『極楽先生よこし(マ)~デキのいい弟のいじり方~』 01

 本作は、以前某所にて「じーえす先生よこし(マ)」のタイトルで連載していた、「GS美神」と「ネギま」のクロス物を改題・加筆修正したものです。
 なにぶん、原作「ネギま」が予想をはるかに超えるバトルマンガに化けたため、今となっては陳腐化した部分も多々ありますし、それがなくとも連載中賛否両論だった箇所も少なくありません。
 が。
 それらを踏まえつつ、自分の納得のいく形で話を続け、終わらせるために、コチラの自ブログに掲載することにしました。

 ※このブログに来ている方なら先刻ご承知かもしれませんが、原作設定をかなり好き放題にいじっています。それを許容できる方のみ、続きをお読みください。



 歴史とは、世界とは思いもよらない事柄から、思わぬ方向へと分岐することがある。
 たとえば、ある男性が駅まで行くのにAの道とBの道のどちらを通ったか。そんな些細な違いでも、その後の男性の人生が変わってしまうことは有り得るのだ。
 Aの道を通った彼は、予定通りの電車に乗れたが、その電車が踏み切りで事故にあい、大怪我をすることになるかもしれない。
 一方、Bの道を通った彼は、ひとつあとの電車に乗って事故は免れたものの、デートの待ち合わせに遅刻して彼女の機嫌を損ね、それがキッカケで別れてしまうことになるかもしれない。
(逆にAのケガをした男性は、心配して病院に来てくれた彼女との仲が進展し、結婚することになったりするのだ)

 そして、ここにもたったひとつの些細な違いが後々の大きな変化を──少なくともそのキッカケを──生むことになる事例がひとつ。

 ある男性が、自分の息子とその住む村を救うために自らが持つ凄まじいまでの"力"を振るい、村を襲う敵の軍団を打ち滅ぼした。その事柄自体は変わらない。

 「頼む……逃げとくれぃ! どんなことがあってもお前だけは……」
 「よう、スタン爺さん。老いぼれてもなお、その意地っ張りは健在だな。ほとほと感心するぜ」
 「!! お主は……バっカモン! 来るのが遅いわい!」

 ただ……"正史"と、本来の時の流れと異なったのは、彼がほんの少し、わずか1分足らず早く救援に来たこと。そのことによって、彼は自らの幼い息子と、里帰りしていた姪のほかに、もうひとり顔なじみの老魔法使いの身をも"死"に等しい運命から救うことができたのだ。
 わずか老人ひとりの差異。しかし、その老人が動く者のいなくなった"村"の護り人としてこの地に残ったことが、後々大きな意味を持つことになる。

 *  *  *

 ヨーロッパの古い都を連想させる街並みの中を、10歳くらいの赤毛の男の子が懸命に駆けている。そのまま、裏道をいくつか曲がった先で目指す場所――小さな工房を見つけると、男の子はノックをするのももどかしげに、ドアを開いた。

 「おにーちゃーーん!」
 「よ、ネギ。どうした? 今日は卒業式だったんじゃないのか?」

 男の子に「お兄ちゃん」と呼ばれたのは、こんな西欧風の町には少々不釣り合いな、東洋人の若者だった。20歳前後だろうか。背は高からず低からず、容貌もごくごく平均的だが、明るく優しそうな雰囲気には男女問わず好感を持つだろう。
 デニム地のいささか野暮ったい作業着を着ているが、ここは彼の仕事場であり、"職人"という彼の商売柄上、それは仕方ないことだ。

 とびついてくる男の子――ネギを苦笑しながら受け止めた青年は、彼の頭をグリグリ撫でる。
 「やめてよ~」と言いながらもネギがうれしそうなのは、よほどこの青年に気を許しているからだろう。顔だちや人種からして実の兄弟ということはなかろうが、それに近しい心の繋がりが、ふたりにはあるようだ。

 「うん。それで、卒業の最終課題が出たんだけど……僕、日本に行くことになったんだ!」

 少年が通っていた――いささか特殊な――学校は、卒業する生徒に"最後の試練"としてひとつの課題を出す。それをクリアーして初めて、正式に卒業生として認められる、いわば卒業試験のようなものだ。

 「ほ~、そっか。まぁ、日本にもいくつか魔法関連の団体があるらしいしな。そのどこかで修行して来いってことか?」

 久しぶりやし俺もいっぺん日本に行ってみるかな~、などと呑気な事を呟く青年に対して、ネギは驚くべき言葉を告げる。

 「それが……僕、日本で先生しなけりゃいけないんだって!!」

 「…………は?」

 カクーーンと青年の顎が落ち、滑稽なほど目が大きく見開かれる。
 茫然自失を絵に書いたような状態だが、ネギとて彼との付き合いは短くない。

 「えーと……あ、あった。これだ!」

 と、なぜか部屋の隅に置いてあった"それ"を手に取ると、勢いをつけて振り回す。

 スパーーーーン!

 小気味良い音とともに、青年お手製の"ハリセン"が、その作り手の頭に炸裂した。

 「ハッ! すまん、思わず意識飛ばしてしまった」

 無類の芸人根性を発揮して現世に復帰する青年。だが、すぐさまネギの方へと向き直る。

 「それにしても、なんやねん、その課題は!? いいか、ネギ、こちらの国では知らんが、日本には労働基準法と言うものがあってな……」

 どうやら、青年は元は日本に住んでいたようだ。もっとも、彼の稚拙な法律知識と弁論術ごときでは、すでに日本行きを決意しているネギを翻意させることなど、土台無理な話なのだが。

 結局、その後、ネギを追って青年の家へとやって来た、彼の"姉"と幼なじみに依頼されて、青年はネギの保護者兼後見人として日本へ渡る(青年の感覚からすれば「帰る」)ことになるのであった。


『極楽先生よこし(マ)』
一時限目.おにーちゃんは日本人!?


 「なんでやねーーーん!?」

 泣き言を漏らしながら、少年はひたすらに走る、走る、走る。
 立ち止まれば、死すら凌駕するこの世の地獄が待ち受けているが故に。

 彼は、かつて自身の命すら犠牲にして救ってくれた恋人のためにも、こんなところで朽ち果てるわけにはいかないのだから!

 「うわぁ~~、助けてぇな、お゛か゛ぁ゛ぢゃーーーーん゛」

 定番のギャグを繰り出しつつ、自分の母親はこういう局面では助けてはくれないだろーなー、と半ば諦めにも似た確信を抱く。
 むしろ、事の次第を知ったら、殺(ヤ)る側に回るかも?

 「なんで俺がこんなメにあわんとあかんのや? どチクショーーー!!」

 *  *  *

 少年の逃走より遡ること、およそ半年あまり。
 人間界……いや、神界、魔界も含めた三界をも揺るがす大事件があった。

 「魔神動乱」

 一般に、そんな呼び名で知られるその戦いの中で、少年は掛けがえのない最愛の少女と出会い、そして……喪った。
 亡くなった彼女をその手に取り戻すチャンスはあった――たとえそれが、全世界と引き換えに魔王に魂を売るに等しい決断であったとしても。

 「後悔するなら、おまえを倒してからだ!!」

 しかし、少年はそれを拒み……世界は救われた。
 魔王を倒し、"英雄"となった少年の心に、深い深い傷痕を残して。

 「あいつは……俺のことが好きなんだって……なのに俺、あいつに何もしてやれなかった!!」 

 おそらくは生まれて初めてと言ってよいくらいの、魂をも震わせる凄絶なまでの慟哭。
 それでも少年は歩くことを止めなかった。それが、最愛の女性の望みでもあると理解していたから。
 以前と同様に、明るく、スケベで、お茶らけて――それでも以前より、少しだけ前向きになって。

 「自分自身が一番信じられない」。今もその気持ちに変わりはないが、それでも、"アイツが信じてくれた自分"のことは信じられる。
 そう言って笑う彼の顔は、周囲の人間からは事件の前とは見違えるほどに大人びて見えた。

 そして、「自分の周囲の人をもう誰も失いたくない」という一念から、1ヵ月ほど妙神山にこもって、大聖からじきじきに修行を受けることさえやってのけた。
 痛がり、恐がり、怠け者の気性自体に今でも変わりはない。
 それでも、自分の大事な人が傷つくほうが、何倍も心が痛いと知ってしまったから。

 少年の想いを知る、彼の師匠――竜神の姫と猿仙も協力を惜しまなかった。
 武術の基本をまったく知らず、ひたすら実戦だけで磨かれた彼の戦い方に、呆れつつも舌を巻き、それはそれとして活かしつつ、新たな戦闘の選択肢を与えるべく腐心する。
 やがて試行錯誤の末にたどりついたのが、ふたつの方策。
 すなわち、超近接距離での攻防を意識した、両手に篭手状のハンズ・オブ・グローリーをまとうボクサースタイル。そして、ある程度攻防のバランスが取れた、左手にサイキックソーサー、右手にハンズ・オブ・グローリーを剣状にして構える剣闘士スタイルだ。
 普段はこのスタイルのどちらかで戦うことによって、彼本来のバトルスタイルを隠し、それ自体を奥の手のひとつとするのだ。
 無論、その「奥の手」──ハンズ・オブ・グローリーを自在に変形させての、スパ○ダーマンやカンフー映画を彷彿とさせる、トリッキーな彼本来のバトルスタイルに関しても、武芸百般に通じている2柱の武神が少年をマンツーマンで徹底的に鍛えた。
 これで強くならなかったらむしろ嘘だろう。

 もちろん、もうひとつの少年の能力"文珠"に関しても、色々と実験と修行は行われた。
 世界中を見ても稀少な霊能だけに当初修行は難航するかと思われたが、その道のエキスパートである"天神"菅原道真の指導を得られたため、事前の予想よりその進展は芳しかった。
(道真曰く、かつて平安で自らの負の分身が為した悪行に対する贖いだとか)

 また、その副産物として、かの学問神の朋友である――と言っても、友誼を結んだのは互いが死んで祀られてからの話らしいが――陰陽師の草分けから、いくつか陰陽術を習うこともできた。
 残念ながら、2柱とも多忙な神だけにそれほど時間はとれなかったが、それでも前世が平安京で名高い(悪名込みだが)陰陽師であった少年は、両文神が驚くほどの速さでいくつかの符術をものにしてみせた。
 堅物な天神に比べ、いささか茶目っ気もある陰陽師の祖のひとりは、骨の髄から関西人気質な少年のことが気に入り、もし京都に来たら自分の家(要するに晴明神社)を訪ねるようにと言い残して去って行ったほどだ。
 ……まあ、勉強嫌いな少年がその言葉に従うかどうかは定かではないが。

 かくして。
 学校や職場での少年のグータラぶりを知る人間からすれば、目を疑うほどの濃密な修行と学習の日々を過ごしたのち、少年は下山し、彼のいるべき場所へ戻ったのだった……。

 *  *  *

 ……と、長い回想を終えたところで、少年は溜め息をついた。

 そう、そこまではいい。
 思えば、自分から言い出したこととはいえ、妙神山での1ヵ月は、今まで経験した中でも上から数えて片手で足りるくらいのハードな毎日だった。
 (TOP5ではあっても1位ではないところが、自身の過酷な境遇をしのばせてまた涙を誘うが)

 おかげさまで、自分でも以前に比べれば多少なりとも強くなった……多分なったと思う……なったんじゃないかな? と思える。
 なにせ、文珠抜きでも魔装状態の雪之丞と互角に戦えるようになったくらいなのだから。まぁ、攻撃の決め手に欠けるんで、「互角に戦う」ことは出来ても「倒す」ことは出来ないのだが。

 しかしながら、それほどの強さ――単なる戦闘技術に留まらず、各種技術の使いこなしや戦術眼、精神力や駆け引きなども含めた総合的な"強さ"を得てもなお、世界は理不尽な恐怖で満ちていると言うのか。
 嗚呼、アシュタロスよ、今ならお前の気持ちがちょっぴりだけ理解できる!

 ……と、いささかテンパった状態に陥ってる少年の、その恐怖の源はと言えば、これがまた余人にとってはある意味アホらしいの一言に尽きる。

 彼は…………一団の美女(&美少女)によって追いかけ回されていたのである。

 「武道館で美女にもみくちゃにされながらジョニービーグッドを歌う」ことを一生の夢とする少年が、何故、美女軍団からワザワザ逃げ回っているのかと言えば……まぁ、賢明な読者諸氏にはすでにおわかりであろう。
 彼を巡る恋の聖戦(ジハード)がついに勃発してしまったのである。
 煩悩全開な言動とウケを取らずにはいられない芸人根性のおかげで、一般的な女性からの評価は低いものの、その内面の優しさや気づかいを知る幾人かの女性からは、彼は元々ひそかに想いを寄せられていた――哀しいことに鈍感な彼に自覚はなかったが。

 しかし、1ヵ月間の彼の不在は、彼を知る少なからぬ女性陣にいろいろと感情の整理をつける余裕を与えてしまったのである。

 おキヌや小鳩といった以前から好意をあらわにしていた妹分は元より、机の付喪神・愛子や式神使いの六道冥子、さらにはどこで聞きつけて来たのか、人狼族の少女シロ、化け猫の美衣や人喰い鬼のグーラーといったそうそうたるメンツが、彼のハートを射止めようと積極的な攻勢をかけ始めたのである。

 それだけなら、少年は戸惑いながらもあながち満更ではなかったろう。
 しかしながら、彼が美女美少女にまとわりつかれる度に、彼の雇い主から無言のプレッシャーと以前にも増して過酷なシバキを受けることになったのだ。
 これはツラい。

 さらに、彼の自称"恋人候補"たちが繰り広げる戦いも徐々にエスカレートし、「恋の鞘当て」なんて可愛らしい言葉の範疇から、大幅にはみ出し始める。鞘どころか、むしろ真剣(ほんみ)で斬り結ぶほどの激戦、血戦と言ってよかった。
 それらを仲裁するために、彼が修行して培った数多の能力をフルに駆使する羽目になったことは言うまでもない。

 もっとも、彼が態度をハッキリさせなかったからこそ、今の現状があるわけで、ある意味自業自得ではある。
 (一応、彼の名誉のために言っておくと、そのうちひとりとして最終的に行き着くところまでいってはいない。その2、3歩手前までは不本意ながら追い込まれたことはあるが)

 そして今日、この手の修羅場のお約束とも言える一言「誰がいちばん好きなんですか!?」発言が飛び出し、回答を保留した彼は一団の女夜叉に追い回されることになったわけだ。

 思いつく限りの場所を転々と逃げ回った揚げ句、最後の寄りどころとして妙神山にまで「転・移」してきたものの、そこの管理人であり師でもある竜神の女性から「ところで、強い女性について、どう思われますか?」とモジモジ切り出された瞬間、少年の脳裏に「ブルータス、お前もか」と言う、彼にしては不似合いな歴史的慣用句が浮かんだ。
 しかも、タイミングが悪いことに鬼門達が護っているはずの入り口の方から、何やら聞き慣れた声(複数)がする。まぁ、"GS界のカマセ犬"こと鬼門ごときに、まったく期待はしていなかったが、それにしたって居場所を嗅ぎつけるのが早過ぎるのではないだろうか?

 前門の虎ならぬ竜神、後門には餓えた狼より危険な恋に狂う鬼女の群れ、という鳴○孝之や伊○誠も真っ青な修羅場具合に、ついに少年はコワレた。

 「い、イヤや~! やり直しを要求するぅーーーーーー!!」

 (時)(空)(間)(大)(脱)(出)

 天神に習った4文字を越える文珠の6文字同時行使。火事場のクソ力とはいえ、この土壇場でそれだけの難行を実現した彼の集中力はたいしたものだが、この場合、失敗した方が彼のためだったかもしれない。

 なぜなら、かの少年――横島忠夫は、その時を境に、この時空(せかい)からその姿を消すことになったのだから。

 *  *  *

 横島が転移した先は、パッと見、ヨーロッパの片田舎を連想させるさびれた小さな村だった。
 ただし、出現した先が地上から100メートルほど上空で、慣れぬ(というかほぼ未体験の)文珠6文字制御で心身ともに疲労困憊していた横島は、そのままなす術もなく地面へ落下することになった。
 その結果は、無論"大惨事"である。いかにギャグ体質で、生身のまま大気圏突入を果たしたこともある横島とて、意識が朦朧とした状態で100メートル落下のGを叩きつけられれば、当然生死の境をさまよう羽目になる(それでも死なないのはスゴいが)。
 幸い、彼が落下する場に居合わせたネギ(魔法学校在学中だが、たまたま里帰りしていた)が駆けつけて家に運び、姉代わりのネカネたちとともに看病したおかげで、夜にはアッサリ意識を取り戻し、さらにその翌日にはほとんど回復していたのだが……。
(治療の魔法のおかげもあるが、大部分は横島の人並み外れた回復力の賜物である)

 目を覚ました横島は、いったんはあの修羅場と呼ぶのもおこがましい惨劇の舞台(予定)から逃げ出せたことを喜んだが、ネギとネカネ、アーニャ、そして人気のないこの村を管理しているという老人スタンと会話して、"この世界"のことを知るにつれて、徐々に顔を引きつらせていく。

 ネギたちが、いかに表の世間からひっそりと隠れ住んでいるとはいえ、世界状勢自体にまったく疎いというわけではない。むしろ、近年は"まほネット"などの普及もあって、"表"の情報もそれなりにリアルタイムに近い状態で伝わってきているのだ。
 それなのに、彼らはつい半年ほど前にあった"魔神動乱"がらみの事件をひとつも知らなかったのだ。
 さらに、彼ら魔法使いは、基本的に一般人の前ではそのことを隠し、ひいては魔法や神秘の存在そのものが世間から隠匿されているのだと言う。

 彼らの言う西暦は横島の知るものから3年ばかり進んでいたが、単に時間移動したと言うだけでは、これらの"異常"は説明できない。

 「これは……違う世界に来ちまったってことか……」

 SF知識などマンガで読んだくらいの浅薄なものしか持っていない横島だが、ことここに至っては、自分が「異世界」あるいは「平行世界」に飛ばされたのだと言う事実を認めないわけにはいかなかった。

 当然のことながら、当初はひどく落ち込んだ横島だったが、知人のいない異邦の地でいつまでもクヨクヨしているわけにもいかない。幸い、しばらくはネギたちが面倒を見てくれるとのこと。ネカネや老人は横島の「異世界から来た」という言葉に半信半疑だったが、ネギはアッサリそれを信じて「スゴいスゴい」と感心してくれた。

 そして――改めて村を見て回った横島は、村の各家で横たわる無数の石像を目にする。かつて、メドーサの繰り出すビッグイーターに噛まれた者の末路を知るだけに、その石像が元は人であったのだと、すぐに彼は理解できた。

 ネカネに事情を尋ね、数年前にこの村を襲った悲劇を耳にした時、横島は悩んだ。
 おそらく……いやほぼ間違いなく、自分の文珠を使えば、この石化は解除できるだろう。だが、それは、多くの人に自分の能力――少なくともその一端――を知られることを意味する。
 妙神山を降りて半年あまり。美神の元でGSとして活動する(いつもいつも痴話喧嘩に巻き込まれていたわけではないのだ、一応)うちに、以前は気づかなかった社会の歪みやイヤな部分も相応に理解するようにはなっていた。
 世の中には、自分にとっての利益でしか人を測れない人間がいることも、その種の手合いには"正義"や"倫理"など駅前で配っているティッシュほどの値打ちすらないことも、わかっている。そして、そういう下種(ゲス)にとっては、自分が生み出す文珠は恐ろしく魅力的で、自分は金の卵を産む鶏にも等しいということも。

 オカルト(魔法)関係者だからといって、その事情が大幅に変わるわけではなかろう。むしろ、「珍しい術」としてカオスのようなマッドアルケミストに捕えられて人体実験の対象とされる可能性もなくはない。

 だが、そんな葛藤も、母の石像を前に涙を堪えるアーニャと、辛そうに唇を噛み締めるネギの姿を見て霧散する。基本的に、女の子と子供に優しいのだ、この男は。

 (えーい、こうなりゃ、出たとこ勝負だ!)

 4人に、「自分なら、この石化を解けるかもしれない」と告げ、アーニャの母の石像に対して、(石)(化)(解)(除)の4文字を使用する。

 ――結果については言うまでもないだろう。

 その後、スタンの薦めに従い、まずは村の責任者である村長を蘇生する。そのうえで、村長と彼に要請されて駆けつけてきた魔法学校の校長(ネギの師であり村長の旧知でもある)に自分の能力の全貌を明かして、集団解呪について相談したのだ。
 試行錯誤の末、何とかその手段が確立し、一週間余りをかけて、二百数十人の石化した村人達全員を横島は元に戻した。
 村長、いや村人全員にとって、横島はまさに命の恩人となった。彼の能力を秘することについて否やはなかったが、同時に村長は、横島にひとつの提案をした。

 この村が悪魔に襲われて石化させられたことは、すでに一部には知れ渡っているようだ。それ故、誰もなしえなかった石化解除を成し遂げた以上、横島の存在やその能力に注目が集まることは避けられない。
 そこで、下手に隠さずに最小限の情報は公開することで、それ以上の追求をかわすほうがよいのではないか、と。
 
 その後、魔法学校校長も交えた3日間にわたる相談の末、横島に関する周到なカバーストーリーが作成された。

1.横島は、元は東洋─日本の陰陽術を使う退魔士であり、この村には偶然立ち寄った。
2.同時に横島は、アーティファクトを作る職人でもあり、陰陽術に関係するアーティファクトを作成できる。
3.そのアーティファクトの中でも、とくに貴重で強力なものを使用して、彼は石化を解いた。

……といった感じである。
 このカバーストーリーの秀逸なところは、何一つ嘘は言ってないことである。
 横島はGSつまり退魔士のハシクレであり、一応いくつかの陰陽術が使えるし、呪符の作成方法も習っている。また、彼の生み出す文珠はアーティファクトと言えないこともない。

 そして、"職人"としてそれらを製作して販売するという体裁を整えることで、横島自身の規格外さから目を逸らすことが容易になるのだ。"売り物"であるなら、相応の対価を払って手に入れればよいのだから。名目だけでなく、実際に魔法学校校長の庇護のもと、店を開くことにもなった。
 呪符はそのまま普通に売れるだろうし、文珠に関しては横島があらかじめ漢字を込めたものを高額で陳列するようにすればよい。なにせ、一度込めた漢字を変更できるのは、横島だけなのだ。その漢字も数種類に限れば、傍目にはそれほど万能だとは見えまい。
 そしてこの問題は、後日横島が簡易な量産劣化タイプの文珠を作成することで、さらに解決が容易となった。

 こうして、横島は魔法学校のある街で「東洋の魔法・陰陽術に関するアーティファクトを売る店の職人兼店主」として、生活基盤を得たのである。

 *  *  *

 さて、彼の身分的な面だけでなく、人間関係についても触れておこう。

 まずは、ネギとの関係ついて。

 「タダオお兄ちゃんのこと? うん、大好きだよ!」
 「……お前さんが女の子だったら、俺も血涙流して喜んだんだろーけどな」

 自分が原因の(と思いこんでいた)惨劇の爪跡を見事に解決した人間として、横島はネギにとって「父に次いで頼れる男」として絶大な信頼と尊敬の対象となった。そのうえ、あれほどの偉業(ネギ視点)を成し遂げたにも関わらず、少しも偉ぶらず、陽気で気さくに振る舞う横島本人を見るにつれ、ますます親しみの感情も湧いてくる。
 一連の騒動の収拾とともに魔法学校に帰るころには、横島を「タダオお兄ちゃん」と慕うようになったのも、まぁ無理のないことだろう。

 次に、ネカネ。

 「タダオさんのことですか? ええ、ちょっと誤解されやすいですけど、とても素敵な男性だと思いますよ」
 「うぅ……ネカネちゃんはエエ娘やなぁ」
 
 幸か不幸か、出会った当時のネカネの年齢は14歳。美少女であることは認めてはいるものの、横島のストライクゾーンからはわずかにボール1個外れていた。
 おかげで、彼のセクハラ被害に直接遭うこともなかったため、ネギ同様、彼に尊敬と感謝と信頼の念を寄せるようになる。そして、横島と親しく接するにつれて彼の内面の美点について知ることになり、「頼りがいのある恩人」に対する以上の感情を(本人も気づかぬうちに)抱くようになるのだった。
 ──もっとも、成長し親しくなるにつれ、「横島の外付け良心回路」としての役割も否応なく果たすことにはなったのだが。

 「そんな風に世話を焼かされるのも、女にとっては楽しいものですよ♪」

 ──はぁ、さいですか。

 そして、アーニャ。

 「タダ兄(にぃ)? うん、色々な意味でスゴいとは思うし、嫌いじゃないわよ。あれで、もうちょっとエッチでなければねー」
 「アーニャちゃん、俺から煩悩取ったら何が残るってゆーんや?」

 大事な母を始めとする村人たちを救ってもらったことに、勿論感謝はしていたのだが、なぜか間の悪いことに横島が大人の女性に飛び掛かる(そして撃墜される)場面に出くわすことが多く、人格的にはイマイチ信頼しきれずにいる模様。
 とはいえ、横島が本質的には優しい人間であることについては疑っておらず、結局「女癖が悪く、ちょっとヘッポコだけど、いざと言う時には頼れるお兄さん」と言ったあたりの評価で落ち着いたようだ。

 最後に、横島自身から見てだが、上述の3人については最初に助けてもらったこともあり、色々と縁もあって一種家族や親戚にも近いアットホームな感情を抱くようになっている。
 もっとも、ネカネについては、美しく成長するにつれて不埒な妄想が浮かんできそうになっているのだが、それでも「ネカネちゃんにセクハラしたら、本物の悪人やないか」と必死に抑制している様子。ただ、それを聞いたグラマーな魔法学校の司書(27歳・独身)が、「じゃあ、わたしにはセクハラしてもいーってゆーんですか!?」とブチ切れたのは、ここだけの話。
 ついで信頼しているのが、スタン、村長、校長の(横島いわく)「じじいトリオ」。中でも謹厳なはずの魔法学校の校長とは不思議なことにウマがあい、あたかもいかめしい祖父とヤンチャな孫のごとき親交を築くことになる。

 カモフラージュ目的で始めたアーティファクト屋も、陰陽術の珍しさも手伝ってか予想外に繁盛し、それなり以上に儲かっている。何せ、かつては一日カップ麺1個で給料日までを乗り切っていた赤貧少年が、ネギたちと外食するときは、毎回ポーンと全額奢るくらいの気前の良さを見せているのだから、彼の懐具合は推して知るべし。
 もっとも、その外食先が、主に学生相手の大衆食堂ばかりと言うあたり、その身に根づいた貧乏性はなかなか抜けないものらしいが。

 そんなこんなで、この世界に流れ着いてから3年近く、横島は(元の世界に帰る方法が見つからないという点を除いて)ごくごく平穏無事に過ごして来たのだ。

 しかし――運命(あるいはキーやんとサッちゃん)は、この面白煩悩男をいつまでものんべんだらりと暮らさせておくつもりはないらしかった。

 「わーーすごいや。本当にニッポンって人が多いんだね」

 「こら、ネギ。よそ見してるとコケるぞ」

 「大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 関東の一大学園都市・麻帆良学園。この街で、小さな魔法使いと元GSは、どのような物語を紡いでいくのだろうか。
 続きはまたのご講釈。

------------------------------
<あとがき>
前書きにも書きましたが、本作では(主に「ネギま」に関して)色々変更したり、都合よく解釈してたりする部分も多々あります。そういうのが嫌いな方はたぶん楽しめないと思いますので、次回より回避推奨です。
(極論ですが、たとえば熱血シンジと明るいレイ、大和撫子なアスカによる「エヴァンゲリオン」SSを書いたとして、それに対して「こんなのエヴァじゃない!」と文句言われても、書き手は正直困るでしょう? だって「そういうもの」が書きたかったんだし)
中でもとくに横島に関しては、20歳を迎えたということで、多少は大人の分別(というか世間知か)がついているような描写をすることもあると思います。

「それでもイイ」という寛容な方は、今後ともよろしくお願いします。
あ、もちろん文章のクォリティーや構成の巧拙、論理的矛盾などに対するご指摘は有難く拝聴させていただきます。

ちなみに、GS世界において横島が消える少し前、タマモも事務所に加入してはいましたが、横島との関係/感情はあくまで同僚どまりだった……という設定。
スポンサーサイト

テーマ : 自作小説(二次創作)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

あの話か。
続きはどうなった!!!と聞きたくて聞きたくてうずうずしておりました。
期待してます。

No title

>浜さん

ありがとうございます。
できるだけご期待に添えるよう努力したいと思っておりますが……気長にお待ちください。
プロフィール

KCA(嵐山之鬼子)

Author:KCA(嵐山之鬼子)
Pixiv、なろう、カクヨムなど色々書いてます。感想などもらえると大変うれしいです。
mail:kcrcm@tkm.att.ne.jp

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード