたスピカ。
 特注の頑丈な重甲鎧に身を固め、これまた特注の巨大な巨大戦棍(グレートモール)を振り回して戦車の如く敵中を突き進む猛将マルス。
 12人衆には珍しく得意武器は弓や弩類だが、驚くべき速射速度と必中の精度を備え、さらに隠密戦の技術に長じたソード
 そして、それそれが指揮する100人単位の精鋭兵。

 いかにゼーレが闇の太母を崇める命知らずの邪教集団とはいえ、敵ではなかったはずだった。

 だが、憑かれたような狂信者達の自殺まがいの特攻と、神殿に仕掛けられた罠の数々が、彼らを分断し、兵力を確実に削ぎ落していく。

 そして……。
 「ここはアタシが食い止めるわ。レイ、先に行きなさい」
 「そんな! スピカ、無理よ」
 「大丈夫、「流血姫」スピカ様の腕前を信じなさい。その代わり……」
 返り血に汚れた顔をキッとこわばらせたスピカがレイを見つめる。
 「いい? 必ずあのバカを助けてくんのよ!!」
 「……わかったわ」
 後ろ髪引かれる思いを断ち切り、レイははじかれたように身を翻し、背後の扉の奥へと飛び込んでいった。
 戦友を信じ、その好意を無駄にしないために。

 * * * 

 最後の邪神官を斬り伏せた通路の先の祭壇に、ケインは横たえられていた。
 薬か何かで眠らされているようだが、とくに外傷はなく、緩やかな呼吸とともに胸が上下している。どうやら無事だったようだ。

 「良かった……」
 安堵のあまり涙が出そうになるレイ。

 ケインが目を開く。
 血紅石のような真っ赤な瞳。

 「!? あなた、誰? ケインじゃない……」

 祭壇の上にゆっくりと身を起こす少年。
 「ほう聡いな。察するにこの少年、貴様の想い人でもあったか?」

 みるみるうちに少年の姿が変わる。のっぺりとした仮面に7つの目、成人男性より頭半分は高い身の丈と、不自然なまでに猫背な背中。
 肌はピッタリと身体に貼り付く鮮やかな紫色のコスチュームに覆われる。
 なにより胸部の膨らみと両脚の付け根の滑らかさが、まごうことなく女性を主張していた。

 「我が名はリリス。女騎士よ、その勇敢さは無駄に終わったな」
 「ケインをどこにやったの!?」

 うっそりとリリスが笑みを浮かべた。仮面の下から覗く血のように朱い唇が、三日月の形に吊り上る。

 「貴様の恋人は、まっこと美味だったぞ。心も……臓物もな!

 ……!!

 「う……うわあああぁぁぁぁーーーっっっ!!!」

 我を忘れて槍で突いてくるレイを軽くかわすと、リリスは宙に浮き上がった。
 「ホホホ……我が憎いか? ならば我を追ってこい、こやつを倒してな。サキエル!!」
 地割れとともに首のない巨人が現れる。死蝋のように白い肌はあるいはアンデッドだからか?

 「許さないっ! 絶対に許さないんだから!!」
 絶叫とともに、レイは巨人に戦いを挑んでいった。

 <プロローグ・終 第1章:再逢(さいあい)へ>

──────
う、うわぁああ……と、レイばりに絶叫したい気分。
まさに厨二センス! いや、今でもたいして変わってないって言われればそれまでなんスがね。
連休中に2章まで投下するつもりですが……私の精神力が持つだろうか?(笑)
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Author:KCA(嵐山之鬼子)
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